高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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前回のあらすじ

 リョウの助けもあり初めての作詞を終えたひとり。
 刺激を受けたリョウの頑張りもあり無事新曲ができるが、ライブに出るためには事前オーディションが必要だった。


第八話 星歌は見ている

「ぼっちちゃん、ちょっといいか」

「っうぇ!?」

 

 オーディション前日、スターリーにて最後の練習中だったひとりは星歌から呼び出しを受けた。

 

「ぼっち、なにをした」

「後藤さん、あなたのことは忘れないわ」

「ぼっちちゃん謝るなら早い方がいいよ?」

「お前ら私をなんだと思ってるんだ」

 

 星歌への印象がよくわかる反応だった。三人の茶々を受けながらひとりは連れ出される。

 スタジオで練習しているメンバーから離れるようにやってきたドリンクカウンター前に横並びで二人は座る。

 

「あっあの私なにかやってしましまいましたでしょうか」

「ちょっと話するだけだから」

 

 ひとりにとって星歌は、虹夏の姉でスターリーの店長という情報だけしか知らず接点がほとんどない。

 少しつり上がった目に眉間にシワを寄せてキツい印象があるため苦手としている。

 そんな彼女から話があるとくれば警戒をしてしまうのも仕方なかった。

 

「バンドは順調?」

「えっあっはい」

「仕事は?」

「ぼっぼちぼちかと」

「ふーん」

 

 頬杖をつきながら淡々と話す。それもまたひとりにとって怖さを感じる。

 

「ぼっちちゃんは偉いよね」

「えっそそうでしょうか」

「仕事もバンドも頑張ってるじゃん」

「はっはい」

 

(やけに褒めてくれるけど一体になにが⋯⋯そう言えば死刑囚は最後に好きなものを食べられるって聞いたことがある。もしかして!?)

 

 両手両足を棒にくくりつけられて、燃え盛る炎にさらされるイメージが湧いてくる。

 

「もっ申し訳ありません。なっ何卒命だけはご勘弁を」

「⋯⋯なにが?ああ、中途半端って言いたいわけじゃないから」

「あっはい」

 

 足を組み換え、一呼吸を置く星歌。

 すっと軽く息を吐いてから続きを話す。

 

「仕事柄色んなバンドを見てきたけど、社会人バンドマンも沢山いたんだ。夢を諦めきれないとか趣味の延長とか理由は様々だけど、皆真剣にやってた。でも、ほとんどが長続きしない」

 

 その横顔から表情を読み取ることはひとりにはできない。

 

「音楽性の違いとか目指すレベルの違いとかでバンドが解散することなんてよくある話だけど、結婚とか出世とか音楽以外のことが原因で辞めるんだよ」

 

 ――勿体ないよな。

 

 語りかけているようでありながら、独り言のようでもあった。

 

「だから、ぼっちちゃんにはバンドを続ける理由を持って欲しい」

「つっ続ける理由ですか」

「やる理由と続ける理由は別なんだよ」

 

 そう言って星歌はひとりに顔を向ける。

 今までに見てきた社会人バンドマンとひとりを重ねているのだろうか。気のせいか、どこか悲しげな印象を受ける。

 

「せっかく組んだバンドなんだ。長くやってほしい。それに虹夏もここ最近は楽しそうだ。一時期はバンド諦めかけてた時もあったから」

「いっ妹思いですね」

「それに、単純にバンドが解散するのを見るのはツラいからな」

 

 画面越しにどこかのバンドが解散したのをたまに見るだけのひとりにとって、身近なバンドが目の前で解散するのを何度も見てきた星歌の言葉はずっしりと重みのあるものだった。

 

(バンドを続ける理由か⋯⋯)

 

「別に今すぐってわけじゃないから。やっているうちに見えてくるものもあるだろうし」

「そっそんなものですかね」

「それに私が偉そうに言えることじゃないしな」

 

(店長さんにも以前なにかあった?)

 

「えっそれってどういう⋯⋯」

 

 意味ですか、と言う言葉は言い切れないまま星歌に遮断される。

 

「さ、練習に戻りな」

「はっはい」

 

 言いたいことは言い切ったとばかりに手を叩いてひとりを追い払う。

 既にしんみりとした空気は霧散していた。

 

 

 

 

 

 オーディション当日。

 ステージ上には結束バンド。観客は星歌とPAだけだ。星歌はいつも通り難しい顔で、PAは逆ににこにこと穏やかに微笑みながら見つめる。

 

「結束バンドです。じゃあ「ギターと孤独と蒼い惑星」って曲やりまーす」

 

 虹夏の上ずった声から演奏が始まる。

 ひとりが作詞をしリョウが作曲をした曲だ。

 ひとりにとって初の作詞曲であり、結束バンドが四人体制になってから初の曲でもある思い入れのある作品だ。

 

(店長さんに言われるまでは考えてもいなかった)

 

 練習でひたすらやった通りに指を動かす。

 ただそれだけでも合格の基準を満たしている。だがそれではひとりにとっては物足りない。

 

(バンドをやってる理由⋯⋯最初は人気になってちやほやされたいからだった)

(でも続ける理由は違う。この四人で人気者になりたい⋯⋯バンドを続けたい!)

 

 ひとりは足を踏み鳴らす。それが決意表明だと言わんばかりに演奏のキレが一段とあがる。

 その変化を感じ取った虹夏とリョウは置いていかれまいと目配せをする。遅れて喜多も続く。

 ひとりの気迫に乗せられたまま演奏は終わる。

 見ている星歌とPAも思わず気圧される。

 

「⋯⋯いいよ、合格。ドラムとベースは周りに意識が行き過ぎで手元が疎かになりそうだしギター二人は下を見すぎてるけどな」

「あはは、厳しいー」

「もっと頑張らないとですね!」

 

 結果は無事合格、晴れて初ライブへの切符を手にした結束バンド。

 実力的には当然のことではあったが、やはり緊張はしていたようで誰しもが肩の力を抜く。

 オーディションを終えて三人が一息ついている中、ひとりは青ざめた顔でいた。

 

「ぼっち、どうしたの」

「いっ胃酸が逆流してくるのをこっこらえてます」

 

(慣れないことをしたから体が拒否反応を⋯⋯)

 

「ぼっちちゃん途中から覚醒したと思ったけど反動がきちゃった?」

「なにかすごかったですよね!ついていくのに必死でしたよ」

「超スーパーぼっちちゃん⋯⋯」

 

 カッコよく決めたかと思えば締まらない終わり方をするひとりを、他のメンバーがわいわいと賑やかす。

 星歌はそんないつもの結束バンドの様子をじっと見つめる。僅かに口元が緩んでいた。

 それを見たPAは好奇心からくる笑顔を袖で隠すように話しかける。

 

「店長昨日はあの子となにを話してたんですか」

「別に。釘を刺しただけだよ」

「またまた、なにかアドバイスでもしたんでしょう?」

「うるせ、あっち行け」

 

 シッシと追い払う星歌を笑顔でからかう。

 二人のやり取りを見ている人は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 その後、記念撮影をすることになったが、ひとりは吐き気をこらえたままの顔だったためより一層酷い顔になってしまった。

 

「チケットノルマ千五百円を二十枚だから一人五枚ずつね!」

 

 記念撮影を終えた虹夏は手のひらを掲げて高らかに宣言をした。

 

「五枚ですか。先輩達はいつもどうしてるんですか?」

「私は友達にお願いするけど今回もそうなるかなー」

「やっぱり友達が無難ですかね」

「私はなんか気づいたら売れてる」

「流石リョウ先輩!素敵です!」

「リョウのは例外だから参考にしないでね」

 

 他の三人がノルマの算段を弾く中、ひとりは急に訪れたノルマに焦りを隠せずにいた。

 

(ノルマ五枚!?!?)

(父!!母!!妹!!犬!!父⋯⋯母⋯⋯妹⋯⋯犬⋯⋯一枚余る⋯⋯)

 

 脳内には広大な宇宙空間が広がり、その中を家族の顔がグルグル回って彷徨う。

 

(⋯⋯いや、営業の吉田さんがライブするなら呼んで欲しいって言ってたはず。社長も見たいって言ってたような。ノルマ超えちゃった!やればできるじゃん私!)

 

 宇宙空間が割れ、そこに現れた救世主は会社で関わりのある人だった。

 家族以外にもノルマチケットを販売できる相手がいることに、つい緩んだ笑いが出てしまう。

 

「っうへへ」

「後藤さんとっても嬉しそうね」

「ぼっちちゃん大丈夫かなー?」

 

 調子に乗ったのも束の間、妹と犬が無理なことに気づき、後日残り一枚のノルマを会社でなんとか売りさばくことになるひとりであった。

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