スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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放課後・夕闇・乙女

※デンジメインパート

 

「やっべぇ……宿題忘れたかも」

 

 中学校に潜入を始めてから何日か過ぎた頃、デンジは帰路でそんなことをつぶやいた。

 

 情報収集は教師による曖昧な行方不明者情報以上のものはほとんど手に入らず、アサに協力を頼んでみても「そもそも帰り道に気をつける以外のことできないじゃん」と一蹴され、マキマにアドバイスを求めて行方不明者リストを手に入れようとすれば「教師の情報勝手に盗むのはダメでしょ。真摯に頼んで教えてもらおうよ」とアサとともに突撃して教師にも一蹴され……と散々な出来事しか起きていない。

 

 あれ以来シノにもほとんど会うことはなかった。なにせ三年生の教室に行っても見当たらないので。

 

 帰り道の途中で忘れ物に気づいたデンジが、慌てて鞄を探っても見覚えのある用紙は見つからない。

 進展がないままに惰性で学校生活を送っていたデンジは、とうとうやる気を失っていき宿題すら学校に忘れてきてしまったのである。

 

「宿題ありゃあマキマさん家に長居しててもいいから、いつもは気をつけてんだけどなぁ〜」

 

 宿題に困ってマキマに話しかければ高確率で教えてもらえるため、デンジにとっての宿題の存在意義はそこにある。まさかそれを忘れてしまうことなんてあるのかと苦い顔をした。

 

 単純に諦めればいいのだろうが、ここで変に真面目さを発揮したデンジは元来た道を戻ることにした。

 すっかり夕方となっているが、デンジにとって道端で出会う弱い悪魔程度では恐怖にならない。

 

「アサに馬鹿にされっからなぁ〜」

 

 それもある。

 三鷹アサは人との距離感を取るのが苦手だ。故に彼女を邪険にせず、協力を頼むようなデンジにはどこか気を許しているようで、毒を吐きつつもよく話すようになっている。しかし、人付き合いが苦手なのには変わらない。いじりや冗談の域を超えてしまうほど、デンジを軽んじるような言動もまたしてしまうことがある。宿題を忘れてしまったことを翌日に言えば確実に馬鹿にされながら宿題を見せてもらうことになるのは目に見えていた。

 

 足早に学校へ戻り、そして夕闇の中暗くなった学校の中へ入る。

 その姿を、屋上から眺めている誰かが見つめていた。

 

「ポチタ待たせちまって悪いな……早く帰ろ」

 

 ひとりごとを言いつつ、自分の教室に入る。

 すると教室の中で、自分の机から宿題のプリントを取り出している誰かとかち合った。

 

「あ? 誰」

「キミ、ダメじゃないか。こんなに遅くに学校に帰ってくるだなんて」

 

 プリントをぴらぴらと振りながら笑う少女が顔を上げる。

 長い黒髪をポニーテールにして真っ赤なリボンでたばね、赤いカーディガンを制服の上から羽織っている少女だ。教師から見れば、どう見ても着こなしが不良のそれである。デンジをまっすぐ見つめる夕焼けのような瞳がニンマリと意地悪そうに細められていた。

 

「それ、俺んだから返して」

「いいけど、気をつけて帰るんだよ。なにせこの学校には悪魔が出るからね。キミも行方不明になりたくなければ注意したほうがいい」

 

 つかつかとデンジに歩み寄り、彼の胸に指を突きつけながらプリントを目の前に差し出した少女が背伸びするように覗き込む。ぱっつんに揃えられた前髪の下から見上げられてデンジは「お、おう……」と返すことしかできなかった。

 

「だけど、キミは無事でよかった。さ、早く帰りな。先輩からのアドバイス」

 

 見上げられ、ニコリと笑う少女にデンジは呆然としながらされるがままになる。彼の肩を掴み、回れ右をさせた少女はその背中をつんつん押しながら早く早くと帰りを促した。

 しかし、そこでようやくハッとしたデンジが振り返る。

 

「あんた、悪魔が出るって知ってんの?」

「うん、生徒が何人か行方不明になってるよ。だから気をつけたほうがいい。特に、こういった夜になるまでの時間……夕方というか、黄昏時ってやつにね、人が消えちゃうんだ」

「じゃあ、あんたも帰んないと危ないだろ」

 

 少女はその言葉にきょとんとしたように硬直すると、ぎこちなく笑って「そうだね」と返す。

 

「あたしもすぐ帰るから大丈夫だよ。えーっと、キミも早く帰りな」

「デンジ。俺デンジって言うんだ。宿題取ってくれてありがとう。あんたは?」

「デンジくんね。あたしは…………ハナとでも呼んでくれればいいかな」

「あ……?」

 

 なにかを忘れている気がしたデンジはその名前に一瞬考えるが、思い出せなかったのかすぐに首を振って少女に向き合う。

 彼は悪魔を探すということは覚えていたが、いつのまにかその肝心の悪魔の名前がすっぽ抜けていたのだ。概念系の悪魔は単純明快な名前をしているが、怪談系の悪魔は名前が独特なので覚えにくいのだろう。それに、彼女がハナとしか名乗っていないこともある。

 

「なあハナ、一緒に帰らねーか? あんたもどうせ帰るんだろ」

「……いいよ。ついでにデンジくんのこと、家まで送ってあげよう」

「帰り道こっちなの? ならとっておきの遊びしようぜ」

「とっておきの遊び……?」

「そ、道のツツジ……? 花の蜜吸おうぜ。結構いけるんだよ」

 

 デンジが真剣に言った。

 しかし、目の前の少女は吹き出すように空気を漏らし、大笑いをし始める。

 

「っふ、あはは! なんだそれ……! 小学生みたいなことをするねキミは……」

「んだよ、馬鹿にすんじゃね〜。意外と楽しいんだぞ」

 

 笑われたデンジが拗ねたように顔を背けると、ハナはお腹を抱えて笑ったまま目尻に涙を浮かべ、そして彼を見上げる。

 

「……っふふ、可愛いねデンジくん」

 

 顔を背けつつもその様子を窺っていたデンジは、彼女の小さく発せられたその言葉に目を見開いた。内心で荒れ狂い、天にも昇るような気持ちになる。

 アサとも気安い関係になっていたが、友達と言えるかどうかは微妙なラインを保っており、そもそも会えないシノとは進展がない。

 

 マキマのことが好きなデンジは、大人っぽく自分を優しく見つめる淑やかな雰囲気にめちゃくちゃ弱かった。

 

「……かわいい」

「? どうしたのかな、早く帰ろう。その寄り道もいいね。あたし、はじめてやるよそういうの。教えてくれるんだよね?」

「教える! すごく教える!!」

 

 自然とデンジの手を取って歩き出す少女にデンジの心の中はうるさく騒ぎ立てている。

 

 こうして、学校に来てからはじめてデンジは誰かと一緒に帰るという経験をした。

 

 ツツジの花を吸い、笑い、そしてマキマの家の前で手を振って別れる。

 ただそれだけのやりとり。

 

 それだけで学校へ行くという意欲が彼に戻ってくる。

 元気よく手を振って別れた後、家に入って行ったデンジを見送って少女は踵を返す。

 

 学校へ向けて。

 

「おつかいもまともにせず、途中で花で遊ぶなんて……怒られるかな。まあ、いいか。どうせ半殺しにされても次には再生できるし」

 

 闇夜の中の学校へハナが帰っていく。

 そして暗闇に浮かぶ学校を前にしてた少女は、まるでなにかに恐怖するかのように表情を硬くしながら校舎の中に入っていくのだった。

 

 暗闇の中で血飛沫が花のように散る。

 

 デンジは学校でなにが起きているのか、いまだ知らない。




かつてないほど受け入れてもらえるかなこれ、とだいぶ不安なんですけど必要なんですよねこの子……。

・アサ
コミュ障なばっかりに……!

・シノ
自由にしてるので学校だと普通に問題児。

・ポチタとマキマ
なんかデンジから悪魔の匂いがするよ?マキマちゃん。
そうだね、気になるね。明日はこっそり鳥で聞いていようかな……。
デンジの安全のためによろしくね!
ええ、もちろんです。

・ハナ
オリキャラという区分になってしまうのですが、章のお話的な意味で必要だったので作者の好きな女要素で構成されています。ご了承ください。
6期ねこむすめちゃんみたいな吊り目のおっきいリボンをした女の子。

レゼとの話は人魚姫オマージュが入っているんじゃないかなと思っているので、この話は赤ずきんオマージュ入りです。と言っても本当にうす〜くですが。

・レゼ編の人魚姫っぽさ
王子様の心臓にナイフを突き立てて殺せば何事もなく海で人魚に戻れたのに、結局躊躇って殺すことができず、王子の知らないところで泡になってしまうところが特にそう感じます。マキマさんのことを魔女に喩えるのも要因のひとつかも。
JANE DOEの赤い足跡、ガラスを踏んで……みたいな部分も、アンデルセン原典のほうで人魚姫は足を手に入れた代わりに針の上を歩くような痛みを感じる描写がありますから。

レゼは約束された悲劇の人魚姫なんですね、きっと。だからこそ、先生は1ミリも出そうとは思わないんだろうな……それで完成されてるから。

キリがいいので文字数がいつもより少なめですがここでいったん切ります。
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