ライアンの意識が消滅してから、丸二日が経過した。
世界連合は、「英雄ライアンの突然の病死」という、苦し紛れの虚偽の発表で事態を収拾しようとしていた。だが、その裏で、テレポート炉心に残された「ロック」の青いサインは、ライオネルと三国指導者たちの間に、冷たい真実の壁を築いていた。
「このロックは、生命エネルギーを鍵としている。つまり、解除にはライアンの犠牲を上回る対価が必要だということだ。」
アルテミスは、研究室で冷徹に結論を述べた。彼女の論理は残酷だった。
シオン王は顔を覆い、深く沈黙していた。彼は、自身の古代技術が命を搾取するシステムの一部であったという事実に、再び孤独の絶望に囚われかけていた。
「...対価など、もう払わせない。」
ライオネルは低い声で言った。彼はライアンの消滅以来、睡眠も食事もとっていなかった。彼の目には、転生者としての冷徹な知識と、親友を失った燃えるような怒りが同居していた。
「シールドの解除は、システムを破壊するための手段でなければならない。しかし、このロックが強力すぎる。解析には時間が...」
その時、研究室の通信機が突如として起動した。セキュリティを突破し、割り込んできた通信に、全員が息を飲む。
「やあ、ライオネル。君の**『非効率な嘆き』**は、二日も続いたのか。予想より長かったね。」
モニターに映し出されたのは、デルタだった。細身で、整然としたスーツに身を包んだ彼の表情には、一切の感情の揺らぎがない。彼の瞳は、データと論理だけで構成されているように見えた。
「私は、地球側の支配者集団**『オーダー』の指導者、デルタ。そして、貴方と同じ転生者だ。貴方は世界を感情で救おうとしたが、私は論理で救う。貴方の『絆』は、世界に無益な混乱**をもたらした。私の使命は、感情というノイズを排除し、世界を最適化することだ。」
「...貴様!」ライオネルは激昂した。「ライアンをどうした!」
「『どうした』? ライオネル、貴方の**『絆の法則』が彼を殺したんだ。彼の命は、テラ・ノヴァのシステムが必要とした最適な対価**として選ばれた。私ではない、システムの論理だ。」
デルタは静かに続けた。
デルタの言葉は、アルテミスの論理とシオン王の過去を否定しなかった。それはゼノスの哲学を、より冷徹な科学で実現しようとする者だった。
「ライアンの犠牲は、最高のデータサンプルを提供してくれた。彼の**『英雄的な痛み』は、システムへの反逆の意志という形で記録されている。このデータこそが、接続シールドを解除し、システムを恒久的に『最適化』**するための鍵となる。」
デルタは、ライアンの最期の意志を利用することを宣言した。それは、ライオネルにとって何よりも許せない屈辱だった。
「貴様には、ライアンの痛みが理解できない!」
「痛み? それは非効率なデータだ、ライオネル。私は貴方の行動のすべてを解析した。貴方の強さは、**『裏設定の知識』と、『記憶のないライアンの純粋さ』**だ。だが、その純粋さは消えた。残ったのは、知識と罪悪感に苛まれる、孤独な転生者だけだ。」
デルタは冷たく言い放ち、『完全な孤独の波』を仕掛けることを予告した。それは、ライオネルの精神的な境界線を破壊し、彼を無力化するための、最も論理的な心理攻撃だった。
通信は一方的に途絶えた。
研究室には重い沈黙が降りた。シオン王は、自らの古代技術が再び支配の道具として利用されようとしている現実に、絶望していた。アルテミスもまた、完璧な論理を持つデルタの存在に、解析の限界を感じていた。
「ライオネル...どうする。彼を止めるには、彼の論理を超えなければならない。」
アルテミスが尋ねた。
ライオネルは立ち上がった。彼は、ライアンの遺した**「ロック」**のサインを凝視した。その青い光は、もはや悲劇の象徴ではない。
「デルタの論理は、『非効率な感情』という要素を完全に排除している。だが、僕の『絆の法則』は、悲しみ、怒り、そして愛という、すべての非効率な要素を統合した。僕には、グラディウス様の力、アルテミス様の知恵、そしてシオン王の孤独を乗り越えた叡智がある。」
ライオネルは、内なるライアンの残響を感じた。それは、孤独な転生者としての自分を、再び英雄へと変える意志だった。
「僕は、デルタの完璧な論理に、ライアンの犠牲によって生まれた**『非効率なバグ』**を注入する。そして、彼の論理を内部から破壊する。もう誰も、このシステムに命を奪わせない。」
ライオネルは、孤独な転生者の責任を、英雄の復讐という形に昇華させた。彼の戦いは、**「命の境界線」**を巡る、究極の論理戦へと突入する。