アンリアルインリアル・柔道場の娘が刑事になったらAI社会で一本背負い 作:剛申
貝塚セイジを逮捕し、署で取り調べを行っている。
向かい合う萩本先輩と岩崎課長。
萩本「この携帯端末はどこで手に入れたんだ?君の物ではないだろう」
貝塚「……さあ?」
萩本「この端末を君に渡した人物がいるはずなんだけどな。誰が知らないか?」
貝塚「なんのことでしょうか?」
萩本「フードを被った男だ。君にこの端末を渡している場面が防犯カメラで見られた」
貝塚「人違いでは?」
貝塚は淡々と返答しつつ、天井をぼーっと眺めている。
萩本「出会い系サイト、マイパートナーで知り合った女たちはどうした?彼女たちのクレジットカードから、相当なプリペイドマネーを買わせていたことはわかっている」
貝塚「わかりません」
萩本「君が誘い出したんだろう。知らないか?」
貝塚「はあ……。なぜ、僕がやったと言い切れるんです?」
萩本「レストランの防犯カメラから、君が木下ユウコと会ったことはわかっている」
貝塚「別人ではないですか?」
レストランでの様子が写されたプリントを萩本先輩が机に置く。
萩本「これは君本人だな?照合も一致している」
貝塚「あー。あの店、防犯カメラあったのか。監視カメラリストには載ってなかったな」
萩本「犯行を認めるのか?監視カメラリストとはなにかな?」
貝塚「はあ」
貝塚が大きな溜息をつく。
貝塚「僕はただ食事をして、デバイスのAIに従って会話を進めていくだけ」
萩本「何?」
貝塚「所定の場所に送り届けてギャラを頂いて終わり、それだけです」
萩本「所定の場所とは?場所は覚えているだろう?」
貝塚「さあ、忘れましたよ」
萩本「送り届けたとはどういうことだ。誰に女性を引き渡した?」
貝塚「知らない人達ですよ」
萩本「事前に打ち合わせしなければできないことだと思うけどな」
貝塚「本当に知らないので。僕にとっては割りのいいアルバイトのようなものでしたから。詳しいことは何もしりません」
萩本「女性たちがその後どうなったかも知らないと?」
貝塚「ええ。興味もありません」
萩本「そうか……。まあいい。君のデバイスは調べさせてもらうよ」
貝塚「どうぞご自由に」
貝塚を残し、萩本先輩と岩崎課長は部屋を出る。
明け方、アヤは捜査室の机でうつ伏せになる。
パンプスを脱ぎ、椅子の横に転がしている。
花井「お、おはようございます。貝塚セイジのARデバイスからGPS情報をまとめました」
岩崎「でたか」
花井「はい。ネオンちゃん、ホワイトボートと繋げて」
捜査室に入ってきた花井さん。
ホワイトボートの上に緑色に光る小さな猫のアバターが姿を現す。
花井さんのAIパートナー、ネオンだ。
ネオン『ニャーオ』
ボード前に集まってくる刑事課の面々。
花井「各女性の失踪時なんですけど、防犯カメラの映像と容疑者のGPSデータは完全に一致しました」
岩崎「よし。女性達をその後どこに連れて行ったか、動向を探れそうか?」
花井「女性と食事をした後、奈古市中央区の繁華街へ、人が多い所へ行くまでの流れは共通しています。その後、繁華街と隣接する、このナイトクラブに数分滞在する流れが共通しています。クラブゼノです」
中川「ここで女性を引き渡し、報酬を受け取っていた。このクラブには地下駐車場もあるな」
アヤ「ナイトクラブを出た後の犯人たちの動きはどうなっていますか?女性達は?」
花井「その後、貝塚のGPSは一定ではなくて……。明け方に南区の住居と思われる場所に戻っているところは共通しています」
中川「女性を引き渡し、身軽になったからだ。このクラブへの事情徴収は?」
岩崎「これから萩本に行かせる」
中川「ならその間、ナイトクラブ周辺の監視カメラを探ろう。ナイトクラブを出て共通のルートを辿る車がないか調べる」
岩崎「調べる範囲が膨大だ。各課に協力を呼び掛けるよ。桐山、向こうの課長に連絡しておく、尾野寺にも協力を頼みに行ってくれ」
アヤ「わかりました……」
生活安全課のドアを開ける。
リナ「あ、おはよう、アヤちゃん。話は聞いたよ。昨晩は大変だったね」
アヤ「リナ先輩……、ユウコは、ユウコはまだ見つかってなくて……」
静かに涙が流れる。
アヤ「捕まえたのに……、すぐに見つかると思ったのに……、うう……」
リナ先輩がアヤをぎゅっと抱きしめる。
リナ「大丈夫。見つかるよ、必ず。もうすぐそこに見えてるんでしょ。諦めないで」
アヤ「うう……」
涙が止まらなくて、歯を食いしばる。
捜査室。
地域課の丸川さんと、リナ先輩が防犯カメラの映像を整理して来ている。
花井さんも様子を見に来てくれている。
丸川「奈古 3Y え 00-00。黒のミニバン。タイラ社ビッグボックスのかなり古いタイプだ。木下ユウコの失踪した日、貝塚とみられる男が、女性を抱えながらナイトクラブへ入っていく様子が見られた。それからほどなくして、駐車場からこの車が出ていった。他の女性達が失踪した日も調べたが、同じ車が現れていたよ。その足取りも共通。高速道路で港に向かっているのがわかったよ」
岩崎「ありがとうございます。苦労を掛けました」
丸川「いやいや、日程はわかっていたのでね」
花井「ナンバーがわかれば国交省の交通記録から比較的スムーズに流れが掴めます。この車の可能性が高いかも」
萩本「このナンバーの登録主は?データにある?」
花井「それが……、登録されていないナンバープレートなんです」
岩崎「偽造か。萩本、ナイトクラブ、ゼノの事情徴収はどうなってる?」
萩本「知らないの一点張りですよ。酔った人間を抱えてくるやつなど、ごろごろいるとね。店内の監視カメラも一応はあるが、暗いし人が多すぎて何もわかりません。駐車場のカメラは機能してませんでしたよ」
アヤ「黒のミニバンの行方はわかりますか?」
リナ「ええ……。県の端、海沿いの人口島に倒産した会社の廃倉庫群があってね。このミニバンもここから来ていたんじゃないかと」
丸川「この倉庫群の手前までは車の姿を確認できているんだよ。可能性は高いんじゃないかな」
アヤ「ここにユウコがいる」
岩崎「少し時間がかかるが、他の署とも連携を取りたい。ここに踏み込む段取りさ」
夕陽が差し込む頃。
人気のない港の倉庫の前に数台のパトカーが詰めかけている。
機動隊の人達が大勢来て並んでいる。
「人の気配は見当たらないが!中で失踪した女性が拘束されている可能性もある!」
並んだ機動隊の前で隊長が叫ぶ。
倉庫は3棟の大きな建物。
屋根の部分はかなり痛んでおり、窓ガラスはいくつか割れている。
詰めかけたパトカーの前で立つ大柄の刑事たちに、岩崎課長が挨拶する。
岩崎「奈古南署、岩崎です。ご協力感謝します、園田警部。長田警部も来ていただいて申し訳ない」
園田「とんでもない。さあ、行きましょう」
長田「先ほどから人の気配はありませんが、気を付けてください」
機動隊の人が倉庫の周りを囲むように立つ。
「突入!!」
大きな扉は鍵もかかっておらず、機動隊の人が数人でガラガラと開ける。
アヤ「私たちは行かないんですか?」
中川「ここで待っていろ。何かあれば連絡がくる」
アヤ「はい」
突入していく機動隊の人達を見守る。
岩崎「そうか。見つかったか」
突入からほどなくして岩崎課長がインカムに応える。
アヤ「見つかった!?女性達ですか?」
岩崎「黒のミニバンだ。西側の倉庫で見つかったらしい」
アヤ「見に行きます!」
岩崎「待て、一人で行くな。中川」
中川「桐山、俺の後ろについてこい」
アヤ「はい」
中川先輩の後を速足でついていく。
西側の倉庫を入ると、奥の方に黒いミニバンが止まっている。
その更に奥側に、機動隊の人達や刑事が一か所集まっている。
中川「何かありましたか?」
園田「見つかったよ。女性だ」
アヤ「え!!」
見つかったと聞いたアヤが機動隊の人だかりを分けて入っていく。
中川「桐山!」
アヤ「南署の桐山です!失礼します!」
中川「待て!桐山!」
機動隊をかき分けて先頭に出る。
うっすらと白い霧のようなものが漂う。
スーパーでアイスクリームを入れているような、大きな冷蔵ケースが置かれている。
それに駆け寄るアヤ。
アヤ「あああ!」
ドライアイスが散らばるケースの中、
膝を折るようにしてうずくまる女性。
青白く、冷たい死体となった木下ユウコだった。
アヤ「ユウコ!!」
ユウコの肩をゆする。
氷のように冷たく、重い。
長い髪の毛がパキパキと音を立てて、わずかに霜を舞い上がらせる。
中川「桐山!!」
中川先輩がアヤの肩をぐっと掴み、木下ユウコから離れさせる。
アヤ「放してください!ユウコが!」
中川「触るな!現場が乱れる!」
アヤ「だって!ユウコが!」
中川「落ち着け。もう死んでる。随分時間が経ったあとだ」
アヤ「そんな!」
岩崎課長や、他の刑事もバタバタと駆けつけてくる。
アヤは地面に膝をつく。
動くことできず、男たちの膝に囲まれ呆然と地面を見つめる。
視界が滲み、ぽたぽたと涙が落ちていく。
取調室に萩本と貝塚セイジが向かい合う。
萩本「失踪女性の遺体が見つかった。拉致に使った車もな」
貝塚「そうですか。あいつら、殺されていたんですね」
萩本「他人事のように言うものだな。君がしたことだろ。証拠は揃いつつあるぞ」
貝塚「何度も言っているように、僕は言われた通りに動くだけ。全て端末内のAIから言われた通りに会話を続け、食事が始まれば、粉末を女性に飲ませて泥酔させる。後は所定の場所に連れていくだけです。その後のことなんて知りませんよ」
萩本「今日、君の家を調べさせてもらった。微量の覚せい剤の成分が検出された。君のいう粉末とは覚せい剤だろ?いつ、どこで手に入れた?」
貝塚「渡されただけですよ。タブレット端末と共に」
萩本「覚せい剤だとは知っていたようだな」
貝塚「体に良くない物だとは思いましたよ。飲んだらあっという間に酔っぱらったようになっていましたから」
萩本「5回。女性を5人だ。繰り返し飲ませておいて、他人事のみたいだな」
貝塚「どうでもいいですから」
萩本「ふう」
萩本が大きくため息をつく。
萩本「それにしても、よくもまあ怪しまれずに女に薬を盛れたもんだな。職業も名前も違う人物になりすましていたんだろう?ボロがでそうなものだ。大した名演技だな?」
貝塚「簡単ですよ。ボロが出る前に薬を飲ませるぐらい」
萩本「そうは思えないな。俺なら、会話の指示を聞いて、即時に、その通りに会話を続けるなんて出来るとは思えない。鑑識に調べさせたよ。君はネットドラマの俳優もやっていたことがあるようだな」
貝塚がわずかに驚いたように萩本を見る。
萩本「端役だったようだが、何度かでている。テーマパークでも勤務経験があるようだな?アクターというやつだろ?違うか?」
貝塚「俳優業は泣かず飛ばず。どこにでもいる売れない役者だったんですよ。僕は」
萩本「そういう割には5人もの役柄の男を演じ分けた。それも女性を騙せるほどだ」
貝塚「はあー」
貝塚が大きい溜息を吐く。
貝塚「刑事さん。僕ね、けっこうな借金があるんですよ」
萩本「借金?いくらだ?」
貝塚「もう数えたくないぐらい。こんな売れない役者でもね、一瞬だけ売上が良かった時期もあったんですよ。そのときにギャンブルにはまってしまいましてね」
萩本「そうか。君の口座を調べたよ。数年前はそれなりの収入があったようだな」
貝塚「ギャンブルに全部使っちゃいましたよ。取り返すために借金もしてね」
萩本「金を借りてまでギャンブルを続けていたのか」
貝塚「首が回らなくなるまでね。怖い奴らに取り立てられましたよ」
萩本「闇金か」
貝塚「最初はね。まともな所は貸してくれませんから。そんなとき、業界仲間に紹介された資産家の男が金を貸してくれたんですよ。そいつが、怖い奴らとつながっているとは知らずに」
萩本「多重債務に陥っていったんだな。君に金を貸した資産家の男とはだれだ?」
貝塚「知りません。名前も教えてもらえませんでしたよ。ただ現金をポンと手渡しで気前よく貸してくれたんです」
萩本「見ず知らずの人間に?そんな人間によく金を借りれたな」
貝塚「刑事さんにはわかりませんか?借金をしていればね、目の前のお金に手を伸ばすのは
生存本能みたいなものです」
萩本「そうか。それで?その男とつながっていた怖い奴らとは?」
貝塚「詳しくは知りません。そいつらから提案を受けたんですよ。いい仕事があるって」
萩本「いい仕事?」
貝塚「わずかな時間、一人の女性を騙せば百万越えの商売です」
萩本「女性たちの誘拐に手を貸す仕事か」
貝塚「上手くいっていると思ったんですけどね」
貝塚が天井をぼんやりと眺める。
薄暗い取り調べ室の電灯の周りを小さな虫が飛ぶ。
アヤの自室に朝日が差し込む。
ベッドの上でぼーっと天井を眺めるアヤ。
横を見ると、机の上に置かれている小さな箱が目に入る。
以前、ユウコとマドカからもらった、気の早い誕生日のお祝い。
今日がその誕生日だ。
起き上がってその箱を開ける。
ユウコ「誕生日おめでとう、アヤ!」
ユウコの顔が思い出される。
箱の中に納まる派手なイヤリング。
アヤ「派手だな……。これってユウコの趣味だよね」
手の中のイヤリングを見つめる。
早朝の捜査室。
岩崎課長が扉を開ける。
岩崎「おはようございます」
萩本「おはようございます、課長」
中川「おはようございます」
岩崎「おはよう。なんだ、桐山はまだ来ていないのか」
萩本「ええ。いつもは早く出勤していますけどね」
岩崎「まあ無理もない。刑事課に来てから直ぐにこんな事件に関わってしまったらな」
萩本「この仕事を辞めるかもしれませんね。もう出勤してこないかもしれない」
アヤの机を萩本が見る。
中川「どうかな。貝塚に指示をした男、金を貸した資産家。まだ事件は解決していない。桐山も刑事なら、調べずにはいられないはずだ」
捜査室の扉が開く。
アヤ「おはようございます」
すらっと立つアヤ。
萩本「おはよう」
中川「おう」
岩崎「きたか。遅かったな。珍しいじゃないか」
アヤ「申し訳ありません。支度に手間取ったもので」
岩崎「いいさ、遅刻しているわけじゃない」
アヤ「ありがとうございます」
机に座るアヤ。
アヤ「先輩」
中川「なんだ?」
アヤ「貝塚セイジを操っていた人達、必ず見つけます。次の被害者が出る前に」
隣の席の中川がアヤの横顔を見る。
中川「ああ……」
アヤの耳についた、派手なイヤリングが目に入る。
いくつかの羽のような形の物が揺れて、キラキラと光を反射させる。