スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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ちぇんそ〜こばなし①

【猫の悪魔との契約事情】

 

「ここにいる猫の悪魔は比較的安い対価で契約をしてくれる、攻撃性能の高い悪魔です。恐ろしい姿をしていますが、調子に乗りやすいだけの猫そのものなので、あまり怖がらないようにしてくださいね」

「はい」

 

 悪魔収容室に一歩足を踏み入れた姫野はゆっくりと歩みを進める。

 収容室の中は上へとあがる階段があり、長い階段をのぼるとそこには日に照らされたあたたかい部屋があった。

 

「?」

 

 悪魔収容室なのだから、もっと暗くじめじめした場所を想像していた姫野は困惑する。地上付近に悪魔を入れておく部屋があって脱走されたりはしないのかと。

 しかし日の当たる部屋の中で手足を投げ出して寝転がっている姿は、確かに猫そのものだった。見た目こそ全然猫っぽくなく、可愛いわけではないのだが。

 

「あの〜」

「ぬっ!?」

 

 声をかけると、跳ね起きた猫が姫野を見つめる。

 

「新たな契約者か。事前にワタシについては聞いているか?」

「あ、はい。呼んだ回数分、後払いで食べ物をお供えすればいいって……本当にそんな対価でいいんですか?」

「構わぬ。ああ、しかし……24時間以内にやむを得ぬ事情以外で対価を払おうとしなかった場合、心優しいワタシでもさすがにナメられているというのは許容できんからな。罰を与えることになる」

「罰?」

「ああ」

 

 ニヤリと猫が笑う。

 

「食い物を対価に寄越さなかったのだ。対価をバックれたやつはその場でワタシがそいつをひとのみにして……」

 

 猫が話していると、突然猫の悪魔についているチェーンの首輪からシャリシャリと音が出始めた。それを聞いて目を見開いた猫は咳払いをして可愛くない尻尾で口元を覆う。

 

「冗談だ。対価の未払いは、怪我だよ。しばらく仕事ができなくなるような怪我を負わせてやる。しっかり仕事をして、目標があるならばワタシへの対価を欠かさないことだ」

 

 突然怯んだように慌てて前言撤回しだす猫に、姫野は不思議そうな顔をしたがそのまま特に言及はせずに対価の支払いを了承する。

 

「それと、ワタシの手はこんなんだが、一括払いでちゃんと猫っぽく振る舞ってやることができるがどうする?」

「払います」

 

 猫の手を呼んでいるのに、爪の間に土や血が挟まっている人間の手が出てきたら嫌だ。

 姫野は即答した。

 

【クソ映画鑑賞会】

 

 レンタルされたビデオテープがセットされ、当時にしては大型のテレビを前に集まる面々。

 あれこれと食べ物やら酒やらを用意しながらすでに酔っ払っている姫野と、そんな彼女を横目にひたすら用意された食べ物をつまむ佐原。

 虚無の表情で正面を見据えるマキマと、その横にべったりとくっついて座って彼女の逃亡を阻止しているユカリ。

 四人の前でいわゆるクソ映画と言われる分類の映画が再生される。

 

 あれこれ言いながら笑って、ツッコミを入れて、雑なCGにあれなら自分たちでも撮れそうなどと言い放ち、たまにツッコミさえもできなくなって笑っていた面々が一人ずつ黙るような地獄のような映画も通過する。

 

「私たちの人魚VSデビルハンターズ〜バナナボートチェイス〜のほうがこれに比べたらクオリティ高くない?」

「言われてみればそうですね」

 

 無言で涙を流すマキマの背中を酔っ払ってバンバン叩きながら姫野が笑い、マキマがポテトチップスをつまむ。普段嗜好品の類はそこまで食べないマキマだが、食べたことがないわけではない。前に食べたときよりもなぜかすごくしょっぱい気がしたが、きっとそういうものなんだろうと思い込んでパリパリと噛み砕く。

 

「ねえ、ユカリ。私のこと嫌い……?」

「えっ、なぜそうなるんですか!? 面白くありません!?」

 

 あまりにも弱々しいマキマの声に、びっくりしたユカリは慌ててフォローを入れる。ダメージはふかい。お互いに。

 

「仕方ありませんねえ……今のやつが終わったら、解散しましょう」

「え〜やめちゃうの〜?」

「姫野さんも酔っ払いすぎて今にも吐きそうですし。佐原さん、彼女をよろしくお願いしますね」

「はい……え、え?」

 

 思わぬ爆弾を渡された佐原が困惑の声をあげるが、ユカリは無視してポップコーンをつまんだ。そして、マキマの耳にひっそりと彼女にしか聞こえない声で囁く。

 

「私しか知らないとっておきの弾幕美映像を見せてあげるわ。私と対等に接する、とっても遠慮のない人間たちの、美しい幻想郷の映像です」

 

 クソ映画鑑賞会を解散した後、八雲紫は用意した映像をテレビに接続して映した。

 それは、テレビ接続などできようもないような複雑な機械によって撮影されたものだったが、人によって川幅が変化する三途の川の本当の川幅を計算で導き出せるような彼女にとっては造作もない作業である。

 

「ユカリには……友達がいっぱいいるの?」

「もちろんです。そこを否定するつもりはありません。事実ですからね。でも、悲観することも……嫉妬することもありませんわ」

 

 同心円状の瞳が自分にじっと向けられているのを感じながら、ユカリはマキマの頭を抱き寄せて頬を擦り合わせた。

 

「あなたにもかけがえのないお友達ができます。私以外にも、たくさん。たくさん。それから、私の友達とも仲良くなってくれたらもっと嬉しいですね。きっとあなたも気にいるわ。あの子たちは……相手が強大な妖怪だろうと、神だろうと関係なく接する稀有な存在だから」

「私にも支配できない人間が、いるんですか」

「最初は支配できちゃうかもしれないけれど……そうねぇ、霊夢ならきっと、支配されても途中で抜け出してくるような子だと思うわ」

 

 マキマの瞳が大きくなる。

 ユカリにそうまで言わせる存在に、胸の中に期待を宿して。

 

「少しずつ、幻想郷旅行にも行きましょうか。会ってほしい人がたくさんいますから」

 

 そうしてテレビで再生が始まったのは紅い霧の異変で、館に入ったあとの霊夢と魔理沙の戦いだった。

 

 幻想郷の賢者はいつでも博麗の巫女の活躍を見ている。

 河童の技術で撮られた映像は、ふてぶてしい巫女の姿と、臨場感たっぷりで画面を埋め尽くす弾幕の嵐をしっかりと捉えていた。

 




1993年の開始一話はじっくり書きたいので明日一日更新お休みします。
章が終わるごとにたま〜に小話書けたらいいね。

・幻想郷の話をした理由
今でもだいぶヤバいが、もっと依存する前に傷が浅いうちにいろいろ開示しておこうという紫様の優しさ。危機管理意識◯。

マキマさんって幽々子に会ったら濃厚な死の気配でめちゃめちゃ警戒してきそうですよね。幽々子にしーちゃん要素を察知してバリバリ威嚇してほしいし、幽々子には威嚇してる猫ちゃん可愛いわね〜くらいの対応をされてほしい。
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