次回はちょっと原作前の話が挟まる予定。
全員の食事が済むと、俺たちは外に出て訓練を始めることにした。
食後の運動は体に悪いと言うが……まあ、まずは軽い運動から始めよう。
とりあえずシュタルクを開けた場所まで誘導し、木製のバトルアックスを渡す。
俺は隣の魔族を紹介することにした。
「アウラの配下の”リーニエ”だ。お前の訓練相手だ…2人とも仲良くするように」
「よろしく」
「あ、どうも…」
リーニエは魔力探知を得意とする魔族で、対象の魔力の動きを模倣して自分も同じ動きを忠実に再現する固有魔法『
こいつは昔、アイゼンの動きを見て記憶している…そう言う意味では相性がいい。
「おい、リーニエ」
俺は、小声でリーニエで話しかける。
リーニエの体が少し震えたが、気にしなかった。
「とりあえず、シュタルクの動きを模倣して相手してやれ。案外、自分の視界だけだと本当に自分がどう動いてるのか完璧には分からないものだ。シュタルクの体が温まってきたら別の戦士の動きを混ぜて攻撃しろ…動けるくらいには骨にヒビを入れてやれ」
「はいっ、がんばりますっ」
……ひどく怖がられたものだ。
まあ、仕方がないと思って諦めよう。
「ああ、それと…メンタルの修行も並行してやるか」
「…?どうやって…」
「リーニエ、一回思いっきり俺の顔を睨んでみろ」
「!?」
首が取れるんじゃないかと思うほど横に振っている。
じゃあ、こうするとしよう。
「シュタルクを睨んでみろ」
「……」
「うーん、子猫の癇癪って感じの顔だな」
「すみませんっ、すみませんっ!」
「あ、いいから……じゃあ、こう考えろ。あいつはお前の大好物の林檎のパイを全部盗みぐいした挙句『まあまあだな。でも俺って林檎より梨の方が好きなんだよな…げっぷ』とか言った男だ」
「!!!」
凄い剣幕だ…ネコ科はネコ科でも獅子とか山猫の類の顔になっている。
まあ、時々ソリテールが浮かべる真顔とかの方が全然怖いが。
「え、何?何なのこの子…怖いよ!?」
「ぶっころす…」
「やだー!」
案の定、効果覿面だな。
やはり、あの年頃の男の子は同世代の異性からの敵意に弱い。
体はまあまあ丈夫そうだから、こっちを主体に鍛えよう。
「お、準備万端だな」
「はい」
「……」
俺はログハウスの近くに戻ると、杖を構えたフェルンと向かい合った。
初対面の頃は怖がられていたが、今はとても落ち着いている。
流石は南側諸国の生き残り……シュタルクよりメンタルが強いな。
俺はフェルンの隣で保護者のように仁王立ちするフリーレンに目線を送る。
おそらく、ある程度はこのクソボケエルフから仕込まれているはずだから、魔法についてとやかく言う必要はないだろう。
「あ、杖は仕舞っていいぞ…まずは準備運動からだ」
「準備…運動?」
「丸い魔力の塊作れるか?ゴムボールくらいのやつ」
「はい」
フェルンは魔力の塊を空中に出現させた。
まあ、これくらいなら初心者でもできるか。
「じゃあ、それに擬似的な質量と擬似的な重力を加えて、物理演算してみろ」
「はい」
空中に固定されていた魔力の塊が、まるでりんごのようにコロンと地面に落ちて転がる。
これで初心者脱却ってところかな。
「…ふあ…ねむい」
フリーレンはそれでなんとなく察したのか、興味が失せたようにあくびをし出した。
まあ、多分こいつくらいの古い魔法使いはみんな気付くだろう。
俺は落ちてる魔力の塊を持って投げる動作をする。
「この状態を維持したままキャッチボールしよう」
「…はい」
俺たちは数回、キャッチボールを繰り返した。
これで中級者入門ってところかな……うん。
「すごいなこの子、魔法習いだして何年だ?」
「8年だね」
「うわー……俺より魔力コントロール上手くなりそうだわ。育てるの面白そうだ」
「やらんぞ」
「知ってた……じゃあ、キャッチボール中止」
俺は魔力の塊をフェルンに投げ返してすこし近くに寄った。
少しだけ、魔力コントロールがブレた……やっぱりまだ怖いんだろう。
俺は手のひらを上に向けて両手を突き出す…フェルンも俺の手を真似た。
「同じ状態のボールをもう片方の手に作れるか?」
「…はい」
「できたな。じゃあ、それを自分でジャグリングできるか?」
「…………はい」
おぉ、ちょっと動きがぎこちないが、ちゃんとできてる。
これで中級者の真ん中あたりかな…まあ、俺基準だけど。
まあ、フリーレンも特に驚いた表情はしてないし、あながち間違いでもないはずだ。
「じゃあ、3つで」
「…………すみません、無理です。普通のボールならできますが…」
「じゃあ、それをとりあえず10分続けよう」
俺は体内時計で正確な時間を測り始めた。
フェルンの様子ならまあ10分くらいなら何とか続けられそうだ。
ふと、俺の隣につまらなそうな顔をしたフリーレンがやってくる。
「魔力自体のコントロールか。ものすごい原始的な修行だね」
「まあ、最近の魔法使いって高度な魔法構築式に依存しがちだからな……正直、これに関しちゃ大昔の魔法使いの方が上手かった」
俺はフェルンを真似てボール”10個”でジャグリングを始める。
フリーレンはそれを見て対抗心を燃やしたのかボール”12個”で始めた。
俺たちはフェルンの集中が途切れないように、あの子の後ろで曲芸バトルを行う。
「よし、互いにボールを投げつつ22個のジャグリングと行こうかクソボケエルフ」
「臨むところだ…クソボケ魔族」
「あんた達、爺さん婆さんのお手玉対決みたいになってるわよ」
俺たちの様子をアウラは呆れた表情をしながら眺め、カップに紅茶を注ぐ。
そしてミルクをこれでもかとぶち込んで飲んでいた。
邪道な飲み方をしおって……その茶葉はストレートが一番美味しいと言うのに。
「あのリーベ…様…そろそろ」
俺がアウラを睨みながらついに”30”個目の追加をしていると、フェルンから声が掛かる。
聡い子だ、ちゃんと時間と精神力の割り振りをしている証拠だな。
「まだ”5分”だ…がんばれ、がんばれ」
「…はい……」
「ねえ、もう…」
「しー」
俺は空気の読めないエルフに小声で話しかけた。
「このまま30分くらいまで延長させて精神力と集中力を研ぎすまそう」
「……」
「……」
フリーレンとアウラはまるで畜生か鬼畜でも見るかのように引いていた。
仕方がないだろ、俺が魔王様から仕込まれた時のやつなんだから。
『ぎゃー!!!』
それから1時間経過して、森の奥からシュタルクの断末魔みたいなものが聞こえてきた。
同時に、フェルンの集中力も切れて膝から崩れ落ちる。
ものすごい汗だ…精神力と集中力を限界まで引き出したのだろう。
「はい、おつかれさま」
「あり…がとう…ございます…」
俺はタオルを渡し、塩と糖分が入った水をフェルンに渡す。
魔王様直伝の運動後の補給水だ、俺も旅の途中でよく飲まされた。
フェルンは飲み慣れない味に初めは眉をひそめたが、気にせずに全部飲み干している。
「よし、”準備運動”は終わったな……落ち着いたら少し走ってきなさい」
「え……」
「そうだな……今日は軽めに10キロメートルでいいぞ」
フェルンが初めの時以上の恐怖に震えた表情を見せている。
俺の隣にいるフリーレンに助けを求めるような視線を送るが、クソボケエルフは申し訳なさそうな表情で首を振った。
アウラはご愁傷様と言った感じの表情で紅茶と茶菓子を食べている。
「じゃあ、汚れてもいい服に着替えて走り込み開始」
「……」
「あ、ついでにアウラも走ってこい。フェルンはまだここの土地勘ないだろうから」
「え”」
2人を送り出した俺は夕飯の仕込みに取り掛かる。
クソボケエルフは床に寝そべりながら怠惰に本を読んでいるだけだった。
「あ、お疲れ様、ご飯の準備できてるぞ」
「……ごめなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「……ハイター様が見えた、ハイター様が見えた、ハイター様が見えた」
夕暮れになった頃にフェルンとシュタルクの修行が終わり、疲れてしまったのかご飯も食べずに2人は死んだように眠った。
懐かしいな、俺も魔王様と旅に出たばかりの頃はこんな感じだった。
3日目の朝、私は起きて台所でパンケーキを焼いていた。
やはり師匠のパンケーキを一番食べていたのは私だ…あれを再現できるのは私だけだろう。
「ん、珍しく早起きだな…パンケーキか、焼いてやろうか?」
背後から髪を下ろしたリーベが現れ、フライパンや木のボールの中を覗く。
私は邪魔だと手を振った。
「お前のは私の食べたいパンケーキに近かったけど、やっぱり違う…何というかお前のは上手すぎる」
「そりゃどうも…でもそこ俺の……いやアウラのキッチンだな」
リーベは近くの丸椅子に座ると、髪にオイルをつけて整え出した。
少し白髪が生えたが、それでも外見は変わらずに中性的で若々しい。
こうして見ると、まるで人間の女だ。
私はパンケーキの生地を混ぜながら聞きたかったことを尋ねる。
「何で、アウラの家にいるの?」
「ん?…まあ、ここ俺が建てた家だし、住み心地がいいから入り浸ってるんだよな。綺麗な結界も眺めるし、ロケーションいいよな」
「…?…何でお前がアウラの家を建てる必要が?」
「俺が壊したから」
「は?」
振り返ると綺麗に髪を三つ編みに束ねたリーベが、いつもの外套を纏って立っていた。
背後からおい被さるように、私の焼くパンケーキを眺め出す。
「……おまえ、それ焦げるぞ」
「いいんだよ…私は焦げた方が好きなの」
「じゃあ、俺の好みの焼き加減とは違うな…隣で別の料理作っていいか?」
「どうぞ」
私たちは特に話すこともなく朝食の準備を黙々と進めた。
「おはよー」
「リーベ様、おはようございます!」
「…あぁ、おはよう」
30分ほどして、寝ぼけたアウラと…やけに気合の入った挨拶をするリーニエが2階から降りてきた。
アウラは顔を洗うと紅茶を淹れ始め、リーニエはリーベの隣で料理の手伝いを始める。
「お、2人ともおは…」
「リーベさん、おはようございます!」
「おはようございます!」
「…うん、そんな畏まらなくてもいいぞー」
『ありがとうございます!』
「……」
数分してフェルンとシュタルクが2階から降りてきた。
初めはまだ疲れが残っていてぼうっとしていたが、リーベに声を掛けられた瞬間にリーニエのように綺麗な90度の姿勢で挨拶をしていた。
まるで軍隊みたいだった。
私たちはしっかりと朝食を取ると、最後の訓練を始めた。
シュタルクはリーニエといつものように模擬戦を行っている。
初めの頃はシュタルクの動きを模倣していたリーニエも、今はかつてのアイゼンの動きを模倣して戦っていた。
2日目はさすがにリーニエに圧倒されていたが、今ではシュタルクが捨て身でリーニエに襲いかかっている。
途中、徒手空拳の試合なんかもやっていたが……。
『えっち』
『あ、ごめ…ぐえー!?』
『隙ありだね』
『あれ?すっごい聞き覚えのある叫び方だな』
リーニエを羽交い締めにしたシュタルクがなぜか逆にピンチに陥っていたな。
そして、それを見ていたフェルンの機嫌が少し悪かった。
逆にリーベは……。
『うーん、ヒンフリでは無かったタイプの栄養が吸収できて美味しいわ』
感慨深そうに2人を眺めていた。
相変わらず、こいつの考えていることはよく分からない。
「じゃあ、俺とフェルンとで模擬戦やろうか。本当はリュグナーとか呼びたかったけど、俺ってあいつに怖がられてるからな…」
「あいつ、リーニエより酷いことになると思うわよ」
「何があったの?」
「うーん、長いぞ。小説でいうと上中下くらいあるけど聞くか?」
「じゃあ、いいや」
気にはなったが、長そうな話になるようなので断った。
「フェルンは何の攻撃魔法が得意だ?」
「”一般攻撃魔法”です」
「ああ、ゾルトラークか。俺も嫌いじゃないぞ、あの魔法…きっとクヴァールもあの世で喜んでるな」
杖を構えたフェルンの前にリーベが至近距離で立つ。
あまりにも近すぎる間合いに、フェルンも私も少し困惑した。
「えっと、リーベ様…?」
「撃ってきていいぞ」
「えっ」
「正気?その子、私より早いよ…」
「ほう、そりゃすごい。でも関係ないな」
リーベは手袋をした左手を前に出し、フェルンの杖のすぐ前へと突き出した。
その余裕の態度にフェルンの表情が僅かだが苛つきを含んでいく。
私は止めようとしたが、リーベは……。
「殺ってみろ、”お子ちゃま魔法使いちゃん”」
右手で下まぶたを引き下げ、小馬鹿にしたように舌を出した。
その瞬間、フェルンのスイッチが完全に入ったことが側から見てもわかった。
だが……。
「!?」
フェルンが困惑の表情を浮かべた瞬間、リーベが凄まじい速度でフェルンの背後に回り込み、殺気のこもった指先があの子の喉元に触れる。
「はい、一回死亡……やっぱり今の魔法使いは甘いな」
「っ……はぁ、はぁっ!」
指を離したと同時にフェルンの体が地面に崩れ落ちる。
私は、その光景を見てもいまだにその現実が受け入れられなかった。
「2人とも、どうしてゾルトラークが”発動しなかった”って顔だな……だから言っただろ。高度な魔法に頼りすぎるなと」
「それは……まさか」
手袋を外したそこには、左手に鏡蓮華の指輪がはめられていた。
だが、その意匠よりも重要なのは…指輪にはめられた高純度の封魔鉱だった。
この世で唯一、魔法の発動を封じ込めることができる希少な鉱石。
ゾルトラークが発動しなかった原因は分かった…だが。
「絡め手を使う魔族は多い……まあ、俺みたいな手法使う奴は多分いないと思うがな。でも人間の軍人とか使ってくるかもしれないから気をつけておけ」
「どうしてそれを付けたまま魔法を使えたの?あの動きはお前の純粋な身体能力によるものじゃない」
「ん?何だ分からなかったのか…意外と頭固いな」
リーベは指輪に魔力を込めると、封魔鉱が眩しく輝き始める。
「知らないのか?封魔鉱はな、魔力をめっちゃ”込める”と……めっちゃ光るんだぞ」
「……うん、それで?」
何やら聞き覚えのあるフレーズに首を傾げたが、私にはそれだけでは分からなかった。
座り込んでいるフェルンも同様に首を傾げている。
リーベはそれを見て少し黙り込んだが、すぐに意地悪そうな作った笑みを浮かべて…。
「そこまで教えてやる義理はないから、あとは自分で考えてみろ」
気分が良さそうに私たちに告げた。
やっぱり、むかつくなこいつ。
こうして、フェルンの訓練は終わった。
恐怖で腰が抜けているあの子には悪いが、格上の魔族に殺され掛けたという経験が何よりの宝になるだろう。
シュタルクの訓練も終わったのか、夕方には傷だらけの2人が帰ってきた。
「じゃあ、みんなお疲れ様!鞭のあとは飴が重要だと俺をシバいた魔族が言っていたので…特大の飴玉を用意したぞ」
『こ、これは!?』
テーブルに着席した皆が、テーブルに並べられた料理を見て驚愕した。
みんなの大好物の料理がこれでもかと並べられている。
アウラは野菜たっぷりのシチュー。
リーニエはたっぷりリンゴの入ったアップルパイ。
フェルンは生クリームとフルーツたっぷりのホールケーキ。
シュタルクはちゃんと大きいジャンボベリースペシャル。
そして私は……いつものステーキだった。
「おい、何で私だけいつものやつなんだよ」
「てめぇは何もしてねえだろ…クソボケエルフ」
私たちが睨み合っていると、他の皆は料理に舌鼓を打っている。
私はしょうがなくステーキをやけ食いし、リーベは意外にも質素な食事をしていた。
「うん、まあいつもの…あのシチューね。美味しい」
「むぐもぐ」
「こんなに幸せでいいんでしょうか…ねえシュタルクさ」
「ふぐ…う……ひんっ」
「シュタルク様?」
シュタルクは巨大なジャンボベリースペシャルを前に、腕で何度も顔を拭き、そして嗚咽を漏らしている。
そんなに美味しかったのかと見てみれば、まだ一口も付けていなかった。
「ジャンボベリースペシャルがちゃんとジャンボだぁ…うれじい…ひん」
「ふっ、おあがりよシュタルク。それは俺が苦労して店主をばい…説得して手に入れた本家秘伝のレシピだ」
「はいっ!……あれ、師匠と昔食べた味と少し違うような」
「ふっ、それはプラシーボ効果、思い出補正というやつだ。バカ舌だなおクソバカシュタルクめ」
「すっごい罵倒されてる…でも昔食べたやつよりすごい美味しいです!リーベさんありがとうございます!」
一瞬、固まったリーベがこちらを向いた。
「え、あの子めっちゃいい子じゃん…ヒンメルとは違うけどめっちゃ推してぇ」
「だからやらんぞ」
「知ってるって…うん、でも気分いいからシュタルクにお小遣いあげよう」
「え、別にいいで……おっも!?」
シュタルクの両手に金貨でいっぱいになった袋が置かれた。
私もフェルンもその金額に驚く。
「これどうしたんだ」
「ふっ、俺の書いた『ヒンメル戦記』の印税と、『マハリー物語』のロイヤリティだ。無論、ヒンメル本人から許可を得ている」
「あ、すごい有名な歴史小説と恋愛小説ですよね。私もハイター様に読み聞かせしてもらいましたが、面白かったです」
「ありがとう、ソリテールも喜ぶぞ。ちなみにヒンメル戦記の挿絵はリヴァーレとアウラが描いた」
「え、本当?」
「ん、まあ…適当に描いたやつだけど」
試しに一枚描かせてみると、確かに中々上手な絵が出来上がった。
もう1人のイラスト担当は戦闘シーンがメインの迫力ある構図を描いているらしい。
みんなあのシーンが良かったとか、あそこがすごかったと語り合っている。
私は読んだこともない小説の話題に置いていかれ、1人で寂しくステーキを食べていた。
そしてすぐに平らげてしまった。
「ん、もう寝るのかフリーレン?」
「うん…明日も早起きしたいからね…おやすみ」
私はみんなにお休みの挨拶をして、すぐに就寝した。
翌日、何とか早起きして一階へと降りていく。
すでに誰か起きているのか小さな物音が聞こえた。
「お、起きたか…ひどい格好だな」
パンケーキを作る準備をしていたリーベが寝癖だらけの私に話しかけてくる。
私は悪態をつこうとするが……あくびが止まらずに口を抑える。
「今のお前に料理させるのは怖いな…俺が昨日の分のご馳走を今作ってやるよ」
ご馳走がパンケーキとは…随分と安く見積もられたなと私は思った。
しかし奴は、返事も待たずにいつもの手慣れた手つきで料理を始めている。
しょうがないので、私は近くの丸椅子に腰を下ろして船を漕いでいた。
「実は俺さ、魔法都市オイサーストにちょっと行く用事ができたんだよ。だから途中までお前らの旅に同行するけどいいよな?」
「……」
断ろうとしたが、眠くて声が出なかった。
しばらくすると、何やら香ばしい香りがしてくる。
こいつが前に作ったパンケーキの甘い香りとは少し違っていた。
「ほい、できた。俺らで先に朝食を済ませておこう」
「ん……」
重い瞼を開けると、そこにはあいつが食事前に祈る姿が映った。
奴は私の向かい側に座り、よく見れば私たちの膝の上に皿が乗っている。
「珍しいな…焦がしたのか?形もひどく歪だ…」
「いいから食えって…案外いけるぞ」
出来上がったパンケーキは予想外にもひどい出来だった。
しかもハチミツが塗ってあるだけのシンプルなタイプ。
向かいに座るリーベは特にそれを反応なく食べている。
私はため息をついてそれを口に押し込んだ。
「………」
硬直している私を見て、リーベが何かを懐かしむような目つきで、その不恰好なパンケーキを見つめた。
「何でかな…フリーレン。何枚も完璧な焼き加減のパンケーキを焼いて、それを食って…すげえ美味しいのにさ」
「……っ」
私は体の震えを止めることができず、膝に乗った皿を必死に抑えた。
「ちっとも……満たされた感じがしないんだ…」
「あ…う、…っ」
震える口を片手で押さえ、その味がこぼれ落ちないように必死で抑えた。
「”じゃじゃ馬娘”が作ったような焦げたパンケーキがさ…無性に食いたくなるんだ…俺も」
「あっ…ひっぐ…ああ!」
震えるナイフとフォークで、何とかそれを切り分けて、涙でボロボロになった顔で消えてしまった思い出の味に食らいつく。
それを、どこか穏やかなで目の前の男は見つめ、飲んでいた紅茶をテーブルの上に置いた。
「お前は俺の大切な人たちが託したクソボケエルフだ。お互い、生きてるうちはたまにこうしてパンケーキを食おう」
「あああぁ!うわあああ!!」
泣きじゃくる私の頭に手を置き、リーベはぎこちなく撫でた。
朝日に反射したその黒髪は、まるで赤毛のようで…大切な誰かを思い出させる。
絶対に認めたくはなかった……フランメと似た魔族の存在など。
(ああ、本当にムカつくなこの男は…)
だから私は、目の前のこの男が大嫌いなんだ。
リーベ「リーニエ、シュタルクはどうだ?」
リーニエ「はい!強くなると思います!」
リーベ「ふむ、他には?」
リーニエ「はい!硬くてタフな人間です!」
リーベ「…他には?」
リーニエ「……時々、化け物かこいつと思ってちょっと引きます!」
リーベ「そっかぁ…」