高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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前回のあらすじ

 会社の歓迎会にて思わぬ形でギターの腕前を露呈したひとり。
 それを見た営業からバンドを組むのにいい考えがあると言われる。


第三話 三年遅れの出会い

 歓迎会からひと月以上経過した六月上旬、ひとりは営業の吉田と一緒に展示会に来ていた。

 企業が製品や技術・サービスを紹介する商談の場である。

 広大な会場にはテーマごとにブースが別れており、そのテーマに沿った展示をしている。

 ひとり達はその中の「推し活」のブースにいた。

  

「設営完了ー!」

「おっおー」

 

 青い幕の貼られた仕切りと展示台にはタンブラーやサングラスなど雑多なものが掛けられている。

 それら展示物はどこかしらに印刷が施され、一目で通常の用途ではないことがわかる。

 局面と狭小部への印刷技術という武器を携えてひとり達は展示会にやってきていたのだった。

 

「これ全部推し活グッズだからね!タンブラーもサングラスもマスクもTシャツもウチでロゴとか名前を印刷してあって、ライブとかスポーツ観戦とかで使うんだ」

「あっこれ私も作業したことある製品もあります」

「元々は印刷工程の稼働率が低かったのを改善しようと推し活グッズを始めたんだよね。こういうグッズなら絶対印刷するじゃん?」

「なっなるほど」

 

(普段は真面目に仕事してるんだ)

 

 失礼なことを考えるひとり。陽キャへの偏見から仕事を真面目にしているところにギャップを感じてしまう。

 

「じゃあ今日の流れを確認しようか」

 

 吉田は仕切り直し、口頭で展示会での動きを説明する。

 

「で、私が合図をしたら後藤ちゃんが演奏するって感じで」

「はっはい」

「試しに今弾いてみようか」

「わっわかりました」

 

 演奏に取り掛かるひとり、だが。

 

(人目が気になって集中できない⋯⋯)

 

「緊張してる?」

「あっえと」

 

 周りを見渡す吉田。開場はまだだが、自分たちと同じ出店側の人が大勢いる。

展示ブース同士が近いこともあり、人目を気にするひとりには酷な環境である。

 

「人目が気になるならこれ掛けてみたら?」

 

 展示品のサングラスをひとりに渡す。縁にはどこかのバンドのロゴが印刷されている。

 サングラスをかける。暗くなった視界がひとりに少し安心感を与える。

 

「あっこれならマシかもです」

 

(意外と気遣いができて優しい⋯⋯!!)

 

「どうせならこれとこれと、これもつけちゃおうか」

 

 謎の英語がプリントされたマスクにバンドロゴが入ったリストバンド、「激押し!」の文字が入ったキーホルダーを次々に渡す。

 元から着ているTシャツにも前面に大きくプリントされており、そこに追加したため上半身は推し活グッズだらけであった。

 

「これなら人目を気にせず弾けるし宣伝にもなるよー!」

 

(気遣いだと思ったら勘違いだった!!)

 

「ほら、自分でも見てみる?」

 

 カバンからさっと手鏡を出してひとりに渡す。

 そこには、かつてバンド仲間を探すためにバンドグッズをてんこ盛りにして高校に登校した時以上の、ひとり基準ではイケてる女子がいた。

 

(あれ⋯⋯悪くないかも。いや、かっこいい!?それにマスクをすると防御力が上がった気がする!)

 

「いっいけてますね」

「でしょでしょー」

 

 絶望的に美的センスのないひとりには刺さるコーディネート。

 吉田は半分ノリでやっているだけだがひとりは気づかない。

 ギターを弾く手もノリノリになる。

 

「うんうん、今日の展示会上手くいきそうだよー!」

「はっはい!」

 

 片方はスーツで片方は上半身推し活コーデの変わった二人組がそこにはいた。

 

 

 

 

 

「こちらピックのついたヘアバンドになります」

「ピックのアクセサリーとしましては、キーホルダーやネックレスが定番ですが、弊社ではそれ以外の様々なラインナップをご用意しております」

「彼女が身につけているサングラス・マスク・Tシャツなど、全て弊社で印刷を施したものになります」

「小ロット対応しておりますので、グッズ作成に是非ご活用下さい」

 

 吉田は準備の時は違い真面目な口調でブースに来た客に一通り説明をし、ひとりに指示をする。

 

「後藤さん、準備お願い」

 

 ひとりは、ヘアバンドを外し髪を解く。

 そのままヘアバンドを手首に巻いてピックを掴む。

 

「こちらのピックは実際の演奏にも使えます」

 

 その言葉を合図に始まる演奏。

 周りへの配慮もあり大きな音は出せないが、それをものともしない的確な高速ピッキングで客を魅了する。

 短い演奏が終わると客から拍手が起きる。

 

「いかがでしょうか?」

「そうだね、いくらか頼もうかな」

「はい、ありがとうございます!」

 

 まず展示品の紹介をし、ギターの演奏を挟んで商談をする。この流れが今日の作戦だった。

 

(私は武道館をも埋めた女⋯⋯)

 

 繰り返す内にテンションが上がり演奏にも熱が入る。

 

「すごーい!めちゃくちゃ上手ですね!」

 

 それに呼応して客の反応もよくなる。

 

「そうでしょう、弊社の従業員なんですよ!」

「ほんとですか!?」

 

 明るい髪色のサイドテールが特徴的な女性だった。

 

「こんにちは!私、芳文大学二年の伊地知虹夏。下北沢のスターリーっていうライブハウスでアルバイトしています」

「えっあっごっ後藤ひとりです」

 

 ひとりの奇抜な格好をものともせず挨拶をする虹夏に、ひとりはいつもより多めに吃る。

 

「ひとりさんはギター上手ですけど、バンド活動とかされてるんですか?」

 

(いきなり名前呼び⋯⋯)

 

「あっえと、バンドはずっと組んでみたいと思ってるんですけど、なかなかメンバーが集まらなくて」

「えー!こんなにギター上手なのに勿体ない!」

「いっいやそれほどでも⋯⋯うへへっ」

 

 虹夏の褒め殺しにだらしなく照れるひとり。

 そこに吉田がひとりに聞こえないように質問する。

 

「実際のところ、本当にプロ並みなんですか?」

「少なくとも私が実際に見た中では一番です」

「そこまでなんですね」

 

 脳裏によぎる数々のギタリストから虹夏が選別した結果だった。

 吉田は、顎に手をあて考える。

 

「彼女が入れそうなバンドってあります?本人もやりたいみたいですし」

「そうですね、それなら一つ心当たりが⋯⋯」

 

(なんの話をしてるんだろ)

 

 手持ち無沙汰になったひとりは、二人が話しているのをぼうっと眺める。サングラスをかけると視界だけでなく音も遮断されたような感覚に陥る。

 

「っていうことだから、後藤さん今度は下北ね」

「はっはい。え?」

 

 いつの間にか二人の話は終わっていたらしく、適当に返事をしてから会話の内容を反芻する。

 

「バンドの話。歓迎会の時に言ってたじゃん?」

「そっそういやそうでしたね」

 

 歓迎会から既に一ヶ月以上も経っており、ひとりは既になかった話と受け止めていた。

 

 

 

 

 

「本日はお越しいただきありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。ひとりさんまた土曜日よろしくねー!」

「あっはい、よっよろしくお願いします⋯⋯」

 

 吉田は虹夏を見送り、ひとりもつられる形で見送る。 

 虹夏の姿が見えなくなってから吉田は切り出す。

 

「実はね、後藤さんのギターの腕を見てもらおうとライブハウス関係者の人にも展示会に来て下さいー!って誘っておいたの」

「わっわたしなんかのためにそこまでさせて申し訳ありません!!」

 

 バンドの話を忘れていたどころか、わざわざ根回しをしていたことを知って土下座しそうな勢いで謝るひとり。

 

「好きでやったことだからいいって。それに販路拡大のためにも必要なことだったし」

「あっありがとうございます」

「バンド、組めるといいね」

「はっはい!」

 

(念願のバンド⋯⋯私のサクセスストーリーはここから始まるんだ⋯⋯!!)

 

 儲けを逃すまいとする熱気溢れる展示会、ひとりにとってそれは武道館ライブを彷彿とさせるものだった。

 

「後藤さん、ちょっと落ち着こうかなー?」

「えっあっすみません」

 

 やる気と妄想に満ちた上半身推し活コーデ女の姿は、あまり見ていられるものではなかった模様。

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