俺が魔王様に捕まったせいで、魔王城住み込みで働かなければいけなくなった頃の話だ。
元々は中央諸国の人里離れた山に住んでいたが、どういうわけだか魔王様直々に拉致されて、エンデまで魔王様と楽しくもない旅をしてきた。
そしてようやくエンデに到着したかと思えば、今度は初仕事を任されるらしい。
直属の上司となる男に呼び出され、俺は長い一本線の引かれた地図を渡される。
『つまり、このルート通りの道を行って、また戻るだけ…それだけ?』
『そうらしい…俺も魔王様からそう言われている』
『…この線、中央諸国まで続いてるんだが…え、また戻るのか?わざわざここまで来たのに?』
『そう、らしいな……俺を睨んでも仕方がないぞ』
正直、イジメかと思った。
おかげで後の旧友、シュラハトとの初対面が最悪なものとなってしまった。
シュラハトの未来視では安全な旅だと言うので、護衛は付けずに俺は一人旅をすることになった。
ほとんどのルートは魔王様と旅をしたところだったので迷うことなかったが…不気味なくらい道中は安全な旅だった。
しかし徒歩の旅だったので、やはりどうしても時間は掛かる。
道草は食わなかったが、休憩を挟みながらの旅は5、6年くらい掛かっただろう。
折り返し地点のフォル盆地までたどりつき、ようやく帰れると背伸びをする。
ここに来てからトラブルはいくらかあったが、身に危険が降り掛かるものじゃなくて助かった。
「ん?…女神の石碑か……いや、誰かの墓か」
偶然、俺は花畑が広がる丘で墓を発見した。
白い花々が咲き誇る、いかにも幻想的な風景という感じだ。
「フ…レメ?ここに眠る……んん…よく読めないな」
古い墓石のようだが、掘ってある文字の部分に苔が生しており、正確には読めなかった。
俺とは縁も所縁もない墓だが、つい癖で手を合わしてしまう。
ついでだし、軽く掃除でもしてやるか…。
「魔族がここに何の用?」
墓石に触れた瞬間、後ろから凄まじい殺気と魔力を感じた。
振り向かなくても分かる、声は幼い少女の様だが、おそらく名うての魔法使いなのだろう。
実際、背後から声を掛けられるまで全く気づかなかった。
(これも安全の内なのか?答えてくれシュラハト…)
先の一件もあり、新しい上司への信頼は地の底へ落ちそうだった。
「実は上司の…そのまた上司から初めてのお使いを頼まれてな…そのルートで偶々通りかかったんだよ」
「わざわざ結界を通り抜けて?」
どうやら、周囲に張ってあった面倒な結界はこいつのものらしい。
ルートを遮っていたので通るのには一苦労した。
「結界通った裏技を教えるから見逃してくれないか?」
「…聞いたあとで検討してみるよ」
殺気は一ミリも収まっていない。
ああ、このあとヤラれるなって思った。
俺は辞世の句にしては長い魔術理論の談義を始めることになった。
まあ、運が良ければそれが命乞いになるかもしれない。
「見た感じ強い結界ではあったが…まあ、古いタイプのやつだよな…そこまで複雑な条件の結界ではない。俺は仮定した…何かは通さないがそれ以外は全部通す…この場合、空気や雨風なんかは通すだろうな。逆に通さないのは魔族や人間や大型の獣…これだと少し複雑だから、大まかに魔力を持った存在を通さない…これなら大概の存在は入れない」
いかにも専門家の様にスラスラと魔術論理を紡ぐが、実際は魔王様との旅の道中で聞かされた現代魔法の基礎知識をそのまま引用してるに過ぎない。
後ろの魔法使いの雰囲気からして、あながち的外れな解説でも無いのだろう。
ちゃんと聞いといてよかった。
「ご名答…でも、それじゃ満点はあげられないね」
ここで相手から如何にもなセリフだ。
俺は学校という場所を知らないが、先生というのはこういう返し方をすると魔王様から教わった。
補習授業とやらは嫌なので手早く正解に移ろう。
「…そう、確かに違ってた。よく観察して見たら虫や小動物なんかは結界を通れてたんだよな。一応それらも魔力を持ってる…なら多分、答えは『規定以上の魔力を通さない』と言ったところだな…簡潔明瞭な条件付けの結界だ…単純だから他のリソースを結界の頑強さに割いている…解除は容易じゃないだろうな」
「そうだね。優秀な魔法使いが数十人いて数年がかりで解けるだろう」
「数年か…優秀だな今の魔法使い」
魔王様から聞いていたよりも人類の現代魔法は発展しているらしい。
俺が魔王様直々に仕込まれた魔法理論を応用しても数年では解除できる気がしなかった。
まあ、だから裏技を使ったわけだが。
「だからこそ、この結界を一瞬で通れた裏技が気になるな」
後頭部に何やらごりごりと押し付けられている…たぶん杖だろう。
いた…やめろ、髪が傷む。
「まず一つ、この結界は規定量の魔力を通さない…なら、まず魔力の完全な隠蔽だ。だから俺は、こうして魔力を全部隠した丸裸状態で背後を取られてるわけだ」
「合ってる。魔力操作が得意だね…さっき動いてた時もそんなに漏れてなかったよ」
「どうも、そこそこ練習したからな…」
独学だが、それなりの年月は費やした。
高度な防御魔法は使えないが、魔力自体を防御に使う手段は素人考えながら便利だった。
まあ、流石に魔王様には勝てなかったがな。
「だが俺なんかが使えるんだ、人間や魔族でも使えるやつは多い。そんな欠点をこの結界を作ったやつが残すわけがないだろう。ご存知のように魔力を完全に隠蔽しても、動いた際には誰でも少しは魔力が漏れる…その魔力を感知して通さない第二の機能があるはずだ…だから俺はその機能の弱点をついた」
「……」
相手からの返答はないが、杖を押す圧力が僅かだが強くなっていく。
やめてくれ…後頭部に十円ハゲができそうだ。
「実は今回のお使いな、あるものを土産に持って帰ることになってるんだ…たぶん結界の手前で落ちてただろ?」
「…やはりあの封魔鉱だったか」
火山地帯なのでたまに産出する、魔法を封じることができる珍しい鉱石…らしい。
俺も魔王様との旅の道中であの鉱床を見るまでは知らなかった鉱物だ。
純度の高いものなら小石サイズでも魔法を封じることができるという。
『たぶん、無加工でも指輪にできそうなくらい形のいい…それも高純度のやつが二、三個くらい落ちてるはずだから、一つ拾って来てねー』
と、魔王様は言っていたらしい。
なら、俺との旅の道中で拾えばよかったのでは?と思ったが、下っ端は上司の尻拭いをするものだとシュラハトが言っていた…あいつも苦労してるんだろうな。
「高純度だが、この規模の結界全てを消失させるほどのサイズではない…だが、一瞬の魔力感知だけ麻痺させるには十分だ。あとはこうして魔力を全部隠蔽して入るだけ…簡単だろ?」
「……理論的には確かに可能だね。でも、あのレベルの封魔鉱を持ったままじゃ魔法は使えない…ここまでの道中はどうしてたの?」
「俺の上司が絶対に安全な旅だと太鼓判を押してくれたんだ…それを馬鹿正直に信じただけだ」
まあ、実際安全だったしな。
後ろの危険人物に遭遇するまではだが。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「何?」
「さっきからやけに後ろが明るい気がするんだが気のせいか?」
「知らないの?封魔鉱はね、魔力をめっちゃ込めると……めっちゃ光るんだよ」
「そうか、光るのか…え、他には?」
「他には…ないかな」
「そうか、ないのか……帰っていいか?」
「魔族を逃すと思う?」
「だめかぁ」
だめだ、後ろの魔法使いから揺るがない殺意を感じる。
今までも魔族を一人残らず殺してきたんだろう。
すまんなフレメさんとやら…墓石が『フレメとリーベここに眠る』になりそうだ。
まあ、俺も魔族だ…言葉巧みに人を欺いてみよう。
「いいのか…俺が本気で魔力を解放した瞬間、この辺り数kmが火の海に…は流石に嘘だが、それでもこの墓が滅茶滅茶になるのは確実だぞ」
「私がためらうとでも?」
「どうだろうな…でもこんな場所にわざわざ結界を張り、魔法で作った花畑まで用意してるんだ。よほど大切な場所なんだろう。ここで戦うのは俺も心苦しい…というのは建前で、俺に戦う理由がないから早く帰りたい…だから」
「
俺の横すれすれを巨大な攻撃魔法が通過した。
気づけば数km離れた場所の地面が凄まじいことになっている…お前が火の海にするのかよ。
「今の魔法を見たらわかるでしょう。私は墓と花畑を傷つけずにお前を殺せる」
「脅しのつもりか?俺は停戦協定が結ばれるまで動かないぞ…お前と俺と、この墓を結ぶ直線が唯一の生命線だからな…あの段階で俺を殺さずに、派手な魔法を使ったのがいい証拠だ。細かい魔法は使えないな」
「これだけの腕を持っていて、できないとでも?」
「万全ならできるだろうな…でも”片手”だけじゃ難しいんだろう」
あからさま動揺は見られないが、ごく僅かだが背後の気配が揺れた。
振り向かなかったが、その右腕の状態は分かる。
何より、封魔鉱の光を反射してちょっと眩しい。
「すごいな…文字通り黄金の右腕だ。どうなったら人体がそんなことになるんだ?」
「魔族なら分かるでしょ…黄金郷のマハト」
「……え、やめてくれよ。世俗に疎い奴を捕まえて流行語聞かされても分からん…有名人か?」
さっきより気配が大きく揺れた。
やばいな、世間一般的なレベルの常識らしい。
誰だか知らんが今はそんなすごい奴がいるのか。
「世俗に疎い俺でもな、これでもこれまでの道中で現代の魔法を見てきた。それに比べるとこの結界はオーバースペックではあるが、まるで骨董品だな。もっと効率的で頑丈な結界も作れただろう…たとえば、結界内部の状態維持…墓石を維持する機能とかも付けられたはず…いや、元はついてたんだろう」
雨風を通す結界にしては、目の前の墓石の風化はほとんどなかった。
汚れ具合を見るに、腕に呪いを掛けられたのは最近のことなんだろう。
片手では高度な結界の手入れは不可能だった…結果、こうして簡略されたわけか。
「お前の結界が金剛石とするなら、最近の人類の結界は…最近南側で発見されたゴムだな。柔らかいが丈夫…使い勝手がいいって感じだな」
「ふーん、面白い表現だね」
ちなみに俺の防御魔法は例えるなら翡翠だ。
壊れやすいが、割れにくい…いわゆる靭性ってやつだな。
「そういえば北側諸国で見たあの結界は美しかったな…言うなれば、色んな素材を黄金配合したスーパー素材って感じだった…あれ、誰が作ったんだ?」
「……本当に世俗に疎いのか…私よりもひどいなこいつ」
何か知らないが、ものすごい動揺が伝わる。
勝手に殺意向けられたり、魔法飛ばされたり、ドン引かれたり…今日は散々だな。
「まあ、俺はそんな田舎者の魔族ってことで…ここら辺でお互い顔を見ず立ち去ろう…いいな?」
「……二度とここに近づくなよ」
「誰が来るか、こんなところ…あと定期的に墓掃除はしてやれよ。石ってのは手入れしてれば何百年くらいなら保つぞ」
「なんだこいつ…むかつくな」
まあ、上司の命令があったら逆らえないが、とりあえずプライベートでだけは絶対来ないと誓った。
お互いに顔を合わせてなかったのが幸いして渋々と停戦協定が結ばれる。
相手は俺の後ろ姿をじっくり見ていたが、馬鹿でかい外套にフードを被っていたからどの道分からないだろう。
「今度会った時は必ず殺すから」
「なるほど、じゃあ死ぬまでお前とは絶対再会しないよ。クソボケ魔法使い」
そうして、俺たちは互いに背を向けて反対方向に歩き出した。
結界の入り口付近で目が痛くなるほど発光する封魔鉱を見つけたが…。
「これに近づいた瞬間…後ろからズドンだよな…はぁ」
仕方がなく、魔王様の言葉を信じて残りの一、二個の封魔鉱を探しにザオム湿原へと向かった。
おのれ、クソボケ魔法使いめ。
「まさかあの魔封鉱一つだけで豪邸が3つ立つとはな…残りの2つも拾っておけばよかったな」
「何の話?リベちゃん新しい家建てるの?」
「いや、逃した魚がデカかった話だ」
「お、魚か。あとで俺が捕まえてこようか?」
「やめろ。あのイノシシの肉まだ残ってるんだから…」
隣で豪快に焼いた塊肉をかぶり付いているリヴァーレを俺は呆れた顔で見つめる。
魔族にとって食事なんて人間で言うところのおやつみたいなものだ。
こいつのように皆が大食漢なわけではない。
『さすがに飽きたわね…』
『うん、俺もちょっと…胃もたれしてきたかも』
『おじいちゃんかな?』
『みんな食わんのか?』
流石に塩と胡椒だけの味付けは一人を除いて飽きていたな。
家からもっと香辛料とか持って来ればよかった。
さて、そんなとぼけたやりとりをしているが、目の前には例の女神の石碑がある。
案の定、俺たちは勇者一行よりも先に到着してしまったわけだ。
女神の視界で聞いた言葉が確かなら、未来のフリーレンの意識を元の時間軸に戻すためには女神の石碑に触れて聖典の『時巡りの鳥の章』に隠された帰還魔法を唱える必要がある。
まあ、言葉にしてみれば簡単な作業に聞こえるが、ある意味それは魔王討伐よりも不可能に近いかもしれない。
人類の僧侶が持つ聖典は天地の造物主たる女神によってもたらされ、そこには神話の物語や女神の戒律が書き記されている。
俺も何度か読んだが、特別面白いものでもないので1ページめくる度にあくびをしたものだ。
だが、実際は長大な魔法の暗号文になっており、解読された女神の魔法は才能ある僧侶たちによって活用されてきた。
最近だと『断罪の大火の章・女神の三槍』『天地の楽園の章・目覚めの解呪』が解読されたが、今まで発見された女神の魔法を含めても解読は全体の3%ほどだと言われている。
中でも『時巡りの鳥の章』は空白の章とも呼ばれ、女神が現れてからこの千五百年の間で一度も魔法が発見されていない。
「…まさしく化け物だな」
だが、わざわざ此方に向かっているということは、彼らは未来で空白の章に黒星を付けたのだろう。
おそらくはあの化け物レベルの僧侶ハイターだろう…人類史に刻まれるレベルの偉業だな。
俺は時代を超えた彼らの絆にかなりのいとあはれを感じた…あはれオブザイヤーだな。
(未来の風化した石碑に書いてあったか。多分、簡単には消えない単純な形の字と短い単語。人間の寿命を考えるとそこまで複雑な暗号じゃないな……”フィアラトール”か?)
試しに石碑に触れて唱えてみようとしたが、前回の呪いの一件を思い出して手を引っ込めた。
(さてと、いよいよどうしたものか…)
俺らここで待ち伏せするとして、勇者一行もフリーレンを未来に返すために引かないだろう。
互いに合間見えた瞬間、戦闘は避けられない。
俺が遠くから見えるほどのでかい魔法を出したら、勇者一行は一時撤退してくれるか?
いや、多分帰らないだろうな…女神の石碑を壊されないために全速で向かって来るだろう。
俺が頑張って疲れさせた皆の調子は…うん、万全だった。
流石は大魔族だ、軽く睡眠とって美味い飯を食べたら元気が戻った。
成長期の子供かこいつらは。
「ふぁ…あ。あー、ちょっと眠いな」
「……」
逆に徹夜した俺やソリテールはすこし疲れが残っていた。
俺は悪夢が嫌で眠らなかったが、ソリテールも悪夢を見るのが嫌だったのか俺の徹夜に付き合ってくれた。
ということは、やっぱりソリテールが好きなのは自分自身ってことなんだろう。
気まずかったので、ちょっと安心した。
「さあ、これが最後です。みなさん…張り切って戦ってください…!」
逆に解せないのはグラオザームだ。
前日はあんなに弱り切っていたのに、女神の石碑に近づくにつれて肌にツヤが戻り、目に闘気のようなものを宿していた。
あれだ、仕事の最終日とかでスイッチが入るタイプなんだろう。
(グラオザームここまでやる気になってるのが意外だ。本当に勇者一行全滅するかもしれん…未来のフリーレンはどうやってこの状況切り抜けたんだろう……全くわからん)
俺たちの本来の目的はフリーレンから未来の情報を盗み見ること。
だが、可能であれば勇者一行を抹殺することも含まれている。
当然、俺は勇者一行がピンチにならないように適度に邪魔をするつもりだが、こちらの過剰戦力では目を離した隙に一人ぐらい死んでいてもおかしくはない。
「なあ、ソリテール…俺は適度に味方陣営を乱すから、協力して来れないか?」
「……考えておくわ」
あ、ダメな時の返事だ。
なんてことだ…推しの活動を最後は俺が終わらせるなんて…。
「ねえリベちゃん、この石碑ってなんて書いてあるの?」
放心している俺の袖をトートが引っ張る。
俺は女神の石碑の前で姿勢を屈め、内容を一瞥した。
「なんだ、読めないのか?」
「んー、ソリちゃん読める?」
「……全然」
「マジかぁ…リヴァーレは?」
「俺が読書家に見えるか?」
他の二人も中々の長寿の魔族なのに、激しいジェネレーションギャップを感じてしまった。
最後の一人に至ってはバカだ。
「現代の言葉で編纂される前の聖典に載ってた……まあ、女神様の言葉だな」
「編纂って何だ?」
「馬鹿なリヴァーレに説明すると…拳を構えるな。現代に至るまで人類圏の言葉や文字って何度か変わってるんだよ…今の聖典だって何十年か前に新しい文字に書き写されてる。そこそこ初期の原典が聖都で保管されてるらしいが…たぶんそれより古い原書かな…いや、にしては石碑の状態がいいし、次の次の時代のやつ?いや、魔力で保存してるのか…じゃあやっぱり……おい、何でみんな引いて見てるんだ」
俺が個人的な見解を述べていると、俺とリヴァーレ以外の全員が奇妙な生き物を見るような目で見て来る。
恐る恐るトートが手を挙げた。
「リベちゃんって……もしかして石器時代よりも前の人?」
「恐竜ね…」
「ああ、きっと帝都の博物館に置いたらさぞ人気だろうよ…はぁ」
俺は疎外感でちょっとスレた。
俺の背中を摩りながらトートが俺とリヴァーレを見比べる。
「リベちゃんとリヴァちゃんって、どっちが年上なの?」
「馬鹿だなトート。こいつが自分の誕生日を覚えてるわけないだろう。こいつは毎日が誕生日だ…だから俺の方がヤングだ」
「よし、プレゼントに殴らせろ」
俺の防御魔法が花びらのごとく散った。
うん、綺麗だな……そろそろ新しい防御魔法を覚えるか。
「じゃあ、失礼してちょっと…」
俺は軽く女神の石碑に手を合わせ、石の表面に触れて文字を読み取った。
表面はいくらか風化して削れていたので、文字の掘り具合で字の大方の予想をする。
たぶん人類の魔法使いなら石碑に込められた魔力を読み取るのだろうが、どんなプロテクトがあるか分からないからアナログなやり方に頼った。
「女神さまからの軽い自己紹介と…うん、『今日は綺麗な鳥を見ました…綺麗でした。また見たいな…遠くへ飛んでいちゃった…すごく悲しい…ぴえん』って書いてあるな」
「ぴえんは書いてないでしょう…」
「女神様かわいいね。ポエムかな?」
「ものすごく……どうでもいい内容ですね」
グラオザームが再び頭を抱えそうになる。
うん、初期の聖典ってわりと匿名の少女が投稿した日記みたいで、内容くだらなすぎて欠伸出ちゃうんだよな。
何でこんな黒歴史をわざわざ10個も残して行ったんだか…ん?
俺が首を傾げていると、後ろからグラオザームが俺の肩に手を置く。
「さて、もう行きますよ」
「えー、もうちょっとポエム聞きたいよ」
「私は早く帰りたいから戦いたいわ」
「俺もだな」
「こちらが3人で多数です」
何やら俺抜きで強制的に戦闘移行する準備入っているが、俺はさらに首をひねる。
「なあ、ソリテール…」
「何?」
「いや、魔法て不思議だな…勝手に認知を超えたり、深層意識入ったり、時間を超えたり」
「何よ、急に…」
本当に不思議だ。
こんなに古い時代に魔力を込められたものが千年以上も残り続けている。
かと思えば新しい時代でもとんでもない魔法は生まれる。
それなのに、その実態というものを多くの魔法使いたちが理解していない。
それはクヴァールやシュラハトですら届き得ない領域だ。
たぶん、女神様と……大嫌いな上司の魔王様しか到達したものはいないだろう。
「しかし、まあ今回は俺の記憶の問題だな。言霊ってのは古い方が力があると思っていたが…其の実、言葉に込められている意味ってのをちゃんと理解してればいいわけか。しかし現在の言語……まさか俗語でも発動するんだな…それちょっと女神様の怠慢、それこそ怠惰すぎるな……なあトート」
「どうしたのリベちゃん?」
俺は赤く染まる視界で何とか振り返り、言葉を絞った。
「これがババン、ボンッ!ってやつか」
後ろに仰け反りそうになって視界に全員が映り込む。
呆然とするグラオザームとトート。
手を伸ばそうとするソリテール。
真っ先に駆けつけるリヴァーレ。
すまんなみんな、先に地獄に行ってくるよ。
魔王様「おっ、いいサイズの拾ってきたな」
リーベ「どうも」(めっちゃ光ってる…)
魔王様「じゃあ、これで指輪作ってやるからお前にやるよ」
リーベ「え、なに…プロポーズ?」
魔王様「それでもいいが…まあ将来的に”ちょっと”な」
リーベ「プロポーズだ…吐きそう」
魔王様「ははっ、愛い奴め。次の仕事も頑張れ」