「貴様の言う『奉仕の力』は、私の数千年の支配の歴史を否定する。だが、その否定に、私は抗えない。」
辺境都市での激戦を終え、主人公ライオネルはグラディウスと共に閻王国の本拠地、**『鉄の誓い要塞』**へと戻った。要塞内部の空気は、以前にも増して重い。グラディウスの動揺が、兵士たち全体に伝播していた。
グラディウスは自身の執務室で、鎧を脱ぎ、剥き出しの腕に刻まれた古傷を見つめていた。その傷の一つ一つが、彼が**「力こそ正義」**と信じてきた歴史を物語っている。
「来い、ライオネル」
グラディウスの声に、以前のような傲慢な響きはなかった。ただ、自らの存在理由を問い直す者特有の、静かな重みがあった。
「貴様は、私に**『力の境界線』を突きつけた。貴様は私の哲学を、最も効率の悪いものだと証明した。私の哲学では、あの時、貴様が死に、バルカスも死に、私は『更なる力』**でレガトゥスを追撃するのが正解だった。」
主人公は静かに返した。「しかし、それでは力を持つ者同士の憎しみの連鎖しか残りません。あなたの哲学は、最終的に世界を枯渇させる。誰もが恐怖と支配から逃れようと、力を求め続けるからです。」
「ならば貴様の言う**『奉仕の力』**とやらは、何を生む?」
「信頼と繋がりです」主人公は即答した。「バルカスは、私が命を懸けて彼を守ったことで、私を信じるでしょう。私はその信頼を、次の戦いの協力に使う。力は、支配のためではなく、命を守るという奉仕のために使う時、初めて永続的な価値を生みます。」
グラディウスは椅子を蹴り、立ち上がった。彼の怒りが再び沸点に達したかに見えたが、それはすぐに、苦悩に満ちた呻きに変わった。
「くだらん! 信頼など、感情という不確かなデータに過ぎん! それは、私たちが数千年かけて積み上げてきた力の歴史を、たった一度の自己犠牲で塗り替えようというのか!」
主人公は、彼が**「感情」を「データ」と呼ぶ点に、この世界がゲーム**であることを再度認識しつつ、言葉を選んだ。
「いいえ。私は歴史を否定しません。ただ、あなたの歴史が行き詰まっていることを示しているだけです。魔族の将は、私たちの無益な争いを理由に世界を滅ぼそうとしている。その争いは、まさしく力による支配の連鎖から生まれている。あなたの歴史は、ゼノスの正義を証明しているのと同じです。」
その言葉は、グラディウスの核心を突いた。ゼノスが人類の滅亡を企む動機は、「人類の無益な争い」だ。彼の哲学は、ゼノスの正義を間接的に肯定していたのだ。
グラディウスは自らの剣を取り、それを床に突き立てた。
「貴様は…私の存在理由を揺るがした。私の人生は、力の支配の境界線を築くためにあった。もし貴様の言うことが真実なら、私は世界を救うべき存在ではなく、世界を疲弊させた悪役だったということになる。」
彼は、閻王国の最高指導者としての威厳と、一個のNPCとしての葛藤の境界線で激しく揺れていた。
「だが、私はまだ、貴様の言う『信頼』を信じられない。貴様は私を実験体として扱った。私も貴様を、私の哲学を乗り越えるための**『答え』**として利用する。」
グラディウスは剣を抜き、主人公に告げた。
「明日の三国王会議で、貴様は私と共に臨む。貴様はそこで、真王国の知識の境界線と、霊王国の技術の境界線を、その**非合理な『奉仕の哲学』で打ち破れ。もし、貴様が彼らの不信を打ち破れれば、私は貴様の『奉仕の力』**を信じる。」
「それが、あなたにとって支配を捨てるための道ですか?」主人公は尋ねた。
グラディウスは目を閉じ、低く答えた。
「これは、世界を救う最後の可能性だ。私の力の哲学が、貴様の信頼の哲学に屈する時、真の統一戦線が生まれるかもしれん。行け、ライオネル。貴様がこの世界の運命の特異点であることを、私に証明しろ。」
主人公は静かに頷き、執務室を後にした。彼の背後で、グラディウスは再び、自らの歴史が刻まれた腕の傷を見つめ、力の境界線の崩壊に苦悩していた。
第5話 完
第5話では、グラディウスが主人公の哲学を**「自らの存在否定」として受け入れ、主人公を「答えを見つけるための実験体」**として三国王会議に送り出す展開を描きました。
次は**第6話「不信の三国王会議」**で、三国の指導者が集結し、各々の哲学と不信感が露呈する展開となります。