パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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閑話:日向ぼっこRTA

 ──突然だが、みなさん。

 

 ゲームにおける「RTA」というものをご存知だろうか。

 

 これは「リアル・タイム・アタック」の略で、現実での時間を計測してゲームクリアの速さを競うものだ。

 

 そして今、俺は、そのRTAをこの異世界でやろうとしている。

 

 ──なぜかって?

 

 それは、この世界で一番快適な日向ぼっこを、最短時間で手に入れるためだ。

 

 それに、レベルも10になってステータスも向上したからね。ああ、一応確認しておこうか!

 

 今のステータス、特に現状のSTM (スタミナ)とAGI(敏捷)でどれくらいのタイムが出せるのかも検証したいしね。

 

 あと、スキルを使用するからMPも大事なリソースになるよ。

 

 ──Any%(何でもあり)って訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

名前:ユウマ  

年齢:12歳  

種族:猫獣人  

特性:自律神経ケア個体  

LV:10(175/280)

HP(体力):140

MP(魔力):60

STM (スタミナ):54

疲労度:0/10

STR(筋力):10

AGI(敏捷):27

SEN(感覚):25

DEX(器用):18

VIT(生命):14

MEM(精神):12  

称号

・転生者

・働きすぎた者  

スキル

・にゃんぱらりLV1

・やんのかステップLV1

・ロックオン(食)》LV2

・ステルス歩行(低)LV1

・感覚強化(視・聴)LV2

・臨戦態勢(常時)LV3

・キャットタワーLV1  

???スキル:※未開放

 

 

 

 

 

 

 

 ご覧の通り、STMは54だね。全力ダッシュは2~3回しかできない計算だから、使い所が大事になってくるよ。

 

 AGIは27だけど、これは移動速度を見積もるときに説明するね。MPも60だからスキルは使い放題という訳ではないんだ。

 

 ああ、この世界には、精密な時計は存在しないだろうって?

 

 ……そうだね、あなたの言う通りだ。

 

 このリーカ村では、朝の6時、昼の12時、夕方6時の計3回鐘が鳴って時刻を教えてくれるだけだ。

 

 では、時間の計測をどうするのか。

 

 それは──なんだ、「体内時計」というものがあるでしょ?

 

 猫獣人である俺の時間感覚は、人間より遥かに鋭敏だ。

 

 狩りの本能が刻み込んだリズム感と、太陽の位置や影の長さを無意識に読み取る能力を持っている──確信はないけどね。

 

 そういう理由で、俺の自称優れた体内時計をタイマー代わりにするよ。

 

 

 分かってくれるかな?…………分かってね(迫真)

 

 

 

 

 

 

 みなさんの承認も得られたことで、ゴールの確認といこう。

 

 この村には日向ぼっこスポットがいくつも存在するけど、今回は村の北に位置するグレインがいる風車小屋を目指すよ。

 

 その横に隣接する石のオブジェの上をゴール地点としてね。

 

 そこは小高い丘の上にあって、リーカ村で一番日当たりが良くて、風の抜けも絶妙で、石の温度も程良く温い。

 

 石の上ということで、誰にも邪魔されないのが好印象だ。

 

 最高のパンには最高の食材が必要なように、最高の日向ぼっこには最高の場所が必要なんだ。

 

 

 次はルートの確認。

 

 いま俺はガランさんの家に居候中だが、ここは村の南東部に位置する。

 

 ゴールまでの最短距離は、薬屋の隣にあるラオの小屋を右手に北上するのが一番だが、今日は狩りのため森に入る人が多いらしい。

 

 なので、その辺りは混雑して通りにくいことが予想される。

 

 そのため、今回は南下して回り道するルートを選択するよ。

 

 ガランさんの家を出てすぐ隣にあるティナのパン屋、その隣の鍛冶屋を通過。そこから村長宅前、その隣のミミとロッコの家を抜けて、村の中心にある広場の西縁をなぞるように走る。

 

 そのまま北上し、その先にはマイアの養蜂場、サラの魔物牧場…………そして、ゴールの風車小屋へ。

 

 ざっと見て、村の外周を時計回りで進むルートだ。

 

 

 目標タイムはズバリ「2分30秒」だ。

 

 これは外周ルートの距離約350mと、俺の走るスピードを秒速2.7m(人の小走り程度)として導き出した。

 

 速度は『AGI:27』の十分の一とした──シンプルでしょう?

 

 おおよその理論値。これをどこまで再現できるか。

 

 

 

 

 

 

 よし、走るルートと目標タイムの確認が終わったところで、いよいよRTA挑戦開始だ。

 

 ガランさんとミーナさんに外出する旨を伝え、いつも通りモフモフされた後、俺は家の前に出た。

 

 柔らかな日差しに毛並みを馴染ませながら、自分の足を見下ろし、肉球の感覚を確かめる。

 

 柔らかく、しかし地面をしっかりと捉える感触──これこそが、RTAの生命線だ。

 

 

 準備は整った。

 

 東の空が煌めく様子を見ながら、意識を集中させる。太陽の角度から逆算した現在時刻を脳裏に刻み込む。

 

 

 

 

 ──タイマースタート!

 

 

 

 

 俺は勢いよく地面を蹴った。もちろん四足歩行だ。

 

 風が一気に背中を押し、足裏の肉球が土を捉える。小さく跳ねるような、軽やかなステップで駆け出した。

 

 湿り気のない朝の空気は、一歩ごとに猫ひげをくすぐる草の匂いを運んでくる。三角の耳先が軽く震えた。

 

 俺の視界は、眼前の風景を流れるように捉え、他の情報はすべて遮断される。

 

 

 

 

 ──まずは、ティナのパン屋、最初の関門だ。

 

 

 

 

 パン屋の前を通過する段階で、いつものスキルが勝手に発動した。

 

 《ロックオン(食)》くん──いつもお疲れ様です。

 

 パンの匂いと共に、どこか神聖さも感じるパンの姿がパン屋の扉の隙間から垣間見えた。

 

 やっぱり鼻から全身を突き抜けるような焼きたてパンの匂いは悪魔的だ。

 

(MP:60→59 スキル発動による消費)

 

 今朝ちゃんと美味しいパンをたらふく食べたのにも関わらず、足の歩調が一瞬乱れそうになる。

 

(…………くっ!! やっぱりパンはRTAにとって大きな障害だ!)

 

 そう考えているが、足だけは絶対に止めない。

 

 

 ──なぜか?

 

 

 パンにスキルが発動するのは確実だったからだ。

 

 つまり、パンに一度スキルを発動させるのは織り込み済みの「チャート」だということだ。

 

 精神を集中するために、ほんの一瞬だけ目を瞑りパンへの雑念を取り払う──

 

 パン好きの俺には、この行為がどれほど残酷な自制心との戦いか、誰に理解できようか。

 

 

 

 

 

 

 パンの魔力に後ろモフ毛を引かれる思いで、なんとか通過。

 

 このルートは今後もう走りたくないなと思いつつ、村の南にある森の入口を左に見ながら進んでいく。

 

 現状想定通りのタイムだと思う。

 

 

 

 

 ──次は、ベルンとフィルがいる鍛冶屋の前だ。

 

 

 

 

 ここは安牌。

 

 鉄を打つカンカンという音が俺の足音すら掻き消してくれる。鍛冶屋の熱気を感じながらも、無事通過。

 

 タイムも予定通りだ。

 

 

 

 

 ──次は、村長のセイルとリラの家の前だ。

 

 

 

 

 ここも比較的静かで、楽々突破。あっさりね。タイムロスもなし。

 

 

 

 

 ──次は、今回の最大の鬼門、ミミとロッコの家の前だ。

 

 

 

 

(──やるしかない!)

 

 

 そう思いながら、《ステルス歩行(低)》を発動し速度を緩める。

 

(MP:59→54 スキル発動)

 

 ソロリと足音をたてないように、家の前にある花壇の前を進んでいく。

 

 

 その刹那。

 

 小石を踏んでしまい、体勢が崩れてしまう──DEX(器用)が足りないのだろうか……?

 

 

「……にゃっ!」

 

 

 思わず漏れた俺の声に反応して、家の中からミミとロッコがどすどすどす! と勢い良く出てきた。

 

「……モフさまだっ! おはよう!」

 

「おはよう~だっこ~」

 

(スキルも使用してないのに、俺への到達スピードおかしいだろっ!)

 

 と思いながらも、「ああ! おはよう! 今日は行くところがあるから、またね!」となんとか伝えるも、双子は前後から俺をガシッと抱きしめお構いなしの様子だ。

 

 

 ──おかしいぞ。

 

 

 昨日は今日のRTAのために、いつも以上にモフられるという乱数調整を行ったというのに。

 

 ああ、あれが逆に存分にモフっていいというトリガーになったのだろうと自戒する。

 

 こうなったら、抵抗するよりも満足するまでモフってもらう方が早いか。

 

 …………足元から肩、背中、尻尾の先まで、遠慮なしにモフられる。

 

 小刻みに揺れる視界、全身をくすぐられる感触。

 

 そして何よりも大きな敗北感──

 

 

 その時、奇跡が起きた。

 

 

 俺たちの眼前に、玉虫色の珍しい蝶々が出現したのだ。

 

「ミミ~きれいなちょうちょが~」

 

「わあ! ほんとう! つかまえなくちゃ!」

 

 そう二人がちょうちょに気を取られた瞬間、俺は疾風の如く二人の包囲網から脱出した。

 

(あっぶねー! ちょうちょさん、ありがとな!)

 

 しかしチャートより体感1分30秒ほど遅れてしまっていた。

 

 ミミとロッコとのエンカウントは一番のガバ要素だと思っていたが、想定が甘かったと反省。

 

(STM:54→34 想定外のモフられと全力ダッシュ)

 

 心臓が激しく脈打ち、軽く汗ばんだ額を風が撫でていく。

 

 

 

 ──いや、まだ巻き返せる可能性はある。

 

 

 

 思考を瞬時に切り替え、ギアを入れ直し、大地を駆ける。

 

 そのまま、村の中心広場の西を抜けると、涼やかな風が通り抜けた。

 

 井戸の水がポチャンと落ちる癒やしの音が聞こえる。

 

 ここから北上してゴール地点を目指す。

 

 

 

 

 ──次は、マイアの養蜂場だ。

 

 

 

 

 速度を上げ広場を駆け抜けると、空がまた一段と広がっているように感じた。

 

 そこに、ほのかに甘く、でも芯のある清涼感の蜂蜜の香りが漂ってきた。

 

 マイアの養蜂場の敷地の境界には、背の高い色とりどりのルピナスが並んでいた。

 

 その奥に並ぶ蜂の巣箱が朝日を受けてほの白く光っていた。

 

 近づくと、あの柔らかい羽音が、空気越しに皮膚を撫でてくるようだった。

 

 その羽音は、まるで無数の小さな囁きのように、俺の耳に優しく届く。

 

(……静かに……そーっと……)

 

 再び《ステルス歩行(低)》を駆使し、足を忍ばせて、呼吸も浅く抑える。

 

(MP:54→49 スキル再発動)

 

 のんびり花の周りをブンブン飛んでいる蜂たちのリズムに干渉しないように、音を殺して…………通り抜けた──

 

 マイアの姿は見えない。良かった。

 

 でも少し遠くから「ぱんぱかぱーん!」と聞こえた気がした。

 

 それでもタイムは体感15秒ほど短縮できたようだ。

 

 

 

 

  ──さあ、次はサラの魔物牧場だ。ここも大丈夫だと思う。

 

 

 

 

 牧場の柵の内側では、白くて巨大なマシュマロのような魔物「モーモフル」がのそりと寝そべっていた。彼らは大人しい性格で動きももったりしている。

 

 だから問題ないだろう──そう高を括っていると、一匹のモーモフルと目が合った…………確実に。

 

 片耳が折れてる……確か「モフたろう」だったか。

 

 どうしようか逡巡するのも束の間──

 

「モォォォ~」

 

 と鳴いた。思わず「えっ!? マジで?」と声を上げてしまうと、モフたろうはゆっくりと起き上がりこちらに近づいてきた。

 

 柵の隙間からふわふわの前足を器用に出して、ゆさりと空をかいている。

 

 すると、牧場の裏手から、いつもの作業服を着たサラが登場。

 

「ん……にゃんこが来てる。珍しい……」

 

 すぐさまサラに捕獲され、モフモフと全身を撫でられる。

 

(くっ!……モフたろうに見つかるのは想定外だった……どうしたものか)

 

 すると、サラは「今日は、柵の近くにいる子の搾乳日なの……前にゃんこが来た時に、みんなリラックスしてたから、それが理由かも……」と言った。

 

 なるほど、と思いつつもRTA中の俺は、意を決してこう伝える。

 

「いま風車小屋の近くで日向ぼっこをしようと思って、急いでたんだ! 最速タイムを出したくて」

 

 と伝える俺の様子から、サラは何かを察したように、腕からパッと解放してくれた。

 

「ん……私は無理強いはしたくない……だから、頑張って」

 

 意外に早くモフりを止めてくれたサラに感謝を伝え、別れを告げつつも、速度を上げて、再び走り出した。

 

 「モォォォ~」というモフたろうの鳴き声を文字通りBGMに、目的地の風車小屋に急ぐ。

 

 30秒ほど遅れはしたが、まだ諦めはしない。

 

 

 

 

 ──いよいよ最後のグレインの風車小屋まで。

 

 

 

 

(STM:34→24 ダッシュと後半の疲労蓄積)

 

 息は上がり、太ももの筋肉が軽く痙攣し始めているが、ゴールはもうすぐ。

 

 丘の斜面に差し掛かると、足元の土が少しずつ石混じりになってくる。

 

 朝の光が斜めに差し、風車小屋が目前に迫る。

 

 風車の巨大な羽が、まるで天高く舞う鳥のようにゆっくりと回っている。

 

 その音は、俺の荒い鼓動とシンクロするように、静かに、しかし力強く響いていた。

 

「ユウマ! おはよう! がっはっは!」

 

 馬鹿でかいグレインの声が聞こえてきた。

 

 遠くからでも響く、あの豪快な声に思わず全身がピクリと震え、尻尾が逆立った。

 

 しかし、グレインは手を降るだけに留めてくれて、俺もせいぜい耳だけピクリと動かして、精一杯の挨拶代わりとした。

 

 そして、いよいよゴール目前。

 

 風車小屋の脇にある、石のオブジェの元へ。

 

 

 

 ──ここで《キャットタワー》を発動!

 

 

 

 最後の力を振り絞る。

 

(MP:49→42 最後のスキル発動)

 

(STM:24→4 ラストスパート)

 

 登攀速度がアップし、姿勢も安定、体をしなやかに動かす──

 

 

 そして俺の肉球が、少し温い石板に触れる。

 

 

 

 ──タイマーストップ!

 

 

 

 記録は………………

 

 

 

 

 「4分17秒」(体内時計)

 

 

 これはPB(パーソナル・ベスト)だな!(初回なので当然)

 

 感想は、目標より1分47秒遅れたが、ミミとロッコの乱数調整が無に帰したのが痛かった。もっと余裕を持ったチャートを組まないとね。

 

 最後のグレインの大声にも少しビックリして2秒ロスしてしまったな。

 

 でも、最近習得したスキル《キャットタワー》を上手く使えたのは収穫だったな。

 

 反省点は多いが、最初の異世界RTAとしては上出来だろう。うんうん。

 

 そう自分を納得させていると、また脳内で通知音が鳴ったようだ。

 

 体に心地よい疲労感がじんわりと広がっていく。それよりも大いなる達成感が全身を支配している。

 

 日向ぼっこをすれば疲労度なんてチャラだしね。神様さんくす。

 

 

 朝日が俺のすべての毛を照らす──

 

 さあ、爽やかな草の香りと、風車が奏でる心地よい回転音を肴に、日向ぼっこに興じるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 ──みなさんも、最高の日向ぼっこライフを!

 

 

 

 

 

経験値獲得!

・RTA走破 100EXP

 

スキル成長!

・ステルス歩行(低)LV1→LV2

足音を20%低減。気配感知範囲1m。SEN+10%→20%。

 

疲労度:0→6、MP:60→42、STM:54→4

 

 




村の地理、時間の概念、ステータス表示をまるっと説明したかったのです。

Any%と書いてますが、別にバグは使ってません……脚力とスキルで勝負!

書いていて楽しかった回でしたし、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです!
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