高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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前回のあらすじ

 展示会の推し活ブースでひとりは営業の手伝いとして客前でギターを弾く。
 その中で大学生の虹夏と出会いバンドの誘いを受ける。



第四話 いざ、アンダーグラウンドへ

 展示会で虹夏と出会ってから最初の土曜日。ひとりはスターリーの前で右往左往していた。

 

(虹夏ちゃんに言われたとおり来たはいいけど入りづらい⋯⋯なんで地下にあるんだろう。大雨降った時大変そう。後五分、いや十分経ったら入ろう)

 

 立派に社会人として生活しているひとりではあるが、自宅と会社以外の慣れない場所では相変わらず極度のコミュ症である。

 

「おーい、いい加減入ってきてよー」

「すっすみません」

 

 集合時間になってもその有り様だったため、店の外を確認しにきた虹夏に補足されてしまう。

 中は薄暗くて狭い空間だった。地下ということもありどことなく閉塞感を覚える。

 

(なんだか落ち着く雰囲気。私の家だ⋯⋯仕事の持ち場にも似てる⋯⋯) 

 

「連れてきたよー!」

「その子が?」

 

 初めてのライブハウスの空気を味わうひとりを無機質な目が出迎える。

 

(に⋯にらんでる?)

 

「この子はベースのリョウだよ」

「こんにちは」

「こっこんにちは」

「リョウは表情に出にくいの!変人って言ったら喜ぶよ。これで大体のベーシストは落ちる」

「嬉しくないし」

 

(世のベーシストに怒られそうなこと言ってる。でもうれしそう⋯⋯)

 

「立ち話もなんだし座って話そうか!」

 

 虹夏は慣れた様子で場を取り仕切る。

 

「じゃあ改めて、私は伊地知虹夏、この前二十歳になりました!普段はここでバイトしてるよ。担当はドラムでたまにサポメンで他のバンドに参加もすることもあるんだ」

「山田リョウ、ベース。後フリーの作曲家」

「作曲の仕事はまだ全然ないからほとんどここでバイトしてるけどねー」

「世間の見る目がないだけ」

 

 快活に話す虹夏と対象的に淡々としたリョウ。

 

「しゅっ秀華高校よりきました後藤ひとりです、黙々と作業をすることが得意です。まっ毎日片道二時間かけて高校まで通っているので忍耐力があります。あっそれからパソコンは最低限できます」

「ちょっと!面接みたいになってるよー!」

「すっすみません、まだ就活のクセが抜けなくて」

 

 呪文を詠唱するかの如く自己紹介をするひとりに思わず虹夏はツッコむ。

 

(本番ではここまでスラスラしゃべれなかったけど⋯⋯)

 

「今年から社会人?じゃあ年下なんだ」

「そっそうです」

「じゃあひとりちゃんって呼ぶよ!それともあだ名とかあったりする?」

「学生時代は「あの〜」とか「おい」とか「ごなんとか」とか」

「それあだ名じゃなくない!?」

「ひとり⋯⋯ぼっち⋯⋯ぼっちちゃんは?」

「ぼぼぼぼぼっちです!!」

「それでいいんだ!?」

 

 リョウはデリケートなところを構わず踏み込むが、ひとりは初めてのあだ名に歓喜する。

 

「ぼっちちゃんはいつ練習これる?私たちは今日みたいにお店の開店前に練習してるんだけど」

「あっ土日と祝日は休みです。ざっ残業もないので平日も大丈夫です」

「へー、ホワイトなんだね」

「そっそうなんでしょうか?」

「じゃあ土日と必要なら平日にも練習ってことで!」

 

 虹夏はスマホのメモ帳に打ち込む。

 それを眺めていたひとりはふと疑問を口にする。 

 

「そっそう言えばまだバンド名を聞いてなかったです」

「うっ」

 

 その疑問は虹夏の痛いところを突いた。

 

「結束バンド」

 

 リョウはボソッとバンド名を出す。  

 

「けっ結束バンドってあの?」

「ギャーッ!」

「傑作」

「ダジャレ寒いし絶対変えるから!」

「かわいいじゃん」

 

(仲よさそうな感じがして好きかも⋯⋯)

 

「ばっバンド・エイドもいますから」

「えっそうなの?」

「インシュロックとも迷った」

「それは綴り違うし商標だからどっちみち駄目だよ」

 

 虹夏はバンド名を気に入っていなかったが、ひとりとリョウが気に入ってる様子を見てなんとも言えない気持ちになる。

 一旦この話を忘れるために話題を変える。

 

「じゃあ次は好きな音楽の話!私はメロコアとかジャパニーズパンクかな?」

「私はサイバー演歌とかトルコのヒットチャートを⋯⋯」

「絶対嘘!!」

「わっ私は青春コンプレックスとか就活のトラウマを刺激しない歌ならなんでも⋯⋯」

「青春コンプレックスってなに?就活のトラウマがすごい⋯⋯」

 

(夏とか青い海とか花火みたいな歌詞を聞くと鬱々としてくる⋯⋯そうやって青春を謳歌した人は就活も順調にいって我が世の春が巡ってくるんだ)

(春はリア充限定の季節?だから私には夏と冬しか来ないんだ⋯⋯)

 

 海辺ではしゃぐカップル、花火を見ながらいちゃつくカップル、様々な青春コンプレックスを刺激する映像がひとりの脳裏を巡る。

 

「あーごめんごめん、一人の世界に入らないでー!」

「ぼっち、面白いやつ」

 

「とりあえず一回合わせてみよっか!」

 

 ひとりが自分の世界から帰ってくるを確認した虹夏は、ひとりに楽譜を渡した。

 

「これが今あるオリジナル曲の楽譜。ぼっちちゃんなら弾けると思うけど」

「はっはい大丈夫そうです」

 

 楽譜を流し見ておおよその検討をつけたひとりにある疑問が湧く。

 

「あっ他のメンバーはいないんですか?ぼっボーカルとか」

「今は私とリョウとぼっちちゃんだけだよ。私たちインストバンドだから」

「そっそうなんですね」

 

(インストバンドかぁ。ボーカルがいない分演奏頑張らないと⋯⋯)

(でも私ギター上手いらしいし!)

 

 己を鼓舞するためにひとりは胸をどんと叩く。

 それを虹夏は引いた目で見る。

 

「何故突然ゴリラの真似を⋯⋯」

 

(展示会では抑えめに弾いてたから本気の演奏見たら驚くぞ!)

(ギターヒーローって気づかれちゃうかも!)

 

 虹夏の呆れた目線に気づかずに妄想をたぎらせるひとり。

 チューニングを確認しシールドを繋ぐ。演奏の準備は完了しているが、それでは足りないとサングラスとマスクを着用する。

 展示会で着用して以来、人目から守ってくれると重宝しているのだった。

 

「その格好は展示会用じゃなかったの?」

「こっこれを付けてると人目がマシに感じるので」

「ぼっちちゃんって結構ロックだよね」

「ロックだ」

 

 褒めているのか貶しているのかわからない二人の言葉も、防御力の高まったひとりには効かなかった。

 

 そして、合わせ練習が始まる。

 しかし、初めて他の人と演奏をするひとりはひたすら自分のペースで演奏をする。

 通常、スタジオで練習をする際はドラムの音量に合わせてギターの音量を合わせるが、ひとりはそれを知らなかったために自分のギターの音しか聞こえない状態で弾く。

 技術云々以前に独りよがりな演奏だった。

 

「⋯⋯ド下手だ(君は最高のギタリストだ!)」

「逆、逆」

 

(あ、あれー?展示会では上手くいってたのに)

 

 思っていた展開とは違う評価にひとりは床に転がり小さくなる。

 

「どうも、マイクロプラスチック後藤です⋯⋯」

「自然環境に悪そうな人出てきた!?」

 

 いつの間にかゴミ箱に入っていたひとりを揺らしながら虹夏はツッコんだ。

 

「しょうがないよ初めての合わせだったんだし」

「私なら即席でも合わせられる」

「余計なこと言うな!」

 

 余計なことを言ったリョウは、その言葉とは違い真剣な目でひとりを見る。

 

「ぼっち、今度はソロで弾いてみて」

「わっわかりました」

 

 リョウと虹夏が見守る中ひとりは弾く。

 ひとりにとってはソロもバンドでもやることは変わらない。

 

「どっどうでしょうか」

 

 しばしの静寂。

 

(下手すぎてバンドお断り⋯⋯!?)

 

「やっぱり上手い!まぐれの上手さじゃなかったんだね」

「ソロならできるけど合わせるのは難ありか」

 

 自身も演奏しながらの合わせ練習の時とは違い、じっくり観察していた今回はひとりが技術自体は持ち合わせていることを確認できた。

 

「当面は合わせが課題だねー」

「わっ私のせいですみません」

 

(なんとかクビにならずに済んだ⋯⋯)

 

「らっライブまでには会社で自分から挨拶できるくらいになっておきます」

「なんの宣言!?」

 

 自信のあったギターで思うように合わせられなかったことが、コミュ症の弊害によるものだと考えた末の宣言だった。

 ひとりの発言に驚く虹夏。その影ではリョウがシクシクと悲しみを表現している。

 

(絶対コミュ症を治してギターヒーローの私としての力を発揮するんだ!)

 

「よーしぼっちちゃん歓迎会するぞー!」

「ごめん眠い」

「あっ今日は人と話しすぎて疲れたので帰ります⋯⋯」

「結束力全然ない!!」

 

 ひとりのバンド活動初日はなんとも締まらない形で終わった。

 

 

 

 

 

「虹夏ちゃん、リョウさん、準備オッケーです。最高のライブにしましょう!」

 

その夜、虹夏とリョウに見立てたぬいぐるみ相手に練習をするひとりがいた。

 

「おねーちゃんがまたこわれたー!」

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