髪が長くて細目の神父がいわくつきの子供を養う孤児院を経営しているだけなのにドチャクソ怪しまれる謂れはないですが? 作:蓮太郎
「やっす、監査に来たぞ」
「お帰りください、酒はありませんよ」
「んなことわかってるって、今日は定期監査の騎士として来てるんだから」
どうも、怪しくない神父です。そして目の前に居るのは昼間からアルコール臭漂う騎士。
まあ私の古い友人でありますが、まさか堂々と飲酒をしながら監査に来るとは思っていませんでした。
私の教会兼孤児院は直接頂くお布施だけでなく、本部から全ての教会に予算が配られるのです。
この地区は私が担当していますが、信仰を浸透させるだけでなく結婚等の冠婚葬祭の一部も私が担当することもあり、その評判によって予算が変わってきます。
もちろん、監査に入る人間によって依怙贔屓があり大きな格差が産まれてしまいます。
申し訳ないですが、そこは妥協して頂くほかありません。
「で、調子はどうなのよ。一昨日にサーカスが来てただろ?そこで散財とかしてないだろうな?」
「まさか。子供たちに申し訳ありませんでしたが寂しくやらせていただいてます」
「子供への圧政でマイナス…………」
「その頭、弾いてあげましょうか?」
この野郎、すぐ調子に乗るんですから。
さて、今更ながら彼の紹介をしておきましょう。
教会本部護衛騎士団の団員、バッカス。教会に入信し騎士団の一員となり、今では頭角を現しつつもこのように現地を歩き回る1人として活動している。
そして私が世界各地を回っていた際の仲間であり、今でも長く続いている交友関係の一つである。
なのでこのような冗談を言い合う仲にはなっているんです。
ただし、彼は悪癖として酒乱傾向にあります。
「神父サマー!うおくっさ!?」
ジャックが遊びに来た瞬間に鼻を押さえて逆戻りしていくほど酒が好きで、ここに来る途中に何杯飲んだか分かりませんね?
「言われてますよ。全く、こんな真昼間から酒を飲んでいるとは騎士として恥ずかしくないんでしょうか?」
「日に日に謎の粉を布教している奴に言われたくないな」
「おや、私が提供しているのはお手製の調味料だというのに」
ははは、ふふふと互いに笑いあい、前に出会ったときから変わってないなと感じました。
「じゃあとりあえず周囲の観察からしていくぞ」
「どうぞ、ごゆっくり」
「さーて、こいつが夜な夜な飲んでる酒はないか台所を…………」
「(無言のリボルバー突きつけ)」
「早まるな早まるな早まるな、真面目にっ、真面目にやるから!」
分かればよろしい。全く、子供たちと同じように油断も隙もできません。
バッカスから目を離さないようにしないと、私が隠して作っているおやつを見つけ出しては食べかねません。
そうなれば子供たちの恨みが全て彼に…………別にいいか。
ともかく、ハチャメチャになりそうな監査が始まりを告げたのです。
―――――
俺はバッカス、教会騎士団に所属している騎士だ。
ダラダラと酒を飲んで職務に励むのが俺の日課だ。誰だ、不良騎士って言った奴。
間違いではない。実際に俺や経歴はそこそこ荒れているからな。
仲間と共にいろんな街を回りながらモンスター退治をやって金を稼ぎ、何だかんだ大捕物して今に至る訳だからな。
その仲間の1人が監査を後ろで眺めている胡散臭い神父な訳だ。
こいつ、昔はそこまで怪しくなかったのに今ではファッションの髪型のせいで怪しさが爆増している。
ファッションセンスはともかく、こいつ自身は悪い奴ではない。
あそこで扉の隙間から覗いている訳アリの子供たちに懐かれるくらいにはな。
「じー」
「あいつ、酒臭いゾ」
「しっ、聞こえますよ」
「変なやつなのは前からだろ」
「聖騎士…………穢れちゃう」
「どうして真面目じゃないんだろう」
「聞こえてるぞがきんちょ共!」
各々が悪口を言ってきてるが大人なので我慢だ。俺の額に血管なんて浮かんでないんだからな!
ひとまず、周囲を見渡した限りは贅沢そうな品は無さそうだ。
強いているなら新品の椅子があるくらいだが、何でこんなに赤く染まってるんだ?
どこにでも売ってそうなペンキで塗りたくったような代物だが、まああいつのことだし普通に自作したんだろう。
家具は職人から買うと滅茶苦茶高いからな。
そういった節制は教会ポイント+100だ。なんだよ教会ポイントって。
昔に俺たちが旅したメンバーは軒並み出世していったからな。神父もああ見えて実はかなり位が高い。
ぽっとでにしては、と頭に付くが教会も全部が白という訳ではない。
むしろ真っ黒と言っても苦笑いされるくらいに権力争いが激しい。
この俺も表向きは騎士であるが、本当は粛正を担当する処刑人という汚れ仕事を請け負う立場だ。
名誉ある職に見せかけていつでも切り捨てることが出来るような者、流れの人間に与えられる見せかけの栄光だ。
最も栄光を掴んでいい奴は神父であるのは俺達の中で一致しているんだが、あいつ自身が権力に興味がない。
権力が無いと守る物も守れないってのに。
それでも足掻き続けるのがあいつなんだ。自分の身の丈に合わない怪物を、呪いを背負いながら導くような男なんだよ。
あいつに言えない仕事も数多くこなしてきた。だから、これ以上は何も背負ってほしくはない。
って、俺が言っても説得力は無いか。
「なんだこの焦げ跡」
「気にしないでください」
「いや、これ気になるだろ。というか誰の部屋だよ、どれだけ本があるんだよ」
「気にしないでください(ダリアが生体錬成をやった場所だ、やっべ)」
「気にするわ!一体ここで何やった!?」
もちろん黙認はするが、禁忌に触れる行為は俺でもかばいきれないからな!?
訳アリのがきんちょたちのことでもだいぶ握りつぶしてること多いのに、本当に怪しくなるようなことはしないでくれよ!?
ついでに神父の飯にありつけるかと思ったのに、思っている以上に細かく握りつぶさなければいけないことが多くて時間がかかってしまった。
くっそ…………なんだよ謎の粉、美味いじゃないか…………!
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