「うーん、随分個性的なんだねぇ」
壁に飛び散ったソース、床に広がる水、煮えてる鍋からは異臭が漂い、テーブルの上に散乱した肉の塊。
とてもじゃないが秩序の保たれた(とは誰も言っていないが)寮生活になるとは思えない惨状であり、流石のレゼも苦笑いしか出てこなかった。
「コイツッ……おいパワー! この惨状の説明をしろ!」
「なんじゃチョンマゲうるさいのぅ。 この小さい女がワシの味付けに文句を言うからキョーイクしとったんじゃ」
「は、早川さぁん……ごご、ご、ごめんなさい……大暴れで、止められなくてぇ……」
(血の魔人と、あの時の命乞いの……)
「まぁ、コベニがパワーを止められるとは思っていなかったが」
「ぐぅ……で、ですよね、ごめんなさい……私はやっぱりダメな存在だぁ……」
「いやパワー止められるヤツなんていねーから仕方ねぇよ。 アキパイやセンセーでも無理なんだぜ」
「……はぁ、取り敢えず片付けるか。 レゼの紹介はその後だな」
随分と混沌とした状況だが割と見られる光景らしく、レゼは内心頭を抱えていた。
前世を思い出してしまったせいもあって常識がない部類の人間である自覚はあるが、それを遥かに超える存在がいてかつ共同生活を送らねばならないのは、ちょっと話が違うだろう。
というか血の魔人__パワーはこの世界だと人間のままだろう、どうしてこんな常識のない狂った存在になってしまっている?
レゼはちょっとだけ平和な生活を諦めかけた。
「取り敢えず荷物置いて、片付くまでに買い物でも行くか?」
「あ、うん……ちょっと自信なくなってきたなー……」
ほんの少しの荷物だというのに、最後まで責任を持って運んでくれるデンジに相変わらずときめきつつも、案内に従って廊下に出る。
陽が入らず少し寒いが、この様子だと部屋は陽当たりが良いだろう、期待にレゼは少しだけ元気を取り戻した。
「パワーとは階も別だし、あいつ基本的に平日仕事でいないから思ったよりは平和。 今日みたいにみんな集まって何かするってぇと、変に張り切って暴走する」
「仕切りたがり屋なんだね……」
「まァ基本的に色々足りてねーから直視し続けると文句が出てメンドクセーから放っとくのがいちばんだな。 各部屋に風呂もトイレもあるから、取り敢えず洗濯物らへんさえ目ェ瞑れば……うん……」
デンジも抱えるものがあるのだろう、階段を登りながらの口振りでは苦労が滲み出ている。
洗濯物……部屋に置けるなら洗濯機を買ってしまおうと、密かに心に決めたのだった。
「3階の角部屋。 階段はかったりィかもしれねーけど、今のところサイキョーに条件いい部屋だぜ」
「わぁ……! 思ったより広いね!」
8畳リビングに収納多数、バストイレ別で、火元は無いが水周りも整っているとても寮室とは思えない部屋で。
陽当たりもいいし角部屋、そしてパワーとは別の階で影響が少ないことがレゼにはとても嬉しく思えた。
おー、なんて歓声をあげつつ、開けたり閉めたりを楽しんでいる。
「アァー……クソかわいい……」
デンジの囁くような、漏れ出た声に耳まで赤くしながら。
「……ま、そんな感じだな。 取り敢えず見て回るのは後にして、暗くならねーうちに買い物行くか」
「場所さえ教えてくれれば、ひとりで行くよ? デンジくんもバイトした後だし、疲れてるよね」
「何があるかわかんねー世の中だから、付き合うぜ」
「私、護身術とかやってるから平気だよ?」
ボクシングスタイルで構えて、シャドー。
素人とは思えないハンドスピードに、若干デンジが苦々しい顔をする。
「そのへんは疑ってねーよ。 でも俺が着いていきてーんだ」
「優しいね、デンジくん」
「レゼだけにだよ」
「なにそれ」
笑い掛けると、笑い返してくる。
あの時、二道の日常みたいに嬉しくて、これからずっと続くんだろうなとレゼは真っ赤な頬を緩めた。