もう付き合っちゃえよ(真顔)   作:オールドファッション

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今回は短めで、一部オリキャラの名前だけ登場。一発キャラなので今後は登場しません。
モチーフは某ゲームの金髪ドリルさん…。


下らない土産話をありがとう【閑話】

 その男と初めて出会った日のことを、今でも覚えている。

 あれは、魔王様の命令で人類の村をひとつ滅ぼした日の事だった。

 数えることさえできない、何度も繰り返した殺戮と蹂躙の作業。

 今までに滅ぼして来た村落の内のたったひとつの出来事だ。

 

「お前がマハトか?」

「……誰だ?」

 

 燃え盛る炎の中から、それは燃えかすになった建物の残骸を踏み壊しながら現れた。

 まるで面識もない魔族の……おそらくは男だろう。

 女と見まごうような中性的な容姿だが、服装や立ち居振る舞いで男だと分かった。

 美しい顔を台無しにするような、まるで生気のない、死人の顔を浮かべて幽鬼のように歩み寄ってくる。

 

「俺は……まあ、魔王軍の新参者だな」

「だろうな。俺もお前の顔を見たことはない…で、何用だ?」

「……」

 

 男は無言のまま、俺の顔も見ずに横を通り過ぎて行った。

 俺の背後にある黄金に変化した人間の像に近づき、手袋をとって手を触れる。

 

「……」

「何をしている」

「なるほど…確かに解除可能だ。俺たち以上に化け物だな…あのクソボケ魔法使い」

「おい」

 

 俺の聞こえない小声で、何やら奴はブツブツと呟くと…男は振り返ってこう言った。

 

「何も面白くもない……つまらない魔法だな」

 

 男は、この世の全てに興味を失ったような濁った瞳で俺を見つめている。

 ああ、こいつは本当に俺を理解しているのだと、今もその光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

【魔王討伐1ヶ月後】

 

「ヒンメルの旅が終わった…もうムリィ…世界滅ぼそ」

 

 目の前に座るリーベは、昔に出会った時とは別種の方向性で顔が死んでいた。

 白く燃え尽きた灰のような顔をガーデンテーブルに伏せて、口の端から呪詛のようなものが流れ出ている。

 俺は漂う呪詛を手で払いながら紅茶を淹れた。

 

 数年前まで、この男は人間の女に化けて屋敷に来ていたが、ヴァイゼでの俺の地位がある程度確立した今は、魔族の知己としてこの屋敷に招くことができるようになっていた。

 俺はこれでようやくつまらない色恋話に巻き込まれなくて済むと思ったのだが、何やら巷では例の本の最新刊『マハリー物語五巻・金色VS漆黒…やめて!私のために争わないで!』が発売されてマハリー界隈で波紋を呼んでいるらしい。

 

『マハト様!私はマハリーの味方です!頑張ってください!』

『マハト様!リーベリー派に負けてはいけませんぞ!』

『マハトさん!わたくしに勝ったのですから、リーヴェリットさんをどこ馬の骨かも分からない魔族に取られてはなりませんわよ!』

 

 と、各所から謎の応援の手紙が頻繁に届いている。

 気のせいか、ヴァイゼの住民の目も暖かだ……二日酔いでもないのに頭が痛い。

 ちなみにリーヴェリットという名前は、こいつが人間の女に化けていた時に名乗っていたものらしい。

 ああ、リーヴェリットといえば…。

 

「そういえば…先ほどまで例のご令嬢が来ていたぞ」

「あー、ルヴィア嬢か……あの子もしつこいな」

 

 元南側諸国出身の豪商貴族、エーデルフェルト家のご令嬢。

 中央諸国に新鮮な果物や野菜を運搬していたエーデルフェルト商会であったが、南側諸国の内戦が激化する前に中央諸国へと拠点を変えて、現在では北側諸国に商品を運んでいる。

 俺が前回、この男に提供したパンケーキのオレンジや、レクテューレ様がご愛飲されてるオレンジジュースはこの商会から買い取っている。

 

 ヴァイゼの食糧事情にも関わる重要人物の娘なので、俺も何度か顔を合わせたが…周囲が言うには、彼女はどうやら俺に一目惚れをしたらしい。

 しかし、リーベとのダンスの一件で矛先がリーベに向かった。

 ルヴィア嬢から何度もリーヴェリット宛にお茶会の招待状が届き、やむを得ず女に化けたリーベと対面させることになると……。

 

『ふっ、田舎臭い…あら、ごめんあそばせ』

『貴族のマナーがなっていませんわね』

『そんなことも知りませんの?…正直に言ってあなたはマハト様には相応しくありませんわ!』

 

 このようにひどく詰られたらしい。

 しかし、この男は魔族だ…そのような悪態に特に反応することもなく相手の求めるマナーと知識を吸収した。

 そしてその辺から、ルヴィア嬢がだいぶ可笑しなことになっていったのだ。

 

『ふっ、面白い女性ですわね…こんなに根性のある方は初めてですわ』

『リーヴェリットさん…タイが曲がっていてよ』

『マハト様も冷たいですわ!リーヴェリットさんをいつも放ったらかして!』

 

 このように、しばらくして矛先が俺の方に向かった。

 ……いや、なぜだ。

 

 ある日、俺が魔族としての力をヴァイゼの住民や貴族に広く知らしめるため、人間の魔法使いと模擬試合をすることになった。

 その会場に突如ルヴィア嬢が現れ……。

 

『リーヴェリットさんを賭けて勝負ですわ!』

『……』

『やめて2人とも!私のために争わないで!……これでいいですかレクテューレ先輩』

『完璧です…むふー』

 

 観客や衛兵はそれを止めることもなく、俺たちの戦いを白熱した様子で観戦していた。

 リーベはレクテューレ様と何やら菓子を摘みながら、まるで少女同士の語らいのように会話していた。

 

「しかしすごいな、あのご令嬢…体に擬似的な魔力の回路を作って、肉体の強化と肉体操作を並行してたぞ。万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)を使わなかったとはいえ、純粋な肉弾戦で少しお前を押してたし…モンクならぬ魔法戦士って感じだったな」

「あれを無傷で気絶させるのは中々骨が折れた…」

「エグめの関節技とか食らってたもんな…魔族の体で助かったな」

 

 あの激闘のせいで更に例の本の新刊が売れに売れ、今やマハリー物語は大陸中で売られているらしい。

 そしてそのロイヤリティとして、名前の使用料がリーベに流れている…別に金に興味はないが、上手く利用されているようで少々不愉快ではあった。

 

「あ、そうだ」

 

 突然、リーベが何かを思い出したように手を叩く。

 

「そう言えばな、この前ルヴィア嬢にあったぞ」

「どこで?」

「海で」

「……なぜ?」

「レクテューレ先輩と海に行った時に」

 

 俺は紅茶をソーサーに置き、顔を伏せてた。

 正直、聞きたくはないが、俺の耳にレクテューレ様が海に行ったという情報は入ってない。

 だが、それでも主人の愛娘なので一応は聞いてみることにした。

 

「いつだ…」

「俺がこの姿で来るようになった夏頃だな…海行きたいっていうから連れ出した」

「お前…誘拐」

「お父さんには手紙残したって先輩言ってたぞ」

 

 そう言えば、その時期にグリュックが頭を抱えていた。

 聞いてもはぐらかされたが…なるほど合点がいった。

 

「でも大変だったな。海見るだけかと思ったら俺の泳ぐ姿見たいとか言い出して…しかもリーヴェリットの姿がいいって言うから、精神魔法で水着姿のリーヴェリットになったらルヴィア嬢と鉢合わせした…多分、計画的な犯行だな」

「現実の状況を考えると、ひどい絵面だな」

 

 あの精神魔法の幻影が遠隔操作なのか、着ぐるみのように幻影を被った魔法なのか…あまり想像したくない。

 もし後者なら目も当てられない惨状だ。

 

「あの日のルヴィア嬢はヤバかったな。肉食獣の眼光で迫ってきたからちょっと引いた」

「……それはソリテールには絶対に言うな」

「ふっ、遅い忠告どうも…いたた」

「どうしてレクテューレ様がお前に懐いているのだろうな…」

 

 俺の戸惑いに対してリーベは思い当たる節があるのか、顎に手を添えた。

 

「多分だがな。先輩は男を手玉に取ることに一種の快感を得てる可能性がある…だってそういう内容の小説を持ってたし。俺に羞恥心でも目覚めさせたかったんだろうが、俺は完璧に水着姿のリーヴェリットを演じきった…」

「…あとでタイトルを教えてくれ。処分しておく」

 

 道理で、屋敷の中でリーベではなくリーヴェリットと遭遇する確率が多いわけだ。

 実際、リーベの姿よりもリーヴェリットの時の方がレクテューレ様ははしゃいでいた。

 あの性格は奥様の遺伝なのだろうか。

 

「あれは生まれながらにして傾国の美女の素質を持っているな。俺、ちょっと先輩の将来が不安だ。まあ、俺らみたいなスパダリに囲まれて育ってるから恋愛対象見つけるの大変だろう…多分、結婚相手はヒンメルみたいな完璧超人だな」

「それはお前の好みだろう」

 

 俺はレクテューレ様の性格がこれ以上おかしくならないような相手を期待しておこう。

 あの方の手綱をしっかり握れる男ならもう誰でもいい。

 

『勇者さまバンザーイ!』

『これで世界が平和になる!』

 

 階下から歓声が広がっている。

 魔王様が勇者ヒンメルたちに討伐され、その知らせは大陸中に知れ渡っていた。

 このヴァイゼでも、いつかの日のように連日中祭りのように賑わいを見せている。

 それをぼうっとした表情で眺めたリーベが呟いた。

 

「死んだな…魔王様」

「そうだな」

 

 我らが魔族の首魁、多くの魔族が恐れと共に支配されてきた。

 それが死んだからとて、俺にはどうでもいいことだ…大多数の魔族が同じ意見だろう。

 しかし、思えば目の前の男は誰よりも魔王さまと過ごしてきた。

 その胸中に何が宿ったのかは、少々気にはなる。

 

 俺がリーベの横顔を眺めていると、奴は突然、こう切り出した。

 

「俺さ……あの人が死ぬ前に遺言聞かされた」

「何?」

 

 仮にも魔族を支配してきた王の遺言。

 それの内容によっては、残存する魔族全体にも影響が出る可能性がある。

 だが、奴はその内容を愚痴でも漏らすかのように口にした。

 

「”道は切り開いた”。達者で暮らせよ……だとさ」

「…それだけか?」

「ああ」

 

 恐らくリーベだけが分かる符号なのだろう。

 つまり、魔王様はこの男に最後の命令の様なものを残した。

 興味のないことは何も手がつかないこの男が動く命令を。

 俺が当てもない想像に耽っていると、リーベは愚痴を続けた。

 

「俺さ、魔王様のことが大嫌いだ」

「知っている」

「いつも死ねばいい思ってた」

「…考えが変わったのか?」

「いいや、まさか…でもな……あの人が最後まで馬鹿な理想を追い続けたのは、案外俺みたいなレアケースのせいで、止まることができなくなったのかもしれないな…」

「それが……”罪悪感”というやつか?」

 

 リーベの顔がこちらを向いた。

 いつもの真顔だったが、その目は何か物悲しさのような物を含んでいたような気がした。

 そして奴は、その視線を静かに落としていく。

 

「……さあな、それは自分で見つけろ」

 

 いつもの軽口も、ひどく平坦な声に聞こえた。

 まあ、どうでもいいことだ。

 

「ああ、言われずとも…いずれこの都市と新しい友人を黄金に変え、俺はその答えにたどり着くだろう」

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)を使うのか?…”殺す”のではなく?」

「殺すのと変わらないだろう?どうせ解除はできない」

 

 俯いたリーベが面を上げる。

 その表情は相変わらず真顔だったが、目の色が変わったように感じた。

 そして無理に笑ったような作った笑みを浮かべる。

 

「そうか…きっとお前はそれを得られるよ」

 

 そう言って、リーベは新しく紅茶を注ぎ始めた。

 珍しく、俺の空になったカップにも奴が紅茶を注ぎ出す。

 奴の初めて浮かべた笑顔に、俺は呆気に取られたままだった。

 

「なあ、マハト…」

「何だ?」

「ここに来て良かったか?」

「どうだろうな…」

 

 よく知りもしない神父から向けられた哀れみから、悪意と罪悪感を知るために北側諸国を練り歩いて来た。

 多くの村を滅ぼし、人間同士を戦わせて、人間を研究する魔族に無駄だと諭された。

 名もなき少年が抱いた罪悪感でようやく答えに近づき、新しい人間の友人を作った。

 そして、お前が来て慌ただしくも下らない毎日が続いている。

 

(ああ、そういえばなぜ…目の前の男を殺そうと考えなかったのだろう)

 

 魔族の中で、おそらく一番俺を理解していた相手だった。

 俺と同じく、すべてをつまらないと吐き捨てて生きていた同族。

 だが、今ようやく…その答えがわかった。

 

(俺もまた、この男の行く末が見たかったのかもしれないな)

 

 俺はきっと、それを見届けることは叶わないだろう。

 いつか俺は何者かによって屠られる。

 この都市と人間の友に黄金の呪いを掛けて、その罪によって誰かが俺を裁くはずだ。

 それでも……。

 

「そうだな…きっと俺は後悔だけはしないだろう」

 

 地獄で友と語り合う分の話題には尽きない筈だ。




リーベ「俺は許しませんよ先輩!そんな目つきの悪い小僧は絶対に認めません!」
デンケン「なんだこいつ…むかつくな」
リーベ「くっ!どこぞのクソボケを連想させるその目…俺は絶対に交際は認めません!!」
デンケン「お前は彼女のご両親か何かか?」
レクテューレ「いい加減にしてリーベ様!そんな事を言うなら破門しますよ!」
リーベ「そ、そんな!俺は先輩のためを思って…」
マハト(俺より奴の扱い上手いな…)

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