スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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ちぇんそ〜こばなし④-2

 

 ・天使の悪魔の武器診断

 

 悪魔収容所の中の一室。

 特別待遇の極みとも言える明るく広い部屋でマンゴージュースを啜りながら、その悪魔はいた。

 ふかふかの高級そうなソファにもたれ、天使の翼を広げてくつろいでいる長髪の男だ。

 

 その待遇の良さっぷりに、入室した途端アキは眉を顰めた。

 

「どお〜も〜、チョンマゲの人間くん。キミが、あ〜なんだっけ。赤? みたいな名前の」

「早川アキだ」

「そうそうそれ。キミのことはマキマから聞いてるよ。他の人はともかく、キミは直接お願いされちゃってるからね。どんな武器が欲しいの?」

 

 テーブルの上に乗っているおやつをつまみながら、視線を合わせずだるそうにアキへ尋ねた。

 ポテトチップを食べつつ、手についた塩気をぺろっと舐めとる。その腕には細いチェーンブレスレットのようなものが付けられていた。

 

「お前の力は触れた者の寿命を吸い取るものだと聞いた。俺の武器を作るのに、どれだけの人数が犠牲になっている」

 

 剣呑な雰囲気をしたアキが尋ねる。

 天使の悪魔の力は強力だが、その力を借りざるを得ない彼は、それでも人々の犠牲の上に成り立った武器などごめんだというように彼を睨む。

 

「お〜こわ。マキマから聞いてないの? 僕はさ、力を封印しておく実験台? みたいなことをされてるんだよ。相当難しい技術らしいから、失敗する可能性もあって、危ないけど、それでも協力してくれるか〜? なんて……そんな契約でここにいる」

 

 彼は腕を持ち上げてチェーンブレスレットを見せる。

 

「僕はさ、故郷では人間に言葉を教えてもらって、触れないのにみんな仲良くしてくれて、生きる術を教えてくれたりしたんだ。だからかな、悪魔の本能もあるけど、それ以上に人間が好きなんだと思う。恋人もいるし」

「は?」

 

 恋人もいるという言葉に、さすがのアキも閉口した。

 

「封印する技術にも危険が伴うし、出稼ぎにも行かなくちゃいけない。それでも、僕にとってこのブレスレットにはそれだけの価値があったんだ。恋人と、誰かと手を繋いで歩いてみたい。そんな些細な願い事が叶うなら、僕は喜んで差別されても仕事をするよ」

「…………はあ」

「それから、僕が作る寿命武器は素手で捕まえたお魚数百、数千匹の命でできている。人間の寿命を奪ってるわけじゃないから安心してほしい。生臭かったらゴメンネ」

「……生臭いのか?」

「いや別に。寿命を取った生物の特徴が出るわけじゃないよ」

 

 じゃあなんで生臭かったらごめんねとか言ったんだよ、とアキの顔には書いてあったが、それを口にすることはなかった。

 実のところ、天使の悪魔の言うことの半分は真実ではない。チェーンによる封印は天使の悪魔に対する危険性など無いからだ。しかしそれでもあると言うのは、それも契約内容の内だからである。

 封印術はユカリとの共同作業ではあるものの、マキマの悪魔としての力が必要となる。下手に簡単にできると思われて、他のデビルハンターに軽率に頼って来られても困るのだ。

 ただでさえ仕事が多いのに、正体がバレる危険性を冒してまでマキマが行動することはない。

 それに、悪魔を討伐する際に能力を封じるなどの完封戦法をとれば、いつかデビルハンターたちの技術が落ちていくことだろう。マキマがいなくてはならない状態にまで戦闘で依存させるわけにはいかない。それ故の、チェーンについての嘘の説明であり、『マキマの正体を口外することは禁止』という契約事項があるのだ。

 

「で、武器はなにがいい?」

「刀。今までもそうだったからな」

「んじゃ、今までの刀も見せて。刃渡りとか重さとか見るから」

「……」

 

 無言でアキが武器を差し出す。天使はそれを受け取ると、ふんふんと検分しながら頷いた。

 

「十年使用」

 

 そして天使の輪っかの中から武器を取り出す。

 

「これ持ってみて」

「……問題ない」

 

 渡された刀を離れてから少し振ったアキは頷いた。

 

「ひとまず十年で作ったから、強度とか威力とかはそれなりにあると思う。それでも刃こぼれが早かったりしたら、今度はもう少し多めの年数を使って作ろうか。次の戦闘ではもう使えないなって段階になったらまた面会申請してよ」

「分かった」

 

 退室したアキを見送り、天使はまたポテトチップをつまむ。

 

「マキマはなんで正体明かさないんだろ……僕には簡単にバラしてきたのに」

 

 ジュースを飲んで、またつまむ。

 

「僕は最初から悪魔だって分かるけど、あいつは人間にしか見えないからかな。今の関係が壊れるのが怖いとか?」

 

 ジュースを飲んで、またつまむ。

 

「案外臆病なんだなあ……怖いやつだと思ってたけど、可愛いところあるんじゃん」

 

 ジュースを飲む。ノックが響く。

 

「どうぞ〜」

 

 次に入室してきたのは、姫野だった。

 

「やあやあキミが噂の眼帯ガールだね。マキマから話は聞いてるよ。座って座って」

「あ、うん……そっかマキちゃんから」

「それで、キミはどんな武器が欲しいの?」

「私はね……」

 

 そうして天使の悪魔は仕事をする。

 マキマとの契約を守りつつ、早く仕事を終わらせて観光の許可を得られるように。

 

「お土産なににしようかなあ」

 

 

 ・手編みのカバー

 

 ポチタの刃に被せられた手編みのカバーを見つめて、ユカリは嘆息する。

 

「ねえ〜マキマ。私てっきり今から冬のために、手編みのマフラーでも編んでいるのだと思っていたのだけど」

「ユカリもほしい? ふわふわ」

「欲しいわね。手編みってそれだけで特別じゃない!」

 

 マキマが手編みでなにかを作っているのを見たとき、ユカリは彼女が自分のためにマフラーを編んでいると勘違いをしていた。それがポチタの登場により見事に打ち砕かれたが、どうやらマキマに悪気はないらしい。

 マキマの様子を見てユカリもこっそりマフラーを編んでいたので、自分だけが相手のためになにかをしていたのだと知ってショックを受けていた。

 だが、用意しているものを一方的に渡すだけにはならずに済みそうだ。マキマもこのあとから作ってくれるだろうし。

 

 犬たちと戯れるポチタを眺めながら、二人は冬に向けた準備をゆっくりと始めるのだった。

 

 

 ・ポチタはじめてのお留守番

 

 私は今、とてもピンチに陥っている。

 デンジが健康診断のためにユカリちゃんと外出し、マキマちゃんは仕事。

 私だけがマキマちゃんの自宅に残されて留守を預かっていることになるのだけど、そうなると問題がひとつ。

 

「ワン! ワオッ!」

「ワフーーン!」

「ヒョワッワン!」

「キュオーーーン!!」

 

 マキマちゃんの飼っている七頭のワンちゃんたちと一緒に、そう一緒にお留守番するということになるからだ。

 

 私は眠ったり、毛繕いをしたりしてゆったりと過ごしたいのだけど、犬たちはそうはいかない。構ってほしいとばかりにソファで寝転がる私のプリティなお腹に鼻をつんつん突き刺し、なんとか起こそうとしてくるのだ。

 

「ヴヴ……」

 

 とってもしつこい。

 片目を開いてみると、犬たちがソファの下に勢揃いして私をキラキラとした目で見つめていた。

 

「クウン」

 仕方ないので起き上がると、犬の一匹がソファになにかを置く。

 見ると、それは音の鳴る犬用のボール型おもちゃだった。

 

「ワンッ!」

 

 ヨダレでギトギトのそれをさすがに咥えるのは嫌だったので、マキマちゃんからもらったカバー越しに頭のチェンソーで部屋の奥に向かって弾く。

 すると、弧を描いて飛んでいったおもちゃに喜んで犬たちが走っていく。広い部屋だけど、犬が全力で走るには心許ない。

 何匹かは勢い余って壁に激突していた。

 

「ワフッ!?」

 

 大丈夫!? と声をかけるが、彼らはめげずにおもちゃを我先にと奪い合い、先に帰ってきた一匹がまた私の前にボールを置く。投げてほしいらしい。

 

「ワンッ!」

 

 投げる。とってくる。投げる。とってくる。

 これを繰り返して遊び、すっかり眠気が覚めた私も、犬たちの喜ぶ様子に調子に乗って遊んだ。

 

 夜、マキマちゃんが帰ってきたとき。

 

「ポチタくん、手編みのカバーがほんのり湿っているのですが……なにかしましたか?」

「クウン」

 

 私は犬たちに目配せをしてウインクした。

 汚れたくないからって、カバー越しにボール遊びをいっぱいしたのは内緒ね! 

 




・天使と姫野
恋バナをした。次回から天使がアキに訳知り顔で話しかけてくる。
天使君のボムガールとかの呼称が好きなんで姫野さんに対しては眼帯ガール呼びの解釈をしています。

・武器って本当に魚の寿命だけ?
病気の人とか大怪我をして治療が不可能な人たちの手を取って看取ったりはしているよ。みんな自分からそう望んだ人たち。天使くんは全員の名前を覚えてる。

・手編みのプレゼント
もちろんデンジくんや姫野さんにも編まれることになる。

・ポチタと犬たち
ポチタはよその子なのでリーダーはティラミスで変わりませんが、よその群れとの交流的な感覚で仲良くしてます。最初は気後れしてましたが、犬たちが無邪気なのもあって今ではすごい仲良し。でもハスキー特有の不思議行動には困惑している。
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