パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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パンと癒やしを求めて、猫獣人に転生するらしい

 

「さて。話を本題に戻そうか。次は、転生先の世界について説明するね」

 

 神様が手をひらりと振ると、空中に光る地図が浮かび上がった。

 

 その地図は、ただの光の塊ではなく、森や山脈、川や湖といった地形がぼんやりと色付いていた。

 

 世界の形状は六角形で放射状に広がっている。

 

「この世界は『パンタニア』って呼ばれている一つの大陸なんだ。文化レベルは中世ヨーロッパ程度かな。よくあるでしょ? そこには人間、獣人、エルフ、ドワーフなど色んな種族が一緒に暮らしてて、通貨や言語も統一されてるから安心して」

 

「へー、結構平和そうじゃん」

 

「そうでもないよ。魔物がいるから、それなりに危険な世界でもある」

 

(やっぱりそう甘くはないか……。まあ、それが異世界だよな)

 

「でも大丈夫。この世界には『ステータス』があるから、強くなれば生き抜けるよ」

 

「魔法とかってあるの?」

 

「あるよ。ただし、魔法系スキルを持ってないと使えない。いくら素養があっても、スキルがなければ発動できない」

 

 なるほど。魔法もスキル次第ってことか。とても合理的だな。

 

「スキルには、戦闘に役立つものと日々の生活で使えるものがあるから、上手く工夫してみて。それとステータスは自分で確認できるようにしておいた。あと、レベルの上限は100だね」

 

「……MAX100? 結構現実的だな」

 

「うん。魔物のランクは下からE、D、C、B、A、Sの6段階。上のランクを倒すには、その分自分も強くならなきゃならない。ただ、レベルが上がるほど必要な経験値も増えるし、成長も鈍化していくから気をつけて」

 

 その光の存在は続けて、「魔物は、もっと面白い分類になっているんだけどね……」と消え入るような小声でぼそっと呟いた。

 

「ん? いま何か言ったか?」

 

「いや別に、気にしないで」

 

 神様はにこやかに笑うが、その虹色の瞳の奥に、何か隠しているような光がよぎった気がした。

 

「んじゃあ、強くなるにはこつこつレベルを上げてけってことか。ちなみにスキルってどうやって覚えるの?」

 

「基本は、経験と行動。あとは適性によっても覚えやすさが違うかな。詳しいことは現地で学べばいいよ。で、君の場合──」

 

「そういや、俺のステータスってどんな感じなんだ!? 俺の次の人生、RPG換算だとどうなってんの!? ねぇっ!? ち、チート能力は!? あるの!?」

 

 急に前のめりになった俺の勢いに、神様が少し苦笑しながら、ステータス画面を浮かび上がらせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ユウマ

年齢:12歳

種族:猫獣人

特性:自律神経ケア個体(癒やし行動で疲労度を0にする)

LV:1(0/100)

HP(体力):80

MP(魔力):35

STM (スタミナ):30

疲労度:0/10

STR(筋力):6

AGI(敏捷):15

SEN(感覚):14

DEX(器用):10

VIT(生命):8

MEM(精神):7

称号

・転生者

・働きすぎた者

スキル

・にゃんぱらりLV1(空中での体勢制御と着地ダメージ軽減)

・やんのかステップLV1(視線と姿勢で相手を威嚇。低確率で注意を惹きつける)

・ロックオン(食)LV1(半径3m以内の食べ物を自動識別)

・ステルス歩行(低)LV1(足音や気配を低減し、敵に気づかれにくくなる)

・感覚強化(視・聴)LV1(視覚・聴覚の精度が上昇)

・臨戦態勢(常時)LV3(戦闘時、集中力・動体視力・筋反射が上昇。強そうオーラ)

???スキル:※詳細不明。何らかの条件で覚醒の可能性

 

 

 

 

 

 

 

「おお! ゲームでよく見かけるステータス画面だ……な? ん……?」

 

 光り輝く画面を見て期待が膨らんだのも束の間、俺の視線はある一点に釘付けになった。

 

「いやちょっと待て。俺は人間に転生するんじゃないのかよ! なんで、猫獣人なんだ!」

 

 思わず、宙に浮かぶ画面に指を突きつけそうになる。まさか、自分が人ではない姿になるなんて、想像すらしていなかった。

 

「転生者は、前世の経験からスキルや称号が決定することが多いんだ。んで、それに合わせた種族を選ぶのが、転生を担当する神の腕の見せどころって感じかな」

 

(……ってことは、俺が猫っぽいって理由で猫獣人にされたってことか……? まじかよ……)

 

「理解が早くて助かるよ」

 

「心の中読むなよ! ああそういえば、意味もなく野良猫と、ガンの飛ばし合いをしたこともあったな。負けたけど」

 

「ふふふ。猫獣人はね、人間としての社会性を持ちながら、自由気ままでマイペースに生きる気質があるから、君にピッタリだと思ったんだ」

 

「まあ確かに……飲み会に行くより一人でのんびりする方が好きだったしな……」

 

(猫獣人か……どんな姿なんだろう。人間に近い見た目だといいけど……)

 

 

 

 

 

 

「それに、ステータスを見てごらん。猫獣人らしい能力配分になってるから」

 

 俺は改めて数値を確認する。

 

「STRが6って……めっちゃ低くない!? ひ弱すぎだろ」

 

「猫獣人だからね。その分、AGIの15とSENの14は平均より高い。レベル1なら平均が大体10くらいだから、身軽で勘が鋭いってことだよ」

 

(筋力は低いけど、敏捷と感覚は高め……まあ、猫っぽいバランスか)

 

「大丈夫、レベルを上げれば伸びていくから。それに君の場合、DEX(器用)も平均くらいだしね。上手く活かして」

 

「それでスキルなんだけど──」

 

 神様が画面のスキル欄を指差す。

 

「これが君の初期スキル。前世の経験から自然にスキル化したものだよ」

 

「《にゃんぱらり》に《やんのかステップ》……ネーミングセンスどうなってんの」

 

「ふふふ。《にゃんぱらり》は空中で体勢を立て直せるスキル。高いところから落ちても大丈夫だよ」

 

「まあ、猫だしな」

 

「《やんのかステップ》は視線と姿勢で相手を威嚇するスキル。低確率で注意を惹きつけることもできる」

 

「……野良猫とガン飛ばし合いしてたのが、まさかスキルになるとは」

 

「あとは、食べ物、特にパンの匂いに敏感な《ロックオン(食)》。半径3m以内の食べ物を自動で探知できるよ」

 

「それは便利! パンを見逃さないで済むな!」

 

「他にも《ステルス歩行》で足音や気配を消したり、《感覚強化》で視覚・聴覚が鋭くなったりする。猫っぽいスキルばかりでしょ?」

 

「確かに……。あ、でも《臨戦態勢(常時)》だけレベル3なんだな」

 

「このスキルだけは、ちょっと特殊でね。前の世界でも極限状態になると無表情でキレてるみたいな顔してたよね? それが《臨戦態勢(常時)》になってる」

 

「……それだけ極限状態になることが多かったってことか。ぐすん」

 

()()だから戦闘以外でも役に立つ場面があるかもよ?」

 

「自衛できるに越したことはないから、汎用的なスキルは、まあ助かるかな」

 

「あと、この『???スキル』──」

 

 神様が画面の最下部を指差した。

 

「これ、なに?」

 

「──ここでの説明はやめておくね。何らかの条件で覚醒する……かもしれないね」

 

 その言い方に、何か含みを感じる。

 

(すごく気になる……まあ、いずれ分かるのかもな……?)

 

 

 

 

 

 

「それと──」

 

 神様が少しニヤリと笑う。

 

「レベルを上げて強い魔物を倒せば、君にとって()()()()が起こるよ……」

 

「なんだよそれ、めっちゃ気になるじゃん。詳しく教えてくれよ!」

 

「まあまあ、それはあとのお楽しみってことで……」

 

「ぐぬぬ……この神、俺のリアクションを楽しんでるな」

 

「ヒントを出すなら……美味しいものは、強くなった者に与えられるんだよ。君が好きな()()とかね?」

 

(な、なんですと……!?)

 

 

 

 

 

 

 神様はくすっと笑うと、少し表情を和らげて、こう語りかけてきた。

 

「君には、転生先でもっと気楽にのんびり過ごしてほしいんだ。同じパン好きとして、君が毎日心と体をすり減らして働いている姿を見てたから、心が傷んだよ。大好きなパン屋巡りもできないなんてね」

 

「……まあ働きすぎて、精根尽き果ててたからなあ……」

 

「猫獣人はね、人間としての社会性を持ちながら、自由気ままでマイペースに生きる気質を持ってるから、君にピッタリだと思ったんだ」

 

「なるほどな。のんびり暮らすには最適の種族ってわけか……」

 

「そうそう。おまけで心と体のケアに特化した、『自律神経ケア個体』にして回復しやすい体にしておいたよ。あと年齢も12歳と若く設定しておいた」

 

(自律神経ケア個体ってなんだ……? でもまあ神様の思いやりを感じないでもない……か)

 

「色々配慮してくれるのは助かる……まあなんだ……ありがとな。パンを食べながら、日向ぼっこする理想的な生活を送れれば最高だな!」

 

「んっ!! この転生者デレた! 満を持してデレた!!」

 

「うるせぇ!! 台無しだよ!」

 

 神様は、くすくすと笑っている。

 

 後ろにいる3人の天使たちは、「10点」「10点」「9.5点」という札を上げて、うんうんと頷いている……

 

(何してるんだ? この人ら……採点してたのか? 何を?)

 

 まあでも……こんなふうに感情をむき出しにして、誰かと言葉を交わしたのは、いったい何年ぶりだっただろう。

 

少し気持ちが落ち着いてきたところで、神様がこう続けた。

 

「それじゃあ──」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、名残惜しいけど、もう時間だ。君を転生先に送るね」

 

「ああ、もう時間なのか。気になることはまだあるけどな。まあでも色々と話せて良かったよ」

 

「こちらこそ。次は気楽にのんびり、人生を過ごしてね。パンと日向ぼっこを楽しみながら」

 

 神様はそう言って笑った。

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 

 ──ちょっと思いついたことを、聞いてみた。

 

 

「……また会えるかな?」

 

 そう言った俺に、神様は曖昧げに微笑んだ。その虹色の瞳が、何かを語りかけるようにキラリと光った。

 

「──それは、君自身の選択と、この世界の()()次第かな。パンの匂いと一緒に、僕のことも思い出してくれたら嬉しいな……」

 

 神様の言葉は、まるで優しい福音のように俺の意識に響いた。

 

(……ん? いま命運って言ったか?)

 

「ねえ……世界の命運って──」

 

 そんな俺の言葉を遮るように、神様は笑顔で手を振ってきた。

 

「──それじゃあ、今度こそ、いってらっしゃい」

 

 後ろでは、天使たちもパンを片手に手を振ってくれている。

 

(……気にはなるけど、まずは異世界のパンを味わってみたいな……)

 

 

「ああ、行ってくるよ……!」

 

 

 ──その瞬間、真っ白な空間が、まるで泡が弾けるように急速に遠のいていく。

 

 

 そして温かい光が全身を包み込み、遠くから、焼きたてのパンのような甘く香ばしい匂いが、少しずつ、しかし確実に意識に染み渡っていく……。

 

 

 ──ああ、この匂いだ。間違いなく、最高のパンが待っている。

 

 

 最高のパンに出会えるかもしれない世界で、俺はどんなパンと出会うのだろうか。




説明回でした。情報過多ですみません…
ステータスのパラメータはポ◯モン方式で整備しています。

引き続きお読みいただけると嬉しいです!
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