はー、甘露甘露
初めて魔王城でそいつと会った時、『ああ、こいつはすぐに死ぬな』と思った。
身長はあるが、筋肉のない体。
生気の抜け落ちた様な瞳。
何より、ちっぽけなその魔力量。
魔族は魔力量に応じた階級社会だ。
たとえ実力があっても、魔力が並以下だと集団にも入れてもらえない。
そういう魔力の少ない魔族は魔物とほぼ同じように区別されている…人権のない畜生だな。
だが、どういうわけだがそいつは魔王様の腹心シュラハトの直属の部下という地位を得ているらしい。
上には上のお考えがあるらしいが、目の前の畜生同然の魔族が、魔王軍の一員として城に足を踏み入れている……その事実はほとんどの魔族にとっては面白くないものだろう。
(まあ、俺は戦えればどうでもいい…小難しい話は賢い奴らが勝手にすればいい)
そういう意味では、俺とそいつとの対面はある意味、最良の選択だったのだろう。
呼び出された部屋には白い丸机と今回の任務内容が書き記された羊皮紙が置いてあった。
そいつは丸机のすぐ側に立ち、羊皮紙も取らずに何やらただ眺めている。
俺は残った任務の説明書を2つ見比べた。
元はもっと数があったようだが、他のやつらに先を越されたらしい。
しかし、俺は運が良かった…俺好みの仕事が残っていた。
「ははっ、戦士の村の殲滅…人間もドワーフもいっぱいいるな。ん、だがこれは…」
そこには細かに、その戦士の村を殲滅する日時が克明に書き込まれていた。
今年の物もあれば、遥か未来の時間を指定した物まである。
「どうやら、俺は遥か未来まで戦い続けることができるらしい…シュラハトの未来視というやつか」
時間に縛られるのは少し面倒だが、それでも嬉しい知らせだった。
俺が思わぬ朗報に浮き足立っていると、そいつは残った1つの任務内容を拾い上げている。
「おい、そっちは何が書いてある?」
俺はそいつの返事も聞かずに羊皮紙を奪い取った。
そして、その内容を軽く流し読みして、俺の浮き足立った気持ちが冷めて行った。
「”同族殺し”か…シュラハトはどうして下らない任務を下したんだ」
「意味があるらしい…千五百年後の魔族の未来のために」
静かだったそいつが、珍しく口を開く。
畜生の鳴き声に、俺は一々反応はしなかった。
見れば、弱い魔族もたくさんいれば手強い相手もそこそこにいる。
流石に未来まで指定されている俺の方が量はあるが、それでも数千はいるだろう。
俺は再び、そいつに視線を戻した。
(これがシュラハトの采配なら目の前のコレが適任の任務のはず……いや、どう考えても無理だろう)
シュラハトの未来視も案外役に立たないのかもしれない。
俺は羊皮紙をそいつの足元に放り投げて、早速書かれてあった村へと向かおうとした。
「なあ、あんた…時々俺の仕事を手伝ってくれないか」
「あ?」
突然、後ろから思わぬ言葉を掛けられたので、俺は振り向いた。
そいつは羊皮紙に書かれている魔族たちを眺めながら、俺を見ずに語りかけたようだ。
俺は、至極当然の言葉を返した。
「なぜ?俺がお前のために?」
「俺でも相性の悪い相手がいた時のために前衛が欲しい」
「聞こえないのか。断ると言ってるんだ」
「シュラハトや魔王様の命令でもか」
「……」
こちらも見ずに淡々と言葉を紡ぐ姿に、俺はただ呆れた。
そして最後の言葉には呆れを通り越して清々しさの様な物すら感じてしまう。
確かに、そう言われると大多数の魔族は断ることができない。
「…じゃあ、今度会った時にでも手伝ってやるよ」
どうせその時には、そいつは死んでいるだろうと思っていた。
そうして意味もない形ばかりの約束をして俺はその場を去った。
数秒後にはそいつの存在すら忘れて、ただ強い戦士と戦えることに再び浮き足立っていたのだ。
だが、俺は数年後にそいつと出会った。
あの時とは比べものにならない、まるで”大魔族の様な魔力”を纏ってそいつは魔王城を闊歩している。
「魔力量を……隠蔽していたのか?」
「…なぜ?俺がお前のためにそんな手間をする必要がある?」
聞き覚えのある言葉に、俺は数年前のそいつとの記憶が蘇った。
初めて出会った頃よりも、顔色はひどく青ざめている。
まるで死人のようだった。
いや、黒い外套と相まってまるで死神だ。
生気のない目だったそれは、今も変わらない。
だが、その目はまるで殺戮に飽きた捕食者の眼差しに変貌している。
体からは一切の死臭や血の匂いを感じないのにだ。
「なるほど、それがお前の固有魔法というわけか」
「……」
返答はもちろんない。
それを知る者はおそらく、シュラハトと魔王様だけなのだろう。
そいつは懐からあの羊皮紙を出すと、いつかの俺の様に俺の足元へとそれを投げ捨てた。
「約束…覚えてるか」
「ああ、今思い出した」
「任務は2割ほど済ませた…これ以上の急激な数の変化は他の魔族たちにも気づかれる。だから、今日から大物を少しづつ狩る」
「良いな、俺好みの仕事だ」
言葉もそこそこに、俺たちは暗殺対象の魔族の元へと向かう。
俺はふと、そいつに言葉を掛けた。
まるでそれが、初めてこいつとの会話の様に感じられた。
「お前、名前は?」
「…リーベ」
「俺はリヴァーレだ。しばらくは一緒だな」
俺はそういってそいつの肩を叩いたが…。
「ぐえー!」
リーベはまるで紙のように飛んで行った。
正直一瞬、手伝うの止めようかなと俺は思った。
【女神の石碑騒動から数日後】
「よっ、元気か?」
例の騒動から数日後、突然の来訪者に俺は固まった。
リヴァーレとは仕事での付き合いは多かったが、こうして奴が家を訪ねてくることは初めてだ。
目の前の男の入室を断りたいのは山々だったが、『ババン、ボンッ!』からまだ回復しきっていなかったので、奴を食い止める体力はなかった。
まあ、万全でも無理かもしれないがな。
「………………………………入れ」
「すごい間だな」
俺は渋々、リヴァーレを家の中に入れた。
奴は俺の家の中がそんなに珍しいのか、何回もキョロキョロと見回している。
ふと、奴がテーブルに置いてあるカゴを指差す。
「これ、何だ?」
「知らないのか?野菜だよ肉食獣め」
「そりゃ分かる。なんでこんなに山積みなんだ」
「俺が育てて収穫したから」
俺はそう言って、裏庭の方を指差した。
窓越しから広大な麦畑や、野菜の畝が並んでいるのが見える。
その中には薬草の畑なんかもあった。
天脈竜の背には独自の生態系が発展している。
そこには地上では見られない貴重な薬材の宝庫が広がっていた。
俺はその種などを持ち帰り、試行錯誤の末に地上での栽培を可能にしたのだ。
「自分で収穫した野菜はうまいぞ。リヴァーレ」
「なんか人間の老後の趣味みたいだな」
「うるせえな…うーん、野菜ジュースがうまい」
「本当にジジイだな」
俺はリヴァーレの視線を気にせず、片手を腰に添えて野菜ジュースを一気飲みした。
うーん、たぶん大人の味って感じだな…蜂蜜足すか。
さて、本題に入るとしよう。
「で、何しに来たんだよ?」
「お前、昼飯済ませたか」
「え、何で?まだこれしか飲んでないけど…」
するとリヴァーレはどこにしまっていたのか、剣と竜が絡まった妙にダサいデザインのエプロンを装着し、こう言った。
「俺が昼飯作ってやるよ」
「…………は?」
ヒルメシ……昼飯という単語以外に何か意味があっただろうか。
呆けている俺の前で、リヴァーレは有無言わせずに調理を開始していた。
正直、こいつの作る料理は肉を煮るか焼くかのシンプルな物だ。
味付けもそんなにしない…たまに塩を掛けるくらいだ。
ハンバーグはやたらと美味いんだが、あれはなぜか俺の誕生日の日だけ作っていたはずだ…ちなみに俺の誕生日は今日ではない。
「何を作るつもりだ?」
「サンドイッチだ」
「そうか…」
奴にしては珍しい料理だとは思ったが、それなら変にひどい料理にはならないだろう。
俺も少し離れているとはいえ、奴の調理風景が眺められる位置にいる。
見た限りでは、持って来た食材は普通のもの……おそらくはシンプルなBLTサンドのはずだ。
「できたぞ」
「……」
実際に出て来たものはごく普通のサンドイッチだった。
小麦だけの良質なパンと両方の片面にマヨネーズとマスタードが塗ってある。
具材もレタスとベーコンとトマト……まごうことなきBLTサンド。
怪しい点はどこにもない…俺は決心してそれを掴んで一口かじった。
その様子をやたらと凝視してくるリヴァーレの顔が気にはなったが、特に変な味は感じない…はずだ。
「どうだ、美味いか」
「お前が作ったんだから普通にまずいよ…まあ、食えるレベルではある」
「本当にそれだけか」
「………………すまん、ちょっとタンマ」
俺はサンドイッチを皿に戻した。
そして、作戦命令を指揮している軍人のように机に肘を付けて両手を組み、ものすごい思案顔になる。
「…何、お前?卵とか焼くとダークマター生成するような料理下手だっけ?」
「本当にそう思うか?」
「じゃあ…こっそり何か入れたな」
「正解だ…」
リヴァーレは懐から小さいツボのようなものを取り出した。
蓋を開けてみると、中に黒く粘度のあるものが詰まっている…多分だが、何かの発酵食品だろう。
塩気のある香りと発酵食品独特の発酵臭……あと、なぜか焦げた匂いまでする。
「これは俺がとある戦士の村を滅ぼした時に見つけた伝説の調味料だ。その村ではマーマイトと呼ばれていた」
「発酵させて不味くなるとか何だその調味料……腐ってないよな」
「お前は昔、こいつを食ったことがある」
「何?」
俺は記憶を掘り起こしたが、そんな記憶はどこにもない。
自慢じゃないが、”ほとんど”の記憶は完璧に覚えている。
そうなると、味がわからないくらいこれを薄めて食べさせたのだろうか。
俺が記憶の海を漂っていると、リヴァーレがさらに口を開いた。
「お前、ここに住む前はよく魔王城で飯を作ってたよな」
「ああ…まあ」
魔王城に来たばかりの頃、魔王様が俺専用にわざわざ厨房を作ってくれたことがある。
そのせいでたまに魔王様に飯を作らなきゃならなくなったが…その辺りの時代か。
「実は俺、お前の作った昼飯を勝手に盗み食いしたことがあるんだ」
「あったな。時々用意した食事が無くなっていたことが何度か…」
「どうせお前の食事なら別にいいだろうと盗み食いしてたんだが…ある日、お前が魔王様に用意したサンドイッチをうっかり食ってしまってな。見よう見まねで作り直してる最中にこいつを少し隠し味に混ぜたんだ」
「よくやったリヴァーレ。あの魔王様にそんなクソまずい食材を食わせるとは…俺はお前を誇りに思うよ」
「だが、魔王様はそのサンドイッチを見るなり…」
『リーベ、毒味しろ』
『なぜ?いつもはしてないだろう』
『いいから、余は魔王様ぞ…ほれ、あーん』
「…………で?」
「それを食ったお前は数日気を失った」
「マジで殺すぞてめぇ…」
「すまんて」
「あぁ、もう…なんか気持ち悪くなってきた気がする。吐いて来ていいか?」
確かに、その辺りの前後の記憶がない。
俺の記憶がぶっ飛ぶほどのクソまずい調味料を再び食わして何がしたいんだこいつ。
俺はうなだれながら洗面台に向かう。
その様子をリヴァーレはいつものような笑みを浮かべて見ていた。
「なあ、リーベ」
「何だよ…おぇ」
「味覚……もう無いのか?」
突然かけられた後ろからの質問に、俺はすぐに答えずに水瓶の中の水で口を濯いだ。
鏡を見て、口の中に異物が残っていないか確認して一応安堵する。
振り返ると、クソダサいエプロンが最悪に似合っていないリヴァーレに返事を返した。
「ああ、いくらかな」
「治らんのか?」
「色々、薬も試してはいるが…効果はないな」
「そうか…」
魔族特有の貼り付けた様な笑みは変わらなかったが、不思議と目に元気がないように俺は思えた。
俺は椅子を持って、あいつの向かい側に座る。
「どうして気がついた?最近会ったのはこの前だけだが…」
「何だかこう、久しぶりに殴った時にいつもと感触が違っていてな…それからお前が具合でも悪いのかと少し観察していた」
「俺は中身が寄れてきたサンドバックか何かか?まあ、お前に見破られるくらいだから他の付き合い長い奴らも薄々違和感に気がついて来てるのかもな…」
魔王様はもう全部感づいているとして、ソリテールとマハトはいくらか気が付いているのかもしれない。
アウラは最近はあまり顔を合わせていないからまだ気づいてないだろう。
まあ、俺の異変を始めにリヴァーレが言い当てたのは少し驚きだ。
「体の調子がおかしいのは…いつからだ?」
「4年前かな、ちょうど感情の抑制が切れて来た辺りだ。それから味覚が少しずつ衰え始めた…繊細な味は感じないが、強い味なら少しは感じる」
「…寿命か」
「どうだろうな。俺はどうやら魔族としては
魔族の長寿と呼ばれる年齢は500歳辺りから相当するが、自然な寿命だとどこまで生きるかはまだよくわかっていない。
魔王様が今まで同一の個体なら、1000歳以上はとうに超えている。
正直、あれがあんな格好をしているから衰えてるかどうかはよく分からない。
だが、俺も魔王様も魔族だというのなら、魔王様が存命の期間までは生きられる可能性が高い。
「だがな、俺はその分野に詳しい奴からすればタコに近いらしい」
「タコ?海にいるあれか」
俺はよく、魔族がサメならお前はタコだとよく言われることがある。
実際に体がタコというわけではないが、それに近い構造をしているようだ…まあ、たしかに普通の魔族は脳みそが複数あったり、脳の位置を動かせないからな。
だから、それなりにタコの生態という物を調べたことがある。
「タコっていうのはな、繁殖期を終えると視神経腺から分泌されるホルモンの働きですぐに死ぬらしい。メスのタコなんかはそのホルモンが母性本能に直結していて、飲まず食わずに卵の世話を死ぬまでやるんだと…一種の薬物による最後の空元気だな。俺の今の状況はそれに近いのかもしれない」
「何だ、女でも抱いたか?」
「まだ綺麗な体だ…多分」
魔王様に寝込みを襲われたのが原因だったらシャレにならん。
まあ、あの頃の俺は抑制がまだ働いていたから勃たなかったらしい。
「…もう何も、できることは残ってないのか?」
「タコに限った話だが…そのホルモンを分泌している神経を切除したら長生きしたって例があるにはある。俺の感情を司る脳の神経を取り除けばもう少し生きれるかもな。だが、俺は結構めんどくさい体をしてるからな…最悪、体のほとんどを切り捨てなきゃならないだろう」
流石にそんな面倒なことをしてまで生き永らえようとは思わない。
それに最近ようやく楽しくなって来たんだ…その根源を司るものを捨てるわけにはいかない。
そもそも本当に寿命が来たかどうかも分かっていない段階だしな。
「そうか…俺よりもお前が先にくたばるとは皮肉なもんだ」
俺のその考えが伝わったのか、リヴァーレも静かに視線を落とした。
だが、一応はいつもの軽口を返してくる。
「そんな状態でよく料理なんてできたな」
「料理は舌で覚えるもんじゃない。調味料の配合と食材の量、何より多くの経験さえあれば失敗はしないもんだ…それにな、味覚っていうのは思いの外に嗅覚と直結している。レモンキャンディーの香りを嗅ぎながら水を飲めばレモン味に感じるんだぞ。だから鼻が正常なうちは舌がダメでも、まだ味は感じられる」
「前向きだなぁ」
リヴァーレは相変わらず口元に笑みを浮かべていたが、目元は俯いてよく見えなかった。
だが、まるで昔を懐かしんでいるように俺には感じられた。
そして、俯いたままリヴァーレは言葉を続ける。
「俺はな、リーベよ。お前のことが好きじゃなかった」
「知ってる。初めて会った時、お前は俺が初めて殺した同族と同じ目をしていた」
「でも、お前が料理を作ったり、それを食ってる姿は正直嫌いじゃなかった。あれはまるでいつもの死人とは別の……すまん、俺はお前のような読書家じゃなくてな…うまく表現ができない」
頭を掻き毟りながら、リヴァーレはない頭で言葉を探していた。
俺は料理をしたり、食事をしたりする最中に一々何かを思ったことがない。
だから適当に、頭に思い浮かんだ言葉を呟いた。
「救われている……か?」
「お前がそう言うならそうだろうさ…女神様ってのもご利益がないな」
「知ってる…きっとあれは疫病神だな」
あれに何かを願って叶えてもらったことは何もない。
ずっと祈ってる俺が言うんだ…間違いはないだろう。
それでも悲しいかな、習慣でどうしてもあれに拝んでしまう。
「なあ、リーベ」
俺が女神様に恨み節を呟いていると、いつになく真剣な表情のリヴァーレが俺を見据えている。
らしくない顔だと思いながら見ていると、それ以上にらしくない言葉を掛けられた。
「俺に、何かして欲しいことはあるか?」
「……なぜ?お前が俺のために?」
こいつとは仕事での付き合いは確かに長い。
だからといって、特別に親交があったわけではないし、プライベートで顔を合わせたのだって今日が初めてだ。
おまけにこいつは、俺の誕生日の日に限って仕事を持ちかけて来る性格の悪い男だ…まあ、その日に限ってなぜかハンバーグを焼いてもらったが、あれでは割に合わない。
「前に、大物の魔族の暗殺を一緒にやったよな」
「やったな、結局俺が不意打ちを失敗して、最後はほとんどお前が暴れていたっけ」
相手は今でいう七崩賢に匹敵する実力の魔族だった。
どうしてわざわざ貴重な戦力を潰す必要があるか今でも疑問に思うが、その答えはシュラハトの見た未来にしかないのだろう。
あいつと魔王様の描く計画には邪魔な魔族だった…理由はこれで十分だ。
「俺は始め、強い相手との戦いに血が湧いたよ」
「そうだろうな…お前は嬉々として相手をぶった斬ってた」
「でもな…それと同時にすげぇつまんなかった……矛盾してるけどな」
「……」
何となく、リヴァーレの言わんとすることがわかって来た。
こいつは多分……。
「時々、昔を思い返すんだ…俺は」
「いいよ、言わんでも」
「多分だがお前に……結構きつい仕事を、押し付けたんじゃないか」
「……」
多分、これはマハトが求めている罪悪感とは少し違う。
これはいつからかリヴァーレが胸の中に抱えた続けた”後悔”だ。
その重荷を抱えたまま、こいつは今日まで生きて来た。
俺はそのくだらない悩みに深くため息を吐いた。
「…それに何も思う必要はない…どうせシュラハトの計画で決まっていたことだし、俺にも”必要”な仕事だった。まあ、流石に量が多かったから苦労したがな」
「だろうな…すでに決まっていたことだ。でも、もう少しやりようがあった気がしてな。喉の奥で突き刺さった小骨みたいに取れなかった」
「意外と繊細だな…お前」
これも俺の呪いのせいなんだろう。
俺にとってこいつは、ある意味魔族らしい魔族だった。
だからそれが変わるなって今まで想像して来なかった……だが、流石に付き合いが長いだけはある。
それに少し、俺は責任のようなものを感じた。
パンッ!
俺は部屋の中の湿っぽい空気を払うために手を叩く。
そして答えを告げた。
「よし、リヴァーレ。お前、俺から料理を習え」
「……は?」
あまりの唐突な言葉に、リヴァーレも首を傾げた。
これは俺も見たことのない表情だ…トートに見せてやろう。
「俺の料理のレパートリーはな。いわゆる母親の料理みたいな味付けが多い」
「…まあ、たしかに美味いが優しい味がしたな」
「だから男飯って感じの味付けは食べたことはあんまりないんだよ。お前はたぶんそういうの得意そうだ。濃い味付けならいくらか感じるし、俺は魔王様から言わせれば塩分がものすごく必要な体質らしい…だから、俺のためにお前は料理を覚えろ」
「そんなことでいいのか?」
「ふっ、料理をなめるなよリヴァーレ…俺はこれに関してはかなりうるさい。お前が泣き喚いても許さないからな」
俺は右手に鉄のお玉、そして左手にフライパンを携えて歴戦の戦士の構えを取った。
それを見て、リヴァーレが珍しく腹を抱えて笑っている。
俺の全力の威嚇のポーズを笑いおって……許さん。
「だからリヴァーレ、俺たちのどちらかがくたばるまで、偶にでもいいから飯を作ってくれ」
「ははっ、ああ…そうだな」
再び顔を上げたリヴァーレを見て、俺は納得した。
どうやらこの顔が、救われたって顔らしい。
リーベ「どうだ…帝都の劇場で売っていた例の炭酸ジュースの味になっているか?」
リヴァーレ「うん、うまい」
リーベ「じゃあ、こっちはどうだ?」
リヴァーレ「うーん、これもうまいな」
リーベ「……マハトにでも頼むかなぁ」
リヴァーレ「まあ、待て。多分だが、これが一番近い味がする」
リーベ「本当か?マジで信じるからな?」
アウラ「この飲み物美味しいじゃない」
リーベ(やったああああああああ!!!)