もう付き合っちゃえよ(真顔)   作:オールドファッション

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あけましておめでとうございます。

少し長くなったので、フリーレンとリーベの視点で後編を分けました。
2期が待ち遠しいですね。


最高の誕生日にしよう【後編・フリーレン視点】

 日が傾きかけ、西日が強くなった時分。

 私は喫茶店のテラス席で読みふけっていた魔導書を閉じた。

 日差し避けのパラソルは真上の光は遮るが、斜めから差してくる光には効果がない。

 

 端的に言って、眩しくて読めなかった。

 

 その眩しさから目を閉じ、いつもの渋い顔をしていると何やら眩しさが和らいでいく。

 もはや慣れてしまった気配に、私は驚きもせず目を開ける。

 

 私の眼前には、ちょうど日差し避けの位置に立つリーベがいた。

 徹夜で調べ物でもしていたのか、少し顔色が優れないように見える。

 

「おかえり。調べ物とやらは終わったの?」

「半分くらいはな。で、そっちは優雅にテラス席でアフタヌーンティーか」

「まあね、大人でしょう?むふー」

「じゃあ、毎日紅茶を常飲している俺はエブリデイ大人だな……同じ物をこっちにも」

 

 すぐそばにいた店員が胡乱げな視線を送りつつも、注文の紅茶を淹れに店内へと戻っていく。

 店員の奇妙な様子にリーベは首を傾げていた。

 

「何かしたのか、お前?」

「……実は紅茶一杯でかれこれ3時間くらい居座ってる」

「めっちゃ迷惑な客だな。せめて紅茶のおかわりか、料理の注文くらいしろ」

「だって誕生日パーティーの料理が入らなくなったら困るし……」

「発想が子供じゃねえか。少しくらいは食っておけよ……すまん、追加でサンドイッチを」

 

 リーベの追加の注文に、店員は目に見えて喜んでいた。

 

 リーベは私の向かいの席に座るなり、懐から分厚い封筒を取り出して中の書類を確認し始める。

 はたから見れば、書類をパラパラと捲っているようにしか見えないが、あれでちゃんと読み込んでいるらしい。

 

「誕生日パーティーの準備そろそろ終わりそうか?」

 

 書類から目を離さずに、リーベは私に声を掛けた。

 

「あともう少しかな。予約していた料理がまだ届いてないから」

「どこの店だ?」

「ほら、前に魔族に家宝の包丁を奪われた料理人がいたでしょ」

「ああ、”レッカー”のところか。俺も聖地巡礼で行ったことがあるが、結構な腕前だったな。レクテューレ先輩がこっちに旅行に来た時に勧めたっけ」

 

 ヒンメルたちと冒険していた時代に、訪れたことのあるレストランのひとつだ。

 ヒンメルと結婚してからも、あの店には二人で足を運んだことがある。

 何年か前に息子の代に変わって、あの味も変わってしまったが、それでもより美味しくなっていた。

 

「しかし奮発したな。あそこそこそこ高いだろう」

「私のへそくりがあったからね……全部使っちゃった」

「それで紅茶一杯で飢えを忍んでいたわけか」

 

 リーベはポケットを弄ると、取り出したものを親指で弾き飛ばした。

 ちょうど私の手元に飛んで来たメダルのようなものを両手で掴むと、その正体に私は目を見開く。

 

「ラ、ライヒ大金貨……」

 

 金貨には大まかに三種類の物が存在する。

 中央諸国のシュトラール金貨と北側諸国のライヒ金貨という現在の主要な通貨。

 南側諸国にも金貨は存在するが、長い内乱のせいで貨幣価値が下がっている。

 

 中でもライヒ金貨は北側諸国で最も信用があり、シュトラール金貨の約1.7倍の価値がある。

 そしてこのライヒ大金貨は、ライヒ金貨100枚に相当する代物だった。

 20年くらいは働かなくても生活できる額だ……私は思わず生唾を飲み込む。

 

「どういうつもり?」

「これから色々と物入りだろう。だからやるよ」

「そんなポンと渡す金額じゃないでしょう……」

「別に俺は金が必要じゃないからな。基本的に自給自足で事足りている。必要なお前らが使ってくれ」

 

 たしかに、あの本の印税で入った副収入を未だに使い切れていないらしい。

 その上、1級魔法使いとしての収入を考えると、その資産はちょっとした貴族並みのものだろう。

 

「ご注文の紅茶とサンドイッチです」

「どうも。これ取っておいてくれ」

 

 ちょうど店員が紅茶とキュウリのサンドイッチを運んで来た。

 リーベはその店員に、気前よくチップを手渡している。

 何となく大人としての立ち振る舞いで負けたような気がしてきた。

 

 それから数十分が経ち、リーベが柄にもなく懐中時計を眺め出した。

 

「そろそろ宿に帰るか」

「うん」

 

 宿まで道すがら、私たち2人は特に会話もなく歩いた。

 たしかに仲良く話し合うような間柄ではなかったが、それにしたって今日のリーベの口は妙に重い。

 

「楽しそうだな」

 

 私の視線を感じてか、リーベは口を開いた。

 

「うん、誕生日パーティーだからね」

「誕生日か……フェルンたちには悪いが、今更祝うようなものでもないと思うがな」

「ずいぶんと億劫そうだね」

「お前なら分かるだろ。俺たちみたいな長命種にとってはめでたい日じゃない」

 

 リーベの言いたいことは分かる。

 私たちのような種族にとっては、年月の経過は別れを意識させることが多い。

 ヒンメルたちと出会う前までは私もリーベと同じ意見を持っていた。

 

 それでも……。

 

「誰かに生まれたことを祝福されるのって、結構良いものだよ」

「……そういうものか?」

「そういうものだよ」

「そうか」

 

 それからリーベと私は一言も発することなく帰路のついた。

 不思議と、その沈黙に気まずさは感じられなかった。

 

 パァンッ!

 パァンッ!

 

 宿の扉を開けた瞬間に鳴り響いた破裂音に、私たちは特に驚くことはなかった。

 クラッカーから飛び出した紙吹雪を払いながらリーベが私に視線を投げかける。

 

「何で人間って、わざわざ祝いの席で驚かせようとするんだろうな」

「さあ?そういう風習なんじゃない?」

「ええ……クラッカーのやりがいがないな、この2人」

 

 宿の階下は許可をとって貸切状態にしてもらった。

 壁は手作りの装飾で飾り付けられ、中央のテーブルにはホールケーキとターキ、高級そうなシャンパンが置かれている。

 

 ケーキ用のロウソクを山のように抱えたシュタルクが私たちに訊ねた。

 

「一応、できるだけロウソクを集めて来たけど……どうします?」

「数本でいい。俺らの年齢の数でやったら、このケーキの表面積じゃ足らないぞ」

「それに絶対火事になるよね」

「ですよね」

「せっかく集めたのに……」

 

 シュタルクには悪いが、ロウソクは見栄えが良いように飾らせてもらった。

 誕生日の歌を全員で口ずさみながら、私が息を吹きかけてロウソクを半分ほど消し、残りの数本をリーベが吹き消す。

 

『2人とも、誕生日おめでとうございます!』

 

 フェルンとシュタルクは、私たち2人の誕生日を祝福した。

 私は温かな気持ちになり、自然と笑みが溢れてしまう。

 

「ありがとう2人とも」

「……あー、うん。まあ……ありがとう」

 

 私とは対照的に、リーベはぎこちなく返事を返す。

 珍しく、リーベは何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「フリーレン様、これをどうぞ」

 

 フェルンとシュタルクが包装紙に包まれたプレゼントを1つずつ手渡してくる。

 その大きさや形から、おそらくは魔導書の類だろう。

 

「『口内炎を治す魔法』と『服の毛玉を取り除く魔法』が書かれた魔導書です」

「おお、悪くないね」

「効果が限定的すぎるだろ……」

 

 私が2人のプレゼント喜んでいるというのに、リーベは水を刺すような言葉をこぼした。

 シャンパンの栓を抜いているリーベに、私はじっと視線を送る。

 

「何だよ……」

「プレゼント」

「あ?俺が用意してると思うか?」

「フェルンたちにはあげてたじゃん」

「……」

 

 私の視線に根負けしたのか、リーベはため息を吐いた。

 そして何やら懐から人形のようなものを取り出す。

 気のせいか、同族の知人によく似ていた。

 

「何それ?」

「ゼーリエ人形だ。これをやろう」

「絶対いらない」

『愚か者め』

 

 何やら呪いの人形を渡されそうになったが、私は断固として断った。

 人形が恨めしそうな視線を送っていたが、きっと気のせいだろう。

 

「そして……これはリーベ様のです」

 

 フェルンは、魔導書よりも一回り小さい箱をリーベに手渡した。

 箱を開けてみると、蝶の意匠が施された髪飾りが出てくる。

 前に私がフェルンにプレゼントしたものに、少し似ている気がした。

 

「なるほど、髪飾りか。考えたねフェルン」

「ええ。リーベ様は髪が綺麗なのですから、髪紐だけで髪をまとめるのはもったいないです」

「普段は外套の中に髪をしまってるからな……まあ、今日からこれを付けてみるよ」

 

 外套を脱ぎ捨てたリーベは、早速その髪飾りを付けた。

 長い黒髪の三つ編みに銀の髪飾りがよく映える。

 

「どうだ、似合うか?」

「ええ、とても美人だと思います」

「ザインが好きそうな大人のお姉さんみたいだね」

「男への褒め言葉として、それはちょっとどうなんだ?」

 

 不貞腐れたリーベは、肩肘をつきながらシャンパングラスを呷る。

 その顔と仕草が相まって、やさぐれたOLのように見えた。

 

「あの……リーベさん、これ」

 

 今度はシュタルクが細長い長方形の箱を手渡す。

 箱を開けてみると、小型のナイフと石の塊のようなものが出てきた。

 

「ほう、ペティナイフと……砥石か」

「リーベさん、よく料理するからこれなら喜んでくれるかなって。刃物なら俺もある程度は良し悪しが分かるからさ」

「たしかにいい鋼を使ってるな。砥石の方は……ん?」

 

 砥石を手に取ってみたリーベは首を傾げている。

 一見すれば何の変哲も無いただの砥石だが、魔力探知をして私も得心がいった。

 

「乾燥と殺菌の魔法が掛かってるね。オイサーストじゃ見ないタイプの術式……帝国かな」

「そうだな……これもシュタルクが選んだのか?」

「え、まあ……はい」

 

 シュタルクはどういうわけか煮え切らない返事を返した。

 リーベはしばらく砥石を凝視していたが、一瞬だけ奥の部屋に視線を向ける。

 

「隠れてないで出て来い」

 

 リーベは、奥の部屋でずっと息を潜めている人物に声を掛けた。

 シュタルクとフェルンの体がわずかにビクッと震える。

 

 私もこの部屋に入った瞬間から、その存在には気が付いていたが、相手から悪意や殺気のようなものを感じなかったので放置していた。

 だから、その人物がものすごい勢いでリーベに迫ったのは予想外だった。

 

「リーヴェリットおば様ー!」

「ぐえっ!?」

 

 突如、奥の部屋から突進してきた女性は、リーベの鳩尾に見事な頭突きを食らわせる。

 まるで子供が親に飛びつくような動作だ。

 飛びつかれたリーベは少し血反吐を吐いているが。

 

「おじ様と言いなさいと、いつも言っているだろう。マーベリット」

「だって、おじ様とはリーヴェリットの姿で会った回数の方が多いんですもの」

「そっちの姿の方が良いって、お前が赤子の頃から駄々こねるからだろう……親子揃って、あの悪癖が見事に遺伝してるな」

 

 膝に抱きついている女性を、リーベは子供や猫をあやすかのように撫でている。

 何だか妙に手慣れた様子だ。

 置いてけぼりを食らっている他の2人に代わって、私は口を開く。

 

「誰?」

「俺の尊敬する人のお孫さん。爺さんの付き添いか?」

「うん、驚いた?」

「全然。帝国産の酒が置いてあった時点で薄々察していたよ。そもそもグラスも皿も一人分多かったし」

「うーん、サプライズ失敗かぁ」

 

 マーベリットから話を聞いてみたところ、今朝シュタルクと偶然に知り合ったらしい。

 リーベの誕生日と聞きつけて、土産用の酒を持参してパーティーに参加したそうだ。

 ちなみに、砥石に掛かってる魔法は彼女のものらしい。

 

『今年の受験者名簿にも名前があった。あまり手の内は晒すなよ……強いぞ』

 

 マーベリットを引き剥がしたリーベは、静かに私に耳打ちをした。

 確かに歳の割には中々に精強な魔力を感じる。

 聞けば、帝国の魔導特務隊に席を置いているらしい……現役の軍人だ。

 

 お酒の用意やリーベの知人ということもあって、結局マーベリットはパーティーに同席することになった。

 リーベと隣の席に座り、何やら祖父についての愚痴をこぼしている。

 女性の比率が多いせいか、シュタルクが少し居心地が悪そうだ。

 

「ああ、そうだ。ザインからもプレゼント預かってるんだった」

「ザインから?」

 

 シュタルクの口から意外な人物の名前が出て来て、私とリーベは少し驚く。

 別れる前日、私の誕生日を偶然知ったザインがシュタルクに渡したらしい。

 

 カバンから小さな小箱とメッセージカードを取り出し……シュタルクはなぜか険しい表情を浮かべた。

 

「どうしたの?」

「……フェルンのいないところで開けるようにって、注意書きがしてある」

 

 私たちの視線がフェルンに集まる。

 

「……開けましょう」

 

 フェルンは笑顔のままそう言ったが、その目は全く笑っていない。

 シュタルクは震えながら箱を開封した。

 

 中にはさらに密閉された四角い缶が入っており、隙間から空気が入らないように厳重にテープで目張りしてある。

 缶を開けると、その中には白い紙とおがくずのようなものが入っていた。

 訳が分からずに私たちが首を傾げていると、リーベとマーベリットが顔を見合わせた。

 

「紙巻タバコね。おじいちゃんが似たようなものを持ってたわ」

「だから湿気ないように密閉してたわけか……フリーレン、タバコを喫んだことは?」

「昔、エルフの集落で同族から貰ったことがあるけど……あんまり得意じゃない」

「だよな。フリーレンがいらないなら俺に渡すようにって書いてあるから、お前がいらないなら俺が預かるが」

「うーん……せっかくだし一本くらいなら貰っておこうかな」

 

 私がそう言うと、マーベリットは手慣れた手つきでタバコを巻いていく。

 一瞬で完成したそれを受け取ろうとすると、向かいの席に座るフェルンがそれをはたき落とした。

 

「いけませんフーリレン様。タバコなんて吸ったら肺が真っ黒になります」

「許してぇ」

「アルコールの方が体に悪いっていう説もあるがな。まあ、一本くらいなら……」

「ダメです」

 

 フェルンは断固として引かなかった。

 その謎の圧力にリーベでさえ気圧されている。

 フェルンの隣に座っているシュタルクは怯えてすらいた。

 

「このままじゃ、せっかくのパーティーがめちゃくちゃになるな……仕方がない。フリーレン少し手伝え」

 

 リーベは女神の視界を取り出すと、何やらそれを弄り始める。

 そして、膨大な魔法術式を展開し始めた。

 

「出力、演算、中継は俺がやる。お前は調整を担当してくれ……少しでもミスれば魔導具が壊れるからな」

「……もしかして、そういうこと?えぇ、このためにそこまでする?」

 

 術式を読み込んだ私は、リーベのやらんとすることが分かった。

 神がかりとすら言えるであろう魔法で、こいつはどうしようもなく馬鹿げたことをしようとしている。

 呆れながら、私はそれに手を貸した。

 

『ひとり旅も良いもんだな。酔って宿に帰っても、嬢ちゃんに怒られる心配もない』

 

 女神の視界はザインの姿を映した。

 いつものように、どこか場末の酒場で一杯引っ掛けているらしい。

 

 不意に、ザインの”目がこちらに向いた”。

 

『え、何これ?何で空中にフリーレンたちの姿が見えるんだ……飲みすぎたかな』

「映像は届いているようだな。声は聞こえるか?」

『……幻聴まで聞こえる。今日は早く休むか』

「どうやら成功みたいだな」

 

 リーベが魔導具に一時的に付与した魔法は映像と音声に関するもの。

 つまり、史上初の長距離の映像通話を魔法によって実現したのだ。

 まさかこんな場所で歴史的な実験を手伝わされるとは思わなかった。

 

「とんでもないことしてる自覚ある?」

「長距離通信に関しては魔導具の性能に乗っかっているだけだ。それなりの人数がいれば似たようなことはできるだろう……まあ、2人でやる魔法ではないな」

 

 簡単そうに言ってくれるが、普通の魔法使いからすれば無法なやり方だ。

 現に、シュタルク以外の魔法使いたちは少し引いている。

 

『えーと。つまりこれは幻覚じゃなくて、兄ちゃんの魔法ということか?』

「そうだ。思ったより早い再会になったな」

『へえ、魔法って便利だな……ちなみに、隣に座ってる綺麗なお姉さんは誰だ?』

 

 ザインのその疑問に、珍しくリーベは意地悪そうな笑みを浮かべた。

 そして、わざとらしくマーベリットの肩を抱き寄せる。

 

「新しい仲間だ。お前好みの大人のお姉さんだぞ」

「マーベリット30歳でーす」

 

『くそがーーーー!!!』

 

 ザインは手に持った樽のジョッキをテーブルに叩きつけ、大粒の涙を流していた。

 なぜか私たちと別れた時よりも悲壮感に満ちている。

 

「それはそうと、誕生日プレゼントありがとうな」

『ん?ああ、それでわざわざ連絡をよこしたわけか。で、どうだった?』

「フリーレンはイマイチそうだな。代わりに俺が使わせてもらうよ」

『そうか。俺特製のブレンドだから楽しんでくれ……くれぐれもフェルンには内緒にな。あの嬢ちゃん、こういうことには口うるさいから』

 

 フェルンがこの場にいることを知らないザインは、恐れ多くも本人がいる前で愚痴をこぼした。

 凄まじい怒気を発しているフェルンに、リーベは女神の視界を手渡す。

 

「ザイン様?」

『ぎゃーー!?シュタルクてめぇーー!注意書き読まなかったな!』

「ごめんよぉ……」

「少しお話ししましょうか」

『兄ちゃーん!すぐにこれ切ってくれー!!』

「許せザイン……俺は無力だ」

 

 フェルンの怒りの矛先をザインに向けることで、何とかこの場を収めることに成功したようだ。

 ザインには悪いが、小一時間はフェルンのお説教を聞いてもらうことにしよう。

 

「じゃあ、そろそろ料理を食べようか。プレゼントも渡し終わったし」

「……待って」

 

 ターキーを切り分けようとしたリーベは、私の制止に怪訝な顔を浮かべた。

 私は渋々と、トランクの中から一冊の本を取り出す。

 

「ん」

「あ?何だこれ?」

「だから……”私から”の誕生日プレゼント」

 

 その言葉にリーベは固まった。

 思考と理解が追いついていないのか、壊れたブリキ人形のようにぎこちない動きをしている。

 私がプレゼントを用意していたとは、微塵も予想していなかったのだろう。

 

「色々と世話になったし、最高の誕生日にしようと2人が頑張ってたからさ」

「……なんか、すまん」

「別にいいよ。私も今日までそれを渡すか悩んでたし……あのライヒ大金貨がプレゼントってことにすれば?」

「いや、現金がプレゼントなのは良くないだろ」

 

 ばつが悪そうにこめかみに手を当て、リーベは何かを思案し始める。

 私は貰えれば何でも良かったが、最高の誕生日という言葉が引っかかっていると見えた。

 

 逡巡した末、リーベは私のトランクの中身へと視線を向ける。

 

「何か手頃な小物はないか?アクセサリーみたいに、身につけられるものがいいが」

「うーん、そうだな……これは?」

 

 私は銀製の小さな笛を手に取った。

 以前、蚤の市で見かけて購入した統一帝国時代の骨董品だ。

 首紐を結わえばネックレスのように携帯できるだろう。

 

 それをリーベに渡すと、リーベは先ほどの魔法術式とは比べものにならない量の魔法を展開した。

 シャンパンを飲んでいたマーベリットと、説教中のフェルンですら目を見開く。

 私だって、あまりにも膨大な量の術式と構築速度に理解が追いつかない。

 それを当然かのように、リーベは行使していた。

 

「こんなものか……ほら、俺からのプレゼントだ」

 

 返された笛は、複雑な術式が刻まれた魔導具と化していた。

 だが、通常の魔導具よりも複雑な術式が組み込まれていて、私ではすぐに解析ができない。

 

「何の魔法を付与したの?」

「色々と組み合わせてはいるが、簡単に言えば救援装置だな。その笛を吹けば、どんなに離れていても俺がすぐに駆けつける……ただし条件がある」

 

 リーベは3つの条件をあげた。

 

 1つ、この魔導具の使用は1回限りであること。

 膨大な術式を小さな物体に組み込んだ影響で、1度使うと魔導具として壊れるらしい。

 

 2つ、この魔導具は使用者が絶体絶命の危機にならないと発動できない。

 1度切りの使用制限があるため、発動条件を厳しく限定しているそうだ。

 

 3つ……この魔導具は魔族との戦闘時には発動できない。

 同じ魔族として、同族との諍いには関与したくないらしい。

 

「……使う機会なくない?」

「案外分からんぞ。今の時代、魔族よりも人間の方がよっぽど人を殺している。まあ、お前が手こずるような手合いに俺が勝てる可能性は低いだろうな。気休め程度に思ってくれ」

 

 そう言うとリーベは席を立った。

 眠いから、少し外の風に当たりたいそうだ。

 徹夜明けの体に、あの魔法の行使は堪えたのかもしれない。

 

「これでよしと」

 

 普段ならトランクの中に笛を仕舞っているところだが、例の指輪の時に怒られたので、首紐を結わえて首に下げた。

 

 首の辺りの慣れない感触が少しむず痒い。

 いずれこの結婚指輪のように、肌に馴染むようになるのだろうか。

 

「あいつとの誕生日会、思ったより楽しかったよ……ヒンメル」

 

 左手の薬指を撫でながら、私は微笑んだ。




リーベ「ちなみに、この本は……魔導書か?何の魔法だ?」
フリーレン「聞いて驚け。それは伝説級の魔導書……”しつこい油汚れを取る魔法”が記されている」
シュタルク「おばあちゃんの知恵袋みたいな魔法だな」
リーベ「バ、バカな……あの伝説級の魔法だと!?」
フェルン「フリーレン様秘蔵の1冊ですね……流石です」
マーベリット「流石伝説の魔法使いだ。こんな伝説級の魔法、帝都でも中々お目に掛かれないよ」
シュタルク「えぇ……1番喜んでる」


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