根源的恐怖「因果の悪魔」   作:紅琳檎

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・因果の悪魔
「根源的恐怖」にカテゴリされる悪魔。
四騎士や闇の悪魔等より遥かに強力で恐怖の対象とされるが、その実、本人(本悪魔?)は直接的な攻撃方法は持たない。
全ての悪魔はその存在の根底に恐怖として刻まれているが、実際に遭遇した悪魔はおらず実態は謎に包まれている。


プロローグ「因果の悪魔」

喫茶「二道」に繋がる裏路地で、ひとりの女が息絶えようとしていた。

 

(デンジくん)

 

正確には完全な死では無い。

だが、彼女という存在は終わるだろう。

横にいる支配の悪魔によって。

 

(デンジくん、本当はね。 私も学校……行ったことなかったの)

 

独白はまるで懺悔のように。

 

(あの日、囚われたのは私だった)

 

あの夜のプールで蜘蛛に捕まった蝶を見て、上手くやれた自分を重ねたことを思い出していた。

逆だった。

素直で裏表無い少年に囚われたのは、女の方だった。

 

(ふたりで、どこか、遠いところで)

 

 

 

(デンジくん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい一幕だったぞ、女」

 

きん、と金属とは違う高く澄んだ音が響く。

ばちりと意識が突然覚醒する感覚に、彼女は動かないはずの身体をバネのように起こす。

目の前にいる異形と、雲や鳥が止まった空、驚愕に目を見開く支配と天使の悪魔。

異形の、人ひとり分はある縦に割れた単眼に見つめられ、彼女__レゼは恐怖に凍りついた。

 

「愛だ。 どこまでも純愛である。 死を招く因果であるが、それを分かっても選ばざるを得なかった、愚かな選択。 とても美しい」

 

瞳孔が割れ歯列となり虹彩が唇になり声を発する。

しかし言葉はとても暖かく柔らかで、レゼの身体には熱が戻りつつあった。

ふと見れば地面に広がっていたはずの出血も、吹き飛んだ腕も、貫かれた胸の傷も、元々無かったかのように消えている。

 

「女よ、名前を聞かせてくれるか。 今この世で最も輝く女優の名を覚えておきたいのだ」

「……レゼ、で、いいですか」

「勿論だ。 女優は本名を名乗る必要はないのだ。 レゼ、レゼ、レゼ……レゼ。 良い響きだ。 愛を感じる。 君はこの名を呼ばれるのが好きになったのだな。 あの少年が理由か」

 

レゼは二道の窓に視線を投げた。

心臓にチェンソーの悪魔を宿した公安のデビルハンターの少年__共に逃げようとレゼに言い放ったデンジが、花束を抱えている後ろ姿。

 

(本当に待っていた。私が行かなくても、きっと閉店までずっと待っていたんだろうな)

 

締め付けられるような思いに、レゼは胸の前で両手を握りしめた。

まるで祈るような姿に、異形は嬉しそうに口角を上げる。

 

「とても良い演劇であった。 レゼよ、褒美をやろう」

「褒美……?」

「君達の因果を操作してやろう。 枝分かれした数々の世界を私に見せてほしい。 勿論、姿を現すなどという無粋なことはしないと約束する」

「勝手なことはさせません」

 

異形に対し、指鉄砲を向ける支配の悪魔。

その瞬間、向けていた右の手首から先が消失した。

 

「ッ」

「無駄だ、支配よ。 お前は明確に私という存在の子だ。 それなりに見れる役者だから生かされているに過ぎない。 思い上がるな」

「……まさか」

「名乗りがまだだったか。 私は因果の悪魔。 原初の悪魔であり、全ての悪魔の親」

 

レゼの心臓が早鐘を打つ。

爆弾の悪魔が恐れているのだとレゼは感じていた。

人間であるレゼには因果の悪魔がどれほどのものか分からないが、目の前にいる絶対強者であったはずの支配の悪魔が取り乱す様子を見るに、とんでもないビッグネームなのだろうと当たりをつける。

その程度の評価で済むような悪魔では無いと知るのはその直後であったが。

 

「この世界は確定している。 レゼの死は確定し、支配がその死体を得、少年はひとり待ち続ける。 その因果を曲げるような無粋なことはしない。 だが支配の手が及ばない因果の世界で君達の綴る先を見せてほしい。 私は人間の可能性がとても好ましいのだ」

「ええと、つまり」

「深く考えなくても良い。 所謂、ラブ・コメディというやつを私に見せてくれれば良いのだ」

 

ラブ・コメディ。

そう言われたレゼは思わず、演技も忘れて顔を真っ赤にした。

デンジを落とすために見た漫画やドラマのようなことをしろと言われ、想像してしまったのだ。

 

「支配よ。 私が去れば先程までと同じ時間に戻る。 レゼは死に少年はまたお前の下に戻るだろう。 だがお前の権能の届かない世界でもこの2人は生きる。 総てを思い通りに出来ると思い上がった阿呆には良い薬だろう?」

「…………」

「精々踊るがいい。 私からすれば飽きの来る演者であるからな。 その時がお前の最期だ」

 

ふわりと浮かんで、ゆっくりと落ちていく感覚。

心地良さにレゼは目を閉じる。

 

「レゼ。 レゼ。 レゼ。 君はもう国や、悪魔や、生まれのことに悩む必要は無い。 幸せになって良い。 君の幸せを考え、願って、歩んでくれる男がいる」

 

どこか遠くで声がする。

 

「私は全ての悪魔の親であるが、同時に、全ての生きとし生けるものの親でもある」

 

私の名前を呼ぶ、声がする。

 

「愛しい子よ。 愛しい子よ。 幸せにおなり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レゼ。 レゼ! なんだ、珍しいな、居眠りとか」

「……ん。 デンジ、くん」

「帰って昼、食い行こうぜ。 半ドンって良いなァ、毎日になんねーかな」

 

どこか、不思議な夢を見ていたような。

くすりと笑ったレゼは立ち上がり、デンジの腕に抱き着くように歩き出す。

 

「ご飯の美味しい喫茶店、あるんだ。 寄ってこ?」

「この前話したとこかァ? 俺、あんま金ないけど」

「じゃあ今日は私の奢り。 次はデンジくんの手料理がいいかな」

「エェー……良いけど、良いのかよ?」

「良いんだ。 それが」

 

 

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