スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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ちぇんそ〜こばなし④-1

 ・『カルト』のその後

 

 じい、っと死の悪魔と犬の一匹が見つめ合う。

 本能的に悟っているのか、大半の犬はその犬の後ろに隠れて尻尾を股下にしまっているが、マキマの犬の中でもリーダー気質なその犬は怯えつつも死の悪魔から目を逸さなかった。

 その犬……一番はじめからマキマに飼われており、群れの中でもリーダー扱いをされているティラミスも尻尾が股の下にあるが、すぐに逃げ出さない度胸はあるらしい。

 

 ユカリに対してはただのちょっとおバカで可愛い犬としての振る舞いしか見せないティラミスだが、さすがに相手が死の悪魔ともなると真面目になるらしい。

 

 マキマがはじめて食べて感動したお菓子から名付けられたこの犬は、普段はそうと見えないが家族を守ろうという気概のある子だったようだ。

 見直したユカリがティラミスの頭を撫でて下がらせる。

 

 勇敢なティラミスはユカリがお茶を持って部屋に入って来たことで安心したらしい。尻尾を巻いて彼女の後ろに他の犬たち同様に隠れた。

 家主がまだ帰って来ていないのもあって、自分たちだけで立ち向かわなければとでも思っていたのだろう。まるで泥棒でも来たかのような対応である。吠えないのは相手があまりにも悪いことが分かっているからだろうか。

 

 動物は飼われているものでも『死』に敏感だから。

 

「死の悪魔、調子はいかがですか。随分と薬に溺れていたようですけれど」

「……ああ、支配ちゃんの、お友達。助かったよ、ありがとう。残念なことだけど、私の体は案外丈夫だからご飯をいっぱい食べれば全部出ていくよ。だからなにか食べるものをもらえないかな?」

 

 犬から興味を失い、ソファに座った彼女はすぐに用意したお茶を飲みほしてユカリを見上げた。痛々しい注射針の痕こそ残っているが、かなり元気そうだ。

 あと反省も特にしていなさそうである。

 

「八雲ユカリです。死の悪魔」

「私のこともしーちゃんって呼んでくれないでしょ。支配ちゃんのお友達」

 

 言いながら死の悪魔の興味はキッチンに向かったらしい。唐突に立ち上がって冷蔵庫へと歩いていく。

 

「勝手に冷蔵庫を見にいくのはおやめになってください。ここはマキマの家ですよ」

「お姉ちゃん権限です」

「だからあなたはマキマに嫌われるのです」

「嫌われるようなことはしてないけど」

 

 彼女の腕を掴んで引き留めたユカリは、また彼女の能力が使用されかけたことを察して困ったような顔をした。犬たちを見つめているときに使われなくて本当に良かったといえる。家族を殺されれば今以上にマキマと彼女との関係が拗れるだろう。それも修復できないほどに。それだけはなんとか阻止しなければならない。

 

 しかし肝心の死の悪魔は本気で首を傾げている。

 中学では友達ができていないからだろうか。原作の死の悪魔もなかなか不思議な性格をしているが、高校生になって大事な友達ができているからかもう少し話が通じそうなのだが。

 

「いいですか、人間社会では他者のプライベートな物品を許可なく触ったり、所有しているものを勝手に食べたりするのは罪となるのです。そのうち罰の悪魔などを使ってマキマに報復されてもしりませんよ」

「元気になるには食べ物と飲み物が必要。元気になってほしいんだよね?」

 

 八雲ユカリは頭を抱えた。

 

「家主が帰って来てから許可をもらってください」

「支配ちゃんはいいって言うよ」

「それはあなたの主観でしょう」

 

 どうしようマキマ、あなたのお姉ちゃん手に負えないんだけど。

 内心でユカリが愚痴るが、マキマがこの場にいた場合でも「私にもアレは手に負えません」と返ってきただろう。

 

 やがてユカリのお金でピザを配達してもらい死の悪魔に与えていたところ、ようやくマキマが帰還した。

 

「支配ちゃん、やほ」

 

 テーブルにはピザから落ちたもろもろが乗っている。はじめのほうは食べかたに注意をしていたユカリが諦めた結果だった。

 まるではじめてサイキョーのパンを作ったデンジを見るアキのような顔をするマキマに、ユカリは死の悪魔の背後で舌をペロッと出しながら手を合わせて「ごめん!」と無言で伝える。

 

 部屋にマキマの重たいため息が吐かれた。

 

「死の悪魔とすでに知り合いだった件をユカリに訊きたいのですが」

「マキマの姉だって言うじゃない。私の親友と似た力を持っているらしいから気になって見に行ったの」

「ユカリの、しん……ゆう…………?」

「あっ」

 

 ユカリはしまったという顔をした。

 意図せずしてマキマの脳を破壊してしまった。

 

「ええとですね……幻想郷の親友です。マキマも素の私を知っているのでもちろん親友と言える関係ですわ。私の親友は1000年以上生きていますが、今までにあなたたち二人だけよ」

「そうですか……それならいいんです」

 

 露骨にホッとしたユカリは開き直った。いつか知られるのだから、今知られて傷が浅く済んだと。事実幻想郷でさえ八雲紫の親友と呼べるのは幽々子だけなので間違ったことは言っていない。萃香という友人や賢者仲間はいるが、親友と大手を振って言えるわけではないので。

 かつてないピンチに陥っていたユカリを尻目にピザを食べ終わって手を舐めていた死の悪魔が顔をあげる。

 

「私に似た能力? 興味がある」

「元々人間の頃から死霊を操ることのできた子だったのだけど、突然死の力を操れるようになってしまって……亡くなって幽霊になってからもそのままだった子よ。今は死者の世界であの世の管理人みたいなことをしているわ。その子とは……生前からの友達だったの」

 

 少し迷った末、どうせマキマには教えるからと幽々子のことを口にした。いろいろとエピソードを端折ったり、複雑な立場上のことをアレコレ簡単に言い換えたりしているが大体事実である。

 

「へえ……」

 

 死の悪魔が興味を示した。

 マキマとユカリの関係に無意識下では羨望を抱いていた彼女が。

 

「今度、ご紹介しますね。もちろんマキマにも」

「当たり前です。ご挨拶しないといけませんからね」

「一緒にお酒でも飲みましょうね」

「そのときは私も招待してくれる?」

 

 二人は顔を見合わせる。マキマは嫌そうな顔をした。

 

「第二回目なら呼んであげてもいいですよ」

「ええ〜」

「ユカリ、そういうことではないです」

「いいじゃない。腹を割って話せばある程度苦手意識も薄れるかもしれませんよ。私がちゃんと間に入ってあげるから」

「腹を割ればいいの……?」

「物理的な意味ではないですよ。キッチンから包丁を取ってこようとするのをおやめなさい。あ、ほら! おやめなさい!」

「ユカリっ、包丁叩き落として!」

 

 包丁を握ったまま、服を捲って躊躇いなく柔らかいお腹を露出した彼女を二人は全力で阻止した。包丁を買い換えるのは二人とも嫌なのだ。

 

「でも、私だけ仲間はずれでちょっと悲しいかな……」

「それなら、私たちのことをちゃんと名前で呼ぶようにしてください。マキマには社会的立場もありますし、『支配ちゃん』呼びは問題があるので」

「それなら、私のことはちゃんとしーちゃんと呼んで?」

「私たちは人をちゃん付けする性格じゃないのですが」

 

 姫野をちゃん付けで呼んでいる癖にそんなことをマキマが言う。

 ユカリは指摘すると面倒臭いことになるのが目に見えていたので、それについては沈黙した。

 

「なら……死の悪魔。あなた愛称だったらなんでもいいのかしら」

「……できれば、可愛い呼び名がいいな」

「そう、そうなのね」

 

 そして少しだけ思案したユカリが提案する。

 

「それじゃあ、『シノ』と呼ぶのはどうかしら。マキマのように、『シノ』のしーちゃんとあなたが名乗るの。それなら、私たちは『シノ』とあなたを呼べるわ。その代わり、マキマのこともマキマと。私のこともユカリと呼んでね」

 

 その瞬間、死の悪魔の瞳が輝いた。

 なにを考えているのかも分からないような、無機質だったその瞳が。

 

「私が、私は、『シノ』……本当にそう呼んでくれる?」

「ええ……シノ、あなたケーキは好き?」

 

 ユカリの目配せにため息を吐いたマキマも眉間を揉んで口を開く。

 

「シノ……ケーキを食べたいのでしたら、そのテーブルの汚れはちゃんと掃除をしてください。ここは私の家です。だから私の家のルールに従ってもらいます」

「……! 分かった。私はマキマちゃんのお姉ちゃんだから、ちゃんと片付けてあげるね。ユカリちゃん、さっきのお茶も、もう一回飲みたい……!」

 

 ほとんど表情は動かない。しかし、どこか周囲にお花でも飛んでいそうな雰囲気を纏った死の悪魔は間違いなく喜んでいる。

 

 こうして、二人から死の悪魔……シノへの呼称問題は無事解決したのだった。

 

 

 ・悪魔収容所の愉快な仲間たち

 

 暗い悪魔収容所の中、ぬるりとスキマから登場したユカリが当たり前のようにコンビニ袋を持って歩き出す。もちろん無許可だ。

 

「コンコンコーン、猫ちゃん。私が来ましたよ〜」

 

 同じく、厳重な扉も彼女の前では無意味になる。扉の前でわざわざスキマをくぐったユカリが猫の悪魔の収容室に入ると、ごろ寝していた猫の悪魔が跳ね起きる。

 

「やや! これはユカリ様。また来てくださったのですね」

「ええ、もちろん。ほうら、鰹節」

「わあい」

 

 スキマで移動する。

 悪魔の収容室を訪ねる。

 

「こんにちは、口裂け女の悪魔さん。傷の具合はどう?」

「どうにか回復しました。保護をしていただきありがとうございます。まさか驚かしているだけの無害な私が車に轢き殺されかけるとは……口以外にトラウマができてしまいました」

「随分クレイジーな人もいたものね。こっちは生活用品。これはお酒とおやつ。あと化粧品の追加も。マスクは大容量のやつ買ってきたわよ。お買い物メモがあったらまた教えてね」

「いつもありがとうございます」

 

 美しい女性の姿をした口裂け女の悪魔が頭を下げる。

 彼女は口裂け女の噂から生まれた悪魔であるため、ユカリとしてはほぼ妖怪と同じだと思われている。

 学校の怪談の児童小説が出る前からも有名だった彼女は、その実在を調べる新聞記者に、轢かれても死なないなら本物! 死んだら悪魔! のような非道な実験をされた不憫な被害者である。

 外で放浪するよりも、悪魔収容所で大人しくしていたほうがよほど安全なのでここにいるのだ。

 

「契約は順調かしら」

「ええ、まあ。足の速さって結構需要あるんですね」

「命に関わるものねぇ……」

 

 口裂け女の悪魔は、顔に傷をつけることを対価に瞬発力の良さ、足の速さを契約で提供している。容姿の良い人間の顔に傷跡を刻むことで心の慰めとしているのだ。

 死ぬことはないとはいえ、顔に傷痕ができるためわりと重たい対価なのだが、デビルハンターはわりと覚悟がキマッているため契約状況は順調らしい。

 同じような傷跡のある顔をした人間が増えてきているため、ユカリはそれを見て遠い目をしたものだ。

 容姿だの彼氏彼女だのと言っていられない環境だからこそ、顔の良さに頓着しない人間が多いのだろう。

 狐と契約をしてから彼女と契約する者もいるが、最近狐は傷痕もそれはそれで美しいと考えるようになったらしく、逆でも問題はなくなったようだ。

 一時期彼女の傷痕のせいで狐との契約を断られる案件もあったというのに、悪魔でも好みは変化していくものなのだろう。

 

「本当にありがとうございます、紫様。私をどうか眷属の末席にでも……」

「ごめんなさいね、そういうのは今募集していないんです。慕ってくださるのはありがたいのですが……私に仕える代わりに、人間たちにたくさん協力してあげてちょうだい」

「かしこまりました、紫様」

 

 スキマで移動する。

 悪魔の収容室を訪ねる。

 

「あらいない」

「あなたの後ろに、いるよ〜!!」

 

 しんとした悪魔収容室。ユカリに突如突進して抱きついてきたのは西洋人形のように可愛らしい女の子だった。

 ただ、ユカリは知っている。この悪魔は人形の頭のほうが本体であり、肉体は借り物だと。

 少女の肉体を、人形の頭に四本の手が直接生えた胴体がヨイショッと脱ぎ捨てて悪魔収容所の真ん中に立つ。シンプルに嫌なデザインだなとユカリは思っているが、これでも彼女は優秀なのだ。

 

「新しいカラダをそろそろカスタムしたいわね!」

「着ぐるみを作るのはとっても大変なの。遅くても職員たちを脅したりしたらいけないわよ……メリー」

 

 その名前を口に出すのに、少し躊躇った。

 しかし、その感情をおくびにも出さずにユカリは彼女の脱ぎ捨てた肉体を眺める。

 

 中が空洞になっている球体関節人形の胴体だ。

 これに手を納めて頭を覗かせることで西洋人形のように振る舞う。

 

 元々は殺した死体を利用していたのだが、捕獲された際にもっと綺麗で理想の体を作ってやることを条件にそれをやめさせた経緯がある。

 メリーさんの電話の悪魔。それが彼女だ。学校の怪談の児童小説に登場し、少しばかり有名になった際に彼女は子供たちの恐怖によって悪魔として生まれ落ちたのだ。

 ただし、ユカリの知っているメリーさんとは違い、彼女の小説でのストーリーは事故にあった女の子が加害者の元へどんどん近づいて復讐しに行く話となっている。

 

 しかし、彼女が神隠しと同じくワープ能力を持っていることは間違いない。

 

「配達の仕事はうまくいっているかしら」

「もっちろん! 配達してたら新しいカラダくれるしサイコーの環境ね! ありがとう紫様!」

「そう、それはよかった」

 

 故に、メリーさんの電話の悪魔は電話を媒介としたワープ能力で、しばしば現場に物資を届ける配達業務をしている。この方法であれば、契約をした一人が電話を介して契約していない他の誰かに配達をするという契約の中穴的な荒技が可能である。神隠しのように意識していないときでないといけない、というような縛りは存在せず、電話さえかけられる環境であれば県を跨いでも、なんなら東京から北海道にまででも配達ができるので重宝されていたりする。

 

 そうしてメリーにも可愛い服やらをプレゼントしたユカリは他にも次々と収容室を巡っていき、そして帰還する。

 

 悪魔収容所で妖怪っぽい悪魔たちにやたらと慕われているユカリは、こうした影の努力を欠かさず暗躍するのだった。

 

 なお、未だ花子さんの悪魔は見つかっていない。

 




・小話④-1
本編が長めだったのでやりたい小話が溜まっています。三分割することになりました。

・死の悪魔
本作品のみ、彼女のことをシノと呼称することになります。名前があったほうが便利なので。

・マキマ
ユカリの親友発言で脳が破壊されたが誤魔化された。可愛いね。

・ユカリ
親友は何人いてもOKだから……と言い訳した。罪な妖怪。
妖怪に近い出自の悪魔たちを可愛がっているので、わりと慕われている。

・口裂け女の悪魔
デビハンの皆様の共通している謎の顔の傷痕はこいつの対価で持って行かれたAPP(見た目力)である。という謎のこじつけをした。公式で答えが来たら死なのにどうしてこじつけちゃったんでしょうね?うちではこうです。

・メリーさん
ユカリはメリーという名前に思うところがあるらしい。人間の死体を宿主にして動かすのに別に魔人になるわけではないやべーやつ。
見た目は「ほうかごがかり」の三本足のリカちゃん人形っぽい。ほうかごがかりはいいぞ。

妖怪系悪魔の出番はたまにある予定。
短い期間ですが中学校編があるので。

予定している小話は以下。

 ・天使の悪魔の武器診断
 ・手編みのカバー
 ・ポチタはじめてのお留守番

 ・やりたいことリスト
 ・スタンプ
 ・アイデンティティ
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