第一話「クラスメイトはほとんど女子生徒!?」
10年前に篠ノ之束によって開発・発表されたパワードスーツ――インフィニット・ストラトス……通称ISは元々「宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツ」として開発された。
しかし「白騎士事件」によって、その極めて高い攻撃力・防御力・機動力から「既存兵器を凌駕する超兵器」として各国から注目を浴び、軍事転用されるに至る。
原因は不明だがISは女性にしか動かせないことが、女尊男卑の世の中になったことで世界は大きく変わってしまった。
時は流れ、桜咲き乱れる春の季節。
真新しさが垣間見える教室で、一人の男子生徒が机に突っ伏して項垂れていた。
彼の名は
一夏はこの教室にやってきて早々に疲れ切ったような顔をしている。その理由を述べるならば簡単だろう。なぜならばある一点を除いてほぼすべての生徒が女子生徒だからだ。
今の彼は文字通り注目の的。いや動物園などでよく見世物にされるパンダのそれであった。様々な視線が多方面から刺さり、彼の居心地はかなり悪かった。
クラス名簿で見かけた幼馴染と思われる人物が座っている方に助けてほしいと言う旨の視線を送ってみるが、なぜか彼女は頬を赤らめたあと一瞥してそっぽを向かれた。理由はわからないし、なんなら睨まれたような気さえする。
「はぁ……」
深いため息が漏れる。なぜこうなってしまったのか……?
あの時、高校受験をしに行った際、間違えて『IS学園』を受けに行ってしまった彼は、間違って資料室に入ってしまい、そこに置かれてあったISに触れたとき、なぜか彼は女性にしか使えないというISを起動させてしまった。
その結果、彼は人工島に設置されたISに関する知識や技術を専門に教える学園機関、『IS学園』に急遽進路変更を余儀なくされた。それだけじゃなく一夏は世界で初めてISを動かした男として世界中に報道され瞬く間に拡散されてしまった。
一夏が一人で考え事……否、自分の境遇について悲観をしていたら、教室に一人の女性教員が出席簿を持って入ってきた。
緑髪をショートボブに切り揃えた、低身長で眼鏡を掛けた女性。格好は淡い黄色のワンピースを着ていて、茶色の短いブーツを履いている。
「皆さん、おはようございます!」
「「「⋯⋯⋯⋯」」」
「あ、あはは⋯⋯副担任の山田真耶です。よろしくお願いします⋯⋯」
彼女なりに元気よく挨拶をしたらしいが誰も反応しない。こんな倍率の高い学校なら顔見知りなぞいないのも当たり前ゆえ、みんな緊張して話せないのだろう。
「うぅ⋯⋯では出席を取ります」
涙目になりながらもそれでもめげずに仕事を始める辺り、彼女は教師としてはしっかりしているらしい。
一人ずつ名前を呼ばれていくなか、一夏は一人の女子生徒――彼の幼馴染に視線を向けた。
ISを造った天才
だが篠ノ之博士がISを造ったことで政府の保護プログラムとやらにより家族は散り散りとなり、各所を転々としながら暮らしていたようで、彼女が転校した小学校六年以来連絡が途絶えてしまった。
「織斑君」
「⋯⋯」
「お、織斑君」
「⋯⋯⋯」
「織斑君!」
「うぉあ!?」
箒の方を見ながら考え事をしていたのがいけなかったのか、一夏は目の前に女性――真耶が来ていることに気づかなかった。
「あ、あの……大声だしちゃってごめんなさい。お、怒ってるかな? 怒ってるよね? ゴメンねゴメンね。でもね、でもね。「あ」から始まって「お」にきて、今は織斑君なんだよね。だからね、ごめんね、自己紹介してくれるかな?」
彼女は半泣きになりながら一夏を見上げる。机に乗り出し懇願する彼女に一夏はドギマギしながら少し離れる。彼女の豊満な胸が机の上に乗っており目線が下がりそうになるのを我慢する。
「おや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから!」
「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ? 約束ですからね!」
改めて咳払いをしたあと席を立つ。その瞬間、周りから女子生徒による視線が集まった。
ISが誕生して以来初めての男とは一体どんな者なんだろうかという期待とプレッシャーの眼差しが一夏を全方位に渡り彼の身に突き刺さっていた。
「えぇと、織斑 一夏です」
次は何が続くのか。その期待が女子生徒達の目に宿る、が……
「以上です!」
潔い敗北宣言。一夏ともう一人を除き、教室内の山田真耶を含んだ女子たちがずっこけた。
「あれぇ!? だ、駄目でした!?」
ドゴォンッ!
そして、そんな周囲の反応に一夏が見渡しながら確認を取った瞬間、頭部に今まで感じたことのない強い衝撃と痛みが響いた。
「いってぇ!?」
「自己紹介もまともに出来んのか貴様は」
「げぇ! 暗黒卿!?」
ドゴォンッ!
また衝撃と痛みが走る。
「誰がダース・ベイダーだ馬鹿者!」
「それよりも、なんで千冬姉がここに⋯⋯」
ドゴォンッ! と3度目の破裂音が響く。学習しないのかコイツは……? という視線を斜め後ろに座る少年が一夏に向ける。
「公私を弁えろ。織斑先生と呼べ」
「はい……お、織斑先生⋯⋯」
もはや不憫にすら思える三連続の拳骨攻撃に一夏が沈む。というかどう考えても拳骨で出していい音じゃない。
「すまないな山田先生、会議が長引いた」
「お、織斑先生っ!」
凛々しい顔立ちをしており、鋭いツリ目に後ろで結んだ長い黒髪が特徴的な女性。黒いレディーススーツとストッキングを着用している。その姿を見た教室内の女子生徒の多数が目を見開く。
「聞け諸君。ここはお前たちひよっこを最低限現場で使えるようにするように育てる施設だ。私の言うことは聞け。分かったら返事をしろ。分からんでも返事をしろ」
横暴にも程があるとも思える台詞を吐きながら教壇に立ち、目の前の女子生徒+男子ニ名に向かってそのセリフを言い終わった束の間、教室内から歓声が上がった。
「き、きゃぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」
劈くような声が痛む頭に響く。一夏は咄嗟に耳を押さえたが、もう一人は間に合わなかったのか机に突っ伏した。
「千冬様ぁぁ!!!」
「貴女に憧れてこの学園へ来たんですぅ!」
「調子づかない様に躾けてくださいっ! でもたまにでいいから誉めて!」
途中半妙な言葉が聞こえた気がするが彼女たちの為にも、一夏は聞かなかったことにした。
耳を塞いでも聞こえてくるような嬌声にうんざりする一夏の姉こと織斑千冬は、頭を抑えながらうんざりしていた。
「よくもまぁ毎年毎年これだけの馬鹿が集まるものだ⋯⋯私のクラスに集まるのはある意味嫌がらせか?」
「あ、あはは⋯⋯慕われているだけでもありがたいですよ」
「それにしても限度があるだろう」
千冬の愚痴にどこか投げやりなフォローをかける麻耶。一度ため息を漏らした千冬はキッと目を鋭くさせ、机に突っ伏している少年に視線を向ける。
「お前もいつまでも突っ伏してないでさっさと自己紹介しろ」
その言葉に女子たちの声にやられていた少年が顔を上げる。一夏以上に期待の込められた視線を向けられてもスルーするかのように立ち上がった少年は口を開いた。
「……日比野絆です。あんまり話しかけないでもらえるとうれしいです」
それだけ言って席に座る。あまりにも突き放したような言動に周りは一瞬固まってしまい、それを見た千冬はまたもやげんなりするように頭を抑えた。
「はぁ……まぁいい」
麻耶は引きつったような笑みを浮かべ、千冬は何度目になるかわからないため息を吐いた。その時学校のチャイムが鳴り響いた。
「もつSHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが基本操作は半月で体に馴染ませろ。いいか? いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」
教壇の前に立った千冬は威圧を込めながらそう言う。それで多少は落ち着いてくれるものかと期待したが、結果はその真逆。まるでキラキラするような目を千冬に向けるばかり。頭痛が起こりそうなのを我慢しながら千冬は教室から出ていった。
先生2人が教室からいなくなり、教室内では賑やかになる。次の授業の準備を行いながら楽しそうに話す光景を尻目に、一夏は自分から斜め右後ろの席で本を読んでいる少年の元へ向かった。
「なぁ、絆……だっけ?」
「……なに?」
早速自分と同じ男性に話しかけた一夏に帰ってきたのはぶっきらぼうな返事だった。
「俺は織斑一夏って言うんだ。よろしくな! 気軽に一夏って呼んでくれ」
「ん……そう。よろしく、織斑」
「いや、だから一夏で良いって」
握手を求める一夏だったが、それは普通にスルーされる。完全に興味を失ったかのように本を視線を戻す。一夏はその対応に困ったように若干苦笑いを浮かべる。
「それにしても驚いたよな、俺たち以外皆女子なんだぜ?」
「……」
「えぇと……絆?」
「お前、馴れ馴れしいやつだな」
「な、なんだよいきなり」
雑に扱われようが諦めずに話しかける一夏に待っていたのは、辛辣な言葉だった。少々ウザったそうな感情を浮かべる絆はそれ以上話す気はないのか完全に本の世界に入り込む。
「……ちょっといいか?」
なにかしたかなぁ……そう頭を悩ませる一夏のところに一人の女子生徒がやってきた。
「…………箒?」
「話がある。廊下でいいか?」
「あ、あぁ……別に構わないけど」
チラッと絆の方に視線を向けるが本人は本を読むことに集中しているらしい。さすがにこれ以上邪魔するのも悪いかと箒についていくことに決める。
絆は廊下に出ていった2人を一瞬だけ見たあとすぐに本を視線を戻した。
しばらくしてチャイムが鳴り千冬が教室に入ってくる。まだ2人が戻っていないことを知った千冬扉の前に立つ。その姿からなぜか威圧を感じるが気の所為だと思った。
「遅い」
「すみません⋯⋯」
「ごめんなさい⋯⋯」
勢いよく開けた扉の先に居た千冬の出席簿アタックにより、2人仲良くたんこぶを腫らし、それぞれの席で小さく丸まる。そんな2人を労わるようなもしくは憐れむような目で流すクラスメイト達。そんな二人の姿には副担任の真耶ですら若干焦っているほどだった。
注意事項もほどほどに終わり授業に入る。
IS座学。女子生徒にとっては中学の履修科目でもあるため、今日の内容は半分以上復習なのだが。
「お、織斑君? 何処か分からないところはありますか?」
「全部分かりません」
「へ?」
教室の後ろで授業風景を眺めていた千冬がため息をついていた。
「織斑、入学前に渡した参考書はどうした⋯⋯」
「古い電話帳と間違えて捨てました!」
ドッゴォォォンッ!
本日五度目の強烈なる拳骨により、一夏は顔面から机に落下する。
「必読と書いてあっただろうが⋯⋯仕方ないから再発行してやる。それを一週間で暗記しろ」
「えぇ!? いや、あの量を一週間でと言うのは無理が」
苦しそうな顔をしながらそれでも起き上がった一夏には、
「やれ」
「はい」
最初から拒否権など端から無かった。千冬から発せられる圧に一夏は屈するしか無かったのだった。その圧が今度は絆に向けられる。
「貴様は当然読んできたのだろうな?」
「そりゃあ、まぁ……当たり前なんだけど」
当たり前という言葉に一夏は没落した。
それから時間が過ぎ……
「な、なぁ……絆」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないだろ!?」
「聞かなくてもわかる。参考書を捨てたお前が悪いし、あと面倒くさい」
「絶対最後のそれが本音だよな!?」
涙目になりながら懇願してくる一夏に対してウザったいっていう感情を隠さない絆。
「というか普通アレを電話帳と間違えて捨てるのは頭おかしい」
「でも俺捨てちまったし……」
「じゃあお前の頭はおかしい」
「酷くない!?」
諦めずに懇願してくる一夏の対応に疲労感を感じて机に突っ伏したくなるのを我慢していると、一人の女子生徒が絆の机の前にやってきた。
「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
「……?」
声をかけられ一夏が振り返り、絆が顔を上げる。そこにいたのはブロンドを伸ばし揉み上げを縦ロールに巻いたまるで異国のお嬢様然とした生徒が立っていた。フリルのあしらわれた制服を着こなしている様は顔立ちからしても英国貴族と言わんばかりであり、美少女と呼ぶのに相応しい顔立ちをしている。
「まぁ! なんですのその口の聞き方は!」
「いやだって、俺君のこと知らないし」
それを聞いた目の前の金髪少女はまるで金魚のように口をパクパク開いて仰天していた。
「この、このわたくしを、セシリア・オルコットを知らないと……!?」
「いや、どちら様で……?」
「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ!」
胸をそらし、手を腰にあてながらもう片方の手を胸元に添えて高らかに名乗った少女。それに対してあまり興味のない目で見る一夏。絆はもはや本を読み始めて聞いてすらいない。
「なぁ、一ついいか?」
「あら、何でしょう? いくらわたくしとも言えども凡人の質問には答えますわよ」
ふふんと得意気に戻るセシリアと名乗る少女に一夏は素朴に質問を繰り出す。
「代表候補生ってなんだ?」
その質問にクラスの大半がずっこけた。勿論目の前の金髪少女もずっこけた。まるで新喜劇のようだ。絆からの一夏に対する評価は下がった。
「織斑……代表候補生と言うのは各国代表のISパイロットの候補になっている者の呼び名だよ。簡単に言えばその国を背負ってるってことだ。文字からしてわかるだろ」
「あぁ、そうか」
これには流石の絆も会話に入らざるを得ないと感じたのか、頭を痛めながら解説をする。
「あ、あなた、馬鹿にしてますの?」
「いやぁ、なにせ予備知識とかなにも無いもんだから」
ため息を吐く金髪少女は崩れそうになる表情筋を絞めて、また毅然とした態度を示しながら一夏に対して得意気に語る。
「まぁ私もそこまで鬼ではありませんし? 貴方がどうしてもと仰るなら、このわたくしがご教授してあげてもよろしくてよ?」
「いや、断る」
その言葉に訳が分からないとセシリアは言葉を失った。それに対して一夏はそれまでの緩んだ顔から一転して、真っ直ぐな瞳をセシリアに向けていた。
「何故ですの!?」
「俺はあんたみたいな奴が好きじゃなくてね。悪いけど断らせていただく」
一夏にとって今の世の中には不満がある。ISがあるからという理由で女性のみが優遇され男性は不遇な扱いを受ける。そして何よりそれを使って力を振りかざす行為を一夏は認めたくない。
「っ⋯⋯あとで泣いて謝っても知りませんわよ!」
続けて何か言おうとしたらしいが、生憎チャイムが鳴り会話は中断となった。セシリアは「覚えてらっしゃい!」と捨て台詞を吐いて退散していった。
その様子を見て、一夏を見る絆の目は少しだけ変わっていた。
「よし、全員いるな。早速だがこれよりこのクラスの代表を決める。自薦他薦は問わない。やりたいものは申し出ろ。因みに拒否権はない」
大雑把すぎる提案と説明に暫し押し黙る生徒たち。
学級委員など普通の学校では面倒事を押し付けられるような立場に普通は成りたいとは思わないが、このISではそうとは限らない……らしい。
「はい! 織斑君を推薦します!」
「え"っ!?」
「私も~」
「じゃあ私も推薦しまーす」
「せっかく男の子がいるんもんね! 盛り上げないと!」
驚く一夏を置いてけぼりにして一人の推薦を皮切りに何人もが一夏を推してきた。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ?」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな……」
「他薦された者に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟しろ」
「だったら俺はきず……」
一夏が絆の方に視線を向けようとしたとき、セシリアが机を叩きながら声を荒げて立ち上がった。
「ちょっと待ってください!! そのような選出は認められません!!」
その言葉に皆が黙りこみ、そして彼女の鬱憤は続けられる。
「大体男がクラス代表なんて言い恥さらしですわ! 実力からいけば私がクラス代表になるのは当然!! それを物珍しいという理由でこんな極東の島国の猿と一緒にされては困りますわ!」
その言葉にクラスにいる女子たちからの目がキツくなる。それに気づいているのかいないのか、彼女は構わず話を進める。
「わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであってサーカスをする気は毛頭ございません! いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき! そしてそれはイギリスの代表候補生にして入試首席のわたくしセシリア・オルコット以外ありえませんわ! ISの操縦に関しても唯一教官を倒したエリート中のエリートですし」
「俺も倒したぞ、教官」
得意げになりながら鼻を伸ばし気分が上がっている彼女に、一夏は顔だけを振り向かせる。
「あ、あなたも教官を倒したって言うの!? わたくしだけって聞いていましたのに!!」
「女子ではってオチじゃないのか? それにイギリスだって島国だし、大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「なっ⋯⋯あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」
「先に言ったのはそっちだろ!」
一夏のその言葉に一瞬押し黙ったセシリアは、一夏を指差し高らかに戦布告を言い渡す。
「決闘ですわ!」
ビシッ! と擬音が鳴りそうなほど指を突きつけられた一夏は逆に好戦的な笑みを浮かべ、
「ISでか? あぁいいぜ、その方が手っ取り早くて分かりやすい」
その申し出を受け入れた。
続いてセシリアは絆の方を指差し半ばやけくそに言い放った。
「アナタもですわ! アナタも私と戦いなさい!」
「えっ!?」
興味なさげに本を読んでいた絆は驚きながら本を落としてしまう。その様子を見て毒気が抜かれたかのようにセシリアが呆れた目をする。
「な、何……?」
「アナタ何も聞いてませんでしたの!?」
「だって、俺関係ないと思って⋯⋯」
その言葉に呆れかえってぶつぶつと「男って⋯⋯男って⋯⋯」と何かを愚痴っていたセシリアは絆に簡単な説明をしてやり、事情を理解した絆は頭が痛いと言うかのように抑えた。
「まずいくつか言いたいことがある」
「あら、なんでしょう?」
ため息を吐き立ち上がった絆はその目をキッと鋭くさせながらセシリアを睨みつける。
「お前、極東の島国の猿と一緒にされては困るって言ったよな?」
「それが何か?」
「じゃあ、ISの生みの親である篠ノ之束博士に対して喧嘩売ってるってことになるけど……いいのか?」
「なっ……!?」
その一言でセシリアの顔が青ざめる。
「それに、代表候補生としてイギリスという国を背負ってここに来ている以上、発言には重みがついてくるもんだ。それはつまり……お前は日本という国と戦争をしたい、という意味合いでいいんだな?」
絆の視線がさらに鋭くなる。
「織斑も言われたからといって相手の国を侮辱すればやっていることは同じだ。というかイギリス料理を実際に食ってから発言しろ。そもそも売り言葉に買い言葉で軽々しく決闘を受けるな」
「なっ!? な、なんでだよ!? お前は悔しくないのかよ!? 俺たちバカにされてるんだぞ!!」
思わず机を叩きながら一夏が絆に詰め寄る。切迫した状況でありながら千冬は状況を見守る気でいるのか絆の方を見て目を細めていた。逆に麻耶はどうしたらいいのかわからずオロオロとしている。
「バカか。お前ISに長い間乗ってたことあるのか?」
「え? そりゃあ……ないけど」
「そりゃあそうだろう。むしろあると言われたら驚いていたよ。まぁつまりだ……ISに関して全くと言っていいほどド素人の俺達が決闘を承諾したところで勝てるはずがないんだよ。やってみなければわからないとかそういう根性論なんてものはない」
「な、なんで……」
「いいか? オルコットはイギリスの代表候補生だ。そう呼ばれるほどには努力もしているはず。それに比べて俺たちはさっきも言った通り全くのド素人」
一夏の方を見ながら言い切った絆はため息を吐いた。
「まぁ、自分の住んでる国を馬鹿にされて怒りたくなる気持ちはわかるが……冷静になれ」
「わ、わかったよ……」
絆に言いくるめられて少しは落ち着くことができたものの一夏はまだどこか納得がいってないって感じで頷く。それを察した絆はまたため息を吐くともう一度セシリアの方へ視線を向けた。
「それでオルコット。一応聞いておくが、お前の俺たちに対する決闘ってのは国同士の戦争って解釈でいいんだよな?」
「あっ……そ、それは……」
「そこまでにしておけ日比野」
言葉による圧をかける絆を止めたのはずっと状況を見守っていた千冬だった。絆は不足そうな顔をしつつも素直に席に座る。
「まぁ、そういうことだ。オルコット、お前はもう少し考えて発言をするべきだったな。今回は大目に見てやるが、次からは気をつけろ」
「は、はい……わかりましたわ」
セシリアが席に戻るのを確認した千冬はにやりと笑い、絆は嫌な予感がしてきた。その予感は的中するが。
「まぁ、決闘はしてもらうが」
「「はあああぁぁぁぁ!?」」
驚いて立ち上がる一夏とセシリアとは違い、絆はどこか諦めたような顔で察していた。
「なに、三人も候補者がいるんだ。誰がふさわしいのかを決めるのに最も簡単な方法だろう?」
「だ、だけど」
「日比野のいう国同士関連は関係ないぞ?」
「わ、わかってるけど」
「そうだな。1週間後、3人にはアリーナで決闘をしてもらう。各自準備しておくように」
その時ちょうどチャイムが鳴り響き千冬は教室から出ていった。呆然とするクラス内で絆はこれからどうなるのか不安でいっぱいになったのだった……。