Re:コネクト 境界線上の英雄たち   作:gp真白

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第2章 命の真実
偽りの平和、静かなる破滅の予兆


 

世界は**「英雄」**の勝利に酔いしれていた。

空を覆っていた魔族の影は消え、閻王国、真王国、霊王国は世界連合という名の元に手を結んだ。指導者たちの顔には、ライオネルが**「絆の法則」**と名付けた、奇跡的な協力の証が刻まれていた。

しかし、その平和は私、ライオネルの心の中では、あまりにも脆い偽りに過ぎなかった。

 

「ライオネル、今日の評議会での君のスピーチは素晴らしかったよ。君こそ、この新しい世界のシンボルだ。」

 

真王国の指導者、アルテミスが私に微笑みかけた。彼女の目はまだ警戒の色を秘めていたが、以前のような冷徹な論理の壁は消えていた。

 

「ありがとうございます、アルテミス様。ですが、僕の言葉よりも、グラディウス様の力、シオン王の叡智、そして僕たちの行動が、人々を動かしたのです。」

 

私は謙遜の言葉を述べながらも、その視線は評議会ホールの隅にある、稼働中の大型テレポート装置へと向かっていた。それは、この世界を地球と繋ぐ、そしてPCの命を搾取するシステムの心臓部だ。

 

私は転生者として、この世界がMMORPGの裏設定に支配されていることを知っている。第1章の勝利で命の搾取は一時的に回避されたが、システムそのものは破壊されていない。いつ、誰の命が対価として要求されてもおかしくない。その重圧が、私の喉を締めつけていた。

 

夜が更け、私はシオン王の協力で極秘に設けた、かつての霊王国の研究室にいた。ここは、テレポート炉心の魔力データを常に監視できる唯一の場所だ。

「ライオネル様、今宵も徹夜ですか。貴方こそ休まれるべきだ。」

声をかけてきたのは、霊王国の技術者だった。私は手を振り、モニターに表示された複雑な魔力循環グラフを凝視した。

 

「ええ、少し気になるデータがあって。炉心の魔力循環が、規定値に対してわずかに、しかし確実に低下しています。」

それは、通常の技術者なら無視するレベルの小さなノイズだった。だが、「命の対価」の真実を知る私には、それがシステムが飢え始めている静かな悲鳴に聞こえた。

 

「これは...システムが、対価となる命を要求し始めている。」

 

私は即座に、魔力循環の再最適化アルゴリズムを起動させたが、効果は限定的だった。システムは、生命エネルギーという名の対価を求める、飢えた獣のように**「最も非効率な要素」を、すなわち私たちPC**を狙い始めている。

私には、この真実を誰にも話せない。アルテミスに話せば、彼女は論理的な結論としてテレポートシステムの停止を進言するだろう。しかし、システムを停止させれば、テラ・ノヴァは再び孤立し、魔族の再来に備える世界連合の基盤が崩壊する。シオン王に話せば、彼は絶望的な孤独に逆戻りするかもしれない。

 

私が選ぶべき道は一つ。孤独な知識を駆使し、ライアンの意識を持つ私の肉体が対価として狙われる前に、システムを完全に**「絆の法則」**で書き換えることだ。

 

(...ライオネル。)

 

不意に、私の内に響く声があった。それは、私の純粋な意志であり、肉体を共有するもう一人の自分、ライアンの声だ。

 

「どうした、ライアン。今は集中している。」

 

(...僕たちの仲間が、疲れている気がするんだ。いつもより、テレポート訓練から帰ってきた後の回復が遅い。それは、僕の記憶の空白とは違う、もっと大きな何かが、僕たちを蝕んでいるような感覚だ)

 

ライアンのその純粋な直感は、僕の論理的な分析よりも早く、システムの危険を察知していた。仲間たちの行動が鈍くなっているのは、システムがすでに**「命のエネルギー」**を少しずつ、しかし確実に搾取し始めている兆候に他ならなかった。

 

「大丈夫だ、ライアン。気のせいだよ。僕たちが世界を救ったんだ。疲れているのは、そのせいさ。」

 

私はライアンにそう言い聞かせたが、その言葉は最も残酷な嘘だった。私の孤独は深まる。

 

その夜、私は研究室の床に座り込み、目を閉じた。ライアンの意識が、いつものように穏やかに僕の精神世界を漂っている。

 

「僕は、この裏設定を誰にも話さない。ライアン、君にもだ。」

私は心の中で誓った。この世界を救うための最終手段は、孤独な知識を持つ僕自身が、システムと心中することかもしれないと。ライアンの純粋な命だけは、絶対に守らなければならない。

しかし、その決意を固めた直後だった。

ライアンの意識が、私の精神世界から急激に、そして暴力的に引き剥がされるのを感じた。

 

(...ライオネル? なにが、どうしたんだ...? 寒い...身体が、勝手に、勝手に...)

ライアンの声は、恐怖と混乱に満ちていた。彼の意識が、私のコントロールを離れて、どこかへ、誰かに、システムに引き寄せられていく。

 

「ライアン! やめろ! 何が起こっている!?」

 

魔力循環グラフのノイズが一気に増幅し、赤色警報に変わる。データは、テレポート炉心へ膨大なエネルギーが、生命体から強制的に注入されていることを示していた。

システムは、最も非効率な要素として、英雄ライアンの命を選んだのだ。

 

(ライオネル...みんなを、みんなを頼む...)

 

それが、ライアンの意識が私から完全に断ち切られる、最後の言葉だった。

私は絶叫した。平和な世界連合の夜空に、英雄の断末魔だけが響き渡った。

 

「くそっ...間に合わなかったのか...!」

 

ライアンは消滅した。

そして、接続シールドに、ライアンの最後の意志が刻んだ**「ロック」**のサインが灯る。




第2章は、英雄の死という、最も残酷な形で幕を開けた。そして、この悲劇は、地球側の支配者デルタに、最適化の論理を完成させるための最大の武器を与えることになる。
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