「貴様は、最も合理的で、最も非合理な行動をとった。その意味を答えろ、ライオネル。」
魔族の将、レガトゥスの撤退後、辺境都市には重苦しい静寂が訪れた。グラディウスは、主人公のライオネルの前に立ち、その粗暴な顔に、かつてないほど複雑な表情を浮かべていた。
主人公は、魔力の余波を受けて意識を失ったバルカスを、負傷兵の元へ運び終えたところだった。
「なぜ、私の指示を無視した?」グラディウスの声は低いが、怒りよりも困惑が滲んでいた。「貴様は、あえて最も危険な攻撃の射線に飛び込んだ。それは、個人の生存確率を極限まで下げる、愚かな行為だ。」
主人公は静かに答えた。「私の行動は、貴方様の哲学から見れば愚かでしょう。しかし、勝利のための最善手でした。」
「最善手だと?貴様一人でレガトゥスを倒せるとでも思ったか!」
「いいえ。私は、バルカスという兵士の命を、一撃で失う可能性を排除しました。彼の命は、貴方様の戦術では**『使い捨ての道具』**です。しかし、私にとっては、未来の戦力を温存するための、最も重要な駒です。」
主人公は続けた。「レガトゥスの魔力攻撃は、バルカスの位置へ向かっていました。彼は後方支援部隊で、その一撃で死亡すれば、部隊の士気は崩壊していたでしょう。私が射線に入り、バルカスに*盾を構えさせるという、一瞬の「猶予」*を創り出す。これは、私のHPと引き換えに、バルカスの命と部隊の士気を守るという、長期的に見て最も合理的な選択です。」
グラディウスは言葉を失った。彼の**「力の境界線」**に、主人公のロジックが深く食い込んだのだ。
(ライオネルは、個人の命の価値を、戦術の合理性の中に組み込んだ。それは、私の**「弱者は使い捨て」**という哲学の、完全な否定だ…)
グラディウスは、常に**「全体の勝利」のためには「個の犠牲」は避けられないと考えていた。だが、主人公は「個の命の温存」が、結果的に「全体の勝利」**に繋がると証明した。しかも、その証明のために、自らの命の危険を顧みなかった。
「貴様は… なぜ、そこまで他者の命に執着する?」グラディウスは尋ねた。
主人公の答えは、彼自身の命の重みから来る、偽らざる真実だった。
「私は、無駄な死を許容できません。貴方様の世界では、命は道具かもしれませんが、私の世界では、命は一度きりの現実です。そして、命は力そのものです。その力を、支配のためではなく、仲間の奉仕のために使う。それが、私にとっての力の哲学です。」
グラディウスの粗暴な手が震えた。彼は長年、力と支配の世界で生きてきた。その中で、**「奉仕」**という言葉は、最も弱々しい概念だと嘲笑してきた。
しかし、今、彼の前で最も強い力を持つPCが、**「奉仕」**のために命を懸けた。これは、彼の長年の信念に対する、明確な挑戦状だった。
「…全精鋭部隊は、貴様を武力規律違反として罰することを求めている。」グラディウスは冷酷な顔に戻った。「だが、貴様の行動が、結果的にレガトゥスの撃退という最大の成果を生んだことも事実だ。私は、貴様を罰することはしない。」
彼は一瞬、目を閉じた。そして、再び開いた目には、**「支配」の光ではなく、「探求」**の光が宿っていた。
「ライオネル。貴様は私に疑問を与えた。貴様の言う**『奉仕の力』が、私の『支配の力』**を本当に超えるのか…私は、その答えを見極める必要がある。」
「故に、貴様は私と共に、三国王会議に出席する。そこで、貴様の**『非合理な哲学』を、知恵と技術の指導者たちにぶつけてみろ。彼らの哲学の境界線も、貴様が破壊できるか、見せてもらうぞ。」
主人公は内心で舌打ちをした。三国王会議は、台本上、各国の不信感が露呈し、必ず決裂する運命のイベントだ。グラディウスの行動は、台本をわずかに逸脱した。だが、これは、台本を完全に破壊する最大のチャンスでもあった。
(グラディウスは、私を「支配の道具」ではなく、「哲学の証明のための実験体」として扱おうとしている。だが、それでいい。私は、この機会に、三つの指導者全ての哲学の境界線を破壊する!)
主人公は、戦斧を強く握りしめた。彼の命を懸けた非合理な一歩が、ついに世界を動かし始めたのだ。
第4話 完
第4話では、主人公の行動がグラディウスの哲学に与えた影響と、主人公が三国王会議という次の舞台へと導かれる展開を描きました。これにより、物語は**「不信の三国王会議」**へと進みます。
次は**第5話「力の境界線」**で、グラディウスと主人公の哲学的な対立を深掘りする展開を執筆します。