もう付き合っちゃえよ(真顔)   作:オールドファッション

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『後悔とは濃い味付けに似ている【閑話】』を読了してから読むことを推奨。


汚れちまった悲しみに乾杯

 私が底なし沼から謎の男を助け出してから数分後、シュタルクが短い悲鳴を上げた。

 見れば、木の実をたくさん付けた低木の前で固まっている。

 手には何かに噛まれたような噛み跡が…まさか。

 

「噛まれちゃった…」

 

 数分前に助けた男の忠告を無視して茂みに手を近づけたらしい。

 噛み跡から察するに蛇のようだ。

 私とフェルンが呆れ返っていると、珍しくリーベが真剣な表情を見せている。

 

「シュタルク、とりあえず噛み跡から毒をしぼり出せ。あと、この薬草噛んでろ」

「え、あ…はい。……苦い」

「近くの町は…いや、さっきの村の方が早いな。フリーレン、シュタルクを抱えて村まで飛んでくれ」

「え、そんなにやばい毒なの」

 

 シュタルクは口の中の渋みに顔を歪めながら、噛み跡から毒液を絞り出している。

 その表情は置いといて、そこまで具合が悪そうには見えなかった。

 リーベはシュタルクの右腕の上腕部分を紐で縛ると、私たちの方へと振り返る。

 

「知らんのかフリーレン。あの蛇はあの猛毒茸マーダードラゴラムマッシュルームと同じ毒性を持つ…通称マーダードラゴラムスネークだ」

「すごい物騒な名前…ちなみにその毒性って?」

「数時間で脳みそが溶けて鼻から流れ落ちる…そして死ぬ」

「めっちゃ怖い!」

 

 私たちは恐怖で震えるシュタルクを抱えて全速力で飛行魔法を使った。

 だが、なぜかリーベは飛行魔法を使わず、地上を走っている。

 私はリーベに向かって叫んだ。

 

「どうして飛ばないのー」

「俺は飛ぶより走る方が好きなのー。お前らこそよくそんな中途半端な解析で飛行魔法使えるよなー。見てて危なっかしいぞ、それー」

「でも便利だしー」

「俺は中途半端な理解で魔法使って痛い目見てるから絶対使わないぞー」

 

 そんな会話をしつつ、先ほどの村の教会まで到着した。

 リーベは徒歩だと言うのに、飛行魔法と同等の速度で追いついて来た。

 だが、流石に少し息切れしてる…飛行魔法使えば良かったのに。

 

 教会にいた神父にシュタルクを診せると……。

 

「こ、これはあのマーダードラゴラムスネークの毒!しかし…それにしては毒の進行が遅いですね。なるほど、迅速な応急処置がされている。これなら、助かる可能性は高いでしょう」

「良かったなシュタルク。マーダードラゴラムスネークに噛まれて生きている奴は少ない」

「恐ろしい蛇だったぜ…マーダードラゴラムスネーク」

「…男どもがマーダーなんとかを連呼してちょっとうざい」

「語感が良くてな…つい言いたくなる名前してるんだよ」

 

 男たちが謎に親近感を抱いている中、私とフェルンは完全に蚊帳の外にいた。

 あんな言いにくい名前のどこがいいのか全くわからない…。

 私たちが呆けていると、突然、奥の部屋から誰かが入って来た。

 見れば、私が沼から助けたあの男だ。

 

「兄貴、新しい風呂桶小さくない?」

「清貧です」

「やりすぎじゃ……何だお前、気をつけろって言ったのに…マーダードラゴラムスネークにでも噛まれたか?」

「増えちゃった…」

 

 男の名前はザインと言い、神父の弟らしい。

 彼は一瞥しただけで何の毒か言い当て、そして一瞬でシュタルクを解毒した。

 あれはまさしく天性の才だ。

 あのリーベも少し感心している。

 

「やはりフリーレン様には分かりますか」

「私のこと知っているの?」

「ハイター様から聞かされておりましたので」

 

 神父はハイターから聖印を授けられた優れた司祭だった。

 だが、弟のザインは彼の才能をはるかに凌駕する域にある。

 ザインは小さい頃はよく、冒険者になって旅をしたいと語っていたそうだ。

 だが大人になるにつれて、その夢を諦めて村でくすぶり続けている。

 

 神父は私たちに、ザインをこの村から連れ出してくれないかと言ってきた。

 つまり、新しい旅の仲間だ。

 

「きっとあの子は、ずっと背中を押してくれる誰かを探し続けているんです」

 

 その言葉は、どこか私にも突き刺さるような気がして…その場で断ることはできなかった。

 リーベもその言葉を聞いて、何と言うか珍しい表情を浮かべている。

 

 とりあえず、返答はせずに私たちは宿へと向かった。

 いつものように男女組に分かれて部屋を取り、シュタルクたちを女子部屋に招いて相談を始める。

 

「俺は賛成だ。脳みそが鼻から出るような経験は御免だぜ」

「たしかに…これからの旅には僧侶がいた方がいいかもしれませんね」

「俺も、面倒な毒に関しては応急処置しかできないからな…」

 

 毒の分析や解毒については僧侶の使う女神様の魔法が有名だ。

 私も簡単な僧侶の魔法なら使えるが、専門家にはさすがに負ける。

 

「あの…」

 

 私が思案していると、シュタルクはリーベを見ながら口を開く。

 

「リーベさんって……女神の魔法とか使えないんですか?」

 

 私もフェルンも奴を凝視した。

 それに対してリーベは呆れ返った表情を浮かべる。

 

「お前ら、俺…魔族だからな?」

「あ、そうですよね…」

「一緒にいると時々忘れそうになります」

「俺やアウラが魔族の典型だと思い込まないでくれよ…クヴァールを思い出せ、クヴァールを」

 

 リーベははっきりとは答えなかったが、おそらくは使えないだろうと二人は納得した。

 私は正直、こいつが使えても別に不思議とは思わなかった。

 

「…クソボケエルフはあの男が不満らしいな」

「そうなんですか?」

「うーん…多分、同族嫌悪かな?」

 

 私の言っていることが理解できないのか、フェルンとシュタルクは首を少し傾げる。

 リーベは私の気持ちが少し分かるのか、一瞬だけ頷いていた。

 

「とりあえず、俺はあいつを勧誘してくるぜ」

「じゃあ、一応おれもついて行くか」

 

 リーベはそう言って、魔族のツノが見えないようにフードを深く被った。

 二人は階下にある酒場に向かい、私たちはもう夜遅いので就寝に入る。

 

『いやーーーーーッ』

 

 数分後にシュタルクの情けない悲鳴が近所に木霊した。

 私はフェルンに無理やり起こされて、うとうとしながらもシュタルクの元へ向かう。

 そこには、身ぐるみを剥がされた哀れな男二人が地面に座っていた。

 

「シュタルク様!それと…ザイン様!」

「ひどい…誰がこんなことを…」

「お前らの仲間の兄ちゃんさ。あの村長とも互角の勝負をしてたぜ…二人とも鬼神の如き強さだったな」

「おーい、終わったぞ……なんだ二人とも、夜更かしは美容の大敵だぞ」

 

 噂をすれば、ちょうどリーベが二人の服を担いで酒場から出て来た。

 片手には5枚のトランプが握られている。

 

「騙し合い、はったりは俺らの特技だからな。あのじいさん、俺がブタのカードで強気に出たら勝手に白く燃え尽きたよ」

 

 確かに5枚とも何の役もないブタのカードだ。

 その村長とやらも魔族に勝負を挑むとは運が悪い。

 

「お前ら、仲間を探してるんだってな。なら他を当たれ」

 

 身ぐるみを剥がされたザインは、タバコを吹かしながら私に向けてそう告げた。

 

「…冒険者になりたいんでしょ?」

「昔の話だって言ってんだろ。俺はもっと早くあいつを追いかけるべきだったんだ…」

「そうしてパンツ一丁の落ちぶれたおっさんになったわけか」

「落ちぶれたことは否定しないが、パンツ一丁なのは兄ちゃんのせいだろう…」

「ザイン……私は”今”の話をしている」

 

 ザインは私のその言葉に何を思ったのか一瞬だけ目を見開いた。

 しかし、再び深く視線を落としてしまう。

 

「ぐえー…」

 

 気のせいか、隣でリーベが苦しんでいるように見えたが気のせいだろう。

 

「…他を当たれ、お前には俺の気持ちはわかんねえよ」

「そうか…リーベ」

「ん…了解した」

 

 私の一言でリーベは何をするべきか察したのか、ザインの前に出る。

 そして、ザインの着ていた服を両手で持って……。

 

「仲間にならなければ…この場で服を引きちぎる」

 

 真顔で服を引っ張り始めた。

 

「…おいおい、兄ちゃんみたいな細い腕で引き千切れるわけ…」

 

 ブチッ…ブチブチッ。

 

「やだぁ…俺の服がめっちゃ悲鳴を上げている…」

「これは俺が賭けで勝ち取った物だ…どうしようと俺の勝手だろう」

「…ふっ、やって見な。俺は今や汚れきった大人さ…パンツ一丁のままでも家に帰れるぜ」

「それは村の子供達の教育に良くないからやめた方がいいぞ」

「じゃあ、それ引っ張るのやめてくれ」

 

 ザインはリーベの脅しに屈することなく、やけにダボダボに伸びた服を着て帰って行った。

 シュタルクも返ってきた服に袖を通して、反省しているのか正座で泣いていた。

 フェルンはシュタルクの身ぐるみが剥がされたのが気に入らないのか、ムスッとした顔でリーベを睨んでいる。

 

「ギャンブルする人は最低です」

「適度に付き合う分には健全だぞ。まあ、服まで賭けるのは健全とは言い難いが…てか、俺は魔族だしギャンブルしても良くないか?」

「リーベ様はダメです」

「そっか…じゃあ、酒もダメか?」

「お酒は大丈夫です。あれは百薬の長だとハイター様も仰っていました」

「良かった。俺、酒の味は分からんが酔えるからな…気晴らしにたまに飲むんだ」

 

 何やらハイターからの悪影響を垣間見た気がする。

 しかし、リーベが酒を嗜んでいることは意外だった。

 この男が、紅茶以外を飲んでいる光景はほとんど見たことがない。

 案外、紅茶に少し酒を混ぜて飲んでいるのかもしれない。

 

 私たちはザインを口説き落とすために村に数日滞在することにした。

 共に教会の一室で食事をしたり、村の仕事を一緒に手伝ったりもした。

 たまにリーベに賭け事で身ぐるみを剥がされていたが、リーベは賭け事においては常勝無敗のようだ。

 

「埒が明かないな…ザインの弱点とかないのか。あるいは好きなものとか」

 

 思いの外、ザインは頑なに私たちの誘いを断り続けている。

 なので、私たちは兄の神父に相談してみることにした。

 

「ザインの好きなものですか?酒にタバコにギャンブルに…」

「それはよく知っている」

「あいつ本当に僧侶か?」

 

 挙がった物は私たちでも知っているような物だ。

 だが次に出た物は……。

 

「あとは…年上のお姉さんが好きですね」

「もはや破戒僧じゃねえか」

「俺より堕落を極めてるな、あいつ」

「年上のお姉さんか…そんな情報あっても…ん?」

 

 気づくと、フェルンとシュタルクが同時に私を凝視していた。

 二人の視線を見たリーベは、珍しく困惑したような表情を浮かべている。

 私も二人の視線で、ここにも大人のお姉さんがいたことに気がついた。

 

「兄貴ー、新しい鎌小さくない?これじゃ草刈りも…」

 

 丁度タイミングよく、ザインが教会の扉を開いて入ってきた。

 したり顔なシュタルクと、それを微妙な顔して見つめるリーベがザインを教会の外へと連れ出す。

 

「なあザイン…年上のお姉さんと旅をしたくないか?」

「馬鹿かお前…そのために子供の頃の俺は冒険者を目指したんだぜ」

「すげー不純…」

「まじか、俺も年上のお姉さんが好きらしいぞ」

「何だ兄ちゃんもか…俺たち気が合いそうだな」

 

 珍しくリーベがザインと肩を組んでいる。

 あの男にも好みのタイプがいたというのは少し驚いた。

 

「で、どこ?お姉さんはどこなの?」

 

 ザインは辺りをキョロキョロと見回している。

 私は教会の扉を颯爽と開き、彼の前に出て胸を張った。

 

「ここだよザイン。私はエルフだ…お前より年上のお姉さんだよ」

 

 ザインの視線が私の全体を捉えた。

 先ほどまで夢見る少年のように輝かせていた瞳が、まるで夢を諦めた大人のように萎んでいく。

 リーベも、いつも以上に生気のない瞳で私を見つめていた。

 

「…そう言えば兄貴もそんなこと言っていたっけ……こんなのお姉さんじゃない!」

「すごく辛そう…」

「しょうがない。本当はあまり使いたくはなかったけど、師匠から教わった色仕掛けを使う時が来たようだね」

「ま、待てフリーレン!その技は!」

 

 リーベが何やら止めようとしたが、私は指先を唇に当てて全力の色仕掛けを放つ。

 

 ちゅっ。

 

 私の全力の必殺技を受けてザインは眉をひそめた。

 どうやら動揺しているらしい…ふっ、坊やには刺激が強すぎたようだ。

 

「投げキッスだよ。坊やにはまだ早すぎたかな?」

「誰か、このお子様を連れて帰ってくれー」

 

 ザインはフェルンとシュタルクを見たが、二人はあまりの刺激で固まっていた。

 

「エッチすぎる…」

「何なのお前ら…おい、兄ちゃんからも何か言ってくれ…」

「ぐえーーーーー!!!」

「あ、兄ちゃーん!?」

 

 ザインの隣でリーベが突如吐血し出す。

 シュタルクがマーダー何とかに噛まれた時よりも、ひどい状態だ。

 足元に血だまりができている…あ、血だまりの中から私を睨んできた。

 

「ふざけんなクソボケ淫乱エルフがー!ヒンメルとの思い出の投げキッスをこんなどこの馬の骨かも分からない顎髭男にするんじゃねー!えっちすぎ注意報を発令だー!」

「ええ、何で俺が罵倒されてるの…」

「代われ!今度は俺が口説き落とす!」

 

 そう言い出すと、リーベは教会の中に戻って行った。

 そして数秒後に、扉を開けて現れたその人物に私以外の皆が驚愕する。

 

「あ、あなたは、もしや…マハリー物語のヒロイン…リーヴェリット様!!」

 

 フェルンが叫んだその名前で私は思い出した。

 昔、ハイターから勧められて少しだけ読んだ恋愛小説にそんな名前の登場人物がいたはずだ。

 長く艶やかな黒髪に、白を基調としたドレス…確かに挿絵で見た特徴と一致する。

 だが、どこか雰囲気が……。

 

「に、似てるけど……最終巻の挿絵に比べて少し大人びているような…」

「うん、まあ30歳くらいの見た目に調整してるし…胸とかも盛ったからな」

「やっぱりお前か…」

 

 声は女性の物だが、発せられる魔力からそれがリーベだと判断ができた。

 おそらくはかなり高度な精神魔法…それをこんな場所で使うこの男に私は呆れた。

 

「ふぐ…う……ひんっ」

「ザイン様?」

 

 声のする方向に振り返ると、ザインが腕で何度も顔を拭き、そして嗚咽を漏らしている。

 いつぞやの、巨大なジャンボベリースペシャルを前にしたシュタルクのようだった。

 

「俺の理想の大人のお姉さんだぁ…うれじい…ひん」

「ふっ、どうだザイン。お前がフリーレンの仲間になるというなら、今ならこの私が付いてくるぞ」

「行きま…いや、ダメだ!俺には兄貴が…」

「えー、一緒に来ないのザイン君?」

「行きまーす!……いや、やっぱり兄貴を置いてはいけない!」

 

 すごい、涙を流しながら自分の中の欲望に抗っている。

 腐っても一応は僧侶のようだ。

 

「仕方がない…奥の手を使うか」

 

 リーベはそう言うと、急に前かがみの姿勢になり、胸を少し強調したポーズを取る。

 そして私がしたように指先を唇に当て……。

 

 ちゅっ。

 

 私と同じく投げキッスをザインに放った。

 

「……」

「フェルン?何で俺の目を塞いでるの?」

 

 赤面したフェルンが、シュタルクの視界を塞いでいる。

 正しい判断だ…シュタルクにはあの光景はまだ早すぎる。

 私もあまりのエッチさに後ずさりしてしまった。

 私は恐る恐る、あれが直撃したザインへと視線を向け……私は衝撃で目を見開いた。

 

「ば、馬鹿な…不動の姿勢で立っている…」

「ふっ、フリーレン…よく見ろ」

 

 ザインは立っていたが、その表情は白く燃え尽きた戦士の表情に似ていた。

 よく見れば、口の端から血が流れ出している。

 

「し、死んでる…」

「失神だ。とりあえずこれで口説き落とせたかな…いて、何で蹴るんだよ」

「その顔で他人にエッチなことするな…何かムカつく」

「えぇ…」

 

 元々、中性的だった容姿がより女性らしくなったことでフランメに一層似た顔になった。

 大きな違いは黒髪であることと、左目の目元に泣きぼくろがあることだろう…体つきも何だか少し筋肉質だ。

 

 その後、目覚めたザインは兄の神父に叱咤されて私たちの仲間になることになった。

 そしてあのお姉さんの正体がリーベだと知って、旅に出て数分後だと言うのにちょっと泣いてた。

 

 

 

 

 

 

 俺は旅先の酒場にザインを連れて、珍しく酒を飲み交わしていた。

 ザインは泡立ったエールをジョッキ樽に注ぎ、俺は透明なグラスに店で一番酒精の強い物をなみなみと注いでいる。

 

「まさか兄ちゃんが魔族とはねぇ…俺は初めて見たが、兄ちゃんみたいな奴は多いのか?」

「極めて少数だ…ほい、乾杯」

 

 樽のジョッキとグラスがコツンとぶつかり、お互いに注文した酒に口を付ける。

 ザインは口に泡をつけて楽しそうに息を吐いた…俺は一口飲んだが、アルコールの刺激しか分からなかった。

 辛さというのは味覚ではなく痛覚で判断してると聞いたことがある。

 そうなると、もう味の分かるものは辛いものとアルコールのような刺激物しかない。

 この刺激をちびちび楽しむのもいいが、それでは少しも酔えないので一気にグラス傾け酒を呷った。

 

「すげえな…その蒸留酒を一気飲みしてるやつ初めて見た」

「人間とは少し勝手が違うからな…正直、もっと酒精の強い物があればよかったが…」

「そんなの喉が焼けるぞ」

 

 俺は水でも注ぐように、またグラスになみなみとそれを注ぐ。

 周りからの好奇の視線が少し面倒だった。

 

「とりあえず、ここの飲み代は奢るから騙したことは許してくれ」

「ふっ、この程度じゃ許すことはできねえな…男の純情を弄んだ罪は重いぜ」

「何だ?女の姿で酒の酌でもしてやろうか」

「マジでやめてください…」

 

 よほどショックが大きかったのか、ザインは机に顔を伏してまた泣き始めた。

 俺はそれを肴に二杯目を飲み干す…うーん、全然足りない。

 

「俺はお前が仲間に加わって助かったよ。うちの連中は酒はほとんど飲まないからな」

「エルフの自称お姉さんは飲まないのか?」

「あれは飲むより食う方が専門だ…年寄りのくせに健康体だな」

「子供連れだしな…そりゃ一人で酒場に行きづらいわ」

「ああ、だから紅茶にこっそり酒を混ぜて飲んでる」

「飲んでるじゃねえか」

 

 少し酔ってきたザインが笑っている。

 こっちがまだ酔ってもいないのに向こうが先に出来上がりそうだ。

 俺は面倒になってきたので、注いでたボトルに口をつけてラッパ飲みをした。

 

「本当にすげえな…兄ちゃん」

 

 ザインや周りの男衆たちもそれを見て感嘆の声を上げていた。

 それに特に反応することなく、俺はボトルを一滴残らず飲み干す。

 うーん……少しだけポカポカしてきた。

 

「すまん。これもう一本あるか?」

 

 店内が大きくざわめいたような気がした。

 するとカウンターの奥にいた店主が直々に酒を運んでくる。

 

「あんた、見かけに寄らず大した飲みっぷりだ」

「そりゃどーも」

「その男気に惚れたぜ…ここの払いは俺が全部持つ。遠慮せずに飲んでくんなぁ」

「え…」

 

 なぜか店主に奢られることになった。

 呆気に取られている俺を見て、ザインはしたり顔で俺にこう告げる。

 

「店主の奢りじゃ、あの件はまだ許せないな」

「…じゃあ、次に行った酒場で奢るとするか」

「やめた方がいいぜ。また似たようなことになる気がする」

 

 ザインの予想が的中したのか、俺たちはどこの酒場へ行ってもなぜか奢られる現象に見舞われた。

 俺はほろ酔いになりながら、こいつとの貸し借りについてどうするか悩むことになるが、酔った頭じゃいい案は思い浮かばなかった。




ザイン「そういえば兄ちゃん、もしかして俺のこと嫌い?」
リーベ「…なぜ?」
ザイン「なんか、フリーレンが俺を見るときの目に似てたから」
リーベ「あー、なるほど…すまん、それは多分同族嫌悪みたいなもんだ。お前自体が嫌いなわけじゃない」
ザイン「何だ、兄ちゃんもくすぶってた時期があるのか」
リーベ「あるぞ、500年くらい一人で引きこもってた」
ザイン「大先輩じゃねえか」

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