高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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前回のあらすじ

 面接官後藤の厳しい質問や実技テストを乗り越えた喜多は、晴れて結束バンドに加入することになった。


第七話 空白の期間

「ライブT作ってきたよ!」

「すごい、伊地知先輩がデザインしたんですか〜?」

「私デザインとか得意なのだ!」

 

 バンドミーティング中のスターリー、虹夏は結束バンドのロゴが印刷されたTシャツを掲げて見せる。

 机上にはその他にも、タンブラーやピックのキーホルダーなど様々なものが並ぶ。

 

「バンドグッズも一緒に頼んでおいたよ!」

「へー沢山ありますね!ピックのヘアバンドなんてあるんですか」

「全部ぼっちちゃんの勤務先の会社で作ってもらったんだ」

「後藤さんの会社ってバンドグッズ作ってるの?すごいじゃない!」

「いっいや、それほどでも、うへへ」

「後藤さんが演奏の時にしてるサングラスとマスクはないんですか?」

「あーそれはぼっちちゃんのイメージが強すぎて今回はなしで。要望があれば次回にって感じかな?」

 

 一つ一つを手に取り、もの珍しそうに見る喜多。それら製品の製造に自分が関わっていることをひとりは誇らしく思って照れ笑いをする。

 

「後は個人のグッズもある」

「そっそれって普通の結束バンド」

「一つ五百円、サイン入りで六百五十円」

「安い!買います!」

 

(バンド内でお金が回ってるだけじゃ)

 

 リョウが持っているのはコード類を束ねるのに使う色が四色ある以外はいたって普通の結束バンドである。

 一通り見せた虹夏はグッズをせっせと片付ける。

 

「とりあえず形からってことで作ってみたけど、肝心の曲の方はどんな感じ?」

「ぼっちの作詞待ち」

「⋯⋯あっ」

 

(仕事と練習で忙しくて忘れてた!!)

 

 丁度、喜多が加入する前後のバタバタした時に頼まれた話だったということもあり、ひとりはすっかり失念していた。

 

「後藤さんが作詞するの?すごい仕事任されてるのね!」

「あっ作詞なんて朝飯前、ちょちょいのちょいですよ⋯⋯」

「後藤さんすぐ調子のるわね」

「これフラグじゃない?」

 

 喜多の尊敬の眼差しに気をよくしたひとりは、歌詞を一文字も書けていないにも関わらず出任せに言う。

 

「じゃあぼっちちゃん歌詞は頼んだよ!今日はこれで解散ー!」

「おっお疲れさまでした」

 

(急いで歌詞書かないと)

 

「ぼっち、ちょっと待って」

「っえ?あ、すみません。さっ作詞のこと忘れてたとかそんなことありませんから!」

 

 作詞のために急いで帰路につこうとするひとりをリョウが呼び止める。

 

「売れ線とか気にせず、ぼっちの好きなように書いてきて」

「はっはあ」

「個性を捨てたバンドなんて死んだのと一緒だから」

 

 いつになく真剣な眼差しがひとりを射抜く。

 作詞をする際になにを悩むのかを見てきたのか、あるいは体験してきたのか。忠告でもあり激励にも感じられる。リョウの音楽感が詰まったその言葉はひとりに響く。

 

「⋯⋯はっはい!いい歌詞書いてきます!」

「うん、頑張って」

 

 

 

 

 

 翌週の練習後、ひとりはリョウに歌詞の確認をしてもらうために喫茶店に来ていた。

 初めてリョウと二人きりになって気まずく感じるなか、おずおずと歌詞ノートを差し出す。

 

「お願いします⋯⋯」

「うむ、拝読したす」

「くっ暗すぎるかもしれませんけど」

 

 リョウはノートに目をやる。

 店内にはクラシック音楽が小さく流れている。二人の間には静かな時間が流れる。

 やがて、歌詞を見終えたリョウがポツリと言う。

 

「ぼっちらしくていいと思うよ」

「ほっほんとうですか」

「うん、少ないかもしれないけど、誰かに深く刺さるんじゃないかな」

 

 小さく微笑みながら掛け値のない称賛を口にする。

 

「うへへ⋯⋯」

「ふふ⋯⋯」

 

 お互いの感性が共有できたことで二人に連帯感が生まれる。

 しばらくその余韻に浸った後、グラスの氷が溶けて音を立てるのを眺めながらリョウは切り出した。

 

「実は郁代の前にもギターボーカルがいたんだ」

「そっそうなんですか」

「最初の郁代が逃げた後なんだけど」

 

 グラスの水を飲み、間を置く。

 

「ライブ中のトラブルでギターが演奏ができなくなって、焦って歌も駄目になったんだ。私も虹夏も気にしてなかったけど、本人はトラウマになっちゃったみたい」

 

(虹夏ちゃんはそんなこと言ってなかったな)

 

「だっだからボーカル探しに乗り気じゃなかったですか」

「そうだね。虹夏の受験もあったから一旦期間を空けてもいいかなって」

 

 ひとりは前のボーカルが抜けてから喜多が再加入するまでの空白の期間を思い、虹夏がボーカルを積極的に募集していなかった理由をなんとなく想像する。

 

「だから虹夏がぼっちを連れてきた時は驚いた」

「にっ虹夏ちゃんはなにも言ってなかったです」

「ぼっちが郁代連れてきたのはもっと驚いけど」

「すっすごい偶然ですよね」

「でも郁代でよかった。一度は逃げたけど、またやり直そうとしているなら多少のトラブルも乗り越えられると思うから」

「そっそうですね」

 

 虹夏とリョウが、一度は逃げた喜多を受け入れた訳がそこに繋がるのかとひとりは思い至る。

 

「きっ喜多さんじゃなかったら断ってたんですか?」

「そうかもしれない」

 

(最初は訳ありの人連れてきちゃったと思ったけどよかった⋯⋯) 

 

「郁代が上手くやれそうでよかった」

「はっはい!」

 

 窓の向こうを見るリョウ。

 その目には今までどんなものを映してきたのか。リョウの過去には、結束バンドの過去には。ひとりは儚げな横顔を眺めて思い馳せる。

 

(普段は口数少ないけどバンドのこと考えてくれてるんだ)

 

「そろそろ出ようか」

「あっえっリョウ先輩お金⋯⋯」

 

 先ほどまでの殊勝な眼差しとは違い、じいっと生温かい目でひとりを見やる。

 

「ごめん、今お金ないからおごって」

「えっ!?」

 

 空っぽの財布を見せてジト目で懇願するリョウ。

 

「リョ⋯⋯リョウ先輩がここに誘ったんじゃないですか」

「どうしても食べたくて⋯⋯お願いおごって」

 

(リョウ先輩⋯⋯駄目人間だ)

 

 結局ひとりはリョウの分まで払うことになった。

 自分は飲み物だけなのにリョウはカレーまで食べていたとか、お金が足りなかったらどうしていたのか、など考えないようにひとりにしてはスマートに支払った。

 

「本当にごめん、来月返します」

「あっいつでも大丈夫です」

「流石社会人。懐に余裕がある」

「あっやっぱりすぐ返してください」

 

 音楽への熱い思いやお金にルーズなところ。リョウの意外な一面を二つも知ることになったひとりであった。

 

 

 

 

 

 翌日、練習に来たリョウは目の下に隈を作っていた。

 いつも気だるげな顔をしているが、今回はそれとは違う感じがしたのか一同は驚く。

 

「どうしたんですかその隈!?」

「曲作ってた」

「また徹夜で作曲してたの?」

 

 しかし、大きな隈とは裏腹にその表情はなにかを成し遂げた晴れやかなものであった。

 

「きっ昨日あの後作曲したんですか」

「ぼっちの歌詞を見てインプレーションが湧いたから」

「早速皆で聞いてみよー!」

 

 高速なテンポと激しい演奏を、メリハリをつけて王道のコードでまとめたリョウ渾身の一曲だった。

 

「お!いいじゃーん!」

「私このフレーズ好きです」

「わっ私もいいと思います」

 

 思い思いの感想を言い合う。

 目の前で曲を褒められているのを眺め、リョウは口元を少しほころばせる。

 

「曲も完成したことだしライブ本番まで練習頑張ろー!」

「その前に審査あるの忘れるなよ」

 

 少し離れた所から見ていた店長の星歌が釘を刺す。

 

「わかってるってー!」

「えっ、審査があるんですか?」

「きっ聞いてない」

 

 いつもの調子で返事をする虹夏だが、喜多は初耳だと驚く。

 

「あれっ言ってなかったっけ?まあ今の調子なら余裕で大丈夫だから!」

「油断はするなよ。あまりにクオリティが低いと出さないから」

 

(審査か⋯⋯面接だけで懲り懲りなのに)

 

 ライブ前の思わぬ壁に憂鬱になるひとりだった。




※前のボーカルが実際に登場することはありません。
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