髪が長くて細目の神父がいわくつきの子供を養う孤児院を経営しているだけなのにドチャクソ怪しまれる謂れはないですが?   作:蓮太郎

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10.悪いことはいけませんよ

 

「ではー、続きましてナイフ投げ!みなさん、乱入とかしちゃいけませんよ~」

 

 磔になっている人に向けてナイフを投げ、その腕に乗っている果実を射抜く芸を立ち見しながらクレープのようなものを食べているのを見守っている神父です。

 

 若干ややこしい言い回しとなってしまいましたが、実際にクレープのようなものを食べている子供たちが居るので間違いはないです。

 

 ちなみに、このクレープのようなものというのは小麦粉で作られた生地のみという滅茶苦茶シンプルなものです。

 

 ほんのり甘みがあるためいくらでも食べられると評判みたいです。

 

 これ、名前があるような気がするんですが私には分かりません。

 

 まあ、みんな美味しそうに食べているのでOKです。

 

「あむあむ、美味しいですね。家で再現できませんか?」

 

「味を盗むのは大変ですよ。研究するだけでお金も時間も飛びますからね」

 

「盗む?神父様が?」

 

「みんなが食べているご飯のほとんどはいろんなところの味を盗んで作ったモノですよ」

 

 いやあ、前世の料理を再現するのはとても大変でした。

 

 文明の発達は明らかに前世よりも遅れているため調味料一つでもかなり大雑把に混ぜ合わせたものだったり果物などの植物に関わるものは殆どが野生のもの。

 

 唯一、穀物だけ栽培されているという形でしたが、それらも基本的に硬いパンとして腹を満たすだけのものとして存在していました。

 

 よくある異世界小説でも最初の食事は大抵不味い者でしたが、その事実を身をもって知りましたよ。

 

 さて、食糧事情はともかく皆はぐれていませんね。

 

 アリシアは私が抱っこしているのではぐれる心配はなく、ウヴァル、エンデ、ジャックと揃って…………

 

 ……………………サーシャは?

 

 気づいたらサーシャが居ません。一番しっかりしている子なのに、こんな時にはぐれるとは思いもしませんでした。

 

 周囲を見渡してもどこにも見当たらず、人の流れに巻き込まれたのかもしれません。

 

 しかし、このまま一人で動くことはできません。

 

 子供たちを置いて探しに行けば、置いていった子供たちがはぐれてしまう可能性があります。

 

 土地勘のあるウヴァルはともかく、エンデとジャックは微妙な所でありますし、全てにおいて幼いアリシアを置いていくわけにもいきません。

 

 どうしたものか、そう思っていた時でした。

 

「おお、神父様じゃないか。いやあ、おチビちゃんたちは今日も元気だな」

 

「貴方は…………」

 

 持つべきものは友人、今まで築き上げてきた人間関係が役に立つ時は嬉しくなりますよね。

 

 彼の伝手を頼んで迷子になったサーシャを探してもらいましょう。

 

 なに、心配いりません。彼は職務には忠実ですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どうしよう…………」

 

 私ことサーシャは、曲芸を見ているうちに気づいたらはぐれてしまいました。

 

 えーっと、何ででしょうか?どうしてはぐれてしまったのか?

 

 確かによく人とぶつかっては押し出されることがありました。

 

 けれど、下手に誰かを押すという事は傷つけてしまうことになってしまうのでそのまま流されてしまったという訳です。

 

 え?別に流れに逆らったらよかったんじゃないかって?

 

 それがここ最近は妙に力が溢れているんですよね。ちょっとしたことでものを壊してしまうくらいには。

 

 前までは1人で持てなかったベッドを片手で持ち上げられるようになったり、普通なら叩いて割る木の実を握るだけで粉砕したり、明らかに私の腕力が強くなっているんです。

 

 私が怪我をしてもすぐに治るので問題はないんですが、ちょっとしたことで相手を押して怪我でもさせたら皆の迷惑になってしまいます。

 

 えーっと、ここは確かどこでしたっけ?

 

 商店街から遠くて、なおかつ中央よりもやや離れていて、えーっと、どこかしら?

 

 あまり行ったことが無い場所だから戻るのも一苦労です。

 

 元来た、道を戻るのも難しいのかもしれません。このまま孤児院に帰ってしまうと入れ違いになってしまうのも難点です。

 

 人がごった返しているとはいえ、サーカスをしている広場に戻るのが先決でしょう。

 

 あまり人通りが少ない裏通りらしい場所に逃げるのも少々いけなかったかも?

 

「おや、君はどこかで見たことがあるね」

 

 表通りに出ようとしたら背後から声を掛けられました。

 

 全く知らない人の声でしたので、思わず振り返って誰か確認しました。

 

 普通に知らない人でした。

 

「えっと、貴方は?」

 

「あれ、聞いてない?」

 

「そうですね…………あ、もしかして司書様(・・・)のお知合いですか?」

 

「そうそう、司書から頼まれてたんだよね。君がちゃんと帰られるよう見つけて欲しいって」

 

 はい、大嘘ですね。最初から適当に投げかけたブラフにまんまと引っかかりました。

 

 怪しい人には最初から引っかけ問題を出そう、そう神父様から教わっていますので。

 

 特に私は無償で誰かのために何かするという考えはあまり持ち得ていません。

 

 孤児院での仕事も殆ど家事手伝いとはいえ住ませてもらっているのですからやらなければならない事と理解しています。

 

 それに、この人から若干の悪意がにじみ出ているような気がするんですよ。

 

 これ、明らかにナンパではなくちょっとヤバい方では?

 

「ほら、こっちから抜けられるから案内するよ」

 

「いえ、結構です。自分で何とかしないと皆に笑われちゃいます」

 

「いやいや、こっちは善意でやってるんだからさ?ほら、来なさいって」

 

「嫌です」

 

 はぁーっと目の前の男性が大きなため息を吐いて私に近づいてきます。

 

 こっちに来ないでください、ちょっと力を入れただけで貴方はどうなるか分からないんですよ!

 

 昔からあのような下に見る目はよくありました。呪いの子、災いを招く子と何度揶揄されて、そして追い出した大人の目とそっくり。

 

 ですが、もう引くことはありません。

 

 私に居場所が出来ました。胡散臭くも優しい神父様、私と同じように何らかの訳を抱えた幼い妹と弟のような存在…………

 

 嫌なら嫌と言えばいい、それを今から実証させます。

 

 力づくで来るなら容赦は…………

 

「おうおう!そこの兄ちゃん何やってんだ!?」

 

 表通り、つまり私の背後から誰かが大声で話しかけてきました。

 

 いったい今度は誰なのかと思いましたが、目の前の男性がうわッという顔をしているので彼にとって望んでいた人物ではないらしいです。

 

 だったら確認しようと振り返ると…………

 

「こんな暗いところでナンパかぁ?サーカス来てるからってハメ外しじゃないか、えぇ?」

 

 明らかに人相が悪い、どう見ても裏社会に繋がってそうな人でした。

 

 あ、いや、ごめんなさい、今のは完全に偏見でよく見たら普通に警備している兵士の方でした。

 

 思い出しました、この人は神父様に謎の粉を渡されている人ではありませんか。

 

「お、あんた神父のとこの子じゃないか!確か、あの人はまだ曲芸を見てる中に居たはずだ。ほれ、とっとと行った行った」

 

 無関心、いや、心配しているからこそさっさと出て行けという態度をしているのでしょう。

 

 見た目に反して職務に忠実という私の失礼な考えを一度押し殺して、彼の横を通りました。

 

 お言葉に甘えて逃げます。とはいえ助け舟を出してくれたので一言だけ声をかけておきましょう。

 

「ありがとうございます。では、あの不審者を捕まえてくださいね」

 

「おうよ!ちょっとお前、詰め所に来いよ」

 

 背後で不審者が問い詰められている声を聴きながら、私は神父様が居ると思われる元の場所へと足を進めるのでした。

 

 …………結局、さっきのナンパ男は何者だったのでしょうか?

 




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