もう付き合っちゃえよ(真顔)   作:オールドファッション

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10話超えそうなので短い連載物になりました。
……グラオザーム推しの皆様申し訳ございません…。

白鞘侍さん、ホタテ土器さん、カド=フックベルグさん、MAXIMさん、植物サンプルさん、誤字報告ありがとうございます。


グラオザーム先生の引率式【後編】

 翌日、俺たちは夜には北部高原キーノ峠付近まで移動した。

 勇者一行はここから三日三晩手探りの状態で女神の石碑までたどり着いたようだが、俺は女神の視界で見ていたので最短距離で着けるだろう。

 魔族の移動速度ならちょうど一日くらいか。

 

(さて、どうするか…)

 

 勇者一行は早くとも一日半は掛かる距離にいる。

 ヒンメルが道中、人助けをする可能性を考慮すると二日か三日は掛かるかもしれない。

 俺なりに時間稼ぎはしたものの、こちらが余裕で間に合いそうだった。

 

『グラオザーム…シエスタって知っているか?作業効率が上がるらしい』

『必要ありません』

 

『あの雲の中に…幻の天脈竜が…』

『あなた行ったことあるでしょう?』

 

『すまん、実はわりと瀕死の状態だから回復させてもらっていいか?特に鳩尾の辺りが…なぜ顔を背けてるんだソリテール』

『かわいそうに…グラオザームとリヴァーレのせいね』

『すまんて』

『うわぁ、血出てるじゃん』

『……回復休憩を挟みましょう』

 

 さすがは奇跡のグラオザーム、まさに奇跡のごとき手腕で曲者揃いの魔族をまとめている。

 完敗だ…どうやらヒンメル一行の旅はここで終わりのようだ。

 

「そういえば、新しい魔法の開発って何なんだ?」

「あぁ、あれか…」

 

 白く燃え尽きている俺にリヴァーレが問う。

 俺は開発したが、とある”理由”でお蔵入りとなった魔法を思い出した。

 

(正直、これが足止めになるとも思えないが…やるだけやってみるか)

 

 俺が新しく開発した魔法。

 もうこれに賭けるしかないだろう。

 

 俺は数回、指を鳴らした。

 

「これが新しい魔法だ」

「…おまえ、指鳴らしできなかったのか」

「脳みそ筋肉か、お前は」

 

 リヴァーレは首を傾げ、グラオザームとソリテールは辺りを見回している。

 俺とトート以外はどんな魔法が発動したか察知できなかったようだ。

 

「今発動したのは呪いだ。まあ、トートの十八番だな」

「でも、この感じ…まさか」

「多分合ってるぞ。ソリテール」

 

 トートは戦闘向きではないが、呪いを得意とする魔族だ。

 本来、呪いは人類が解明できていない状態異常の魔法の総称であるが、俺の呪いは複数の人類の魔法が組み合わさった物なので、もはや呪いと言うべきか曖昧なところだ。

 さらに、黄金郷のマハトの黄金郷たる所以、万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)からもいくつか原理を応用させてもらっている。

 さすがに解除ができないほど強力なものではないが、この魔法は魔法とは認識できない。

 

「それを全員に掛けた」

「何やってるんですか…」

「心配するな。危険なものではない」

 

 グラオザームとリヴァーレは俺の言葉に半信半疑といったところだろう。

 ソリテールは完全な疑いの眼差しを俺に向けている。

 トートはこれから起こることが待ちきれない様子だ。

 

 俺は視線をグラオザームへと向けた。

 心なしか、俺が顔向けた瞬間から恐怖の匂いがした。

 

「なあ、グラオザーム」

「……なんですか」

「好きな相手いるか?」

『YES』何言ってるんですか……え」

 

 グラオザームの言葉に俺とトート以外の者が硬直する。

 俺の質問はともかく、魔族の中でもわりと真面目な性格の奴から想像もできない返答だった。

 しかし、一番驚いているのは当の本人だろう。

 

「…っ」

 

 グラオザームはとっさに口をふさぐ。

 さすがの判断の速さだ…だが、無駄な努力だった。

 

「それは女性か?」

「『YES』っ!?」

 

 必死に口を押さえていたが、俺の質問に奴は即答する。

 困惑するグラオザームの姿にトートは爆笑していた。

 

「ほう、お前の本体がいなくても精神魔法越しから呪いは干渉するのか…興味深い結果だ」

「…リーベ、まさか……」

「ご明察だソリテール……俺は『好きな相手の名前を言ってしまう魔法』を覚えたよ」

 

 俺の世紀の大魔法にソリテールは汚物を見るような目を向けた。

 だが強気な表情とは裏腹に、彼女の四肢の筋肉には凄まじい青筋が立っている。

 ここから離れたくても離れられないのだろう…俺が逃げられないように移動制限を呪いに架してあるからな。

 

「ん?『質問に嘘偽りなく答える魔法』ではないのか?」

「馬鹿だなリヴァーレ…こういうのはシチュエーションやムードが大事なんだ」

「今はムード全くないけどね」

 

 俺はリヴァーレにシチュエーションやムードの何たるかを教授した。

 

 とある旅人たちが、長い旅をすることになる。

 初めは互いのことがわからずとも、次第に友情を…そして友情すら超えた共同体のような一体感を抱くだろう。

 しかし、旅とはいつか終着点があり、そして別れの時が訪れるものだ。

 

 旅の終わりが見え始める頃、彼らは焚き火と星空の明かりを頼り語り合う。

 あらゆる未来、あらゆる過去について。

 

『…あのさ』

 

 そして、一人がふとした瞬間言うのだ。

 

「お前ら、好きな奴いる?……とな」

「修学旅行の夜の学生か?」

 

 帝都の学生たちは修学旅行の夜に好きな相手を打ち明け合うらしい。

 俺の恋愛の師であるレクテューレ先輩が貸してくれた書物にはそう書いてあった。

 

「つまり、恋愛対象に関する質問に対してYESかNOで答えてしまうのね…下らないけど相変わらず凄まじい魔法の構築だわ」

「でも使う前に、お蔵入りになっちゃったんだよね」

「ほう、何故だ?」

 

 俺は原因の一人であるフリーレンを思い出し、長い溜息を吐いた。

 

「一つは、フリーレンがヒンメルに明確な恋愛感情を抱いてるか…だな。あのエルフの答え一つでヒンメルとの関係が終わる可能性があったからだ」

「エルフは生殖本能に乏しいからなぁ…で、もう一つは?」

「勇者一行に化け物レベルの僧侶がいたことを忘れていた」

「これ解除できる可能性あるの凄いよね」

 

 ヒンメルとフリーレンが群を抜いているが、勇者一行全員が化け物レベルの構成だ。

 それは初期の頃に戦った俺がよく知っている。

 だが、さらに伸び代があるとは予想外だった…俺、再戦しても勝てないな。

 

「まあ、効果時間も半日程度だし、実際に使えたかどうかも怪しいな」

「これって好きな相手の名前を答えないと何かあるのかしら?」

「嫌いな食べ物の悪夢を一晩だけ見る」

「地味に嫌だ…リベちゃんの嫌いな物って何?」

「強いて言えば…人間か?魔力は高いが大してうまいと思えないし…次点でたまねぎ?」

「子供か」

 

 リヴァーレのツッコミに魔力障壁がまた散った。

 下手な魔法よりも強力な一撃を軽々と使うな…俺死んじゃうって。

 

「しかし、さっきから一人だけ会話に入ってこないやつがいると思えば…」

 

 皆の視線がグラオザームへと注がれる。

 口を頑なに閉じ、その上からさらに手で口を覆い隠している。

 よく見れば、魔力でさらに口を固定しているようだった。

 精神魔法で作った幻影の姿だとは思うが、呼吸とか出来ているのか心配になる。

 

「新鮮な空気が美味いな、トート」

「うん、デリシャスだね」

「鬼畜だなお前ら…」

 

 あのリヴァーレやソリテールですらグラオザームの姿を哀れんでいるようだった。

 しかし北風と太陽作戦は失敗だな…より一層亀のように口を閉じてしまった。

 仕方がない、介錯してやろう。

 

「それは俺の知っている相手か?」

「『N…O』…ぐっ!」

「知らない相手か…長期戦になりそうだな」

「早く言った方が楽だよグラちゃん…」

「ぶはっ…リーベ…いい加減にしなさい!」

 

 俺とトートがちょっと楽しくなってきた頃、グラオザームは観念したのか口を開けた。

 俺たちがグラオザームの口からどんな言葉が出るか期待すると…。

 

楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)の続き見せませんよ!」

 

 俺にとっての最大の解除呪文が出てきた。

 

「ウー…オレ…グラオザームセンセイ…シタガウ」

「哀れな獣と化したわ…」

 

 さすが奇跡のグラオザーム。

 どんな不可能でも可能にする…まさしく奇跡の一手だ。

 

 クイクイッ。

 

 自我を喪失しかけた俺の袖を、トートが引っ張る。

 

「じゃあ、今度は私の好きな相手を聞いていいよ」

「トートのか?まあ、だいたい予想は付くが…」

 

 自信満々の様子のトートと、その姿に目線を向けるリヴァーレとソリテール。

 グラオザームは近くに倒れていた大木に腰掛けて俯いていた。

 酸素不足かな?

 

「相手は魔族か」

「『YES』だよ」

「まあ、当たり前だよな…料理ができるか」

「『YES』だねぇ」

「…料理?誰だろうなソリテール」

「……」

 

 トートの返答は俺の予想通りのものばかりで正直退屈だった。

 リヴァーレは分からないのか首を傾げ、ソリテールは俺を見ていた。

 

「髪は三つ編みか」

「『YES』…うわ、最短で来たね」

「みつ…あみ?…あぁ、なるほど…そういうことか」

 

 俺の質問にトートは楽しそうに笑みを浮かべる。

 リヴァーレもこの段階に至って答えがわかって来た様子だ。

 まあ、答えはどうせ分かりきったものだ…俺はつまらない答え合わせに入った。

 

「それは…」

「ねえ、やめない?」

 

 俺の言葉を隣にいたソリテールが遮った。

 こういう下らないことは早く済ませたいタイプだと思っていたから、ソリテールが止めに入ったのは意外だった。

 

「何だか、つまらないのよね…リーベ、あなたなら解除できるんでしょ?」

「あぁ、無論だが?」

「じゃあ、解除して先に進みましょう…私、早くお家に帰りたいわ」

 

 ソリテールは相変わらず張り付いたような笑みを浮かべていたが、長い付き合いの者にしか分からない違和感を発していた。

 具合が悪い時と、機嫌が悪い時が重なったような雰囲気を感じる。

 俺はリヴァーレと視線を合わせ、奴は残念そうに頷く。

 

「じゃあ…」

「私はいいよ?自分から言っても」

 

 解除のため、指を鳴らそうとした俺の手をトートが掴んで止めた。

 トートとソリテールの顔が数十センチのところまで近づく。

 二人の視線は交差し、長い沈黙が続いていた。

 

「……そう、いいわ…続けて」

 

 しばらくして、ソリテールが先に視線を下ろした。

 

 ……空気が重い。

 グラオザームも何だか頭を抱えていた。

 気圧のせいかな?

 

「じゃあ…いいか?」

「いいよー」

 

 俺はつまらない答え合わせを早く終わらせるため、ありきたりな答えを口にする。

 

「それは……お前自身か?」

「『YES』うん、そうだよ」

 

 想像した通りのありきたりな答えだった。

 

「まあ、まともな魔族ならそう言うよな」 

「ああ、そうだな」

 

 俺の言葉にリヴァーレがうなづく。

 どうやら予想が当たっていたらしい。

 

 魔族は個人主義、自己保存の塊だ。

 それは言い換えれば、我が身が一番かわいい…つまり自分自身が好きとも解釈ができる。

 そもそも恋愛感情を持っている魔族が少数のため、人間の時とは違い、好きな対象か興味のある対象になることは初めから分かっていた。

 

 まあ、だからこそグラオザームの返答には皆が驚いていたわけだが…本当に誰なんだ。

 あ、グラオザームの頭痛が治ったぽい。

 

「でもリベちゃんも結構好きだよ。私の次の次の次の次の次ぐらい?」

「それって本当に好きに入るのか?」

 

 これまでの道中で互いに仲良く接しているが、まあ魔族の価値観だとこんなものかと俺は呆れる。

 

「……」

「良かったな、ソリテール」

 

 ソリテールは何やら目を丸くして惚けていた。

 その頭をリヴァーレが好々爺のように撫でるが……俺はソリテールの首が折れないか心配になった。

 

 ぐいっ。

 

 トートが俺を引っ張ってソリテールの側から引き離す。

 そして姿勢を低くしろと俺にジェスチャーを送った。

 まだ鳩尾の辺りが痛いので、屈むのは一苦労だ。

 

「…ねえ、ソリちゃんの好きな相手もソリちゃん自身なのかな?」

「どうだろうな。趣味は人間の観察だが、好意とは違うと本人は自覚してるだろうし…」

「ふーん」

 

 トートは何やら笑みを浮かべ、ソリテールの方に視線を送る。

 ソリテールはリヴァーレに撫でられ続け、髪が寝癖みたいになっていた。

 俺はそのキューティクルがちょっと心配になった。

 

「ねぇ、ソリちゃん…ソリちゃんが好きなのは魔族?」

「『YES』…当たり前じゃない。私は我が身が一番かわいいわ」

「ふーん」

 

 立ち上がったトートが後ろに腕組みをしながらソリテールに近づき質問を返した。

 珍しく、ソリテールがわずかに後ずさる。

 

「それって料理が…”上手”ですか?」

「『YES』よ」

「そうだな。ソリテールの料理は中々だ」

「じゃあ、人類の魔法を調べていますか?」

「『YES』ね」

「魔族で好んで人類の魔法を調べているのはソリテールくらいのものだろうな」

 

 合間合間で俺が言葉を挟むと、ソリテールは俺の方に目線を向けた。

 何と言うか、『ありがとう』と『黙れ』が混ざったような複雑な思いを感じる。

 

「その魔族は髪が……長いですか?」

「『YES』……」

「下手な質問だな?髪の長い魔族は珍しくないない…ソリテールもだが、マハトやリヴァーレも長いぞ」

「まあな、俺も…リーベもな」

「……」

「…すまんて」

 

 リヴァーレの言葉でソリテールが真顔になって奴の顔を凝視した。

 奴はとっさに、年甲斐もなく俺の背に隠れる。

 やめろ、俺もソリテールのあんな怖い真顔は初めて見た…正直、今は魔王様より怖い。

 

 助けを求めてグラオザームに視線を送るが…だめだ、今度は震えている。

 きっと今夜は雪だな…家に帰りたい。

 

「その魔族は長生きですか?」

「『YES』」

「その魔族は人間が好きですか?」

「『YES』」

「その魔族は人間やエルフやドワーフと戦いましたか?」

「『YES』」

 

 トートの怒涛の質問責めにソリテールは真顔で即答する。

 その質問のどれもがソリテールには当てはまる可能が高い。

 あいつも長生きだ…俺は知らんが、エルフやドワーフと戦う機会もあっただろう。

 

「その魔族は…」

「埒が明かないわね…いいわ、”答え”を教えてあげる」

 

 やっと終わりかと思ったら、ソリテールは俺の前に立った。

 ボサボサだった髪を整えて、さっきの真顔とは打って変わって満面の笑みを湛えている。

 それはそれで不気味だった。

 

「私が好きなのは……あなたよ」

「え」

 

 ソリテールの意外な一言に俺は固まる。

 予想外すぎて脳が理解を拒んでいた。

 

「きゃー」

「おぉ…」

 

 トートはまるで人間の年頃の少女を真似て、作ったような姦しい黄色い悲鳴を上げる。

 リヴァーレは後方で腕を組んで俺とソリテールを見つめている。

 

「……」

 

 グラオザームは相変わらず俯いていたが、よく見れば耳がピクピクと動いている。

 心なしか、さっきよりも元気そうだ。

 なら早く立て…助けろ。

 

「…ソリテール」

「でも、正確に言うとね…」

「ん?…っ!?」

 

 ソリテールは両方の指先を合わせた手を固く握り込み、腰を落として拳を大きく振りかぶる。

 両足は大地をしっかりと踏みしめ、右手に集中した膨大な魔力の塊に俺は青ざめた。

 

「う、魔力を壁にする魔法(ウォルマナマリア)!!」

 

 俺が持ち得る最高の防御魔法を鳩尾へと展開するが、その音を置き去りにした正拳突きの衝撃を全て抑えることは叶わずに俺は宙に舞った。

 

 誇れソリテール。

 多分、今お前の拳はリヴァーレを超えた。

 お前が魔族最強の戦士だ…ぐ、えぇ…。

 

「私はね…あなたを痛めつけるこの瞬間がとても好きなのよ。これが”YES”よ…いいわねみんな?」

 

 皆、黙って頷く。

 そして俺は、本日2回目の回復休憩に入った。

 回復魔法の温かみが沁みるな…。

 

「じゃあ、次は俺か?よし、遠慮せずに聞いていいぞ」

「リヴァちゃんは大体想像がつくからやりがいないよね」

「ひどいな…」

 

 リヴァーレ本人は待っていた言わんばかりの様子だが、俺もトートと同意見だった。

 この場にいる皆が、こいつの好きなものについて予想がついている。

 早く終わらせろと俺はトートをジェスチャーで急かした。

 

「じゃあ、とりあえず…それは女性ですか?」

『NO』だな」

「え?」

 

 俺とグラオザームは念のために奴から距離を取った。

 奴の場合、性別に拘らないだろうから『YES』と反応すると思っていたが、予想が外れた。

 

「えー、じゃあ…男性?」

「『NO』だ」

「えぇ?どういうこと?」

「何だお前…対物性愛者だったのか?無機物?」

「『NO』だ…お前ら遠くないか?」

 

 俺たち全員は異常性癖疑惑のあるリヴァーレから距離を取って相談を始めた。

 

「彼の好きなものって……あれですよね?」

「そうね。あるいはそれと戦う状況とかかしら」

「でもあれって…男も女もいるよね?返答がおかしくない?」

「とりあえず手っ取り早く言ってみるか」

 

 俺は奴から十分に距離を取った状態でその言葉を口にする。

 

「おまえが好きなのは戦士かー?」

「『YES』だー。…だから戻ってこーい」

 

 そうだ、リヴァーレは魔族の中でも有名な戦闘狂だ。

 特に奴は戦士との戦いを好んでいる。

 それは皆、最初から分かっていたが……正直、こいつの番で1番不可解な結果になるとは思わなかった。

 

「えー、何で性別の時にYESって言わなかったの?」

「そんなこと言われても無意識のうちに言葉が出るからな…俺もよく分からん」

「開発したの俺だけどその辺りの条件曖昧なんだよな…たぶん人間には心に干渉して、魔族は…心あるけど複雑なんだよな…たぶんこの場合、干渉してるのは大部分が記憶と性格だと思うが」

 

 呪いを得意しながらも、なにぶん感覚派のトートだ。

 そしてそんな理屈もへったくれもないこいつと共同で開発した魔法。

 これには俺にも正直分からない部分が多い。

 これがクヴァールと共同の魔法ならまた違った結果になっただろう…奴が封印されたのが本当に悔やまれる。

 

「おのれフリーレン…」

「なぜそこでフリーレン?」

「ああ、もしや…」

 

 俺が恨み節を呟いていると、当のリヴァーレは何か思い至ったのか手を叩く。

 

「俺が思うに…戦士に男も女も関係はないから…か?」

「リヴァちゃんらしいね」

 

 リヴァーレらしい、戦士特有の考え方で皆が安堵した。

 俺は信じていたぞリヴァーレ…だからその拳を下ろせ。

 回復魔法発動しながら防御魔法の展開はきついからやめろ。

 

「しかし、なるほど本人の認識か…いや、あるいは概念の差異か?難しいな精神干渉系の呪いって…」

 

 お蔵入りしたとはいえ、思えば中々興味深い結果の連続だった。

 消費したリソースと労力分の働きには見合わないだろうが、無駄にならなかっただけマシだろう。

 何より、思ったよりも時間稼ぎになったかもしれない。

 

「じゃあ、最後はリベちゃんか…リベちゃんが一番やりがいないんだよ。だってもう公言してるもん」

「早く終わるならいいじゃありませんか。早く答えさせて女神の石碑へ向かいましょう」

 

 グラオザームは俯きながら早くやれと手振りで急かした。

 トートが面倒くさそうに俺の前までやってくる。

 

「えーと、何て言えばいいの?あの人間の勇者とエルフの魔法使い?」

「俺のこのクソデカ感情を動かすあの関係性は一言では言い表せないが…強いて言うならばヒンフリだな」

「一言で言えるじゃん…フリヒンじゃダメなの?」

「うるさい、この界隈じゃそう言う名称で呼ばれてるんだよ。あとヒンフリな?ヒンメルが一番先なのが重要だからな?次にフリヒンって言ったらマジで怒るぞ?」

「めんどくさい…えーと、じゃあ…」

 

 トートは早くこの茶番を終わらそうと口を開く。

 他の面々も分かりきった答えに興味があるわけがなく、各々が明後日の方向を見ていた。

 

「リベちゃんが好きなのはヒンフリですか?」

『NO』……ん?」

「え」

 

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 

 グラオザームの時やソリテールとの時とは比べ物にならない沈黙が、その場を支配した。

 

「……おかしいな。誤作動か?」

「いや…多分正常に作動してると思うよ?関係性が好きってのが条件として無理だったのかな?」

「リヴァーレの戦士という概念系がいけるならこれもいける…はずだ」

「そう…だよね……」

「あぁ……」

 

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 

 さらに重い沈黙が流れた。

 

 沈黙が痛いと言う表現が世の中にはあるが、今まさにそうだった。

 魔族なのに、ものすごい敏感肌になっている。

 

「ハヒュー、ハヒュー…ガ、ウォエ…」

 

 何だろう、多分これ空気中に有害な刺激物が漂っている。

 だってあのグラオザームが血反吐を吐いているから…さっきまでの美味しい空気はどこへ消えたんだろう。

 

「何リベちゃん?口ではあんなに好きだ好きだ言ってたのに実はそんなにだったの?そういうの、そっちの界隈じゃニワカって言うんでしょ」

「俺のヒンフリへのクソデカ感情を全部説明してやろうか?…俺の認識ではヒンフリが1番好きなのは合ってる筈なんだが…」

「じゃあ、何?それよりも好きなものがあるってこと?」

「……そういう、事になるのか?ヤバいなこの魔法、記憶や感情どころか未知の深層意識にまで干渉するのか…強制解除して大丈夫か?」

「下手な事しなきゃ大丈夫だとは思うけど、最悪…こう、ババン、ボンッ!ってなるかも」

「頼むトート…俺に分かるように説明してくれ…そうでなきゃお前のこと玉ねぎの次くらいに嫌いになりそうだ…」

「ごめんよぉ…」

 

 俺はフリーレンと封印されてしまったクヴァールのことを深く恨んだ。

 

 とりあえず、ありきたりな答えだがトートに質問させてみることにするが。

 

「じゃあ、やっぱり我が身が1番かわいい?」

「『NO』…やはりか」

 

 思った通りの返答で俺は拍子抜けする。

 だが、トートは俺の返答にやや不満があるようだった。

 

「えー、リベちゃんめっちゃ自己中じゃん」

「まあ、我が身が可愛いことは否定しないが、俺って結構自己嫌悪が強いんだよな…魔王様の命令断れない自分とか大嫌いだし」

「じゃあ怠惰か?お前の二つ名だしな」

「『NO』…興味がないだけでサボることが好きってわけじゃないしな。ほら、”あの任務”はちゃんとやってきただろ」

「…では、勇者ヒンメルという可能性は?」

「『NO』だ。グラオザーム先生ともあろう者が情けない…俺はヒンメルがあのフリーレンの為に四苦八苦したり、たまに男を見せて大胆なアプローチをするのが好きなのさ…どうしたお前ら?」

 

 なぜか皆、俺を面倒くさいものを見るような目で睨みつけている。

 俺のせいじゃない…俺の魔法のせいなんだってば。

 

「埒が明きませんね…ここははっきりと概念か生物なのかを聞いて見ましょう…いいですねソリテール」

「私に聞かないでよ……料理が好きって可能性は?」

「『NO』…昔の習慣で続けてるって知ってるだろ。なんだ、らしくないな」

「待って、えーとね…えーとね…うーん」

 

 グラオザームが大木から立ち上がり、その重い腰を上げて本格的な分析に入ろうしている。

 ソリテールは的外れな質問を投げかけ、トートは諦めずに頭を回転させている。

 リヴァーレは全く心当たりがないのか手でばつ印を作っている。

 

 俺も自分のことながら何が一番好きなのか分からなくなってきた。

 自分の魔法なのに、その魔法に心を暴かれているようで気持ちが悪い。

 

「そうだ!三つ編みは?」

「ん?」

「リベちゃん面倒くさがりながら髪だけはちゃんと三つ編みにしてるじゃん。私は閃いたよ…三つ編みフェチってやつでしょ」

 

 真剣なのか、わざと馬鹿らしい質問をしているのか。

 トートは目を回しながら俺に下らない質問した。

 俺は呆れながらそれに答えた。

 

「だから、料理と一緒で昔の習慣のなご『NO』り…え?」

 

 皆、一様に目を見開いた。

 今まで正確に俺たちに即答させていた魔法が、どういうわけか答えに遅れたからだ。

 

「え、何…今のラグ…怖いんだけど」

「なあトート、大丈夫かこれ……ババン、ボンッ!ってならないよな」

「大丈夫だよ……たぶん」

「俺…玉ねぎと同じくらいお前のこと嫌いになりそうだよ」

「ごめんよぉ…嫌いにならないでぇ」

 

 呪いのスペシャリストがこれなのだ。

 俺だって分からない…助けてくれクヴァール。

 

「あー、多分だがいいか?」

 

 リヴァーレが手をあげる。

 呪いとはまったくの関係ない戦士の言葉なので、俺たちは特に期待はしてなかったが…。

 

「もしかして、部分的には合ってはいるが…正確には答えが違うから遅れたんじゃないか?」

「あー、なるほど…」

 

 いわゆる矛盾という奴だ。

 わりとこの手の要素で魔法の条件付の際に機能不全を起こしやすい。

 多分、リヴァーレの意見は的を正確に射っている…グラオザームも頷いた。

 

「……つまり、あなたが好意を持つ相手は、髪を三つ編みにしている?」

「『YES』……まじか」

 

 グラオザームの質問でついに正解に近づいてきた。

 だが、…なぜだか空気が今まで以上に重い。

 トートとリヴァーレが気まずそうにソリテールの方を見ている…。

 

「そう、あなた三つ編みの誰かさんが好きなのね」

「『YES』…らしいな」

 

 淡々と言葉を紡ぐソリテールの表情から、その張り付いた笑みが剥がれていた。

 先ほどの恐ろしい真顔とは違う…言うならば感情の消えた無の顔だ。

 …ああ、グラオザームがまた血を吐いている。

 

「すまんな…」

「いいのよリヴァーレ…でも不思議ね、まるで拾ってきた野良犬が他人に懐いているようで…すごい不快だわ。そういえばあなたも三つ編みよね…”トート”」

「ソリちゃん、ごめんよぉ…!」

「ハヒュー、ハヒュー…ウォエっ!」

 

 ソリテールの謎の圧に皆が気圧されている。

 よし、今日から俺たちは魔王軍ではなく、ソリテール軍にしよう。

 そう思考放棄してしまうほどの恐怖心を、今の奴は皆に抱かせている。

 

「おいトート、俺みんなに魔法かけたことをすごい後悔してる…これは危険な魔法だ…すまんなクヴァール、人を殺す魔法(ゾルトラーク)の危険度を超えたよ」

「私もこんなことになるなら手伝わなければよかった…」

 

 半べそをかいているトートの顔を、俺はハンカチで拭った。

 汚いので使用済みのそれを放り投げる。

 

「なあ、もう帰ろう。俺たち、この空気のままでヒンメルと戦っても勝てないぞ。たぶん、ソリテールだけ勝ち残るが…」

「い、今から…新しい人員を…用意できるはずが……ないでしょうっ」

「そうだよな…おいトート…俺たちはどうやら全滅だ…死ぬときは地獄まで付き合ってやる」

「ありがとうリベちゃん…でも死ぬ前に聞かせて?私のこと…好き?」

「『NO』だ。自惚れるなよ…たかが数年の付き合いで惚れるほど俺は安くないぞ玉ねぎが」

「ここ数年でヒンフリにベタ惚れがよく言うね…せっかく上がった好感度がだだ下がりだよ」

 

 吊り橋効果というものがあるらしいが、トートはともかく俺にはあまり効果がないようだった。

 

 不意に、後ろからリヴァーレの腕が俺の肩に覆いかぶさった。

 無理やりこいつと肩を組む形になる…気持ち悪い。

 

「おいリーベ、そろそろ吐いたらどうだ?流石にお前も心当たりがあるだろう」

「それが分からないから苦労してるんだろう…もう、俺自分のことが分からない…こわい」

「じゃあ、アウラは?小さいがあれも三つ編みだろ?」

「『NO』…付き合いは確かに長いが、俺にとっては後輩か子供ぐらいの感覚だ」

「お前、隠遁型の魔族だが長生きしてるからな。意外と面識が広いのが厄介だ……この状態では戦えんのか?」

「行動の拘束範囲は互いから3メートルまで。俺らは最悪後方から戦えるが、お前が前衛で暴れられないのは詰む…なんでこんな拘束つけたんだろう」

 

 よく考えれば、人類は夜間でも排泄するからこの拘束は中々不便だ。

 せめて10メートルくらいあれば良かった。

 まあ、ヒンメルたちに使わなくて良かったな。

 

「でもリベちゃんの好きな相手かぁ…多分年下だね…最悪ロリコンくらいの年齢差?」

『NO』仕方がないだろ…いやでも年は取るもん…だ?」

 

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 

 また重い沈黙が流れた。

 空気が重い……ちょっと腰を下ろした。

 なんだよみんな…そんな奇怪なものを見る目をするのはやめろ。

 

「え、リベちゃんより年上の魔族っているの?」

 

 トートが恐る恐る手をあげる。

 だが、皆一様に黙ってしまった。

 

 俺より高齢の魔族は人類との戦争中に亡くなったか、寿命などで亡くなったものが多い。

 生きている者はたしかに限られるが、俺でもぱっと思いつく相手は中々いなかった。

 

「おっ、まさか…」

 

 リヴァーレが手を叩いた。

 流石は俺と同じ高齢の魔族だ、思いつく相手がいるのだろう。

 

「まさか俺か」

「『NO』殺すぞ」

「すまんて」

 

 すまんマハト、俺が最初に悪意に目覚めた魔族になったよ。

 今度、レクテューレ先輩に会いに行くときにでもあいつに教えてやろう…このどす黒い悪意って感情を。

 

「えー、ぶっちゃけて聞くけど女の人?」

「『YES』…えぇ、俺より高齢の女?誰だそのババア…」

「…魔王様?」

 

 先ほどからずっと黙っているソリテールが久しぶりに口を開いた。

 まあ、確かに魔王様は俺より年上の可能性は高いが…。

 

「『NO』だな…俺、一番嫌いなものが自分だとしたら、二番は魔王様だ」

「魔王様って女の人なの?」

「…秘密よ」

「もしやエルフの可能性は?現存する女性のエルフは複数いますし」

「『NO』…じゃあ、魔族か?お前らが思い浮かばなきゃ俺も思い浮かばないな…」

「普通は逆だよな?」

 

 俺は諦めて星空を見上げた。

 星になったシュラハトなら俺の答えを導けたかもしれない…なぜ俺を残して先に死んだんだ…。

 だが、シュラハトのことを思い出した瞬間、あることが思い浮かんだ…相手がわかったわけではないが、一応確認のためしておこう。

 

 俺がリヴァーレに耳打ちをすると、奴は珍しく寂しそうな顔を浮かべた。

 そんな顔するなって、お前だって薄々は分かっていただろうに。

 

「その相手は……すでに”死亡”しているのか?」

「『YES』…まあそうだよな。知ってたよ」

 

 俺の言葉に皆が沈黙する。

 重いだとか、痛いだとかはなかったが…なんと言うか寂しい沈黙だ。

 

「残念だなトート、この魔法は欠陥だ。対象の認知を超えてわざわざ答えに死者を持ってくる…人間はいいが俺ら長命種には使い勝手が悪すぎる…どうせなら生きてるソリテールかアウラを選べばいいのに」

「ごめんねリベちゃん…」

「謝るなよ。おかげでおおよその原理は掴めた…ババン、ボンッ!が怖いから拘束条件だけ外そう…手伝えるな?」

「うん、それくらいなら大丈夫だよ」

「よし、今お前への好感度が最高に伸びたぞ」

「やったー」

 

 トートの頭を撫でていると、逆に後ろから誰かが俺の頭を撫でた。

 振り返ると、あのリヴァーレがリヴァーレとは思えないほどの優しい触り方で俺の頭を撫でていた。

 なんだよ、頭撫でるなよ…気持ち悪い。

 

「そうね、相手が死人じゃ意味ないわね…」

「……」

 

 今までソリテールから感じていた威圧感は消え失せ、いつも通りの様子に戻る。

 グラオザームは俯いているが…まあ、戦えるくらいには元気が戻ったかもしれない。

 せっかくの時間稼ぎと、こちらの戦力の低下が無駄になってしまった。

 

「なあ、リヴァーレ」

「ん?何だ?」

 

 俺は他の皆には聞こえないくらいの声音で、後ろのリヴァーレに声をかける。

 

「この場合、対象との年齢差って現時点の物なのか…あるいは個人の認識の問題なのか?」

「後者は…相手と知り合った頃、つまり対象が生存してた時期か?でも、魔王様が魔王城に引っ張り出すまで数百年はずっと一人だったんだろ?その段階で周りと比べて結構の年齢だったと思うが…」

「だよな…何で専門家でもないお前にそんなこと聞いたんだろうな……痛いって」

 

 本当に魔法ってやつは不思議だな。

 クヴァールやシュラハトがここにいれば解明できたのだろうか。

 いや、でも興味がないな。俺はいつも通り怠惰に他の物を切り捨てた。

 

 ……嫌いな食べ物の夢か…今日は徹夜するか。




ソリテール「大変だわリーベ…グラオザームが見たことないうなされ方をしている」
リーベ「安心しろソリテール…今日だけは紅茶派からブラックコーヒ党に鞍替えだ」
トート「美味しいね」
リヴァーレ「あぁ」
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