「私たちは、もう誰も信じない。この技術の壁の向こうに、裏切りと支配しかないことを知っているからだ。」
アルテミスから提供された解析データは、冷徹な真実を告げていた。魔族の総攻撃の次のターゲットは、霊王国。彼らの持つ古代の次元接続技術が、ゼノスの最終計画に不可欠であると演算されたのだ。
ライオネルはすぐにグラディウスへ連絡を取り、アルテミスの解析結果と、「力は奉仕に、知識は生命へ」という新しい哲学の獲得を伝えた。グラディウスは驚きを隠さなかったが、ライオネルの非合理な行動が論理的な成果を生んだことに、もはや反論しなかった。
「分かった。次は技術の壁だ。シオンの孤立を破れ。我々も軍を動かす準備をする。」グラディウスは言った。
ライオネルは、急ぎ霊王国の中心、**『知識の庭園』**へと向かった。そこは、真王国の幾何学的な美しさとも、閻王国の武骨さとも異なり、古代の魔術と技術が融合した、冷たい静寂に満ちた場所だった。
霊王国は、文字通り**「技術の檻」に閉じこもっていた。国境には分厚いゴーレムの壁が築かれ、外部との接続は厳重に遮断されている。ライオネルは、事前にアルテミスが解析した緊急通信コード**を使い、なんとかシオンへの謁見を求めた。
シオンの謁見の間は、巨大な
「真王国のデータと、閻王国の粗暴な力が、手を組んだと聞く」シオンの声は、静かで感情を読み取れない。「だが、私には関係ない。我々は、あなた方の争いの連鎖から完全に離脱する。あなたの提案する**『繋がり』は、私たちにとって裏切りの予言**にしかならない。」
ライオネルは直球で切り出した。「魔族が、あなた方の古代技術を狙っています。彼らは、あなたの国を完全に消滅させようとしている。」
シオンは動じなかった。「知っている。しかし、私たちのゴーレムの壁は、あなた方の力よりも、アルテミスの知識よりも、確実だ。私たちは完全な籠城を選択する。技術は、私たち自身の安全のためにある。」
「あなたの安全は、完全な孤立によってしか守れないのですか?」ライオネルは問うた。「グラディウスも、アルテミスも、あなた方を信じ、助けたいと望んでいます。その手を拒絶するのは、なぜです?」
シオンは、ライオネルの質問に対し、静かに、しかし深い痛みを込めて答えた。
「昔、私たちは他国を信じ、技術を共有した。しかし、彼らは私たちの技術を盗み、その力で私たちを裏切った。私たちの技術は、繋がりの道具ではなく、裏切りを呼び込む呪いとなった。我々の技術の境界線は、二度と同じ過ちを繰り返さないための、命懸けの隔離だ。」
彼の瞳は、過去のトラウマによって深く覆われていた。シオンにとって、**「繋がり」という概念は、「裏切り」**という名のデータに上書きされてしまっていたのだ。
ライオネルは、シオンの孤独が、彼が自ら築いた技術の檻そのものであることを悟った。力や論理では、この壁は崩せない。必要なのは、孤独を打ち破る、本物の友情の証明だった。
「シオン様」ライオネルは声を低めた。「私は、あなたの技術の壁を最も効率的に突破する方法を知っています。それは、あなたの技術の内部に、誰も気づかない致命的な欠陥が存在するからです。」
シオンは驚愕し、立ち上がった。彼の技術への自信は、彼の孤立を支える最後の砦だった。
「何を言っている! 私たちの技術は完璧だ!」
「いいえ、孤独です」ライオネルは言った。「あなたのゴーレムの設計上の致命的な欠陥は、**『完全な孤立下でしか修復できない』**という矛盾です。あなたは、誰も信じないが故に、致命的な欠陥を自力で修復できないという、技術の檻に閉じ込められている。」
ライオネルは、台本知識から得た、シオン自身の過去のトラウマに根ざす技術的欠陥を提示した。
「私を信じる必要はありません。しかし、あなたの技術は、私という命の重みを必要としている。あなたの技術を、あなたの命を、私たちと繋げるために使わせてはくれませんか?」
シオンの顔に、絶望と希望が交錯した。彼の技術的なプライドと、二度と裏切られたくないという恐怖の境界線が、今、激しく揺れ動いていた。
第9話 完
第9話では、魔族のターゲットが霊王国であること、そしてシオンの**「技術の檻」が過去の裏切りによる「孤独」**であることを描きました。
次は第10話「ゴーレムの孤独な王」で、主人公が単身でシオンの元に留まり、彼の技術的欠陥の修復を協力して行うことで、シオンの**「技術の境界線」**を破壊する展開を執筆します。