パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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猫系スキルを駆使して、魔物と一戦

 ――戦うのって、やっぱりだるい。

 

 だが、守りたい子がいるなら、話は別だ。

 

 深呼吸。手持ちの()()を確認する。

 

 レベルは12。戦闘経験はほぼない──パンの食レポで成長しただけだ。

 

 筋力は低い。でも敏捷性と感覚は高め。これで立ち回るしかない。

 

 使えるスキルは4つ。

 

 《臨戦態勢》で集中力を上げ、《にゃんぱらり》で回避、《やんのかステップ》で牽制、《感覚強化》で命中率アップ。

 

 魔力は残り55。4つ使うと45消費する。ギリギリだが──

 

 

 時間を稼いで、隙を突く!

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 森へ駆ける。枝葉が頬を打ち、心臓が激しく鳴る。

 

 開けた場所。樫の木の上で震えるミミ。その真下に──銀色の影。

 

 体長3メートル。銀の毛並みが月のように揺らめく。鋭い瞳だけが淡く光る。

 

 気配が掴めない。息をしているのかさえ分からない。

 

 脳裏にガランの魔物図鑑が蘇る。黒銀の妖狐、影と変化の魔獣──

 

 

「……ギンコ・カゲユラ」

 

 

 名を呼んだ瞬間、銀狐が動いた。

 

 音もなく、迷いなく、こちらへ!

 

「チッ……来やがったか!」

 

 

 

 

 

 

《臨戦態勢(常時)》(MP55→45)

 

 視界が鮮明になる。狐の毛先の震え、尾の軌道、足音──全てが見える。

 

 銀影が襲いかかる! 速い!

 

 だが──

 

「《やんのかステップ》!」(MP45→40)

 

 左右に小刻みにステップ。狐の瞳が揺れた!

 

(効いてる!)

 

一瞬の隙──横へ跳躍!

 

長い尾が鼻先を掠める。死神の鎌のような軌跡。

 

「……あっぶねぇッ!」

 

(STM35……まだいける!)

 

着地と同時にミミの木の下へ滑り込む。小さな盾となって地面を踏みしめる。

 

 

 

 

 

 

 再び、ギンコが低い姿勢で構える。今度は本気だ。

 

 にらみ合い。一秒、二秒──

 

(尾の位置、足の構え……来る!)

 

 巨大な尾が鞭のように襲いかかる!

 

「読めた!」

 

 背後の樫の木を蹴って空中へ!

 

《にゃんぱらり》(MP40→25)

 

 空中で一回転。四肢が完璧な着地態勢を取る。猫の本能が体を支配する!

 

(STM25……まだ回避できる!)

 

 身を翻す──

 

 だが着地点にぬるりと苔が!

 

「くっ……!」

 

 足が滑る! 膝のクッションで衝撃を吸収、間一髪!

 

(STM15……限界だ。攻撃に転じるしかない!)

 

 

 

 

 

 

 ミミを背に、ギンコの前に立つ。距離3メートル弱。もう逃げ場はない。

 

 狐の瞳が獲物を仕留める輝きを見せる。

 

(一撃で決める!)

 

《感覚強化(視・聴)》(MP25→10)

 

 世界の解像度が一気に上がる!

 

 右前足を振り上げた瞬間──指先に電流のような熱!

 

 肉球の奥からチリチリと静電気。本能が叫ぶ──この力を解き放て!

 

「くらえッ!!」

 

 爪が鈍い鉛色に煌めく──今だ!

 

 ザシュッ!

 

 銀色の毛皮を引き裂く。黒い血飛沫!

 

(浅い! でも当てた!)

 

 狐が大きくのけぞる。

 

「……どうだッ!」

 

 すぐに立ち上がって睨み合い。だが追撃は来ない。

 

 狐はしばらく俺を見つめ、低く唸る。その瞳には何かを()()()()ような光。

 

 そして月影のように、音もなく森の奥へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ──その瞬間、全身から力が抜けた。

 

「ふぅ……まじで……やばかった……」

 

 熱い汗が滝のように噴き出し、鼓動が耳の奥で太鼓を叩く。足の震えが止まらない。

 

 自慢の白黒の毛並みは泥と汗でべっとりと張り付き、翡翠のマントも土埃にまみれていた。

 

 アドレナリンが引いていく。急激な脱力感が襲ってくる。

 

 森の木々がざわめく。風が頬を撫でる。

 

 ミミは無事だ。

 

 今はそれだけで──十分だった。

 

 

 

 

 

 

 脳内に通知音。

 

 

 

経験値獲得!

・???と戦闘 1000EXP

 

レベルアップ!

・15→17(475/560)

 

スキル習得!

・肉球スラッシュLV1

爪を使った基本攻撃術。低確率でひるみ効果。STR+50%。

 

スキル成長!

・にゃんぱらりLV1→LV2

空中での体勢制御、落下ダメージを55%軽減。AGI+1%、VIT+1%→2%。

 

称号獲得!

・駆け出しの爪

初戦闘時に爪で傷を与えた者に与えられる。爪攻撃での威力+5%。

 

疲労度:8/10

 

 

 

「……は? 『???』って正体不明かよ! 倒してないのに経験値1000? レベルも3上がって……新スキルに称号も……」

 

(MP7、STM5、疲労度8……本当にギリギリだった)

 

スキル名にはもうツッコまないぞ……

 

 

 

 

 

 

 荒い呼吸を整えながら上を見上げる。

 

「ミミ、大丈夫か! 降りてこれるか?」

 

「う、うん……こわかったけど……」

 

 涙声で震える手で木の幹にしがみつくミミ。

 

「ずっと見てたよ、モフさま! すごかった!」

 

 木からするすると降りてきたミミが、涙を浮かべながら満面の笑顔を見せた。

 

 俺もようやく口元がゆるむ。

 

(こんな小さな子を守れた……前世では考えられなかった。デスクに向かい続けた日々では、誰かを戦って守るなんて……)

 

「レベル上げてスキル磨けば、もっと強くなれる……かもな」

 

 少しだけ、そんな確かな手応えを感じた。

 

 しかし同時に、全身を駆け巡る疲労感と、恐怖がもたらす急速な脱力感に、のんびり過ごしたいという本能的な欲求が打ち勝ってしまう。

 

「のんびり過ごしたいから、ああいう手合は、もうごめんだ。本当に、ごめんだよ」

 

 ……心の底から、そう思った。

 

 

 でも、またあんな状況になったら……俺はきっと、また動いてしまうんだろうな。

 

(早く帰ろう……)




※この作品で戦闘はおまけです。
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