パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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狩りの道は静かに香る、ラオ

 ──翌朝。

 

「ユウマよ、今日はラオに会ってみるといい」

 

 朝食後、ガランがそう言った。

 

 昨日は世界地図と魔物図鑑を見せてもらった。今日は実践ということか。

 

「ラオは狩人じゃ。森を歩くには、まずあやつに相談するのがいい」

 

「ふむふむ……。あ、でも怖い人じゃないといいな」

 

 ガランは苦笑した。

 

「……表情は少し険しいかもしれんがな……まあ、大丈夫じゃろ」

 

 その目が遠くを見つめる。

 

(……大丈夫じゃなさそうな言い方なんだけど……まあいいか)

 

 

 

 

 

 

 やってきたのは、村の北側にある木立の中。人の気配はなく、静かな空気が漂っていた。

 

 薬草の香りとは異なる、土と湿った木の葉の匂いが鼻をくすぐる。

 

 小さな小屋のような狩人の住居。外には干された獣の毛皮や、手入れされた弓の姿も見える。

 

 風が吹くたび、擦れざわめき、静かな空間にわずかな音が響いた。

 

「……」

 

 黒檀の弓を背負い、すらりとした男が立っていた。浅黒い肌に、銀白の髪。鋭く、しかしどこか虚ろな目つきと尖った長い耳──エルフだろうか?

 

 全身から張り詰めたような静けさを纏い、まるで森そのものが人の形を取ったかのように見えた。

 

「……そうか」

 

 挨拶の代わりに、低い声。目線が合う。その視線は鋭く、俺の奥底まで見透かされているような錯覚に陥った。

 

(おお……めっちゃ無口系だ)

 

 ラオは俺を一瞥した後、軽くうなずいた。

 

「……例の、猫か」

 

「うん……ユウマだよ。よろしく」

 

 ラオは俺の返事を待たず、有無を言わさぬように森へと歩き出した。

 

 その足取りは迷いがなく、地面に吸い込まれるように静かだ。

 

 その背中が「付いてこい」と語っているようだった。

 

 

 

経験値獲得!

・ラオとの出会い 30EXP

 

レベルアップ!

・LV7→8(10/240)

 

 

 

(レベルアップきた! でも強くなってる実感はないんだよな……森で何か掴めると良いな……)

 

 

 

 

 

 

 ラオの後をついて、森へ。

 

 一歩踏み込んだ瞬間──空気が変わった。

 

 外界の音は遠ざかり、葉のざわめきや土の匂いが鮮明になる。

 

 ミルカの森の北側。魔物の気配はまだ薄い。

 

「風下に入るな。足音を消せ」

 

 ラオの言葉に従い、意識を集中する。すると、足裏から地面の感覚がすっと消えた。

 

 まるで宙に浮いているかのように体が軽くなり、草を踏んでも、全く音がしない。

 

 俺は自分の体が、森の一部になったような奇妙な感覚に包まれていた。

 

(……あ、これ、ひょっとして《ステルス歩行(低)》の効果か……? いやこれ、すごくない?)

 

 ラオは時折、耳を動かしながら前を進む。

 

 木々の間を抜け、葉の香りや風の流れに意識を向けている。

 

 彼の研ぎ澄まされた五感が、森の情報を捉えているのが、その静かな動きから見て取れた。

 

 

 ふと、ラオが止まった。

 

「……足跡。パンパインの群れだ」

 

 前方に、もふもふの塊。

 

 クリーム色の毛並み、短い足でちょこまかと動いている。焼きたてのクリームパンが歩いてるみたいだ。

 

 

 

魔物

・パンパイン(香・D)×5

歩くたびに甘い香気粉をまき散らす温和な小型魔物。森で群れて行動する。

 

 

 

(……可愛い)

 

「……獲る」

 

 ラオが弓を構える。

 

 風が止まる。

 

 ──矢が放たれた。

 

 音もなく、パンパインを貫く。

 

「……すげえ」

 

 可愛らしいパンパインが、ふわりと倒れた。

 

 残りが逃げ惑う。その一匹が、俺の目の前を横切った──

 

 瞬間、体が勝手に動いた。

 

《感覚強化(視・聴)》《臨戦態勢(常時)》

 

 世界がスローモーションになる。パンパインの動きが、はっきり見える。

 

(見た目は可愛いけど……悪いね!)

 

 地面を蹴る。

 

「にゃっ!」

 

 飛びかかって、押さえ込む。

 

 パンパインの動きが止まった。

 

「……筋は悪くない。自分の強みを活かせてるな」

 

 ラオの声。

 

 その間にも、矢が次々と放たれ、パンパインが倒れていく。

 

(……マジで神業じゃん)

 

 

 

EXP獲得!

・Dランク魔物 60EXP

 

 

 

(えっ!? 戦闘に参加しただけで経験値が……!? ()()()()扱いということ……?)

 

 その後ラオは倒れた魔物に手を添え、そっと目を閉じた。

 

「……命を、もらう。無駄にはしない」

 

 その言葉に、俺は少し猫背を伸ばす。

 

 ラオの背中から伝わるのは、獲物への敬意と、狩人としての揺るぎない覚悟だった。

 

 彼の狩りは、静かで、生物に誠実だった。

 

 倒れたパンパインたちの体、ふわりと小さな光を放つ。ぽんっと、その場に二種類の素材が現れた。

 

 

 

素材

・香気粉(香・D)×3

パン生地に練りこむことで、香りを引き立てる天然フレーバー素材。

・保温毛(香・D)×2

温度を保つ特性を持つふわふわの獣毛。パンの保温布やポーチの裏地などに使用される。

 

 

 

(へぇ……魔物によって、複数の種類の素材を落とすこともあるんだな……)

 

 ラオはそれらをひと目で確認し、革袋に丁寧に収めた。その手つきもまた、獲物の命を大切に扱うかのように、細やかだった。

 

 やがて狩りは一区切り。帰り道、ラオがぽつりと口を開いた。

 

「……猫は、嫌いじゃない」

 

(……はい?)

 

「……いや。むしろ……」

 

 彼の手が、俺の頭にぽんと乗る。その大きな、少しざらりとした掌が、俺の頭の毛並みを優しく撫でる。

 

「……ふわふわだ」

 

(あ、これは……単なる猫好きのそれだわ、うんうん。狩り仲間として認められたってことでいいかな……?)

 

 俺の毛並みを撫でることが、無口な彼なりの、親愛の表現なのだろう。

 

 

 ──ラオの口元が、ほんのわずか緩んでいるように見えた。その小さな変化は、彼の心の内にある温かさを、確かに物語っていた。

 




この作品では戦闘はおまけです。
が、一応、念の為、万一に備えて、ダメージ計算システムは用意してあります。
頑張って作ったは良いが、実際に使うことになるのでしょうか…

引き続きお読みいただけると嬉しいです!
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