アンリアルインリアル・柔道場の娘が刑事になったらAI社会で一本背負い   作:剛申

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Ep5.「木下ユウコ4」

アヤ「こんばんは」

 

夜23時、中川先輩と共にレストラン・ル・ブランシェーラが閉店する間際の扉を開く。

入口に近いレジで、退店する人の会計をするウェイターがこちらを見る。

 

ウェイター「申し訳ありません。まもなく閉店時間でして」

 

アヤ「お忙しい中、失礼いたします。行方不明の女性を探しています。以前こちらで食事をしたところまでは確認が取れているのですが、その後の足取りがつかめません。捜査にご協力をお願いできますか?」

 

警察手帳を見たウェイターは驚いた様子だ。

 

ウェイター「て、店長を呼んできますので、少々お待ちください……」

 

アヤ「ありがとうございます」

 

会計が終わり退店していくカップルが訝しそうにこちらを見る。

ウェイターが奥に向かうのを見ながら、アヤたちは店内を確認する。

他に客と思われる人はいない。さっきの人達が最後だったのだろう。

 

中川「九条ハルキの体格データは持っているか?」

 

アヤ「はい。マーちゃん、データ、大丈夫だよね?」

 

マトン『ばっちりです。ごしゅじん』

 

九条ハルキ。いや、この名前は正しくない。

園田ユキヒト、水内カケル、三東トウマ、竹中カズマ。

失踪女性と出会っていた5人の男。

防犯カメラの映像から、これらの男の体格が似通っていたことがわかり、

同一人物である説が濃厚となったのだから。

失踪女性と会っていたときは、常に眼鏡と帽子姿。

街頭カメラでは、対象が遠すぎて顔がはっきりとわかる映像はない。

他の女性と会ってから入ったと思われる場所の監視カメラでは、

男の顔ははっきりと見えていない。

ここが今の頼みの綱だ。

 

奥から急ぎ足でシェフと思われる男性が歩いてくる。

 

「こんばんは。この店のオーナーで、シェフをしています。榎本といいます。今日はどのような御用件で?」

 

かなり高齢にみえる。調理の仕事中だったからか、世代によるものか、ARデバイスは着けていないように見える。

 

アヤ「突然お邪魔して申し訳ありません。2週間ほど前、こちらで食事をした男女、その一人の女性が、この店を出た後に行方不明になっています。この店内の防犯カメラを確認させてもらえませんか」

 

榎本「それは大変だ。見て頂く分には構わないのですが……。閉店作業中ですが、よろしいですか?」

 

アヤ「もちろんです。ありがとうございます」

 

榎本さんに案内されて、テーブルが並ぶ店内に入る。

3卓ほどが並ぶこじんまりとしたフロア。

清潔で美しく整えられた店内。

 

榎本「確かね、あれなんですが……」

 

榎本さんが天井の角に設置された小さい立方体を指差す。

 

榎本「あまりにカメラが見えすぎると無粋に思いましてね。装飾の一部のようにしてしまっていまして……。入口の所にも同じようなものがあります」

 

アヤ「確かにカメラには見えませんね。映像を確認させて頂いてもよろしいですか?」

 

榎本「え、ええ……。すいません、機械には疎くてね、私にはどうなっているのか」

 

アヤ「記録はされているのですよね?」

 

榎本「ええ、そうだと……。この店が出来たときに設置したもので、かなり古い物になります。多分記録されているとは思いますが……」

 

中川先輩も天井を見つめている。

 

アヤ「どうしましょう。先輩」

 

中川「あの箱を開けてみるしかだろう。榎本さん、緊急を要する事態で正式な令状もありません。しかし、人命がかかっているので急ぎたい。あのカバーを外して、カメラを見てもらえませんか?」

 

榎本「もちろんですよ。なんとかやってみましょう。おーい、武田君!」

 

先ほどのウェイターが奥から走ってくる。

 

武田「はい、オーナー」

 

榎本「事務所から工具を持ってきて、防犯カメラのカバーを外してくれないか?」

 

武田「わかりました」

 

アヤ「申し訳ありません。お手数をかけて」

 

榎本「いえいえ、いいんですよ。この店で食事をしていただいたお客様には、みんな温かい気持ちで帰っていただきたい。その帰りで悲しいことが起こるなんて、私も考えたくないですから」

 

アヤ「ええ、そうですね……」

 

ウェイターの武田さんがガチャガチャと工具箱をもって椅子に上り、

天井についた箱を開けようと探っている。

 

武田「オーナー。ネジの類が見当たらないです」

 

榎本「施工業者にやってもらったからな。こじ開けられないか。カバーは壊していい」

 

アヤ「よろしいのですか?」

 

榎本「緊急なんでしょう?カバーぐらい壊したって構いませんよ」

 

アヤ「ありがとうございます。榎本さん」

 

武田「じゃあ、力ずくで開けますよ。いいですね?」

 

榎本「ああ、頼む。ところで刑事さん」

 

アヤ「はい。なんでしょう」

 

榎本「その失踪した女性というのは、ハットと眼鏡をかぶった男性と一緒に来店していたのでは?」

 

アヤ「ええ、そうです。覚えていらっしゃるのですか?」

 

榎本「覚えていますよ。コース料理を頼まれたのですが、全ての料理をお出しできなくてね。その女性、早々に酔い潰れてしまいまして。お酒を飲めないのに、無理に飲んでしまったのか……。料理もほとんど手を付けられず退店されましてね。こんなことになるなら、タクシーでも呼んで差し上げればよかった」

 

アヤ「その女性……、お酒は、飲める人だったかと……。強いお酒を飲んだんですか?」

 

榎本「たしか……。ワインを一杯だけだったような……」

 

アヤ「一杯だけ……」

 

バキッ。

武田さんがドライバーを天井と立方体の隙間に差し込んで、カバーをこじ開ける大きな音。

何度かドライバーをひねっていると、ガコっとカバーが外れて古いビデオカメラが姿を現す。

 

武田「ふう、はずれました」

 

榎本「カメラは動いていそうか?」

 

武田「電源は入っています」

 

中川「記録は何でされているかわかりますか?」

 

武田「えーっと、ちょっとまってください。あー、カード式ですね。外してみます」

 

武田さんがカメラから小さなメディアを外してこちらに見せる。

 

中川「マイクロSDカードか」

 

アヤ「マイクロSD?」

 

中川「今じゃ見ないだろうが、古いタイプのメディアだ。署に持ち帰れば読み込める」

 

アヤ「ここでは読み込めませんね。持ち帰らせてもらえるでしょうか」

 

中川「それも確認しなければならないが……。一定期間記録して、容量を使い切ったら上書きしていくタイプのカメラだろう。2週間前が残っているか……」

 

アヤ「え……」

 

中川「中を見るまでわからない。榎本さん、このカードを署に持ち帰らせてください。明日の営業時間前には届けさせます」

 

榎本「ええ、どうぞ。武田君、入口のカメラのカバーも外しておいてくれ」

 

武田「わかりました」

 

武田さんからSDカードを預かる。

ぎゅっとそれを握り締める。

 

 

 

アヤ「ありがとうございました。ここまで協力していただいて、何と申し上げたらいいか」

 

入口を出たところで榎本さんと、武田さんにお礼を言う。

 

榎本「いいんですよ。さあ、早くお戻りになって中を確認してください」

 

アヤ「はい。ありがとうございます」

 

榎本「その行方不明の方、見つかるといいですね」

 

アヤ「ええ……。必ず……、必ず見つけます」

 

お辞儀をしてその場を去る。

繁華街のガヤガヤとした人の声をかき分けるように、急ぎ足で署に戻る。

 

 

 

日付が周り、深夜の署に戻る。

 

アヤ「戻りました」

 

岩崎「お疲れ。今、他の女性達が入った店のカメラを再度見ているところだ」

 

ホワイトボードの前で岩崎課長と、萩本先輩がホワイトボードで映像を見ている。

 

萩本「やはり監視カメラをかなり警戒しているようだ。下を向いて歩いているし、席ではカメラに背を向けて座っている」

 

岩崎「あらためて見ると、カメラの位置は事前に把握済みだったようだな」

 

アヤ「そんな……」

 

岩崎「そっちのデータは?」

 

アヤ「SDカード式カメラでした。カードを預かっています」

 

岩崎「読み込んで、ここに映してくれ」

 

アヤ「はい」

 

捜査室のコンピューターについているカードスロットを探す。

 

中川「ここだ」

 

アヤ「はい」

 

中川先輩の指さす場所にSDカードを差し込む。

 

アヤ「マーちゃん。映像は読み込める?」

 

マトン『読み込めました!』

 

アヤ「木下ユウコが失踪した時間の映像は?残ってる?」

 

マトン『はいです!3週間前から今日までの映像が入っているようです』

 

アヤ「よかった……」

 

胸をなでおろす。

 

中川「木下ユウコが失踪したときの映像を、入店時から見せてくれ」

 

アヤ「はい。マーちゃん、ホワイトボードに映して」

 

マトン『りょうかいです』

 

入口側のカメラがとらえた、ユウコと男が店に入る様子が映される。

古いカメラだからか、画質はそれほど良くない。

 

アヤ「ユウコ……」

 

入店時から席に着くまでの様子が映される。

フロア側のカメラから男の顔が見える席に案内されている。

 

岩崎「お……、いいぞ」

 

アヤ「マーちゃん、フロア側のカメラに切り替えて!」

 

マトン『はいです』

 

フロア側のカメラに映像が切り替わる。

男はジャケットと帽子をウェイターに預ける。

画像は荒いが、はっきりと男の姿が見える。

 

アヤ「顔が映ってる!」

 

萩本「監視カメラに気づいていないのか?この店では事前に把握していなかったのか?どうして?」

 

中川「ローカル記録だからかもしれない。当然ネットにもつながっていない。カメラ自体も装飾の一部で隠されていた。最近では見ない形式のカメラだ。防犯カメラが機能していないと思ったのかもしれない」

 

萩本「古い防犯カメラだったから、見逃していたのか」

 

アヤ「やった……」

 

ぎゅっと力を入れて拳を握る。

 

岩崎「この男の顔、なるべく精細に保存しろ。データベースの照合に回す」

 

アヤ「はい!」

 

机の上のマトンが手を上げて、頭の上で丸をつくる。

 

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