もう付き合っちゃえよ(真顔)   作:オールドファッション

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PVのヒンメルの声だけでちょっとぐえーってなってしまった……
あと2ヶ月が永遠のように感じる……ひんっ


魔法都市オイサースト
クソババアとクソガキ


 切り立った崖から見える景色は、今まで旅して来た街とは違っていた。

 湖の中央に建設された都市は、まるで城下町の様に栄え、陸地に掛けられた橋に何台もの馬車が行き交っている。

 山脈に囲われた盆地と、その湖の中央に建設された都市という構造は、天然の要塞としての側面も併せ持っているのだろう。

 

 特に目を引いたのは、城の様に高くそびえ立った建造物だ。

 あれほどの高度の建物は人類圏でも中々見ることはできない。

 優れた文明と、何より魔法技術の発展によって生まれた象徴のようなものだ。

 

「あれが魔法都市オイサースト……そしてあの巨大な建造物が大陸魔法協会か」

「相変わらず凄い立地だな。北部とはいえ、ここは夏場とか暑そうだ」

 

 その壮観さにシュタルクは見入っていたが、リーベは特に見たことがあるのか特に目新しい反応はなかった。

 私も何度か訪れたことがあるので、リーベと同じく特に感慨も浮かばなかった。

 

 景色が見えるからといって、オイサーストはまだまだ遠くにある。

 私たちは街道に向かい、運良く荷馬車でも来ないかと歩き続けた。

 

「あそこでフリーレン様が一級魔法使いの資格を取れば北部高原に入れますね」

「別に資格を取るのは私じゃなくてもいいと思うけどね。フェルンが取ればいいじゃん」

「フリーレン様知らないんですか?一級魔法使いというのは魔法使いの中でもほんの一握りの熟練の魔法使いなんですよ。私なんかでは無理です」

 

 フェルンの言葉に、私とリーベは顔を見合わせる。

 

「フェルンなら大丈夫でしょ」

「だな。魔力のジャグリングも6個までできるようになったし」

「……今更ですが、この訓練で私は強くなれてるんでしょうか?」

「魔法が便利な道具なら、魔力操作ってのは手や足……大まかに言えば筋肉のようなものだ。いくら強い魔法を持っていたとしても、それを扱う手足が貧弱じゃ結局は効率が悪くなる。フェルンは自覚が薄いかもしれないが、訓練を始めた頃よりも強くなってるよ」

 

 フェルンは、私やリーベ以外の魔法使いと接する機会が少なかった。

 私たち二人を比較対象にしているせいか、自己評価が低いように見える。

 今回の試験はフェルンにもいい経験になるだろう。

 

 街道に出ると、ちょうど運良く乗合馬車と出くわしたので私たちは乗せてもらうことにした。

 狭い馬車だが相乗り客はいなかったので十分広く感じる。

 

「オイサーストに着いたら試験のことについて調べるよ。フェルンの話だと実践もあるみたいだし対策を考えないと」

「フリーレン様の魔力ならどんな試験内容でも余裕なんじゃないですか?制限している状態でも熟練の老魔法使いくらいの魔力が出てますよ」

「老魔法使いって言うな」

「実際は老魔法使いの10倍くらいの年齢だけどな……ふっ、そんなリーチの短い蹴りじゃ届かないぞ」

 

 私の渾身の蹴り技をリーベはいとも容易く避けていた。

 こんなことならば相乗り客ですし詰め状態の方が良かったかもしれない。

 

 ちなみにリーベは、私とフェルンが魔力を制限していることを知っている。

 この男は魔族だというのに、そのことに関して一切の興味を示さなかった。

 私も時々、フェルンたちのように、こいつが本当に魔族であるか疑いたくなる。

 

「言っておくけどね、フェルン。魔法使いの強さを決めるのは魔力だけじゃないよ。技術や経験、扱う魔法やコントロール、努力と根性……」

「なんか戦士みたいなのが混ざってるな」

「そして才能。私は今までの人生で自分よりも魔力の低い魔法使いに11回負けたことがある」

 

 その言葉にフェルンとシュタルクは目を見開いた。

 私が負ける光景など、想像もできないと思っているのだろう。

 

「まあ、そんなこともあるだろ。ふぁ……眠い」

 

 対してリーベは空を見上げながら気怠げに欠伸をしている。

 さすがにこの男は魔法使いの戦いというものを理解しているようだ。

 

「そのうち4人は魔族」

「クヴァールもそうでしたね」

「1人は私と同じエルフ。そして残りの6人は、人間だよ」

「……」

 

 短い沈黙が流れ、それを通して困惑の色が見えた。

 私の言葉が真実だとは理解しているが、その内容を完全には受け入れられない様子だ。

 やはりフェルンには、もっと多くの魔法使いとの戦闘経験が必要だろう。

 

「別に意外なことじゃないぞ。魔法使いの戦いなんてじゃんけんみたいなのだ。相性が悪ければ負けることもある」

 

 空を見上げていたリーベが視線を下ろし、フェルンとシュタルクに語りかけた。

 

「リーベ様も、自分よりも魔力の低い魔法使いに負けたことがあるんですか?」

「ああ、一応あるが……まあ、その戦いは大体勝ってることが多いな」

「……それって、どういうことですか?」

「俺は面倒な相手は二人掛かりで戦うことが多いんだよ。仮に1人で戦ったとしても、不意打ち騙し討ちの戦法で倒してるから純粋な魔法使いの勝負とは言えないな……勝負に勝って試合に負けるようなものだ」

 

 私は、フェルンとリーベの模擬試合の出来事を思い出す。

 確かに、あの戦い方は魔法使いとしては少し異例の物だ……あれは例えるなら暗殺者や詐欺師の部類だろう。

 おそらくはフェルンも私と同じようなことを考え、そして納得したのか頷いている。

 

「だが、魔法使いらしく戦って負けたこともある。そのうち魔族が4人。エルフが1人。そして、魔法使いではないが人間の戦士が1人だ……あ、ヒンメルは殿堂入りな」

「戦士?」

 

 フェルンがシュタルクに視線を向ける。

 

「基本的に魔法使いは近接戦に弱いからな。俺は特に戦士とは相性が悪い……多分、この間合いならシュタルクにも苦戦するな」

「え、俺?流石にリーベさん相手だと無理だと思うけど……」

 

 シュタルクはリーベを一目見て首を横に振った。

 魔力感知ができないシュタルクでもリーベの魔力を肌で感じているのだろう。

 リーベの魔力量はアウラほどではないが、それでも大魔族と遜色のない量だ。

 本能的に勝てない相手だと感じるのは正しい判断だ。

 

 だが、確かにリーベは戦士との戦いには向いていない。

 私が昔、この男と初めて出会った時の戦いでそれは薄々感じていた。

 あの時の私たちはリーベ1人に対して苦戦を強いられていたが、この男の使った魔法は魔力操作による原始的な魔力の塊の攻防だ。

 強大な魔力を持つ者だからこそ扱える技だが、言ってしまえば魔力によるゴリ押しの戦法に過ぎない。

 その燃費の悪さから長期戦には向かず、防戦になると圧倒的に不利になる。

 だからこそ、接近戦で相手の動きを抑えてくる戦士は厄介だろう。

 

 まあ、この男のことだから攻撃魔法があれだけとは考えられない。

 魔族の持つ固有魔法があるはずだが、私は未だに見たことがなかった。

 

「そう言えば、何でオイサーストに行きたいの?」

「例の魔法の資料集めと、あとは少し会いたい奴がいてな」

「……あの、今更ですけどリーベ様はオイサーストに入れるのでしょうか?今までの村や町とは勝手がだいぶ違うと思うのですが……」

 

 確かにオイサーストは魔法都市と呼ばれるだけあって、魔法使いの人口密度が高い場所だ。

 それに加え、人類最強の大魔法使いゼーリエのお膝元でもある。

 ゼーリエの感知能力を考えれば、魔族がここまで接近できたこと自体が幸運だろう。

 

 だが、リーベは特に警戒する様子もなく流れていく景色を眺めていた。

 

「大丈夫だろ。前に来た時も問題はなかったし」

 

 その言葉に安堵するフェルンとは反して、私は疑念の眼差しをリーベに向ける。

 仮にそれが事実だとすれば、リーベはゼーリエを欺いたことになるからだ。

 確かにリーベは優れた魔法使いではあるが、それでもゼーリエを完全に欺けるかと言われると、私には想像がつかなかった。

 

 門の前まで来た時は、リーベ以外の全員が固唾を飲んでいた。

 番兵がちらりとリーベを見たが、特に警戒した様子もなく頷く。

 

「お通りください」

「ほらな」

「当人が一番落ち着いてる……」

 

 今のところ、私たちは何も問題なくオイサーストに入ることができた。

 この都市の中は確実にゼーリエの感知能力の範囲内だ。

 この段階でゼーリエが動かないのなら、リーベが何かしらの対策を講じていたのだろう。

 

 北側諸国最大の魔法都市であるオイサーストは、今まで通って来た都市よりも栄えていた。

 一般の市民が暮らす下町はそこまで違いはないが、都市の中央に位置する貴族街は街並みが綺麗だ。

 個人的な考えだが、栄えた街というのは歩きやすい。

 貴族の馬車などがよく通るから、石畳が他の都市より平らで滑らかなのだ。

 

 当然、栄えているのだから人の往来も多く、その人々の表情には活気が満ち溢れて見えた。

 魔法都市というだけあって、すれ違う人間のほとんどが魔法使いだ。

 1級魔法使いの選抜試験が控えているから、外部から来た魔法使いもたくさんいるのだろう。

 それでも魔王軍との攻勢が激化した100年前と比べると、数が減ったように感じた。

 

「リーベさん、それ前は見えてます?」

「いいや。ただ、感知能力で障害物とかは分かるぞ」

 

 リーベは魔力を完全に隠蔽し、いつもよりフードを目深に被っている。

 はたから見れば闇の魔法使いといった様相だが、そういう見た目の魔法使いもちらほら見えた。

 番兵がリーベを通した理由が少し分かった気がする。

 

 私たちは、大陸魔法協会北部支部までやって来た。

 施設内にはそれなりに手練れの魔法使いが複数いたが、リーベは相変わらず落ち着いた様子だ。

 私は内心では呆れていたが、ここまで堂々としていればバレないだろう。

 逆にリーベを見ておどおどしているシュタルクの方が怪しく見える。

 

「……」

「どうしたの?」

「……いえ、失礼しました」

 

 受付嬢が一瞬、リーベを凝視していたが、すぐに視線を逸らした。

 

「試験は2ヶ月後になります。1級魔法使いの試験は3年に1度となりますのでご注意ください。それと受験資格に5級以上の魔法使いの資格が必要になります」

「じゃあ、フェルン任せたから」

 

 私はフェルンの肩に手をポンと置いて、踵を返して出入り口に向かった。

 だが、フェルンとリーベに両手を掴まれる。

 

「フリーレン様、私1人じゃ無理です」

「大丈夫だって。リーベもそう言ってたじゃん」

「俺も大丈夫だとは思うが保険としてついて行ってやれ。毎年死人が出る試験だし何が起こるか分からん」

「でも私、無資格だしな……聖杖の証じゃ無理だよね?」

「だから何なんですか、その骨董品は……」

 

 2人は私を引き止めるが、私はこの時代で使えるような魔法使いの資格を持っていない。

 受付嬢の言葉通りならば、私がこの試験を受けるのは無理だろう。

 私の経歴を話したところで、それを証明できるのはここではゼーリエだけだ。

 

「はぁ、仕方がないな……」

「ちょっ、リーベさん!?」

 

 リーベは受付嬢の正面に立ち、受付嬢にだけ見えるように軽くフードをめくり上げた。

 その光景にシュタルクは真っ青になって慌てふためいている。

 私やフェルンは声にこそ出さなかったが、シュタルクと同じ心情だった。

 案の定、リーベの顔を直視した受付嬢は目を見開いて……。

 

「やはり、リーベ様でしたか……お久しぶりでございます」

 

 初めて微笑みを浮かべた。

 リーベを除く皆が固まる。

 

「ああ、2年ぶりだな」

「本日はどのようなご要件で?」

「資料探しだ。あと、連れのエルフの身元保証人みたいなものだな。あいつは資格は持ってないが実力と経歴共に十分にある……上には俺が直接話しておくから先に受付だけ済ませてやってくれ」

「かしこまりました」

 

 さも当然のように、リーベは受付嬢と会話を進めている。

 リーベが振り返るまで、私たちは呆けたまま動けずにいた。

 

「どうした?」

「え、いや……えーと」

「ねえ、どういうこと?」

 

 私はリーベの前で腕を組みながら仁王立ちになる。

 ここに来てようやく互いに大きな行き違いがあることに気がついたからだ。

 リーベも私たちの様子を見て同じ考えに至ったのか、ポンと手を叩く。

 

「そういえばまだ言ってなかったな」

「何を?」

「俺、”1級魔法使い”の資格持ってるんだよ……いてっ」

 

 私は今度こそ至近距離で蹴りを入れた。

 リーベは少し痛そうにしていたが、私の気は収まらず、続けて何度も蹴りをお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

 俺は北部支部前の階段に腰を掛けて、膝をさすった。

 大して強い蹴りではなかったが、的確に痛い部分を攻められたようだ……痛みはないが、痺れているような感覚が残っている。

 

 あの後、フリーレンたちは俺を旅の道連れにしようと引き留めたが、俺は俺でやるべきことがあるので断った。

 俺を雇い入れる話もあったが、俺は別に金で困るようなことはない。

 副収入で入った利益だけでも、フリーレンたちの手持ちより何百倍も稼いでいる。

 それにアウラとの約束もあるので、フェルンたちの試験が終わったらすぐに帰るつもりだった。

 

「見てたなら助け舟くらい出して来れても良かったんじゃないか……”レルネン”」

「必要でしたかな?」

 

 俺は隣に立っている白髪の老人を睨めつける。

 同じ1級魔法使いのレルネンは相変わらず不景気そうな顔をしていた。

 

「聖杖の証……最後の大魔法使いですか」

「へぇ、あれはそんな大した物だったのか」

「ご存知ないのですか?」

「知らん。隠遁生活が長くてな」

 

 俺はようやく立ち上がり、レルネンと共に裏口にある関係者だけの出入り口へ向かった。

 流石に支部の周りだと関係者の往来が多く、俺とレルネンは度々声を掛けられた。

 オイサーストに在中しているレルネンはともかく、久しぶりの俺の来訪に皆が浮き足立っているようだ。

 

「特に変わりはないか?」

「ありませんな」

「そうか。俺に何か伝えるべきこととかは」

「ありませんな」

「……そうか」

 

 会話が続かず、沈黙が流れる。

 特別、何かを話したいわけでもないが、この男とずっと黙ったまま歩くというのは疲れそうだ。

 一見すれば人畜無害そうな顔をしているが、隣にいると実に剣呑な気配を感じる。

 

「レルネン……お前、俺のこと嫌いだろ」

「別に、そのようなことはありませんな」

「ゼンゼのように気を許せとは言わんが、それなりに体裁を保った方がいいぞ。仕事を円滑に進める上で、最低限のコミュニケーションは必要だろう」

「私はその辺のことが苦手でしてね。だから宮仕えもクビになりました」

「それを引き合いに出すのは卑怯じゃないか?」

 

 内心で、ひどく嫌われたものだとため息を吐く。

 こいつとはそろそろ半世紀近い付き合いになるが、一貫してこの態度だ。

 俺が魔族ということもあるだろうが、こいつの好きな相手を俺がひどく嫌っていることも理由なのだろう。

 

「そういえば、リネアールはうまくやっているか?」

「問題はないでしょう。私と違い、彼女は世渡りが得意ですから」

 

 リネアールは俺たちと同じ1級魔法使いであり、15年以上も帝国で諜報活動を続けている。

 現在は帝国の内情を知れるだけの身分にまでいるというし、うまく立ち回っているのだろう。

 たとえ正体が露見したとして、魔法使いとして高い実力も持ち合わせているので、死ぬようなヘマはしないはずだ。

 何より、俺とゼーリエに片膝をつかせるような魔法使いが簡単に負けるとも思えない。

 

 ちょうど定期報告の時期だろうし、運が良ければ久しぶりに顔を合わせるだろう。

 前回会った時は、ストレスが溜まっているのか中庭で一日中蝶々を眺めていた。

 

「帝国かぁ……」

「何か思うことでも?」

「何度か行ったことがあるんだが、出来の悪い二次創作物が多くてな。ヒンメルの像とか筋骨隆々の大男に変わっていた」

 

 別にあの像が適当に作られたとか、偽物だとかではない。

 帝国は死んだ英雄を神格化する風習があるのだ。

 神としてより強大な存在に祭り上げ、格式張った荘厳なものへと作り変える。

 そこに悪意などはなく、ただ尊敬の念と共に信仰が存在するのみだ。

 

 人類の魔法の開祖であるフランメも、なぜか向こうでは男として祀られている。

 人間特有の男尊女卑の影響かどうかは知らないが、面影が全くなかったので、初めて見たときは鼻で笑ってしまった。

 俺の書いたヒンメル戦記も、帝国では数年前に新装版が発行されて内容や挿絵が変わっているらしい。

 まさか作者が存命しているとは思っていないのだろう……訴えたら勝てるだろうか。

 

「ヒンメルは別に気にしないんだろうな。どんな形であれ帝国はヒンメルを称えている訳だし」

「ヒンメル様は言い伝え通り偉大で寛容な方なのですね」

「まあ、あまり改悪が進むようなら俺がぶち壊しに行くがな」

「国際問題に発展するのでやめてください」

 

 立ち話もそこそこに、俺たちは1級魔法使いたちが集う広間へとやって来た。

 無駄に高い場所にあるので、年々階段の上り下りがキツく感じてしまう。

 俺は軽く腰をさすりながら、集まった面々に声を掛ける。

 

「珍しく1級魔法使いが勢揃いだな。壮健だったか同輩諸君」

 

 返って来た反応は様々だ。

 気をわずかに緩める者。

 表情には出さないが、緊張している者。

 あからさまに警戒心をむき出しにしている者。

 

 だが誰1人として、この場に魔族がいることに異論を挟む者はいなかった。

 俺がレルネンに次いで2番目の古株だからという理由もあるだろう。

 当然、ここにいる何人かの試験を担当したこともある。

 

 俺は昔の担当生の1人に声をかけることにした。

 

「ゲナウ、今回の受験者はどうだ?」

「……今年も中々の粒揃いだ」

 

 ゲナウは手に持っていた名簿を俺に向かって放り投げる。

 レルネンほどではないが、それなりに嫌われているようだ。

 3次試験でのことを今だに根に持っているのだろう。

 

「ほう、まあまあのメンツだな……げっ、デンケンのクソ坊主がいる」

 

 俺は珍しく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 尊敬すべきレクテューレ先輩の伴侶となった男だが、俺はこの男が昔から苦手だ。

 どこぞのクソボケを彷彿とさせる目もそうだが、何かと俺とうまが合わない。

 最後に顔を合わせたのは”5年前のレクテューレ先輩の葬儀”以来になる。

 

 俺は隣にいるレルネンに視線を向けるが、レルネンは何処吹く風といった様子だ。

 おそらくはこの男が発破をかけたのだろう。

 そうでなければ、宮廷魔法使いの地位にいる者が今更1級魔法使いの試験に来るはずがない。

 

(あの約束が本当になりそうだな……マハト)

 

 俺はマハトと共にデンケンを鍛えた日々を懐かしく思った。

 あの頃はレクテューレ先輩から引き離すために必死になって奴をいじめ抜いたものだ。

 

「リネアールは……まだ来ていないみたいだな」

「おそらく2ヶ月後になるでしょう。彼女も向こうでは多忙なようですし、予定より遅れるかもしれません」

「仮の身分とはいえ、あいつも大変そうだな」

 

 ファルシュはメガネをクイッと指で押し上げながら、俺の質問に返答していた。

 ゲナウとは違って落ち着いた態度を装っているが、あれは緊張した時によく出る癖だ。

 レルネンほどの肝の太さを持てとは言わないが、ゲナウくらいには成長して貰いたいところだ。

 

「”ブルグ”、傷の具合はどうだ?」

「おかげさまでこの通りです。貰った傷薬がよく効いたみたいです」

「幸か不幸か、切り口が綺麗だったからな。早くくっ付いたんだろう」

 

 ブルグは服をめくり上げ、あの横一線に入った腹部の傷を晒した。

 だが、今見た限りでは傷跡はほとんど残っていない。

 初期対応が早かったこともあるが、天脈竜の背から持ち帰った薬草が効いたらしい。

 

 ブルグは2年前の2級試験で担当官を務めていたが、受験生の魔法で大怪我を負った。

 その場に俺が居合わせたことで奇跡的に一命を取り留めたが、あのままだったら胴体は真っ二つになっていただろう。

 結局、あの受験生は失格となったが、あの実力なら2級試験を飛ばして今回の1級試験を受けに来るかもしれない。

 名簿には名前は見当たらなかったが、あと2ヶ月も受け付け期間が残っていることを考えれば可能性はまだありそうだ。

 個人的な所見だが、あの女は知り合いによく似ているので苦手だ。

 

「ゼンゼ、おいで」

「はい」

 

 ゼンゼは俺の手招きに応じて目の前までやってくる。

 相変わらず眠そうな表情をしているが、魔法が何重にも編み込まれた長髪は生き物のように浮き足立っている。

 俺は蔦のように生い茂った髪を一束持ち上げ、その状態を観察した。

 

「前より艶も出たし、サラサラになったな」

「新しく頂いた洗髪剤のおかげです」

「ただ、やはり毛先が少し傷んでる部分があるな。あとで軽く切ってやろう。それと、これは新しい洗髪剤だ」

「ありがとうございます」

 

 ゼンゼの髪がうねうねと喜びの舞を踊っていた。

 ゼンゼは髪の毛に魔法を編み込んでいる為、その手入れは並の人間よりも何倍も手が掛かる。

 1級魔法使い試験に合格した日に、特製の洗髪剤と髪の毛が早く乾く魔法を上げたせいか懐かれてしまった。

 1級魔法使いとしての威厳を保つ為に、普段は相手に横柄な態度を演じているが、こうやってありのままで接することができる相手は2人だけだ。

 

 俺は空席になっている玉座に視線を向ける。

 

「あいつは……庭園か。また階段を降りなければならないな」

「私が伝えておきましょうか?」

「いや、個人的な要件もあるからな。話が終わったら髪を切ってやろう」

「わかりました」

 

 俺は他の同輩に背を向けて、庭園へと向かった。

 支部の裏側の方に建設された場所で、貴重なガラスで覆った温室のような空間だ。

 頻繁ではないが、時々あいつはそこに赴いて昔を懐かしんでいる。

 

 庭園の扉を開くと、外の外気とは真逆の温暖な空気が流れる。

 天井から振り注ぐ日差しも、ガラス越しのせいか外の時よりも暖かく感じた。

 庭園の中央で流れている水路のふちに、金髪のエルフが腰掛けている。

 エルフは水路に浮かぶ蓮を眺め、まるで浮世を思う女神のように儚げな表情を見せていた。

 

「こんな季節に水浴びか?」

 

 俺の軽口にエルフは笑みを浮かべる。

 蓮池から足を引き上げ、いつものように片膝を立てる独特な座り方をしだした。

 

「この中は暖かいからな。お前もどうだ」

「俺は冷え性だから遠慮しておく。あと前から思ってたが、その体勢だと下着見えるぞ」

「ふっ、昔はロインクロスぐらい誰でも大ぴらに見せていたさ。今もそういうのが流行っているんだろ」

「馬鹿だなババア。今の時代は見せパンって言うらしいぞ」

「うるさいクソガキ。全裸にひん剥くぞ」

 

 エルフがピンと指を弾くと、俺のフードが捲れ上がった。

 警戒を怠ったわけではないが、容易にそれを掻い潜る実力にもはや呆れるばかりだ。

 

「聞きたいことがある……”ゼーリエ”」

 

 人類の魔法の開祖フランメの師であり、神話の時代を歩んで来た生きた伝説。

 大陸魔法協会の創設し、人類最強の大魔法使いとしてこの大陸に君臨し続ける女だ。

 

 そして、甚だ不本意ではあるが、俺の現在の上司でもある。




リーベ「試験まで2ヶ月か。フリーレンがまた歳を取るな」
フリーレン「うるさいな……また蹴るよ」
フェルン「そういえば、リーベ様はお誕生日はいつなんですか?」
リーベ「秋だな。○月○日」
フリーレン「え、私と同じ日じゃん」
リーベ「だから言いたくなかったんだよ。それに、誕生日にはいい思い出がない」
シュタルク「じゃあ、今年は最高の誕生日にしようぜ。試験が終わったらリーベさんとはお別れになるし」
リーベ「なんだシュタルク?お小遣いが欲しいのか?」
シュタルク「別にいらな……金塊!?」

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