パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~   作:倉田六未

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閑話:雲パン奪取RTA

 ──あー、どうもどうも! 現場のユウマです!

 

 神殿は今、なにやら厳かな儀式の真っ最中。荘厳なオルガンの音に、かんなぎさんの透き通るような歌声が響き渡ってますねぇ。村のみんなは、神妙な顔つきで奉納を見守ってるよ。

 

 でも、正直、俺にはもっと重要なことがあるんだよ。分かるよね? そう! アレ見て!

 

 ──視線の先には、祭壇にある『夢紡ぎミストブレッド』。

 

 くっ……! とんでもない存在感と芳醇な香りが、俺のシナプスを直接刺激してくるようだ! まさにこれこそが、今までのパンとは別次元の──いや、次元すら超越した至宝に違いないんだッ!!

 

 全身の毛が逆立ち、《ロックオン(食)》がけたたましい警報を鳴らしてるけど、そんなもん関係ない。俺の目は釘付けだ。あれは──ウィスプリアだけのものじゃない。

 

 みんなが、そしてもちろん俺も、血と汗と涙(主に俺は素材集めで)を捧げた結晶だ。この焼きたてホヤホヤの至高のパンを、ただ見てるだけって、むしろ食べない方が失礼ってもんだろ!?

 

 ──奉納が終わったその瞬間、俺は動く。RTA開始ってわけだ。

 

 周りの村人たちにドン引きされる? そんなのノーダメージだ。美味そうなパンが目の前にあるんだから、考えることはただ一つ。「食べる」だけだ! なあ、そうだろ? シンプル・イズ・ベスト! レス・イズ・モア! 

 

 神官のハンナも、ミロニエラも、みんな頑張ってるのは知ってるけど、悪いな! この雲パンだけは、俺が最初にいただくッ!! 誰にも邪魔させない!

 

 おっ……! そろそろ終わりそうだ……! 俺の猫目が、さらに鋭く……!

 

 ──ピタリと、光が収束し、祭壇からパンが消えた。

 

 その刹那、村人たちの間に満ちた余韻とビリッと静寂を切り裂くように、俺の脳内にRTA開始の合図が響き渡る。

 

 ──タイマースタート!

 

 今回は時間がないので、情報の整理は走りながら並行して行うよ。祭壇までの距離は約20メートル。現在、俺は祭壇から見て右手、前から3番目の列の席。木の椅子に挟まれて身動きが取りにくい。左隣はガランさん、右隣はミーナさん。

 

 ──ルートは二択だ。

 

 左回りルート。ガランさんの隣をすり抜け、壁沿いを駆ける。道は狭いが俺の猫体型なら問題ない。だが祭壇から遠ざかるため、回り込むロスが大きい。距離にして約30メートルか。

 

 中央(右)ルート。ミーナさんは神殿の中央通路側。ここを通れば祭壇まで最短距離、約20メートルだ。しかし、中央通路にはミロニエラがまだ儀式の余韻に浸るように浮かんでいる。

 

 お仕事モードが終わったミロニエラに見つかれば、高確率で俺を捕獲してくるだろう。そして祭壇のすぐ近くにはハンナとリビ。特にリビは厄介だ。見つかればガミガミと小言の嵐は避けられないだろう。

 

 ステータスをちょっとだけ確認。今の俺のAGIは「45」で、前回のRTA時の計算と同様に、速さは秒速4.5メートルと定義する──分かりやすいでしょ?

 

 そして、距離が20メートルなら到達タイムは計算できるよね。約4.4秒だね。みんなは「はじき」派?「みはじ」派?──今はどっちでもいっか!

 

 少しだけ深呼吸をし、《感覚強化(視・聴)》で、周囲の気配を研ぎ澄ませる。村人たちの意識はまだ奉納の余韻に浸り、祭壇から目を離せずにいる。ハンナとリビも微動だにしない。ミロニエラも瞑目しているようだ。

 

 この一瞬の隙を突くなら、最短ルートしかないな。万が一、ミロニエラに気づかれたとしても、俺には《やんのかステップ》がある。距離が短い分、リスクを冒す価値は十分にある。

 

 ガバ要素はスキルで臨機応変に対処しよう。あ、タイム計測はいつもの俺のスーパー体内時計で行っています──いいですよね?

 

 ──中央(右)ルート、確定!

 

 ミーナさんの膝から、滑るように飛び出す。《ステルス歩行(低)》が発動し、絨毯の上を滑るように足音が消える。周囲の視線はまだ祭壇の消えた光景に釘付けだ。

 

 ──チャンス!

 

 ミロニエラとの距離、残り10メートル! まだ瞑目してるぞ。そのまま一気に駆け抜ける! 祭壇の手前、ハンナとリビの背後を狙う!

 

 「あーしてこーして」とリビの小さな呟きが聞こえた気がした。まずい! だが、もう後には引けない!《やんのかステップ》を発動させ、彼女たちの気を少しだけ引き付けることにした。

 

 目の前のミロニエラが、わずかに身じろぎしたように見えた。しかもリビにも気付かれずに済んだぞ──しかし、俺の足は止まらない。

 

 微塵も揺るがないまっすぐな視線は、パンの残りが置いてある祭壇の石を捉えている。まるでレーザー光線のようにその一点を見据えながら、深紅の絨毯の敷かれた床を駆け抜ける。

 

 俺の集中は最高潮だ。ハンナとリビの気配を近くで感じ取る。その間を縫うように、まるで風のようにすり抜ける。

 

 そして、祭壇に到着した瞬間、俺の肉球が祭壇に置いてある、お目当てのソレにピタリと触れた。

 

 

 ──タイマーストップ!

 

 

 ……記録は──4秒37!

 

 

 PB(パーソナルベスト)更新!!(多分)

 

 

 

経験値獲得!

・RTA走破 100EXP

 

 




お読みいただきありがとうございます!

次回は明日12時更新予定です。

完結まであと2話。
最後までお付き合いください!
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