高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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前回のあらすじ

 トラブルが起きながらも乗り越えてライブを成功させたひとり。
 結束バンドを最高のバンドにすると虹夏に誓うのだった。


第十話 みんなはひとりのために

 初ライブの興奮も既に冷めきった八月の終わり、結束バンドの面々は次のライブ計画について話し合っていた

 

「大学祭ライブですか?」

「そう、結束バンドで出ようと思って」

 

 虹夏はバンドの出場者募集チラシを見せる。

 

「いいですね!伊地知先輩の大学でやるんですか?」

「そのつもりだけど喜多ちゃんのところはどんな感じ?」

「私の大学は公立だから規模が小さいですし、外部の人が出るって感じじゃないですね」

「じゃあ芳文大学で決定だね!」

 

(だっ大学祭?どんな感じなんだろ)

 

「お前ら盛り上がる準備できてるかーー!?」

「イエエエーーーーーィ!!」

 

 スマホで検索した動画。

 女子の黄色い歓声が響く中を陽キャ男子が流行りの青春ソングを歌い、観客が謎のペンライトを振り回している様子が映っている。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

(ライブ映像かと思ったらホラー映像が流れてる)

 

 大学祭の動画は見事にひとりのコンプレックスを撃ち抜いた。

 

「ぼっちが壊れた」

「最近はマシになったと思ったけどまだまだだね」

 

 そんなひとりの様子も見慣れたもので、反応も素っ気ないものだ。

 

「先輩達は出たことあるんですか?」

「うん、中学であるよ!」

「私もある。マイナーな曲弾いて会場お通夜にしてやった」

「リョウとは別のバンドだったから一緒には出たことはないんだけどね」

 

 互いに過去のライブを楽しげに語る。リョウの方は強がりであったが誰も気づかない。

 

「だっ大学祭って陽キャしか出られないんじゃ。わっ私は今回お留守番で⋯⋯」

「そんな校則ないでしょ!!大丈夫だって」

「去年見に行ったけど郁代みたいなのばっかりだった」

「リョウ先輩、それってどういう意味ですか⋯⋯?」 

 

(陽キャしかいないところでライブ⋯⋯?でもみんなでライブは楽しそう)

 

 ひとりの頭の中では、大学祭に出るか出ないかの天秤が拮抗を保っていた。

 

「伊地知先輩の大学って大きいですけど会場って規模はどれくらいなんですか?」

「うーん、多くても千人くらい?その代わりステージが何箇所があるから分散してる感じだね」

「せっ千人⋯⋯」

 

 スターリーの何倍もの観客の前で演奏する姿を想像する。

 天秤の片方はサングラスなしでは人前で上手く演奏できない自分、もう片方は武道館をも埋めたギターヒーローの自分。

 

「分散してそれってすごいですね!ハコより遥かに多い」

「実際に入る人数はもっと少ないと思うけどね。こんな機会中々ないよ!」

 

(それだけ観客がいると中にレコード会社の人がいてそのままデビューできたり⋯⋯ニュースに取り上げられたり伝説になるかも⋯⋯)

 

 天秤がライブに出る方へと完全に傾いた。

 

(取材されるなら借り物のギターだとまずいよね。貯金もできてきたし自分のギター買おうかな)

 

「じゃあ申込みしとくね!文化祭は十月だから!」

 

 伝説になる妄想に酔いしれたひとりは、人知れず新しいギターを買うことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 九月の上旬、まだ大学生は夏休みの最中の平日。

 結束バンドは勤務中のひとりを除いた三人での練習。

 

「リョウ先輩!」

 

 意を決した喜多が言う。

 

「私のギターの練習みてもらえませんか!」

「ぼっちに教えてもらってるじゃん?」

「もっと練習したいんです!!」

「ちょっと喜多ちゃん急にどうしちゃったの」

「まさか結束バンドのギター同士で血で血を洗うパート争いを⋯⋯」

「ちょっと結束してよー」

「違います!!」

 

 急な宣言と焦ったような喜多の様子に、リョウと虹夏は困惑する。

 一度呼吸を整えてから喜多は語る。

 

「後藤さんは働きながらだから練習できる時間が少ないし、私に教えるともっと練習時間が少なくなっちゃうじゃないですか」

「そうだね。家も遠いのにぼっちちゃんはすごいよ」

「それに、この前のライブの時に後藤さんが立ち直るまで私なにもできなかったから⋯⋯」

「喜多ちゃん⋯⋯」

 

 明るい笑顔の裏に隠していた気持ちを吐露する。自分の無力さに気づきながらもどうにもできないモヤモヤを抱えていた率直な気持ちだ。

 

「だからせめて支えてあげられるようになりたいんです!」

 

 だが、無力感に打ちひしがれるだけの喜多ではない。

 

「そういうことならいいよ」

「ありがとうございます!」

 

 その思いをしかと受け止めたリョウは迷うことなく了承した。

 

 

 

 

 

 翌日、対面して座るリョウと喜多、リョウはベースではなくギターを携えていた。

 

「リョウ先輩ってギターも弾けるんですね」

「ぼっち程じゃないけどね。作曲する時に便利だから」

 

 リョウはギターを優しく撫でる。数ある楽器コレクションのうちの一つを披露できるまたとない機会だと密かに楽しみにして持ってきた一本だ。

 

「じゃあソロパートの練習しようか」

「はいっ!って私がソロですか!?」

「そう、文化祭までにオクターブ奏法を覚えてもらおうと思う」

「なんだか難しそうですね」

 

 ソロパートはひとりが、それを支えるバッキングは喜多が弾くと完全に別れているために少し気後れしてしまう喜多。

 

「Fコードが弾けるなら大丈夫。基本の形を覚えたら後は押さえるフレットが変わるだけだから」

「確かにFコードも同じ形のまま色んなコードになりますね」

「バッキングにもソロにも使えるからぼっちを支えるのに丁度いい」

 

 普段の寡黙さは鳴りを潜めて饒舌なリョウ。

 

「実際に弾いてみるとこんな感じ」

 

 そう言って簡単なフレーズを披露する。

 

「本当に同じ抑え方で弾けちゃうんですね」

「ルート音と八度の音を抑えてるだけだから」

「ルート?八度?数学の話ですか?」

「⋯⋯郁代ってぼっちに教わるまではどうやってギター覚えたの?」

「うーん、独学ですね。イソスタで見て練習してました!」

「おっおお⋯⋯」

 

 喜多のギターの力量的には知っていて当然だろうことを言ったに過ぎなかったが、思わぬ発言に珍しくリョウはうろたえる。

 

「郁代、オクターブ奏法に加えて座学もやろう」

「座学ですか。必要です?」

「理論を知らないで抑え方を覚えるだけだと限界があるから」

 

 中指で眉間をクイッと掛けていないメガネを持ち上げる。

 想像以上に手強い相手だと認識したリョウの覚悟の現れであった。

 

 

 

 その日から、四人が集まれない日はリョウのレッスンが開催されるというのが習慣になった。

 

「ミュートが上手くできないです」

「指を寝かし過ぎてる。少しアーチ状にしてみて」

 

「1フレットで半音上がるから⋯⋯」

「それで同じ抑え方で弾けるんですね!」

 

 

 

 なんでも卒なくこなす器用さと独学でストリートライブまでやる行動力を持っていたため、そこに正しい理論が加わってギターの実力はメキメキと上達していった。

 

「⋯⋯うん、結構弾けるようになったね」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「次はカッティングとオルタナティブの練習」

「まだまだ先は長いですね⋯⋯」

 

 リョウなりの愛情の籠もった言葉に喜多は苦笑する。

 そんな様子を見ていた虹夏が声を掛ける。

 

「いやいや喜多ちゃんは短い時間でかなり上手くなってるよ!」

「伊地知先輩!見てたんですか?」

「うん、私も勉強になるから。みんながどういう動きをするとか把握しておきたいし」

「なるほど、勉強熱心ですね」

「みんなが頑張ってるから私も負けられないなーって!」

 

 普段からバンド全体を俯瞰して見ているドラマー兼リーダーらしい発言である。

 

「特にぼっちちゃんに置いていかれないようにしないとね。ぼっちちゃんの実力はもっとすごいんだよ!」

「確かに上手ですけど、それよりもってことですか?」

「ぼっちはかなり上手い」

「そうなんですね」

「だからぼっちちゃんが本当の実力を出せるようにしないとね」

 

 ギターヒーローであることを知っている虹夏、音楽家として活動しだしてよりひとりの実力を測れるようになったリョウ、元より実力差を感じている喜多。

 それぞれがひとりが本当の実力を出したらどうなるのかと想像する。

 

「⋯⋯そうですね。私も後藤さんを支えられるようにもっと頑張ります!」

「うん、その意気だよ!」

 

 ひとりの知らないところで結束バンドが団結した瞬間であった。

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