スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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デンジくん観察日記/ユカリの初出勤

 

 

 ・チェンソーマン

 弱って心臓がほとんど剥き出しみたいな状態。

 すぐにでも保護したかったけど先に人間が見つけて契約していた。

 人間の名前はデンジ。

 

 デンジくんはポチタって名前で呼んでいる。

 安易。

 でも嫌がっている様子はない。謎。

 契約内容は今のところ不明。

 人間と一緒に暮らしている。彼と暮らすなんて羨ましい。

 抱きしめられて寝てる。あんなことを喜ぶとは思えない。どうして? 

 

 ・デンジくん

 人間。そのうち死んでからチェンソーマンを回収するつもり。不敬。不快。無礼な子供。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ・チェンソーマン

 ポチタとして楽しそうに過ごしている。

 もしかしたら、彼も寂しかったのだろうか。

 いつもの彼は決して話すことはなかった。

 今の彼も話したりはしないけれど、地獄にいたときよりも活き活きとしているようにも見える。

 分からなくなっちゃったな。

 

 ・デンジくん。

 まだ死なない。早く死んで彼を手放してほしい。

 彼がこれ以上おかしくなる前に。早く死んで。解放して。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ・チェンソーマン

 彼はポチタとしての生活を心から楽しんでいる。

 尊重するべきと決めた。

 甘いものが好きみたい。可愛い。

 

 ・デンジくん

 年齢は十一歳程度。

 両親は不在。彼を利用しているヤクザの話からすると父親殺しをしている。家族殺しができる存在はあまりいい気はしないけど、境遇は法的には年齢的に許され、守られるべき弱者。

 

 くすんだ金髪。多分地毛。

 重めの垂れ目気味。目は赤茶寄りで鋭い。野生的で痛そうな歯。顔は丸め。

 髪はちゃんと切ってるから整ってるほう。ポチタの鋸歯で切るのはどうかと思うけど。

 

 痩せてて体は骨が浮いている。いくつか臓器を抜いているみたい。

 服の下は悲惨としか言いようがない。ちゃんと栄養のあるもの食べてないから。

 合併症も起こさず無事に生きていることがそもそも奇跡みたいな体してる。

 こんな状態でデビルハンターできてるのもちょっとすごい。かなり体を動かせるほうみたい。機転がきいていて判断も早いし、突飛な作戦に出るから隙をつきやすいのかな。

 

 肩幅は男の子らしくあるから、ちゃんと食べていればもっと身長も伸びそうだし体格も良くなりそう。

 私より大きくなるのかな? まだ子供だし不明。

 甘いものが多分好き。

 

 清潔にしたいという意思はあるらしい。

 境遇のせいにせずできるだけ良い環境を整えようと努力する性分なのは評価できる。ちょっと欲望が大きい気がするけど。

 ポチタを家族みたいに大事にしている。

 自分から血の繋がった家族を否定したのに、血の繋がらないポチタとの流血の繋がりを家族として大事にしているのはよく分からない。

 なにが違うんだろう。観察してれば分かるかな。

 

 

 

 

 

 

「なあポチタ、人に嫌がられるようなヤツはよぉ、すっげぇ強いんだよな」

「ワフッ!」

「んじゃあ、コイツぶっ殺せば結構高く売れンじゃねーかな。ちょっとでもいいモン食いてぇし、ちっと気張れよ。ウンコ出ねー程度にな!」

「ワンワンッ!」

 

 ヴヴン

 

 いつもみたいにポチタの尻尾のスターター引っ張ってデンノコまわして、あとはひたすら死ぬ気で悪魔の攻撃を避けて斬りつけるだけ。一回でも悪魔の攻撃喰らったらオダブツってやつで、そしたら俺もポチタもほぼ死ぬ。

 それでも俺らはそうやって何年も生きてきた。

 

 今日もその日々から繋がっているだけで、いつもと変わらない。

 

 いつかどこかでブチっとそのつながりが切れるときが来るかもしれねーけど、コイツと一緒に楽しく暮らせるんなら先のことなんて考えずに笑っていたかった。

 

 危ないときもまあまああったけど、ポチタをぶん回しているうちにでけぇ悪魔の体を切り刻んで、最後は臓物が溢れ出してぶっ倒れる。いつもこれだ。

 

 自分よりもデカい相手でも虫系の悪魔ならまあ、わりとなんとかなる。これが毒あるようなやべーやつはさすがにやり合うのを避けるしかねぇけど、俺の手に負えねぇようなのはたまに警察的なやつが来て駆除していくから俺の出番はほぼ来ない。

 

 おっさんたちも他に使えるデビルハンターがいねーから、俺らに死なれちゃ困るんだ。

 

 警察に駆け込めばいいとか考えたこともねーよ? 

 だってあいつらに頼っても俺ン居場所はどうせないし、ポチタとも一緒にはいられねーだろうから。

 ポチタと一緒にいられないなら助けなんていらない。ポチタと一緒に幸せに暮らさなきゃ意味なんてないからな。

 

「よっと、今日もやったなあ〜ポチタ!」

「ワッ、ワフン!」

「あん? うしろぉ〜?」

 

 後ろには臓物ばら撒いた悪魔の死体しかない。いつもトドメ刺してから降りるし、さすがに仕留め損ねたら手応えで分かるから死んでないってことはないだろうけど。

 ポチタがあんまりにも騒ぐから後ろを振り向いたとき、カメムシの悪魔から一気に変なガスが噴き出してきて吹っ飛ばされた。

 

「おお゛わあ゛〜!?」

「キャウーーーン!!」

 

 そして地面に転がる。

 

「く……」

「キュウ……」

 

 ポチタが目をバッテンにして気絶しちまった。

 俺も今すぐそうなりてぇ。

 

「くっ、っせええええええええええええええ!!!」

 

 たまに悪魔の死んだあとの対応をミスるとこうなる。

 今日も俺ぁいい学びを得たぜ。

 

 カメムシはぶっ殺すときすげー臭い。でも殺すならこの臭さとセットだ。逃げられねぇ。悪魔も当たり前にそういう能力みてーなもんを持っていたらしい。

 

 この調子で勉強してたらデビルハンター学の教授になれちまうんじゃねーか? 

 

 おっさんには臭い抜きしねーと臭くて売れたモンじゃねーって言われて、クソ重たい悪魔の体を引きずって川まで行かなきゃならなかった。俺にはあまりにも重労働すぎるぜ。ポチタはさすがにかわいそーだから近づけるわけにゃいかねーし。

 引きずっていく通り道であった生き物はネズミでもカラスでもネコでもバッタバッタ気絶してた。普段からくせーのに慣れてる俺ですらヤバいんだ。そりゃ匂いに敏感な生き物は無理だよな。ちょっと悪いことをした。

 

 川でなんとか匂いを落とそうと頑張ったが、ほとんどはゴミになっちまった。売れるくらいの量はほんの少し。それでも五十万くらいか。カメムシは野菜系のヤツよりは危なくて強ぇから売れるんだと。やっぱ強い悪魔のほうが儲かるらしい。なにに使ってるかはしらねーけど。

 

「ポチタ……悪ぃ。匂い落ちなかった」

「くぅん……」

 

 鼻がひん曲がるような思いしてやった労働はほぼ無駄になっちまったし、そのうえ俺たちの匂いも落ちねーときた。家に帰ってきても寝る場所に匂い移ったらすげー嫌だし、今日は外で寝るしかないかもしれねえ。

 

 季節的には夏だから家ん中じゃなくても平気なのはいいけど、虫がすげー出るから外で寝てるとうぜえんだよな。

 

「もっかい水浴びしに行くか。水道代節約しねーといけないし」

「キュウ……ワンワンッ!」

「だよな。水道は飲むためにあんだ。洗うためじゃねぇ」

 

 すげー疲れてるけど、くせーまま寝るのも嫌だし、もう一回川に行くことにした。ドブ臭い川でも上のほうなら多少マシだ。

 ポチタを撫でてから振り返ると、そこになんか置かれてて首を傾げる。

 

「あんだこれ……」

「クウン?」

 

 四角くてなんか白い塊が置かれている。

 さすがに急すぎることだったから警戒しつつ眺める。

 視界の隅でネズミの尻尾がチラっと見えて、走り去ってくのが見えた。ネズミが落としたりしたのか? 

 

「そうだ! 分かったぜ俺は! こりゃあバターじゃねーか?」

「ワフッ!? クウン?」

「バターってのはこうやって白っぽくて四角いんだろ。ちょっと食ってみるか」

「ワフ? ワフン! ワンワン!」

「だいじょーぶだポチタ。俺が味見してやるよ。あー……」

 

 なんかさっき逃げたネズミがバターを取り戻しに来たから、これ見よがしにかじってやった。ざまあみろ。大事な食いもん落とすほうが悪いんだぜ。

 

「オ゛ボオウエ゛ッ゛」

「キャイーーーーーン!? ワウフ! ワウフ! ワウフ〜!!」

 

 それが石鹸だって気づいたのは食ってからだった。

 うろちょろしてるネズミがなんか慌ててたけど、食いもんじゃないにしてもこれは俺ンだ。ポチタと一緒に川で水浴びするときにありがたく使わせてもらったぜ。

 

 石鹸使ったらちゃんとカメムシ臭さもどうにかなったし、しばらくは体が臭くなんのを気にする必要がなくなって良かった。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 デンジくんは現在多分十三歳くらい。

 

 どうしよう。デンジくん石鹸食べちゃった……どうしよう。

 健康には問題がなかったようで良かった。デンジくんが丈夫なことに助けられちゃったな。

 次からはプレゼントはもう少し慎重にしよう。

 あと、嗅覚まで感覚共有するのはやめておこう。何回か匂いで気絶してユカリをびっくりさせちゃった。

 

 

 

「あ、デンジくんそれ腐ってるよ……あ、また食べちゃった……健康を害するようなものばかり……早く保護しなくちゃ……」

「マキマ、現実に集中しなさい。マキマ? マキマ!」

「え? あ……!」

 

 自分たちの朝食とともに、犬たちの朝食を七匹分準備をしていたマキマは、今目の前にあるのがコーヒードリッパーだとようやく気づいて犬の餌袋を傾けるのを止めた。

 隣に用意していた犬の餌皿にはコーヒーの粉が盛られ、代わりにペーパーフィルターに犬用のカリカリがなみなみと注がれていた。逆である。

 

「ワウワウ!」

「あ、こら! シューちゃん、めっ! めっ! ダメだったら!」

 

 そして身の回りでわらわらと歩き回りながらご飯を待っている犬たちの一匹が彼女の体を支えにして立ち上がり、餌皿に盛られたコーヒーを舐めとろうと舌を伸ばした。それを押さえ込みながらマキマは餌皿を奥に滑らそうとするが、その拍子に餌袋を取り落とし、ざらざらと床一面にカリカリフードが広がった。

 

「あー!?」

「なにをやっているのかしら、この子……」

 

 思わずしゃがんで落とした餌をかき集めようとしたマキマは、集まっていた犬たちに囲まれ、完全に犬の群れの中に埋まった。支配の力を使って離れさせるのも忘れ、犬にべろべろ舐められながら餌に殺到する子たちに押し合いへし合い。

 

「大変ねえ」

「ユカリ、助けてユカリ! 助けて助けて助けて! ちょっとこの子たちを『ないない』して!」

「はいはい、ないないしましょうねぇ〜」

 

 犬の大半はカリカリフードとともにスキマで別室に送り出され、そこまでしてようやくマキマは落ち着くことができたようだった。

 公安本部に出勤しているときはクールでできる上司をしているマキマだが、わりと自宅ではこんなもんである。

 

 ぐしゃぐしゃになった髪を憂鬱になりながら手櫛で整え、床に落ちたもろもろとキッチンテーブルの上の取り違えたものを片付けはじめる。

 

 そこでマキマの家の中に響き渡るような電話の音が鳴り出した。

 

「はあ……次から次へと。ユカリ」

「あなたの家電話でしょう」

「……分かりました」

 

 面倒そうな顔で受話器を取った彼女は開口一番「今忙しいので後にしてください」と言った。

 

「マキマ、出動要請が出てる。姫野とアキのやつはすでに出ているから早くしろ。今の態度のことは聞かなかったことにしてやるからなるべく早くな」

 

 通話相手は岸辺だった。

 ユカリしかその場にいないため、「やべ」という顔をした彼女は声色だけは冷静そうに装って「分かりました。情報はなにかありますか」と尋ねている。

 そのあまりのギャップにユカリは笑いを噛み殺しながら眺めていた。

 

「資料はファックスで送るからそれを見ろ。恐竜の悪魔が出現している。早急に対応に当たれ。内閣官房長官直属デビルハンターとしてのお前に言っているんだ。頼んだぞ。俺は今出張中だからさ」

「最近は私にも現場仕事がよく回ってきていますね。ですが、分かりました。お任せください」

 

 通話が終わり、受話器を置いたマキマはその場でしゃがみ込んだ。

 

「……この床とキッチンテーブルの惨状を片付けてから朝ごはんを食べて……ユカリ、その……スキマで送ってくれるよね?」

「自分でも神隠しを使えばいいじゃないの」

「ユカリと一緒に行きたいから。バディでしょう」

「はいはい、早く片付けてご飯を食べましょう。資料はその間に私が見ておきますからね」

「うん、よろしく。ごめん」

「あなたをそうしてしまったのは私ですから、責任くらいとるわよ」

 

 遠い目をしながらユカリが言った。

 二人が公安のスーツに身を包み出かける頃には三十分ほど経っていたが、スキマで出動するため車で向かうよりよほど早い。

 

 そう、これはユカリがただの友人としてではなく、公安の八雲ユカリとして出ていくはじめての仕事だった。

 

「タイトスカートってなんだか新鮮ね」

「スカートは譲らないんだね……」

「一人くらいパンツスーツじゃなくてもいいじゃない」

「動けるなら問題ないよ」

「でしょう? 神隠し、ちゃんと私の活躍を撮影しておいてね」

「私をこんなことに使うなんて……」

 

 珍しい衣装になったユカリの姿を幽々子に見せるため、彼女は自信満々に衣装チェンジをして出勤する。

 

 マキマという唯一無二のバディとともに。




・デンジくん観察日記
こんな感じで日常を過ごしている。
デンジくんっぽさを出すの難しい……むずくない?

・カメムシの悪魔
カメムシは全部滅べ。私怨。たまに靴の中に入り込んでいてトラップになったりしているのでこの時期はめちゃくちゃ警戒する。私怨100%。
でもこいつ絶対強いよね。死んだときに匂い爆弾になる。

・「あなたをそうしてしまったのは私ですから、責任くらいとるわよ」
→あなたをそう(ポンコツに)してしまったのは私ですから、責任くらいとるわよ。

・ドリッパーに餌
Xで見かけたのが可愛かったので……。
ちょっとマキマキしすぎたかもと思ったものの、可愛いからいっか……になった。

・タイトスカートなユカリ
絶対可愛い。写真は藍がめちゃめちゃ喜ぶが幽々子に渡す。

・恐竜の悪魔
カットされるかもしれないし、されないかもしれない。アキくんとの共闘はまあ見たいので書くかな。

いつの間にかブックマークが4桁になってる!?
いつもご覧になっていただきありがとうございます!!
自分的需要のためにはじめた本作ですが、今後も頑張ります!!
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