もしもデンジが路地裏に来てしまったら。▼この作品はピクシブ様にも投稿しています。

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デンレゼ妄想

「レゼ、まだかなァー」

 

何時間経っただろうか。

時計が針を刻む音とマスターの新聞を捲る音だけが部屋に響き渡る。

未だ、ドアのベルは鳴っていない。

スンスン、と鼻を鳴らしながら花束の匂いを嗅ぐ。

 

「オレァ人ん心があるからなぁ、花の匂いの良さだって分かるぜ」

 

匂いを嗅いでいるデンジはレゼとの思い出を振り返る。

最初は、変な女だとしか思わなかった。

人のことを死んだ犬扱いするし、挙げ句の果てにはポチタの心臓を狙って殺そうとしてくるし。

だけど、学校でのことや祭りのこと、泳ぎ方を教えてくれたこと。

色んなことを経験してみてマキマさんと同じくらいには好きになっちまったんだ。

だから、今オレはここにいる。

レゼと逃げるために。

 

「レゼ、来ねえなぁ~まだかなぁ~」

 

新聞を読んでいたマスターが目をデンジに向け言う。

 

「デンジ君、一回外の空気を吸ってきたら?

このまま、ずっとあの子の事を待つのも退屈だろうし」

 

数瞬悩む。

外に出ている間にレゼが来たらどうしよう、そう思った。

しかし、直ぐに結論が出たのかマスターに目を向ける。

 

「それ名案だなぁ。じゃ、いっちょ外の空気吸って来るぜ」

 

ドアを開け外に出ていくデンジ。

その後ろ姿を眺め一人ごちる。

「本当に来るのだろうか、あの子は」

新聞に目を落とす。

そこには、

悪魔被害により少数の死者及び多数の負傷者続出。「台風みたいだった」「爆発する悪魔がいた」などといった言葉が見られる模様

と書いてあった。

 

 

ネズミが鳴いている。

何で、あのまま逃げなかったの。

どうして、私の足はあそこに向かっているの。

何度も繰り返す答えのない自問自答。

脳裏に過るデンジ君の声と表情。

ーーーいっしょに逃げねぇ?ーーー

その言葉に少し胸を高鳴らせたのは何故だろう。

最初は歩行程度の速度だったのに、今では小走りになっている。

あの時、最初に会ったときに殺していれば、こうはならなかったのに。

息が乱れる。息を乱さないための訓練はしてきたはずなのに。

路地裏に入る。

あと少し、あと少しーーー。

ネズミが鳴く音が大きく反響する。

瞬間、足元を通り過ぎていく大量のネズミたち。

思わず足を止めてしまう。

やがて、ネズミたちは先に行くのを防ぐかのように人型の形をなす。

 

「私も」

 

首もとのピンに指を掛ける。

 

「私も田舎のネズミが好き」

 

マキマが姿を現した。

 

「友達が田舎の方に畑を持っていてね。

毎年秋頃に少し仕事を手伝いに行くんだ。

畑の土の中には作物を荒らすネズミたちが潜んでいて、雪で土が隠れる前に駆除しておかなくちゃいけない。

だから、土の中を掘って中のネズミを犬に噛み殺してもらうんだけど……どうしてだろうね。

それを見ているととても安心するの」

 

世迷い言だ、聞く価値すらない。

それよりもピンを抜こうとする。

けれど、その行為は飛来する槍によって右腕の切断という結果で失敗する。

ならばナイフでと、マキマの後ろに瞬時に移動する。

振り抜く予備動作まで至ったその動きは腕を失い平衡感覚を失ったとは思えないほどのものだったが、続いて飛来した槍によって胸を貫かれて体を縫い止められ不発に終わる。

最後の力を振り絞って首のピンを抜こうとする。

それも、マキマに止められて無駄に終わってしまった。

あぁ、終わっちゃった。

なんで…初めて出会った時に殺さなかったんだろう。

デンジ君、ホントはね、私も学校行ったことなかったの。

路地裏にはなんの音も響かない。

ネズミはもう鳴いていなかった

 

「アキ君と一緒に来てっていったのに。

アキ君に女の子を殺させたくなかったんだ、優しいね」

 

「…まあ、天使ですから」

 

そういって天使の悪魔は去った。

 

「さて、一旦これを持ち帰ろうか」

 

レゼを見下ろしながらいうマキマ。

その瞳には如何なる感情も宿っていないようにも思える。

薄暗い路地裏には静寂が漂っている。

しかし、そんな静けさを破るものが現れた。

 

「あれ、マキマさん。こんなところでなんしてるんですか」

 

コツコツと足音を鳴らしながら路地裏に入ってきたデンジ。

その頬は少し紅潮しているようにも見える。

そうしてある程度の近さまでマキマに近寄ると、そこに横たわっている人に気づく。

 

「マキマさん、それだれっすか」

 

暗がりで顔が見えないデンジはそれが誰かを確認する。

紫にも見える髪色。

整った色白の顔。

翠玉のような瞳。

首についてあるピン。

どれもデンジには見覚えがあった。

 

「は………れぜ、なんで」

 

デンジの顔が青くなる。

目の前の現実を受け止めきれない。

受け止めたくない。

そんな思考が透けて見える。

マキマはレゼから目を離さないまま答える。

 

「あぁ、この子はね。爆弾の武器人間だよ。

ほら、この前都内で悪魔の被害があったでしょ。

それに関係してたの」

 

マキマの声がデンジには聞こえない。

いつもだったらどんな音よりも明瞭に聞こえるはずなのに。

好きな女が好きな女を殺している。

そんな特異な状況に放り込まれたデンジは頭が真っ白になるが、それでも言葉を紡ぐ。

 

「……この子、レゼって、いうんですよ。

変な女で、オレを殺そうとしてきた、可愛い女。

レゼがいないと、オレは素晴らしき日々を送れない」

 

ポツポツと言葉を吐く。

胸のスターターが揺れる。

どうすれば、いい。

 

「うん、知ってる。今まで見てきた。

だから、殺すの。

何より、この子は多くの人を殺してきたでしょ」

 

マキマさんの声が脳に響いていく。

落ち着け、冷静になれ、オレ。

レゼは、まだ死んでいない。

ピンを抜けさえすればレゼは生き返る。

考えるべきはこの状況をどうにかする方法だ。

篩に掛ける、レゼとマキマさんを。

マキマさんは、オレをあんなゴミみてぇな環境から救ってくれた命の恩人だ。

レゼは、オレに色々なことを教えてくれた。

水中での泳ぎ方、学校での過ごし方。

どっちもオレの中では好きな人だ。

今、ここで、オレは、この好意に優先順位をつける。

オレはマキマさんが好きだ。

だけど、今を捨ててまで一緒に逃げようとしたのはレゼだ。

ネズミが鳴く音が路地裏に木霊するのが聞こえる。

そうと決めたら最後まで突っ走るのがオレだ。

スターターに手を掛け、思いっきり引っ張る。

エンジンが鳴る。チェーンソーが空気を切り裂く。

 

「ごめんなァ、マキマさん。

それでもオレは、レゼを選ぶぜ」

 

マキマからの返事はない。

疾駆するデンジは、チェーンでレゼを巻き取り抱き寄せて路地裏の向こうに消えていった。

 

「そう、デンジ君はそれを選んだんだね。

まあ、予定がちょっと狂っちゃったけど、それでもいいか」

 

支配の悪魔は、そういったきり路地裏に姿を現さなくなった。

 

「なんで、助けたの」

 

海沿いにある倉庫の中に二人の男女はいた。

どちらも体操座りのまま海を眺めている。

海には海藻やプラスチックゴミが浮いている。

 

「これで、デンジ君は公安に居られなくなった。

あの魔女と決別したんだから、次捕まったらひどい目に遭うよ」

 

水平線の彼方を眺めるレゼはそういう。

その体には、先程までの傷はもうなかった。

 

「いいぜ、それでも。オレは決めたんだ、レゼと逃げるって。言っただろ、オレはレゼとじゃなきゃ素晴らしき日々を送れない。だから、後悔なんてしていない」

 

デンジはレゼに顔を向けながら答える。

その表情にはふざけた雰囲気はなく、至って真剣だ。

 

「バカだね、デンジ君は。本当に、バカ」

 

「あぁ、そうだぜ。オレはバカだ。だけど、そんなバカでも選ぶことはできる。

オレはマキマさんじゃなく、レゼを選んだ。そんだけだろ」

 

デンジは立ってレゼの目の前に移動する。

 

「おぇっおぇっうぇっ。たら~ん!種も仕掛けもないんだなコレが」

 

レゼに差し出す一輪のガーベラ。

それはいつかの場面に酷く似ていて。

思わず涙が込み上げてくる。

だけど、それ以上に嬉しくて笑顔が自然と浮かんでしまう。

 

「ふふっあははっふふっ………ありがとう」

 

「やぁ~っと、笑ってくれたな。行こうぜ、レゼ。

オレとおまえの愛の逃避行ってやつによぉ~」

 

レゼの腕を引っ張り立ち上がらせるデンジ。

二人の表情はどちらも笑顔で幸せが溢れでている。

そこには、未来に対する心配など一切なかった。

 

「ふふっなにそれ。じゃあ、しちゃいますか愛の逃避行」

 

歩き出す二人。

きっとそのさきには様々な苦難が待ち受けているだろう。何度も絶望するかもしれない。

それでも、未来は誰にだってあるものだから。

ネズミが二匹鳴いている。

天に届くかのような高い声で。

 


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