砂浜に立った八雲紫は愛用の日傘をスキマから取り出し振るう。
そして足元を確かめるように視線を落とし、笑った。
あの八雲紫がスキマに乗らずに歩いて移動しながら弾幕ごっこをすることになろうとは、霊夢に見られたら腹を抱えて大笑いされるに違いない。
一定の距離を開けた二人が向かい合う。
「準備はいいかしら」
「いつでもいいですよ」
通常の弾幕ごっことは違うので通常弾のやり取りは存在しない。
マキマが弾幕ごっこ初心者というのもあり、ユカリ側は使うスペルカードも【easy】の文字が後につくようなものに限定される。
そもそもマキマは妖力弾が恐らく使えない。弾幕ごっこに応じたということはそれなりになにか『らしい』ことをできるからだということは予想できるものの、なにをしてくるかはユカリをして予測できなかった。
「マキマからどうぞ」
「いいえ、ユカリからにしてください。先にカードを使ったほうが不利になるじゃないですか。少しは初心者に配慮してくださいね」
「あら、そこまで言うということはちゃんと避けられる自信があるのかしら。それじゃあご遠慮なく行きましょうか」
マキマからスペルカードを使わせようとしたのもユカリなりの親切だったのだが、あえなく拒否されてしまったのでユカリは日傘で魔法陣を綴り弾幕を張る。
距離を開けたユカリからマキマまでの空間に緑と黄色の光弾が無数に立ち上がる。まるで畑の中に迷い込んだような固定位置の光弾。
ユカリが弾幕を張ったことを開始の合図として、マキマも走り出した。
「まずはトウモロコシ畑の中で逃げ回ってもらいましょうか」
スペル宣言がされる。
鮫符【コーン畑で襲われて】
そして、光弾で構成された鮫のようなものが放たれた。
「ユカリ、嫌がらせですか」
「これは精神的動揺を狙っている、と言うのよ」
光弾で構成されたコーン畑の中をサメが泳ぐ。
トウモロコシを模した光弾にサメが触れると光弾が破裂して拡散する。
明らかにクソ映画を思わせる弾幕に走って避けながらマキマはイラついた声をあげた。
「反撃します。支配【窮鼠猫をかじる】……にゃあ」
声のするほうから勢いよく猫の手が突き出てきて地面を叩く。叩かれた地面からネズミが這い上がり、勢いよく拡散した。
地面を走っていく無数のネズミは、近くにいたユカリに向けて飛び上がったりしながら足元をバラバラに駆けていく。それらの攻撃を日傘で叩き落としつつもユカリは感心した。確かに下等生物を扱えば弾幕にもなるだろう。
マキマに合わせて自らの足で避けるしかないユカリは、この下等生物たちの強襲に合わせて後退し、日傘で叩き落とし、たまにコーン畑にサメを放つ。
猫の手が出現した場所からネズミが発生するため、ある程度弾幕の薄いところへ逃げるのが一番安定するが、ネズミがカラスに乗って現れることもあって意外性もあり、避けづらい。はじめての弾幕にしてはよくできていた。美しいかどうかは……置いておいて。
ただ、これらを生体ではなく弾幕で表現できるようになれば十分美しいスペルカードになるだろう。マキマが妖怪でないのが本当に惜しい。そう思いながらユカリは自身のカードが制限時間を過ぎて消失していくのを見届けた。
「にゃあ」
「ふふ、他の契約している人たちは猫を呼び出すのにそんな可愛らしい鳴き真似なんてしないのに、律儀ですね」
「力を使うのに恥じるなど合理的ではありません。にゃあ、にゃお、にゃーん」
そしてマキマの弾幕も制限時間いっぱい避けきり、ユカリは次のスペルカードを用意する。
虚無【大妖怪のあとしまつ】
ユカリを中心に渦を巻いた大玉弾幕が押し出されて行き、ランダムな場所で破裂。中玉となり、また進んだところで破裂してクナイ弾に変化する。完全パターン弾幕である。
霊夢相手ならばユカリが移動すれば展開場所も移動する仕様にしていたかもしれないが、マキマ相手の場合は違う。
展開された場所で弾幕は固定され、ユカリはそのまま移動する。
その瞬間、密集した弾幕の中をグレイズしながらマキマが突っ込んできた。
支配【酒と暴力】
ユカリの脳天に踵落としが迫る。
しかし、すぐに避けた彼女は真横に日傘を振り抜き、マキマの攻撃が自分自身に当たるのを防ぐ。
酒の魔人の力で身体機能を上げ、暴力の悪魔の力で攻撃をする。そんなコンボらしいがスペルカードの字面があまりにもひどかった。
いつのまに暴力の悪魔を確保したのだろうかとユカリは考えたが、もしかしたら魔人ではなく暴力の悪魔自体は最初から確保済みだったのかもしれない。
マキマが意外と動けることもユカリは知っている。
ただ、その肉体の頑丈さ自体はほぼ人間並なことも知っている。
グレイズをミスしたのか、それとも弾幕の密集地帯に入ってきたからか、一度だけ被弾したマキマの肩のあたりのシャツがボロボロに破れていた。
被弾覚悟でユカリ本人を肉弾戦で仕留めようとしたのだろうが、残念ながらユカリは肉弾戦でもそれなりに動ける。普段はスキマの上に乗ってのらりくらりと弾幕を躱すのが得意だが、頑丈さも力もちゃんと妖怪並なのだ。
暴力の悪魔の力による肉弾戦に応じ、日傘の防御とマキマの攻撃が交わされる。しかし、両者の攻防は平行線のまま一分が経過してスペルカードの効力も消えていった。
一度被弾しているマキマの負けだ。
「シンプルなやりかたにしましたが、これで終わりですね。敗北のお味はいかが?」
「……ポップコーンの味がします。ユカリ、最初から勝たせる気なんてなかったでしょう」
「今回の弾幕は威力もありつつ、かじったらコーンの味がするようになっていました。無事敗北の味を味わえたようでなによりです」
マキマは変な顔をした。敗北の味とやらが物理的な意味だと思いもしなかったのでもやもやとした気持ちよりも、なんだそれという不可解な気持ちのほうが大きくなってしまったのだろう。
魔理沙の星型弾幕はかじったら甘くて美味しいなど幻想郷のことを知れば、きっともっと困惑するに違いなかった。
「さて、総評ですが……被弾覚悟で突っ込んでくるのも良かったですが、まだまだ遠慮が見られますね。近づいた際に鎖を四方に放つなどしてもルール違反ではありませんから、改良の余地ありです。移動の際に神隠しを使うなどしても良かったですね」
「そういうのもありなんですね。結局、あっさり負けちゃったから悔しいな」
「マキマが勝負に出て被弾覚悟に近づいてきたりしなければ引き分けにはなっていたかもしれませんよ。幻想郷の賢者だもの。そう簡単に弾幕に当たってはあげられませんけど……落ち着けたかしら?」
「ええ、まあ……はい」
困ったように答えて、マキマはユカリを見つめる。
負けたからには話を聞く。そういう約束だったからだ。
「それじゃあ、話の続きといきましょう」
ユカリのスキマが二人を飲み込んで再びマキマの家へ移動する。
二人が消えた砂浜には先ほどの喧騒など感じられない、静かな波の音だけが残されていた。
キリがいいのでちょっと短めです。
あと一話シリアスやったらほのぼの交流と映画デートと原作キャラ絡みを再開したい。
マキマさんの価値観と感情の移り変わりみたいなのはちゃんと丁寧にしていきたいですからね。
・ユカリのスペルカード
クソ映画繋がり。大怪獣のあとしまつとシャーコーン。
あとしまつのほうは劇場公開当時、批評感想に対して監督くらいしか知らない情報じゃね?という話を引っ提げてわざわざ反論リプしに来るアカウントが存在したらしい。映画の内容よりこっちの事実のほうが正直おもしろい。
クソ映画を笑って見られる連中数人集まって見てもだんだん沈黙していく地獄が形成される程度の能力を持つ。
好きな人がいたらマジでごめん。
・マキマ
物理的な生物たちの弾幕しか張れないのでスペルカードは発展途上。妖力弾みたいなのを出せるようになってからが本番。
鎖でワインダー作ったりしたらもっと難易度が上がったのだが、その発想はなかったらしい。もっとたくさん支配する悪魔増やそうね。
ユカリを見て成長しているので岸辺さんからの評価は「胡散臭い」になっている。幻想郷のユカリと見られかたが大体一緒。育てた相手にちょっと似る。