パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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帰ってパン食って、ステータス確認

 森の出口が見えた瞬間、緊張の糸がぷつりと切れた。

 

 全身から力が抜け、体が鉄の塊のように重い。

 

 軋む足を引きずり、一歩ごとにぬかるみが粘りつく。

 

 なんとか村の門前にたどり着いた。

 

 でも呼吸は乱れたまま、心臓が暴走機関車のように激しく脈打っていた。

 

「ミミ! 無事か!」

 

「ミミぃ~なにしてたの、もう~!」

 

 ミミの両親と弟のロッコが、血相を変えて駆け寄ってくる。

 

 母親は泣きながらミミを抱きしめ、父親は安堵と感謝の表情で俺に深く頭を下げた。

 

「ユウマくん、君が助けてくれたんだね……。本当に、本当にありがとう」

 

 父親の声は震え、瞳は潤んでいた。ミミは母親の腕の中で、しょんぼり、と肩を落とす。

 

「バタースライムを取ろうとして……それで……森へ……ひぐっ……」

 

 ミミはパンの素材を取りに森に入っていたらしい。バタースライムは子どもでも倒せる魔物だ。

 

 そこであの恐ろしい存在「ギンコ・カゲユラ」と鉢合わせしてしまったらしい。何とも不運な巡り合わせだった。

 

「いや、二人とも無事だったからなんとかね。気にしないで」

 

 そう言って、俺はなんとか口角を上げた。

 

 全身の疲労はピークで、今すぐにでもその場に座り込んでしまいたいほどだった。

 

 だが、ミミが無事でいる姿を見たら、それだけで胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 

 この安堵感が、今の俺には何よりのご褒美だった。

 

 ミミはそのまま家に帰っていったが、しばらくすると村中に響き渡る怒声が聞こえてきた。

 

 

 ──あぁ、親父さんの愛の説教タイムだろうな。長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

「モフさま、大丈夫だった?」

 

 今度はティナが、焼きたてのバタークロワッサンを片手に走ってくる。その目元は、ほんのり赤く腫れていた。

 

(心配をかけてしまったな……)

 

「なんとかね。ちょっと戦っただけだし……」

 

(いや……まじで死ぬかと思った。)

 

「無理はダメ。ちゃんと日向ぼっこして、ちゃんとパン食べて、ちゃんと猫してなきゃ」

 

 そう言って、熱気を帯びたバタークロワッサンを突き出してくる。湯気と共に、焦がしバターの甘い香りがふわっと広がる。

 

「『猫してなきゃ』って何だよ……」

 

 そう言いつつも、俺はすぐにクロワッサンを奪取し、大きく一口頬張った。サクッ、じゅわっ……。

 

 バターのコクと小麦の甘みが口いっぱいに広がる。

 

 美味い。最高だ。まさに至福。身体の芯にまで、じわりと温もりが染み込んでくる。

 

 

 ──本当に、生きてて良かった。この味が、俺の命綱だ。

 

 

 すると疲労度(6/10)と表示された──おかしい。

 

 パンを食べれば疲労度が全回復する体のはずなのに、2しか減っていない。

 

 アイツは一体何者だったんだ……やっぱり普通の魔物じゃないのか……。

 

「ユウマよ、怪我はないか? 薬草茶を煎れてやろう」

 

 ガランは、いつもの穏やかな声で案じてくれる。

 

「また無理したのでしょ? 早く休まないとね」

 

 ミーナが心配そうに眉を寄せる。

 

 他のみんなも思い思いのやり方で、俺を温かく迎えてくれた。

 

 本当に疲れた。体中が鉛のように重い。でもやっぱり、みんな優しくて、あったかいな。

 

 この村は、俺にとってのんびり過ごせる、最高の場所だと改めて感じた。

 

 

 

 

 

 

 水浴びをして、パンもまた食って、ようやく夜になった。

 

 俺はベッドの上でしっぽをくるんと巻いて、いつものアレを呼び出す。

 

「そういえば……戦闘中にスキルが増えてたっけな。ステータス、確認しとくか」

 

 意識を集中すると、ふわっと淡い光が浮かび上がる。

 

 目の前に、半透明のウィンドウが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

名前:ユウマ

年齢:12歳

種族:猫獣人

特性:自律神経ケア個体

LV:17(475/560)

HP:190(+30)

MP:85(+15)

STM:72

疲労度:6/10

STR:14

AGI:36

SEN:34

DEX:24

VIT:19(+3)

MEM:17(+3)

称号

・転生者

・働きすぎた者

・駆け出しの爪(爪攻撃威力+5%)

スキル

・にゃんぱらりLV2

・やんのかステップLV1

・ロックオン(食)LV3

・ステルス歩行(低)LV2

・感覚強化(視・聴)LV2

・臨戦態勢(常時)LV3

・肉球スラッシュLV1

???スキル:※未解放

装備

・武器:なし

・防具:翡翠のエプマント(マント形態:VIT+3、MEM+3)

・アクセサリー:なし

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな……《肉球スラッシュ》って、まさかあれがスキルだったのか。本能でやっただけだと思ってたけど。でもやっと攻撃系スキルを習得できたな!」

 

「《にゃんぱらり》と《やんのかステップ》にも助けられたな。あの狐の動きを止められたのは、コイツらのおかげだ」

 

「そして、《ロックオン(食)》は今後戦闘に使えるんだろうか……。食べ物以外にもロックオンできたら、かなり便利そうだからな」

 

「称号も……『駆け出しの爪』って。また猫っぽいネーミングだな。まあ、効果も悪くないから文句は言えねえか」

 

 俺は思わずため息をつく。

 

「……それに、この『???スキル』って何だろうな。スキル名くらい教えてくれてもいいのに」

 

 ステータスウィンドウがふっと消える。

 

 しっぽを軽く動かして、毛布にくるまる。今日の激戦と、ステータスの確認で疲労の極致にあった。まあでも、リザルトは確認しないとね。

 

 それとふと思い起こすことがある。

 

「……あの時の、あの白い部屋」

 

 どこだったかはわからない。だが、思い出そうとすると、ぼやけた映像が頭に浮かぶ。

 

 まるで霧がかかったような、不鮮明な夢。

 

 ──光に包まれた、無限に広がるような真っ白な空間。天井も壁もなく、どこまでも続く白。

 

 ──そして、その中で誰かと話していた記憶。男性? 女性? どちらだったか、声すら思い出せない。

 

「なんかパン屋談義で盛り上がった記憶が……。なんだっけ、あれ……あ、そうだ、異世界転生……パン……」

 

 喉元まで出かかった何かは、結局、明確な形にならずに消えていく。

 

「……やっぱ夢だったのか? でも、はっきりしすぎてて、妙にリアルなんだよな……」

 

 ぼんやりと、遠い日の声のような感覚だけが残っていた。

 

 俺の自由気ままな猫ライフ、その裏側に何が隠されているのか。

 

 

 この体になった訳、この世界に来た理由……。

 

 少しだけ、本気で思い出してみるとするか。

 

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