「ポチタぁ。 ちっと、俺ぁよ、疲れちまった」
幾度目の生だろう。
あの時、やっぱりあの悪魔の言う事に頷かなきゃよかったかもなぁと、デンジは思い出していた。
敵同士だが心を通わせられたあの少女のことを一途に思い、幾度も死に、生まれ直して。
希望は勿論、捨てずにいた。
しかしあの邂逅自体がいくつもの偶然の結果だと思い知る程には、デンジは人生を繰り返していた。
「どーせ野垂れ死んでも、次の人生が待ってんだよなァ……腹も減ったし、今回は心臓の調子も前よか悪ィし、借金も多いし」
「クゥーン……」
「レゼに会いてぇなぁ……会ったとしても覚えてるかわかんねーし、そもそもソ連からの刺客がレゼじゃねーときもあったからなぁ」
ポチタを抱き締めたまま、あばら家の床で小さくなる。
コホ、と小さな咳に血が混じり、デンジは顔を顰めた。
「なぁポチタ。 1回だけ休んじゃダメかなぁ俺」
「ワゥ……?」
「この感じ、俺ぁ長くねーから、ポチタに俺ん身体使ってもらってさ、休憩だよ休憩」
心配そうに頬を舐めるポチタを更に強く抱き締めて、デンジはいつかの生振りに、ほんの少しだけ泣いた。
「なァポチタ。 はじめの人生で、ポチタは俺の夢の話聞くの好きだって、夢を見せてくれって言ってよ。 心臓になってくれてよ。 知ってるだろうけど、すんげー嬉しかったんだぜ」
「だから今回は、ポチタのしてーことをしてくれ」
「魔人になったら俺ん意識はどうなるかわかんねーけど、まぁ多分、大丈夫だろ」
「ポチタ」
「大好きだぜ、ずっとな」
翌朝、ポチタは寒さに目を覚まして、自分を抱き締めていたデンジから熱を感じないことにひとしきり泣いて。
「デンジ。 君の夢の続きは私が叶えてみせる」
胸のスターターを軽く弾き、眼帯を外し再生した眼球で世界を見て。
「今は私の中でゆっくり休んでくれ。 ……まぁ、セックスできるタイミングがあるときには、なんとか入れ替わりたいところだけど。 私は悪魔だから性欲ないし」
その時は困ってしまうなぁなんて後頭部をガシガシと引っ掻きながら、ポチタ……仮称チェンソーの魔人は立ち上がる。
久方ぶりの二足歩行で、視点はかつてより低い。
栄養が足りていない細い身体には、当然筋力も骨密度も足りておらず頑丈さも足りていない。
それでも、ずっと共に生きてきた最高の相棒からの贈り物だった。
「この飢えに耐え続けたデンジを私は心から尊敬する。 君が目覚められるかは分からないけれど、美味しいものを腹いっぱい食べて、満足に動けるだけの健康な身体にするつもりだから安心してほしい」
「……この見た目で丁寧に話すのは、なんだかむず痒いものがあるな。 やっぱりあの時のデンジエミュでやってくしかないかぁ」