スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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岸辺とスキマ妖怪

 

「ユカリ、朝ご飯できたよ。あと私のネクタイ取って」

「ありがとう、こっちもワンちゃんたちのご飯順番に出し終えましたよ。はい、あなたのネクタイ」

「あ、こらこらティラミス。お兄ちゃんのを食べないよ〜」

「なんでこうもワンちゃんってお隣のご飯を食べたがるのかしらね……」

 

 平日の朝、手分けをして朝の支度をする二人がパタパタと動き回る。

 トーストとサラダ、コーヒーにフルーツ。二人分を用意したマキマは食卓について同じく朝ご飯を食べる犬たちの世話も焼く。

 ハスキーたちはお行儀良くご飯を食べるが、茶色っぽいハスキーのティラミスが隣の犬にご飯皿を掻っ攫われ、怒ってその顔にあんぐりと口を当てている。ティラミスの兄にあたるハスキーはガバッと頭の半分ほどを涎でべちゃべちゃにされながらも無視してガツガツとご飯を食べ進めていた。

 マキマの家ではもちろんハスキーあるあるの光景が高頻度で見ることができる。賢い見た目に反してアホっぽい行動をやらかしがちなハスキーたちの相手は、仕事人間のマキマを特に癒していた。

 

 ティラミスの兄、ドーナツを抱えて引き離すマキマと餌皿をドーナツの分と取り替えてやるユカリに分かれて対処し、軽く手を洗ってからようやく二人で手を合わせて朝食を食べ始める。

 

「今日はまた別々なんだよね」

「ええ、私は少し岸辺隊長と会うことになっています。とうとうアポを取られてしまったので仕方なく。怖いわ」

「大丈夫だよ。ユカリは変なこともしてないんだから堂々としてればいいと思う」

「私、誤解されやすい性質なんです。憂鬱だわ……」

「誤解されやすいのは仕方ないと思う……ユカリは内心をほとんど表に出そうとしないから、なにを考えているのか分かりにくいんだと思うよ」

「それはあなたも同じでしょうに」

「私はしっかり自分の意見は素直に岸辺さん相手にも言うよ。そのまま捉えてくれるとは限らないけど」

「ほら、同じじゃない」

「本当だ、同じだね。頑張れユカリ」

「せめてお高いお料理を楽しんできますわ……ごちそうさま、いつもありがとうマキマ」

「お粗末さまでした。カットフルーツはそろそろオレンジじゃなくてリンゴあたりに変えようかな……」

 

 使用した食器をシンクで水に浸してから慌ただしくマキマが出勤していく。

 

「いってらっしゃい」

「いってきます。片付けはお願いね。それと、スキマで出ていくのはいいけど、鍵はかけていってね」

「はいはい、分かっていますよ。犬たちの世話もしてからちゃんと行きます」

「うん、よろしく」

 

 予定が午後にあるユカリが家に残り、ゆっくりと食器を洗って干してから犬たちの散歩に出ていく。マキマほど制御ができるわけではないのでユカリは三頭ずつの散歩である。

 わちゃわちゃする犬たちの世話をしながら一定のルーティンとして通っている散歩道を歩き、戻ること三回。

 岸辺との約束の時間が迫ったあたりで家中に犬用のペットシートを設置してユカリも出かけていく。

 

 公安で軽く会ったことこそあるが、岸辺から直接話す機会を設けられるのは初めてのことである。

 なにを言われるのかしら、怖い怖いと笑いながらお洒落をした八雲紫は指定された料亭に向かった。

 

「公安退魔一課隊長、岸辺だ。そのうちマキマのやつが作る特異課のほうに移籍することになるがな。以前から何度か顔を合わせているが、こうして顔突き合わせて飲み食いするのははじめてだろ。よろしく」

「退魔課特別協力デビルハンターとして所属している八雲ユカリです。以前からお噂はかねがね。よろしくお願いします」

 

 ユカリが個室に通されると、すでにそこには岸辺が居座っていた。

 料理が届く前から酒を煽り、ユカリが到着しても動くのは視線だけ。彼女が座ってからようやく酒焼けした声で抑揚のない平坦な挨拶をする。

 ユカリもそれに応えて当たり障りのない挨拶をしてから日本酒を注文した。

 料亭側から順番通りに料理が出てくることになるが、二人ともお構いなしに酒を追加注文してちびちびと飲んでいる。

 

「特別協力ね……随分とまあ、贔屓されているようじゃないか。マキマのやつも、どこからそんな存在を見つけてきたんだか」

「別に贔屓をされているわけではありません。マキマとは映画友達として意気投合して交流を始めたんですの。私はあまり縛られるのは好きではなくて……ずっとフリーで活動していく予定だったのですが、お友達にどうしてもと言われたからこうした立場をいただいたんです。交渉ごとはマキマが得意ですし」

 

 岸辺の眉間に皺が寄る。

 それを見ても顔色ひとつ変えないユカリに彼は嫌そうな顔をした。

 

「それで都合良く特別な立場をもらってんのがな……いろんなやつに勘繰られているとは思うが、恨むなよ」

「まさかそんな。当たり前の話ですわ。私の待遇が例外中の例外なのは百も承知です。疑いのひとつやふたつ、かけられても仕方ありませんもの。だから、お話しする際にはきちんと真摯に説明することにしているんです」

「疑われるのに慣れてるんならいい。俺も形式上、上の立場としてお前の真意を探る必要があるからな……マキマと共謀して変なことを企んでいないだろうな」

「滅相もございません。むしろ公安のために身を粉して働いているほうだと自負していますわ。本当はもっとサボりたいのですけれど、大事な友達も他にできましたし」

 

 ユカリとしては真実しか話していないのだが、いかんせん胡散臭すぎる。その特性は岸辺相手にもいかんなく発揮されており、彼からの好感度が下がり続けていることに気づきつつも、彼女はその態度を変えることはなかった。

 岸辺の雰囲気は人妖の上に立つ者たちのそれと同等である。そんな相手に友達気分でマキマを相手にしているときと同じような態度を見せるわけにもいかないのである。

 

「でも、マキマも良い方向に向かっているでしょう? 以前よりも格段に、人間らしくなったと思いますが」

「……それについては感謝しているのが四割。残り六割が、もっと性質(タチ)が悪くならないかの心配だな。執着対象を守っている間はいい。だが、その手のやつはそれを崩されたときや、崩されそうなとき簡単に暴走をする。人間味のないやつだったが、アイツは合理的だった。そこに感情が混じるようになるとなにをしでかすか分からなくなる。守るために手段を選ばないヤバいやつになる可能性も秘めている。とんでもないことをしてくれやがって」

「マキマはそれを学んでいる最中ですのよ。もし、彼女がなにか人類に不利益なことをしようとしたのなら、そのときは私が責任を持って止めます」

「それは契約か?」

「契約ではなく、約束です。私は悪魔ではありませんので、契約に強い効力はございません。止める手立てはちゃんとありますので約束はしますけれど」

「……」

 

 岸辺の視線は語っていた。

 

 でもお前、人間じゃないだろ……と。

 

 それを知りながら、ユカリは薄く微笑んで約束をするだけ。

 

「私は人間が大好きなので、約束はちゃんと守りますよ。ただ、約束を果たさなければならない事態が来ないよう、気をつけてはいるつもりです。そのときは来ません。きっと」

「大丈夫かねぇ……俺は憂鬱だよ。なに考えてんのか分からないのが増えちゃったからさあ」

「あら、それはそれは大変ですね。お疲れ様です」

「お前のことなんだけど」

「知っています。ご迷惑をおかけしておりますわ」

「おっさんの胃をこれ以上痛めつけるのはやめてほしいんだがな。高齢者は労わってくれよ。ただでさえ肝臓が悲鳴あげてんだから」

「肝臓についてはご自身のせいでしょうに」

 

 岸辺が思っていた以上にユカリがペラペラと喋るからだろうか。彼のほうもかなり際どい話題まで話している。二人ともマキマに聞かれているかもしれないこと前提で動いているが、それでもここまでのことを話したのは聞かれても聞かれていなくても問題ない範囲だからだ。

 

「方々に気を張らなくちゃいけねぇのも嫌になるな。実力があるのも困ったもんだ。悩みばっかり増えやがる」

「しがらみが増えると悩みも増えるのは理解できます。大変な立場だとは思いますが、あなただからこそ頼りにされているのでしょう。要請されれば多少のお手伝いはしますよ」

「でも面倒ごと増やすのはお前らだろうが。どうせこれからも増やす予定があるだろ」

「それは……ご迷惑をおかけしておりますわ」

「ちよっとは否定しろよ」

 

 料理が届き始めてから、二人はゆっくりと酒を嗜みながら味わっていく。

 おもしろくない話はここで終わりだ。あとは料理を楽しみながら重たい空気の中交流をしていくだけである。

 

 岸辺の中でも、やはり八雲ユカリは胡散臭いやつという結論に至る。彼女と関わる多くの者が至る結果のひとつだ。それは仕方のないことでもあるが、問答無用で排除にかからないだけまだマシなことと言える。

 ユカリ本人としては本当のことしか話していないが、これはもうどうしようもなかった。

 

「悪魔じゃねえならなんだって言うんだ。ったく、神様とでも言うつもりか?」

「まさか」

 

 八雲ユカリは微笑んだ。

 彼に嘘つきと言われたときのマキマと似たような、意味深な微笑みを。

 




更新は日曜日と言ったがアレは嘘だ。
長くなりすぎそうだったから区切りのいいところで切りました……。
明日はデンジくんを迎えにいく話です。

・ユカリ
ただただ意味深に微笑んでるだけ。妖怪って発想はやっぱりないんだな〜って考えている。

紫様はね、愛しているものはとことん愛して、美しくて、ちょっとお茶目で、賢いのに永遠の少女性を持っていて、人間味があるようで人外味も強くて、どんなときも飄々としていて、誰に「紫って胡散臭いよね?」と聞いてもYESが返ってくるようなお姉様じゃなくちゃいけないの。

・特異課
実験的な体制で動かす=悪魔・魔人を職員として運用することだと思っているので本作では原作開始少し前に一課から少しずつできていったと解釈しています。アキくんは特異課じゃなくて退魔二課の出身でしょうし。

バディ,ストーリーズの若い頃の岸辺&クァンシの話で特異課の名前出てて大混乱した末に本作ではこう! ということにしております。よろしくお願いします。

・映画特典
手に入れてきました。
ところで映画の特典でマキマさんは……どこ……?先生頼むよ……。




・読まなくていい余談
作者の性癖を握っているソシャゲで黒髪赤目物騒お姉様の白無垢っぽい姿のシーズンイラストが発表されて村が燃えた。
蜘蛛の糸は予想してましたけど赤い糸のほうは刀にくっついてる臓物を見るに臍の緒メタファーかなあ……。親子関係の話っぽくなるのはもはや明白。リリース前にコラボご飯を親子丼で出してた会社だから覚悟しなければ。
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