THE FORBIDDEN FRUIT   作:シーウィード

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THE FORBIDDEN FRUIT/上

 〈1〉

 甲高い唸りを上げるF79ターボファンエンジン、そのジェット排気が、蒼穹に白い飛行機雲を描く。

 四組のフィンガー・フォー編隊を組んで飛行する戦闘機には、平面と鋭い流線で構成された機と、滑空爆弾にV字の尾翼をつけたような機の二種類。

 国連軍航空軍団第503統合任務部隊に所属する四機の第6世代ジェット戦闘機、FRGM-79〝ハリケーン〟は、防衛圏の最外殻たる早期警戒ゾーンに侵入した〈天使〉と思しき反応に対応するべく、早期警戒管制機と、それぞれ三機のロイヤル・ウィングマンたるMQ-58を伴って出撃していた。

 

 〈天使〉は、有り体に言えば人類共通の根絶すべき敵である。人類の兵器体系を模倣するそれは、白色に輝く機体を持ち、天使を思わせる浮遊する輪を特徴とする。

 プラハ事件から三〇年という月日が経つ今もなお、その正体は未だ謎に包まれている。

 だが〈天使〉が人類の敵であることだけは明確である。人類の殲滅という行動原理。

 いくつかの国家が文字通り滅亡して初めて、人類は〈天使〉の殲滅という目的の下に結束した。それが例え、致命的な歪みを抱えていようと。そこに未だ、国家や民族、宗教というしがらみを残していても。

 

「ボギー八機を〈天使〉、大天使型(アークエンジェル)と識別。各機、交戦を開始せよ」

 

 早期警戒管制機が告げた。

 制空戦闘機でありながら、ロイヤル・ウィングマンの指揮ハブであるハリケーンのレーダーと比べれば、空飛ぶレーダーサイトたる早期警戒管制機のレーダーは、より強力で多機能である。

 戦闘機の限界より遠くの反応を拾うだけではなく、返ってくる電波のパターンから、それが〈天使〉であるか否かを判別できる。

 

 全てのハリケーンとMQ-58の腹が開いた。一機あたり四発、ウェポンベイからEMRAAM-56中距離空対空ミサイルが空中に放り出され、ロケットモーターに点火。瞬く間に音速を突破してミサイルは飛んでいく。

 EMRAAMシリーズの中間誘導は母機からの情報入力と慣性誘導が担い、終端誘導は搭載されたアクティブ・レーダーが担う。撃った後に離脱できるファイア・アンド・フォーゲット、いわゆる撃ちっぱなしが可能であるわけだが、それだけで殲滅できるのなら、〈天使〉は人類の敵とはならない。

 

「四機撃墜。残敵、来るぞ、かなり速い」

「ビヘンダー隊、全機散開、ドローンを押し付けろ」

 

 早期警戒管制機が告げると、編隊のリーダー機、ビヘンダー1が命じる。四対一六。圧倒的優勢に見えて、しかし、六〇発を超えるミサイルを投射してたった半分、僅か四機しか墜とせなかったのだ。

 EMRAAM-56は決して命中率が低いミサイルではない。むしろ極めて良好と言ってよいだろう。搭載されたコンピュータはデコイと標的を見分ける高度な人工知能が搭載され、膨大なデータから導かれる最適な突入経路の指示もあり、対通常航空機における命中率は悪条件下でも九〇パーセントを超える。

 そのミサイルがこうも当たらない原因は、至極単純なものである。

 

 水平線の彼方から、白く、淡く煌めく〈天使〉の量産型戦闘機が現れる。大天使型(アークエンジェル)。機体の形状はハリケーン、あるいはハリケーンの試作機であるYRX-78によく似ている。

 その機首、有人機であればコックピットがあり、無人機であれば中枢コンピュータが搭載されている位置。そこに、輝く輪が浮かんでいる。この世のものではないように見えるそれ。天使の輪(エンジェル・ヘイロゥ)

 

 攻撃命令を受けているMQ-58がESRAAM-9短距離高速空対空ミサイルを放った。側面のウェポンベイから飛び出したミサイルは瞬時に音速の三倍まで加速する。

 飛来する四機の大天使型(アークエンジェル)へと伸びる白煙。

 対する大天使型(アークエンジェル)は瞬時に散開、シーカーの検出範囲から逃れる。母機からデータリンクを介して目標指示を受けながらミサイルは大天使型(アークエンジェル)を追跡するが、とても追いつけない。旋回に次ぐ旋回、時に反転に近い旋回を繰り返すうちに運動エネルギーを使い切り、自爆装置が作動した。

 

 この世の物理法則では成し遂げることのできない、異常な機動。それだけであり、そうだからこそ。

 数を撃てば当たる、などという話ではない。むしろ数を稼ぐだけ無駄だ。〈天使〉を墜とすためには、必中の一撃が必要なのである。

 確実に、完全に殲滅するためには、視界内戦闘およびドッグファイトが不可欠だ。

 

 上昇していた大天使型(アークエンジェル)の一機が反転、急降下してくる。放たれた砲弾はMQ-58を食い破り、撃墜した。有人機、というより人類側の戦闘機であれば、そのまま海面に突入するような速度。しかし大天使型(アークエンジェル)は機首を引き起こし、水面をジェット排気で殴りつけて再び上昇する。

 そのついでとでも言わんばかりに、別のMQ-58を、次は下から撃ち抜く。砲弾が中枢を破壊、撃墜。大天使型(アークエンジェル)はすぐそばを通り抜け、その衝撃波でMQ-58の残骸が飛び散る。

 

 その大天使型(アークエンジェル)はどこまでも昇っていこうとするかの如く飛び上がり──直後、最大出力のパワーダイブで襲いかかるビヘンダー3から放たれたESRAAM-9が、機首に突き刺さった。

 二つの機体は高速ですれ違う。

 ミサイルのスマート信管が遅延モードで作動、勢いのままに侵入した機体の内部で炸裂し、〈天使〉が死する時の、青白い光を撒き散らしながら爆散。

 ビヘンダー3は衝撃波に揺さぶられながらも、エアブレーキを全開にして減速、それでも機体の構造的強度の限界に近い負担をかけるピッチアップ。

 その最中に強烈なGで意識を失った主に代わり、システムが辛うじて海面への激突を避ける。

 

 一つの群体として機能するMQ-58は、高度な連携を以って大天使型(アークエンジェル)を追い回す。

 両翼の三連ランチャーを撃ち切ったMQ-58が高度を上げる。入れ違いにその親機たるビヘンダー2がパワーダイブ、大天使型(アークエンジェル)の後方やや上からESRAAM-9を発射。

 ズーム上昇、ミサイルの加害範囲となる仮想の円錐を掠めるようにして躱したところに、弾薬を使い切っていたMQ-58が衝突、主翼をへし折られて飛行能力を失った大天使型(アークエンジェル)は自爆する。

 二機墜ちた。

 

「あの〈天使〉、反応弾を抱えているぞ」

 

 それらは一機の大天使型(アークエンジェル)を庇うように動いていた。それは最初から交戦を避けるように動き、初撃を躱した後は、戦闘空域を突破しようとするかのように一直線に飛んでいく。

 他と比べて動きの鈍いそれが抱えている大型の爆弾は、人類が反応弾と呼ぶ大量破壊兵器である。便宜上そう呼ばれているだけで、本当に核反応を利用するかは関係なかった。核兵器に匹敵、あるいは超える兵器であることは確かだ。

 その破壊力もさることながら、反応弾は長期的に電子機器を狂わせるエリアを作り出す。即座に墜落には至らないものの、爆心地に近づくほどに計器は狂い、制御システムも誤作動を起こしやすくなる。その意味でも、使用されるわけにはいかなかった。

 

「墜とす!」

「待て、早まるな」

 

 僚機が止めるより早く、ビヘンダー4は反応弾を抱えている〈天使〉に加速しながら機首を向け、位置エネルギーを速度に変換しながら襲いかかる。

 二〇ミリ口径ガトリング砲から吐き出された砲弾が主翼を引き裂き、ミサイルが〈天使〉に破片を浴びせる。撃墜。

 

 そのパイロットは経験の浅い新人だった。

 横合いに突っ込んできた最後の一機がビヘンダー4に衝突した。機体が真ん中でへし折れ、大天使型(アークエンジェル)の垂直尾翼がキャノピーをぶち破る。コックピットが血に染まる。機体の破片がばら撒かれ、爆炎の徒花が咲いた。

 

「だから言ったんだ」

 

 反応弾を失った時点で作戦の意義は無くなったのだろう。帰還する意味も無いから、一機でも道連れにする。

 護衛という任務のやりにくさはよく知っている。脆弱な味方を守りつつ、死なないように立ち回る。死ねばそれまで、次の一撃は護衛対象を狙う。だから死ねない。だが、護衛対象が墜ちたのなら話は別だ。

 群れに殉じることのできる〈天使〉は動物のようであり、しかし精確な動きは機械のようでもある。

 

「周囲に反応無し。侵入した〈天使〉は全機撃墜と見られる」

 

 戦闘は終わった。早期警戒管制機が告げる。

 早期警戒ゾーンに侵入した〈天使〉は全機撃墜、第503統合任務部隊は一機のFRGM-79と八機のMQ-58、合計九機を喪失。

 

 その一部始終を、戦いに加わることなく、敵味方の高度や速度、姿勢、更にはミサイルの発射タイミングからその軌跡、炸裂に至るまで、あらゆる戦闘情報を精細に収集する戦闘機がいた。

 高度二〇〇〇〇メートル。成層圏の暗い青に染まった空をただ一機、双発の黒い戦闘機が飛行機雲すら残さずに飛んでいく。

 音速の一・八倍にも届く速度で巡航するその姿を上から見れば、水平尾翼と後退位置にある主翼のシルエットが、鏃のようなシルエットを描く。高速巡航形態はデルタ翼機に似ている、とでも言うべきか。二つの垂直尾翼は外傾している。

 全体を覆うステルス塗料はレーダー波を吸収するべく炭素系高分子化合物の粒子を含むために、空に似つかわしくない黒である。酸化インジウムスズを蒸着させたポリカーボネートのキャノピーが、太陽の光を浴びて金色に輝く。

 ステルス性能が〈天使〉に対して有効であることは経験上知られていた。この機はその極限にあるような戦闘機であり、並の戦闘機に搭載されているようなレーダーでは、電波的な検出はほぼ不可能だった。

 

「撃墜が八、いずれも大天使型(アークエンジェル)。被撃墜が九、うちFRGM-79が一、MQ-58が八。撃墜された貴部隊の生存者は無し。以上」

 

 部隊の無線に、平坦な、まるでただのログを読み上げているかのような声色の通信が割って入った。

 黒い戦闘機は反転、戦域から一足先に離脱する。

 

「……クソ、死神め」

 

 上空に煌めく点が一つ。ビヘンダー1が、憎々しげに呟いた。

 全てを見通し、手のひらに収めてなお、何もすることなくただ観察する。例えいくら味方が墜とされようと。

 上からミサイルを撃つだけでもいいだろう。しかしその兵装は、自らの身を守るためだけに使われる。罷り間違っても味方の援護などしない。

 あの新人は致命的なミスをした。だから死んだ。だが、そうでなくても死んだ者は大勢いる。もう少し、何かがあれば助かったかもしれない。

 あの戦闘機は戦闘空域の高空に必ずいる。そして、十二分にその〝何か〟たりうる。だが、決してそうはならない。そうはしない。

 第503統合任務部隊は編隊を組み直す。半数以下に減った編隊は、ひどく不格好だった。

 

 

 〈2〉

 次世代統合戦略戦闘機概念実証機──YRX-99の名を与えられたこの戦闘機は、戦術ネットワークの端末たる第5世代、より高度に群として機能する第6世代に続く、電子頭脳による自己進化を特徴とする第7世代ジェット戦闘機の先駆けである。

 特筆すべきは、人間の神経回路を模倣したニューロモルフィック・コンピュータだろう。この非ノイマン型アーキテクチャは、より適した形へと、自らの回路を作り変えて進化する。

 人類が進化すれば〈天使〉も進化する。〈天使〉が進化すれば人類も進化する。いたちごっこの戦争を打開するべく、より早く進化する能力が求められ、そして生み出されたのが、YRX-99だった。

 完全な無人運用を実現するべくあらゆる戦闘を学ぶ。それが、国連軍情報軍団第9戦略偵察飛行隊に与えられた任務である。

 帰還を絶対の命令とするこの部隊には、味方を見殺しに撤退することすら命令の範疇である。先の戦闘も、自身に危険が及ぶのなら即座に反転、撤退した──しただろう、ではなく、したのだ。それが基地の喪失と防衛圏の縮小に繋がるとしても。

 

 光すら吸い込むような黒に染められた2号機、YRX-99-02、パーソナルネーム〝時雨〟が、滑走路への最終アプローチ体勢を取った。

 高速巡航形態とは異なり、今、その主翼は垂直に近い角度を取っていた。可変翼による飛行特性の変化である。低速時には主翼を広げることで翼幅荷重を低く保ち、高速時には主翼を後退させることで空気抵抗を低減する。

 複雑な構造やそれに起因するメンテナンスコストの増大といった理由で一度廃れたこの方法は、十分な強度を確保できる新素材、そして従来機を超える極限状態での運用を求められるために、第7世代の試作機になって再び採用された。

 

 滑らかに滑走路に進入し、着地。逆噴射。大推力エンジンや高性能コンピュータを搭載したその巨体に見合わず、時雨はごく短距離で停止する。

 高度二万メートルであろうと十分な気圧を保つ高気密コックピットの中で、レイ・ミナセ中尉は口元の酸素マスクを外した。ヘルメット・マウンテッド・ディスプレイ越しに見える地面に光の経路が現れる。多機能ディスプレイで自律モードを選択。再びエンジンが回転数を上げ、レーザー誘導に従い、格納庫へとタキシングを開始する。

 誘導路を経て格納庫へ。くるりと旋回、逆噴射で後退し、その中に収まる。

 

「いい子だ」

 

 全て、ミナセの操作ではない。中枢コンピュータが自ら判断してのものだ。

 ヘルメット・システムの接続を解除。高G機動で首が折れるのを防ぐ役割もあるコードを抜き、ヘルメットの顎紐を緩める。エンジンを停止。補助動力でメインシステムは維持したまま、キャノピーを開いてラダーを落とす。キャノピーは、操縦席側は前に、後部席側は後ろにヒンジを持つ。動作はそれぞれ独立していた。

 コックピットから体を抜き、地上に降りれば、第9戦略偵察飛行隊の事実上の副司令であるフィリップ・ローフォード少佐がミナセを出迎える。

 

「これはこれは、少佐殿」

「いつになく殊勝な態度だな、中尉。爺さんからの面倒事は免除しないぞ」

 

 だろうな、とミナセ。

 その背後では技術者が時雨に様々な色のケーブルを繋げ、動力を供給しながら戦闘データを回収していた。

 

「少尉、帰って構わん。コイツだけでいい」

「はっ」

「電子戦オペレーターだぞ」

「お前以上に奴を理解している人間がいるか」

 

 ローフォードは時雨を指して言った。人間の脳をハードウェアから模倣した中枢コンピュータは、人間の脳と同じくブラックボックスだ。理解する方法も人間と同じである。すなわち、関係の中で経験を蓄積し、理解すること。

 ミナセはロールアウトからの付き合いだった。

 YRX-99を操縦する者は皆そうである。電子戦オペレーターの交代こそあれど、操縦士の交代は一度もない。

 そそくさと帰る電子戦オペレーターの背中を一瞥し、ミナセは切り出す。

 

「それで、次は何だ。ドローン軍団で航空ショーでもするのか」

「似たようなものかもしれん。先ほどYRX-99の先行量産型が届いた。完全な無人仕様、人間が乗るスペースすら無い。データベースはまっさらだ」

「要するに」

「奴のデータを移す。お前にはそいつの飛行と戦闘の試験監督をやってもらう。最適化作業だ」

 

 ミナセは眉をひそめた。あまりにも急だ。その言葉なき問いに、ローフォードは小声で答える。

 

「近々大規模な反攻作戦がある。陸海空合同、つまりは人類の生存圏を取り戻そうってやつだ。そこに投入することになっている」

「成果を挙げようと躍起になっている、ということか」

「情報軍は大飯食らいだ。それに任務も特殊。予算以上の成果を挙げねばならん、そう考えたんだろう。明後日の1000からだ。ミナセ、やってくれるな」

「もとより拒否権なんてないだろうに」

 

 任せたぞ、といった様子でローフォードはミナセの肩を叩いて離れた。格納庫を去ろうとしたその背中に、ミナセは言う。

 

「例の、サプライズというわけでもないだろう」

「ん、構わんさ。一番近いのは第一格納庫だ」

「エスコートしてくれないのか」

「ご要望とあらば」

 

 第一格納庫は普段、YRX-99の一号機が駐機している。だが、YRX-99-01という識別コードを与えられているこの機が飛行したことは、両手の指で足りるほどしかない。

 YRX-99-01は整備の練習や、稼働している02から12の十一機に施された大小様々な改修の影響を比較するための基準として、改修の先行実験機たる13号機と共に使われている。そのために、他のYRX-99に与えられた格納庫よりずっと広い。

 二人は第一格納庫に入った。滅茶苦茶に置かれた作業用投光器の電源を入れれば、YRX-99の横に、よく見知った、しかしよく見れば細部の違う機体。

 

「YRX-100だ。正規量産(FRGM)に漕ぎ着く頃には104まで行くだろう」

「愛称のようなものはないのか」

「ない。いかんせん、出来立てほやほやだからな」

「無いならいい。そう長い付き合いにもならないさ。それで、機首のあれは?」

「レーザー砲だと。開発局曰く、気象に左右されにくい特別製らしい」

 

 砲身たる発振器部分が全周方向に僅かに可動する。そう、ローフォードは身振りを交えて言う。一〇〇〇メートルの距離で五〇メートル径の円内に収めれば、あとは照準システムと連動して標的を撃ち抜く、とも。

 

「頼もしい、当たらないミサイルよりずっと」

 

 ミナセはYRX-100を見て回る。

 YRX-99をブラッシュアップしたような機体形状。改修点は数多あれど、目立つところでは、やはりレーザー砲が搭載されている点か。

 

「機動性は落ちないのか」

「むしろ上だ」

「人間ほど重い部品は無いか」

「それに、エンジンも改良型に換装してある」

 

 一回りした後、ミナセは再びYRX-100を見上げた。コックピットの場所には、あらゆる生命維持装置と人間の代わりに、レーザー砲とやら。その砲口はカメラのようにも見える。

 ローフォードが手にした銀の円筒は、一〇発分のエネルギー・カートリッジらしい。それが六本、回転式拳銃の弾倉のように装填されると。

 

 その無垢な頭脳に、この数年で蓄積された膨大な戦闘データと、電子の海に生まれた思考回路の複製が流し込まれ、純然たる戦闘マシンとして君臨する。

 恐ろしい話だと思った。これまで人類は〈天使〉と戦ってきた。だが、ここから先は違う。機械と〈天使〉の戦争である。そこに人の姿はない。

 ジャガーノート無人多脚戦車を始めとした自律兵器と、それを指揮・運用する戦略ネットワークシステム──CORPSの導入により、前線からは死者という概念が遠のいて久しかったが、それが遂に空にまで回ってきた。

 

「これが完成すれば、とうとう人間はお役御免だな」

「寂しいか、レイ」

「そうかもしれない。……帰ろう、報告書を書かなきゃならない」

 

 強引に話を打ち切って、ミナセは格納庫の出口を目指した。

 無人化された戦争。流血はなく、痛みもなく、死もない。あるのは破壊だけである。最小化された被害のそれは〝正しい〟のだろうが、不気味な話だ。




次話の投稿は明日18:05予定です
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