「貴様の力は、ただ国の意志のためにある。個人の感情など、ただのノイズだ。」
グラディウスの命令は絶対だった。援軍に加わることになった主人公、ライオネルは、鉄の誓い要塞の演習場へと急いだ。彼は内心で、自身の命が懸かった現実にもかかわらず、どこか冷静だった。なぜなら、次に起こることも、グラディウスの**「力の哲学」**も、全て知っているからだ。
閻王国の訓練は、過酷の一言に尽きた。兵士たちは血を吐くまで剣を振り、疲労で倒れても容赦なく引きずり起こされた。主人公は、その訓練の「非効率性」に改めて驚く。ゲーム内では、初期のレベル上げイベントでしかなかったが、今、目の前でNPC兵士たちが負っている怪我や疲労は、あまりにもリアルだった。
「ライオネル! 貴様は何をしている!」
グラディウスの怒号が響いた。彼は訓練場の高台から、粗暴な、しかし揺るぎない威圧感を放っていた。
「貴様は、その力を持て余している。全力を出せ! この国で最も価値があるのは、勝つ力だけだ!」
主人公は剣を振るう。自身のPCデータが持つ本来のポテンシャルは、当然ながら他のNPCを凌駕していた。しかし、彼は**「ゲーム知識」に基づき、体力を70%**に抑えた。全力を見せれば、その後の展開でより危険な任務に強制される可能性があったからだ。
(そうだ、この男の哲学は*『支配の力』*だ。強い者はより強く、弱い者は利用され使い捨てられる。それが閻王国の鉄則だ。)
訓練が終わり、主人公はNPCの仲間、バルカスに近づいた。バルカスはゲーム知識では、この後起こる魔族の襲撃で、**「敵に特攻をかけて壮絶に戦死する」という役割の「使い捨てのNPC」**だった。
バルカスは肩の脱臼を治そうと呻いていた。
「助けてやろうか、バルカス」主人公は声をかけた。
バルカスは驚いた表情を浮かべた。「ライオネルか。珍しいな、他のPC…いや、他の兵士は自分の傷しか気にしない。貴様も自分の力を温存すべきだ。」
「なぜだ?」
「なぜ、だと?」バルカスは肩を入れながら、苦しげに笑った。「ここは閻王国だ。力を出し尽くした者は、次の戦いのための「盾」として扱われる。グラディウス様は、弱い者には何の価値も見出さない。我々の命は、彼の力の支配を永続させるための道具でしかない。」
その言葉は、ゲームの「設定」が「生きた真実」として主人公の胸に突き刺さった。バルカスはデータのはずなのに、彼の顔には絶望と諦念が浮かんでいた。彼らは「作られた命」かもしれないが、その感情は本物に見えた。
その時、グラディウスが彼らの傍らに現れた。彼の目には、バルカスへの微かな憐憫さえなかった。
「バルカス。貴様の肩は次の戦いで持つまい。後方支援部隊に入れ。そしてライオネル」
グラディウスは主人公を見据えた。
「貴様の力は、この要塞で最も価値がある。故に、貴様には最も危険な前衛を任せる。貴様の生存確率は下がるが、それが力の対価だ。貴様が死ねば、代わりはいくらでもいる。だが、貴様の力がこの世界に勝利をもたらすなら、その命は国の意志として燃え尽きるべきだ。」
主人公は静かにグラディウスを見返した。グラディウスの瞳の奥には、「支配」と「傲慢」に塗り固められた「力の境界線」が見えた。彼は、PCの命すら、自分の力の哲学を証明するための道具としか見ていない。
(違う。バルカスは死ぬ。私は、ここで死ぬ運命ではない。私の命は、お前の*「支配の哲学」*を永続させるための道具ではない!)
主人公の胸に、台本を破るという、非合理な使命感が湧き上がった。彼は、バルカスと自分自身の命を、この**「力の支配」**から解放しなければならない。
「グラディウス様」主人公は低い声で言った。「私は、無駄な死は望みません。私の力が勝利のためだけにあるなら、あなたの**『使い捨て』**の戦術は、最も非効率だと証明して見せましょう。」
グラディウスの顔が微かに動いた。彼の哲学に疑問を投げかけるPCなど、過去にいなかったからだ。
「面白い。ならば、辺境都市で証明してみせろ。貴様の力が、私の哲学を超えるかどうかをな。」
主人公は、静かに頷いた。バルカスを救い、自らの命を守るためには、台本通りではない、最も効率的な「救出と勝利のルート」を、この後起こる辺境の惨劇で実行するしかなかった。
第2話 完
第2話では、グラディウスの「力の支配」の哲学と、主人公の「台本知識による反抗」の萌芽を描きました。
次は第3話「辺境の惨劇」、魔族による大規模襲撃で主人公が世界の危機を実感する展開です。