スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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ちぇんそ〜こはなし⑤-1「早川家で年越しパーティー」

 

 

「アキ、今何時!?」

「まだ18時だ。約束まで1時間ある」

「くぅ〜、もう待ちきれねぇよ……!」

 

 部屋の中を行ったり来たりしながらデンジが時計も見ず、何度も確認してくるのでアキの蟀谷(こめかみ)にぐっと血管が浮き出てくる。

 

「マキマさんからの宿題は終わったのかよ」

「おう、それはもうバッチリよ。算数ならもう完璧だぜ」

「電卓使ってねーだろうな」

「まさか〜! んなことしねーよ! 算数だけは俺得意科目だし!」

「読書感想文は」

「あ〜……映画感想文なら書けるんだけどぉ……」

「分かんねぇ漢字があったページにしおり挟んどけ。教えてやるから」

「……おう」

 

 キッチンに向かい、夕飯の準備をしながらアキはデンジの話に応答している。随分と慣れた会話だ。二人で暮らすのにも、そこにポチタの鳴き声が加わらないことにもようやく慣れてきたところなのだ。

 寂しくなると、デンジは服の上からスターターをそっと触れる。そうすることでポチタが返事をしてくれているような気がしたから。

 

 学校を辞めてからもマキマやユカリから定期的に渡される宿題をこなしつつ、デンジ自身もかなり勉強ができるようになったところだ。

 マキマに拾われる前には想像もつかなかったことだろう。

 

 一年のリミットをポチタにより乗り越え、そしてデンジはこの日……年越しの日を迎えることとなった。

 昔は遠くから聞こえてくる鐘の音をうるさいと思いながら過ごしていた日だ。

 今年はユカリの提案で、アキの家にみんなで寄り集まって年越しをすることになっている。

 19時開始のためアキは夕飯作りをしているし、デンジはマキマたちがやってくるのを今か今かと待ち侘びているのだ。

 

 待つのにそわそわしすぎてデンジが座り込んだとき。

 

 ピンポーン。

 

 間延びしたチャイムが鳴った途端、デンジは立ち上がるのも惜しいのか四つん這いになってシャカシャカと玄関に向かって走った。

 

「動きキモッ……おいそのまま出迎えるんじゃねーぞ」

「おーう」

 

 やがて、玄関のほうから姫野とハナの声による挨拶が聞こえてきた。先に姫野たちが来たらしい。

 

「アキくーん。ツマミ作るの手伝うよ〜!」

「あ、あの、アタシも……手伝えることなら。包丁の扱いなら慣れてるので」

「ツマミ目的じゃねぇか、座ってろ。デンジ、テーブル拭いて出来てる皿持っていってくれ。テーブルもう一個お前の部屋から持ってきて合体させるんだぞ」

「おーう」

「あ、その前に手ぇ洗え」

「分かってるって」

 

 明らかにツマミ目的の姫野は戦力外通告をされ、勝手にコートをラックにかけて座り込んだ。手伝う気は皆無である。ハナだけがデンジの手伝いでテーブルを一緒に運んできた。

 

「ハナ、いじめられたりしてねーか? 楽しんでるか?」

 

 あれからそれほど頻繁に会うようなことはないらしく、デンジから花子さんの悪魔へ心配のにじむ声がかかった。しかし、問題なく過ごせているのか、姫野を横目で見て彼女は薄く微笑む。

 

「ああ、うん。姫野さんにも良くしてもらってるからね。マキマさんからは、離反するようなことがあったら処分する……なんてご忠告をもらってるけどね」

「おお、そりゃあ俺とおそろいじゃね? でもそれ、ユカリさんが言うには形式上ソウイウコトにしておかないといけないだけで、その気は全然ないってよ」

 

 デンジにもそういう忠告はされていた。

 ゾンビの悪魔を殺した際に、デンジが悪魔へと変化する過程を見た彼女が苦渋の顔で告げたことである。

 公安は人類の味方であるため、たとえ悪魔の力を借りていようと裏切りには敏感だ。民間人からの信頼がなければならないため、表向きだけでもそうやって、全ての悪魔に首輪をつけていることを示していなければならなかった。

 デンジとしても公安の事情は一応理解しているため納得済みである。悪魔収容所の面々が揃いも揃って悲惨さのカケラもなく、のびのびと過ごしていることを神隠しから聞いて知っているのも安心材料のひとつだ。無理に縛られず、今まで通りだと分かっているので特に不満はない。

 

「ん〜、だってそもそもキミたち裏切るわけないじゃーん? マキちゃんも大好きなデンジくんにそんなこと言わなくちゃいけないなんて可哀想に! あはは〜、ヨシヨシ慰めてあげないとな〜」

「……姫野、お前もう酔ってるのか?」

「あの……すみません。神隠しで送迎してもらったので、多分いっぱい飲むつもりだと思います。16時頃から少し飲んでましたし。その、大人ですし……止めて良いものか分からず……」

「……」

 

 アキの蟀谷(こめかみ)に再び青筋が浮かんだ。

 

「あっはっはっは! 早くマキちゃんもユカリちゃんも来ればいいのに〜! いつもいつも神隠しタクシーがあるからって来るのギリギリなんだから!」

「まあ、来る頃までには全部用意するからいい。全員座れる場所あるか?」

「ギッチギチかも〜! 私ぃ、アキくんの隣にピッタリくっついて座るね!」

「ゲロはかけんなよ」

「大丈夫大丈夫、ちゃんとトイレに駆け込めるから〜」

 

 本当かよ、という顔をしてアキが眉を顰める。前科があるためだ。

 そんなこんなで準備を終えた19時前。再び玄関チャイムが鳴った。

 

 ダッシュで向かったデンジを見送ると、次いで「お邪魔します」「どうぞどうぞ!」という会話が聞こえてくる。マキマとユカリの到着だ。

 

「時間ギリギリすぎたかな。ごめんね、ユカリがなかなか起きなくて」

「いやピッタシでいいですよ! ユカリさんも寒い時期は辛そうだし……」

「ふわぁ……シャワーを浴びてきたけれど、まだ眠いわぁ……いつもなら冬眠しているもの……」

「またまた〜。毎年ユカリちゃんも普通に仕事してるじゃん!」

「そうねぇ〜……ふぁ」

 

 明らかに半分眠っているような様子のユカリを見て姫野が立ち上がる。立ち上がった拍子におっとっと、とよろけかけたがサッとハナが支えてことなきをえる。姫野とバディを組み始めてそう時間は経っていないものの、すでに彼女に対するあらゆる対応に手慣れていた。

 

 全員が揃ったところで、大勢で食べることを目的とした料理が並べられていく。

 

「これ、お土産。姫野ちゃん一緒に飲もっか」

「マキちゃんさいこ〜!」

 

 マキマがテーブルに置いたのはワインである。大人組はグラスにワインを注ぎ、子供組はジュースが配られる。

 アキがエプロンを脱いでテーブルまでやってきたところで、みんなの視線が彼に集中する。姫野が用意したワインは却下され、デンジが用意していたジュースをアキが手にしたところで、立ったまま彼が音頭を取る。

 

「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。たくさん食べて、飲んでください。年越しの食事会ってことになりますので、解散は0時です。存分に楽しんでいってもらえると嬉しく思います。それでは、乾杯」

「かんぱ〜い!」

「乾杯!」

「乾杯」

 

 嬉しそうに微笑みながら乾杯するユカリに、淡々とグラスを掲げるマキマは対照的だ。しかし彼女たちはどちらも、乾杯してまわるデンジやハナにちゃんと応えてやってからグラスに口をつけた。

 

「おいし」

「早川さんの料理もすごいわね。大変だったでしょう」

「途中まではデンジも手伝ってくれてましたので……それに、年越しそばはカップ麺にして手間を省いてます。あとで用意するので、お腹には余裕を持たせておいてくださいね」

「分かりました。ああ、テレビはつけてもいいかしら?」

「チャンネル争いにはしないでくださいよ」

「分かっていますわ。みんな、なにか見たいものあるかしら?」

 

 ユカリがリモコンを握って尋ねると、みんないっせいに自己主張し始める。

 

「みんなで見るなら紅白……でしょうか」

「ダウンタウンのバラエティ〜見て笑おーよ!」

「30時間テレビとかもあったが……無難に紅白か?」

「去年紅白だったから別のが見てぇ〜」

 

 そこで最後に発言したデンジを見て、ユカリがバラエティにチャンネルを変える。マキマやユカリと一度年越しを過ごしたことはあるが、デンジにとってはまだみんなと年を越すという経験は二度目なのである。そんな彼の意見が優先されることに文句を言う人はいなかった。

 

「マキマ、はいあーん」

「はいはい」

「あーずるーい! 私もそれやりたい! マキちゃんもユカリちゃんもほら飲め飲め〜!」

「おい姫野……なんかそれは違うだろ……」

 

 ふざけてお互いに食べさせ合うユカリとマキマの間に、姫野が潜り込んで自分のグラスに入った酒を飲ませにかかる。二人はなんの躊躇いもなく彼女のグラスで一口、二口お酒を楽しむと、マキマは姫野の背中をさすりながら鳥の雛に餌を与えるように卵焼きを口元に持っていく。

 

「うっぷ」

「ユカリ」

「はいはい」

 

 その瞬間、ちょっとまずい状態になった姫野の背中ユカリも手を添えてなだめだす。密かに姫野の境界がいじられ、吐き気が取り除かれた彼女は青い顔をしながら二人にしなだれかかり、取り除かれ切っていない酔いに耐えるのだった。

 姫野の酒癖など数年の付き合いで承知している。世話を焼きつつ、衆人環境で能力を使って彼女の負担を和らげることなどユカリには簡単にできることだった。

 

「姫野ちゃんお水飲もっか」

「私たちも少しだけお酒は休みましょうか」

「ユカリさんたちはワクみたいなもんでしょうに」

「いいのよ。友人と同じペースで楽しむのもお酒のいい楽しみかたのひとつですもの。ね? マキマ」

「うん、一人で黙々と飲んでるだけだと寂しいからね。キミたちのことを眺めてるだけで楽しくはあるけど……」

「マキマさん! これ! この味噌汁の具は俺が切ったんです! どうっすか!?」

「うん、おいしいよ。頑張ってるねデンジくん」

「っしゃあ!」

 

 無邪気にガッツポーズをするデンジを、マキマは微笑ましげに見守っている。

 こうして賑やかな食事会は夜通し続けられていく。

 

「……そろそろ0時前か。そば用意するからちょっと待っててください」

「姫野ちゃんはすっかり寝ちゃったけど……用意できたら起こそっか」

「アキがお湯用意するだろ? 俺はカップそば開けておけばいいか?」

「そうだな、人数分開けて準備しておいてくれ」

「あ、それなら隣で空いた食器洗いますね」

「助かる」

 

 アキとハナはキッチンの中へ。デンジはカップそばを開けていき、ユカリとマキマは姫野をあやしながら残っている料理をつまむ。背中をトントンしてやりながら眠っている姫野はすっかりマキマの膝の上でご満悦な表情をしていた。起こすのはしのびないが、そばを食べるのは彼女も楽しみにしていたので放っておくという選択肢はない。

 

「3分待ってくれ」

「姫野、起きて。そろそろおそばの時間よ」

「う〜ん、あと5分……」

「姫野ちゃん、おそば伸びちゃうよ」

「んあ……?」

 

 来たときはユカリのほうが眠たそうだったが、今や姫野とユカリの様子は真逆になっている。すっかり目が覚めたらしい彼女はうっすらと赤い顔をしながら女性三人でくっつき、楽しく過ごしている。自身の境界を操ってほんの少し酔いがまわるようにしているようだ。そのほうが楽しいからかもしれない。

 

 それから、すっかり用意されたそばを前にみんなでいっせいに食べ始める。

 デンジだけが妙に急いでそばを食べながら、むせた勢いで鼻から麺が飛び出したりとトラブルもあったが平和的に年越しのカウントダウンがテレビ内で始まる。

 

 3

 

 2

 

 1

 

 すっかりそばを食べ終わったデンジが、カップを持ったまま立ち上がってジャンプをする。

 

 0

 

「むむむむーむむむむーむむむっむむー!」

「食いきってから言え」

 

 汁はこぼさずに済んだらしい。デンジは箸を持ったままVサインをしてみせた。

 

「んぐ……年越しジャンプをしてやったぜ〜!」

「子供ってこういうの好きだよねぇ、可愛いなデンジくん」

「え、そうですか!? へへへへ……」

 

 照れくさそうにするデンジは満足したのか、座って残りのスープを飲み始める。

 

「0時か、そろそろ自由解散にします。最初はこの家で集まるとか、スペース足りないだろと思ってましたけど、案外大丈夫でしたね。楽しかったです」

「早川くんもいろいろ準備をしてくれててありがとう。楽しかったよ」

「アタシは片付けを手伝っていきます。姫野さんが……このまま泊まりそうですし」

「食った食った〜! そだね、アキくん泊まってっていい?」

「いいけどお前も片付け手伝えよ」

「分かってるって〜!」

 

 アキの宣言により、残ったものを食べきったユカリとマキマは立ち上がる。

 解散するなら二人はそのまま帰宅することになるのだ。

 

「私たちはそろそろお暇いたしましょうか。三が日が明けるまで、平和的に過ごせるといいわね」

「悪魔が出なければ休みだけど……通報があったら大体私たちで片付けることになるからみんなはゆっくり休んでね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 手を振った二人を覆うように神隠しのスキマが現れる。

 帰るときはひとっ飛びだった。

 

 こうして、ポチタのいない日々に慣れていく。

 それは、良くも悪くもあり、そして……デンジにとっての激動の一年が始まることも意味するのだった。

 




二月となりましたので更新を再開いたします。

一月中も不定期更新するよ〜と言っておいて全然更新できてなくて申し訳ありません。思ったよりも忙しく……。オリジナル含める三作分くらい並行で書き溜めたりするのは結構無茶でした。

二月中も忙しくなりそうなので、シリーズは週のどこかで一回更新するということにいたします。

原作の話のペースは遅くなるかもしれませんが、完結まで走っていくので今後もよろしくお願いいたします。

また、感想返信なども今夜行う予定ですので、今しばらくお待ちください。
皆々様、今年もどうぞよろしくお願いいたします!
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