「ねえ、ユカリ。もし公安にあなたの居場所ができたら、私と一緒に仕事をしてくれる?」
「今でもマキマについていって一緒に仕事しているようなものじゃない。なあに、今のやりかたでは不満なのかしら」
「うん。だって、今のままじゃユカリを誰にも紹介できないから」
「前にも言ったことがあったわね、なんて説明するのって。誰かに私を紹介したいの?」
「誰にも隠さずに友達に会いたいって思うのは、いけないことかな」
「……」
思わず黙るユカリにマキマは首を傾げる。
この、少し幼い仕草はいつしか、ユカリ相手にいかんなく発揮されるようになっていた。
今までは特に訂正されることなどはなかったが、はじめのうちに『仮』友達だと言っていた面影は微塵もない。
故にユカリは真剣に考える。幻想郷では現在冬であるため、八雲紫という妖怪は冬眠していることになっている。いつでも藍に仕事をぶん投げて寝てばかりいるが、幻想郷についてを気にする必要は特にない。
マキマと友達になったこの世界と幻想郷では時間の流れが違い、まさに夢のような時間を過ごしているためずっと滞在していても問題はなかった。
原作の流れがどうのと考える必要もない。そもそも現在は1991年。原作よりも前の時間軸である。ただ漫画の世界を眺めたいだけであればこうなることはない。
八雲紫は『虚と実の境界』まで弄っているのだ。水面に映った月から本物の月へ行く通路を作り出したように、漫画を通して辿り着いたこの世界は『本物の月』と同義である。好き勝手に過ごしても漫画の内容が変わることはない。
「そうねぇ……協力したいときに協力して、断りたいときに断れて、仕事仕事って縛りつけないのなら姿を出してあげてもいいと思うのだけど。お堅い公安の組織では難しいことかしら」
「そうかもね。でも、そっか。ちょっと頑張ってみようかな」
「本気なの?」
「本気だよ」
……
…………
………………
秋頃にユカリと交わした言葉を思い出しながら、マキマは息を落ち着ける。
はじめての夏祭りを経験した日、マキマは心からユカリとともにいたいと思うようになった。正確にはその日の昼間、ユカリにとってはただの悪戯だったのだろう。
不意打ちの抱擁にマキマは心を奪われた。
突然叶った夢に混乱した。
夢が叶うときがあるのならばきっと特別なときに、特別な瞬間として心に刻まれるのだろうと考えていたというのに、心構えもなく、予測すらできずその瞬間が訪れてしまった。
もっと雰囲気のあるときにだとか、そういうロマンスには興味を持っていなかったはずだが、動揺しているということは、自身にも理想のシチュエーションのようなものがあったんだとさらに困惑する。
マキマはそうして脳内であらゆる情報の整理をしてからようやく、部下の言葉に反応することができたのである。
あれ以来八雲紫との交流は高頻度で行われているが、だいたいは突然ユカリがマキマに会いに来たり、仕事についてきたユカリと飲みに行ったり、部屋に勝手に泊まって行ったり、寝て起きたらいつの間にか同じベッドで眠っていたりとユカリが会いに来る形だ。
彼女のリボンを所持しているため、なにもない空間に向かって名前を呼ぶだけでユカリがやってくることもあるが、忙しくしているときなどはスキマから「留守中」という文字の書かれた手紙がひらりと降ってくることもある。
つまり、マキマが会いたいときに会いに行くということができない、ということだ。
マキマにも依存している自覚はある。それははじめて自分の夢を叶えてくれた人物(妖怪だが)だからでもあり、純粋に一緒にいて楽しいからでもある。
しかし肥大していく心を押さえつけることはできない。
ユカリ本人が、支配の悪魔が支配される必要はないと言っていたからだ。
支配欲。いや、それよりは独占欲のほうが相応しい。
親愛も、愛も、突き詰めていけば自身の我欲であり、独占欲に通じるものだ。
すなわちそれは、愛でさえもマキマ自身の領分であると言えてしまう。
だから、支配の悪魔であるマキマが己の領分と定義できる感情を特別強く持つのも仕方のないことであり、押さえつけるつもりのなくなったその欲は悪魔らしい我儘として発揮される。
「退魔特別捜査協力者を募ると?」
「はい。私が主導し、企画を試みる予定の退魔特異課には友好的な悪魔や魔人をデビルハンターのバディとして導入することとなっています。そのためには、まず強力なデビルハンターに所属してもらい、様子を見る必要があります。民間からでも特別協力者として募集するのは良いことかと」
「ただでさえ民間に流れる者もおるのに、その逆がありえるわけがないだろう!」
「心当たりでもあるのか?」
「はい、一人」
八雲紫との交流でマキマは夢を叶え、ほんの少しだけ情緒の成長が見られている。
「普通に公安へ引き込めばいいだけだろう!」
「彼女は自由に協力し、断りたいときに断ることのできる立場を望んでいます。私もそのほうが良いと思っておりますので」
「そんなことが認められるわけがないだろう! 仕事である以上、人間のためによく働いてもらわねば困る。マキマ、良い人員を使える犬にするのがお前の役目だ。分かっているだろう」
「……」
しかし、彼女の本質はなにひとつ
マキマ
「……命令です。私の提案を承諾し、納得しなさい」
金色の、同心円状の瞳に睨みつけられた人間は誰一人として抵抗できず、その言葉にうつろな顔で返事をした。
「そして今後一切、特異課の企画についての口出しを禁じます。あなたたちはこの一件に、なにひとつ違和感を抱いてはいけません」
そして、異口同音の承諾の言葉を聞きながら……マキマはゆっくりと唇をつりあげた。
逆らうことも考えられないくらいの人たちだった。国家の犬として育てられ、社会正義のために働いてきた彼女ははじめて、ただの我儘で己の力を使い、『親』に逆らってみせたのだ。
ただ一人の、友人のためだけに。
マキマさんは怖いのがいいんですよ。
やっぱこの人悪魔なんだなあと思う瞬間があるといい。
今回は短めだったから二回目投稿しましたが、明日は一回です。
勢いのままに見たいものを書いているのでしばらくは毎日投稿続けられると思いますが、ずっと毎日は無理なのでご了承ください。