ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
カスミに案内され、特にコレといった問題も起きずにハナダシティへと辿り着いたレッドとアズール。
さすがに街の中でノノを出すのはあまりよろしくないと判断したカスミは礼を述べつつ、ノノを返却。
その後は自身が行き慣れた道を先導し、やがて大層な豪邸の前に着くと、ぞろぞろと豪邸からメイドがやって来た。
「……すげー」
「コレ全部……?」
「ええ」
「おかえりなさ……カスミ様!?なんてお姿に……!」
泥だらけのカスミを見るやいなや、慌てた様子でメイドが「まずはお着替えを!」「その前に手当てを!」とカスミの周りでしっちゃかめっちゃかしだす。
その最中で二人の事が視界に入ったメイドがカスミに知り合いなのかと問うと、カスミは頷いて二人を友人として招待したと話す。
「さ、入って。前で棒立ちしててもでしょう?」
「……そういう事なら遠慮なく」
「おっじゃましまーす」
ソレからレッドとアズールは手厚い歓迎を受けた。
汚れていた衣服は快晴の空のもとで洗濯、乾燥され、傷ついていたレッドのポケモン達は屋敷備え付けの回復装置にて万全の状態にしてもらい、大広間に案内されたと思えば豪勢なテーブルに規律正しく食器が並べられており、あまりの場違い感に落ち着かないレッドとアズール。
暫くして動きやすい服装から華やかなドレスに着替えたカスミがやって来て、それを見たレッドは感嘆の声を上げた。
「お待たせ!」
「おー!馬にも衣装とはこの事だぜ!」
「馬子にも、ね……それはそうと、似合ってるよ」
「ありがとね!さ、食事にしましょう!」
次々と運ばれてくる豪勢な料理に舌鼓を打ちながら、自身のお月見山での活躍を意気揚々と語るレッド。リオレウスの名前はさすがに出さなかったが、それでも苦労したということを自慢しているレッドとは裏腹にカスミの表情は晴れていない。
自慢話の出汁にされている事に憤っている訳でもなく、彼女は真剣なトーンでアズールやレッドに自身の考えていた事を提案する。
その内容とは、ロケット団相手に対する特訓。
お月見山の男は首領格ではないと睨んでいたカスミは今後もロケット団との衝突に備えての考えだった。
「特訓か……すまない。僕は急ぎロケット団を追跡しなくちゃならない。彼奴等が使役している以上、何処にアレが現れても可笑しくないからね……代わりと言ってはなんだけど、カグラとノノをここに置いていくよ」
「えっ……いいの?」
「ああ。カスミちゃんなら間違った使い方はしないと思うし、なによりノノがキミに懐いているからね。その応酬と言ってはなんだけど……僕がカントーにいる間、面倒を見てやってほしい」
「お安い御用よ。なら代わりにこのコを連れて行ってあげて!」
そう言い、カスミが合図をすると執事の一人がアズールに1つのモンスターボールを渡す。中にはヒトデマンにしては身体がやけに大きく、色もまた全く違うポケモン。
初めて見るポケモンにアズールは目を輝かせる。
「おお、ポケモンだ……」
「スターミー。ヒトちゃん……ヒトデマンの進化形よ。強さは勿論保証するわ」
「ありがとう。これなら普段でも"アイツ"を出さずに済みそうだ」
「アイツ……?」
心の底から安堵するアズールの言い放ったアイツが気になり、追求するカスミ。するとアズールは「ああ……」と困ったように口を開いた。
「カグラとノノ以外にもう一匹だけ連れてきたんだけど……ちょっとクセが強くてね」
「具体的には?」
「容赦ない。一度敵と指示されたら徹底的にやる。あと技の一つ一つがメチャクチャな範囲してるから僕ですら危ない」
「……なんでそんなの連れてきたの?」
ご尤もな質問に肩を落としながらアズールはその理由を話す。
「……妹がね。「これを私だと思って連れて行って」って……」
「ああー……その、お察しするわ」
「そういう事……悪い子ではないんだけどね?」
苦笑しながらメゼポルタで今日も異次元の強さを持つモンスター相手に狩猟しているであろう妹を想う。
アズールが託されたモンスターもその1体で、妹はそのモンスターを「幻ドラ」と呼称していたのを思い出す。
(我が妹ながら……メチャクチャなのを渡してくれたなぁ)
「とにかく、アズールはロケット団の追跡なら仕方ないわね」
「ごめんね」
「気にしないで。それで……レッドは?」
「え?必要ないよそんなの」
こういう事には賛同しそうだと思っていたアズールの予想を裏切るレッドの返答。その表情には余裕が表れており、ロケット団を侮っているのが2人には手に取るように理解できた。
「俺の実力があればロケット団なんて余裕さ!」
「敵は強大よ!思い上がらないほうがいいわ!」
「その通りだ。一枚岩で済むような相手じゃないよ」
「心配性だなあ、兄さんも。それにやられて気絶してたのはカスミの方なのに……」
「……!バカ!!」
己の力を過信しすぎているレッドにしびれを切らしたカスミは目に涙を浮かべながら大広間を去っていく。
「な、泣くことないだろ!?」
「……レッド君。彼女のケアは僕がやっておく。君は……少し考えるといい」
「ったく、兄さんまで……」
カスミの後を追うように大広間から消えるアズール。
少し言い過ぎたかと内心で反省しつつも、特に考える素振りを見せずにその場に残るメイドたちに引き続き武勇伝を聞かせ続けるレッドなのであった。
────
廊下の片隅。そこでカスミは窓の外を眺めながら立ちつくしていた。
確かにレッドは強く、アズールも相当な強さを持っている。しかし自分の弱さと不甲斐なさ、何よりも"次"があった時の不安が彼女の苛立ちを加速させてしまっていた。
「カスミちゃん」
「……アズール。ごめんなさい。さっきは見苦しいところ見せちゃって」
「いいさ。気にする事はないよ」
そう言い、隣で同じように窓の外を眺める。
ほんの少しの沈黙を経てぽつりとカスミは自身の内情を吐露すると、アズールは一言「なるほどね」と納得の姿勢を見せる。
「弱いのは悪いことじゃない。君が自身を不甲斐ないと痛感しているのなら、僕はそれを否定することはできないし、仮に励ましの言葉も月並みな言葉になってしまう」
だとしても。とアズールは続ける。
「君が本気で強くなりたい。本気でロケット団に対抗する術を手に入れたい……これをレッド君に伝えれば、彼も分かってくれる」
「……そう、かしら」
「そうさ。ちょっとお調子者な部分もあるけど、正義感は誰よりも強い彼の事だ、君の想いは伝わるさ」
今はちょっとお調子者の面が前に出過ぎてるからお灸を据えてあげるくらいがちょうどいいと思うよと場を和ませる一言も添えると、クスリとカスミが笑った。
「ふふ、それもそうね……よーし、くよくよしてても仕方ないし、レッドにちょっとお灸を据えてやろうかしら!」
「その意気だ。さて、僕はそろそろ休ませてもらうよ……明日に備えて英気を養っておかなくちゃね」
「そうした方がいいわ……っと、そうだ」
思い出したようにカスミは懐から雫の形をしたバッジを取り出し、それをアズールに手渡す。
タケシから受け取ったグレーバッジと似た雰囲気を纏うブルーバッジを見て、もしかしてと聞くとカスミは頷いた。
「ブルーバッジ。本当ならジムリーダーのアタシと戦って渡すのがセオリーなんだけど……そんな時間ないでしょ?」
「それはそうだけど……って、ジムリーダーなの?」
「ええ。意外だった?」
「……正直に言うと意外だった。でもいいのかい?」
「いいのよ。ホントはダメだけど」
「……わかった。有り難く受け取っておくよ」
無くさないようにバッジを服の裏に取り付ける。
灰色と青のバッジが月明かりに照らされ、キラリと光った。
「さ、渡すものも渡したし、お互い解散しましょ!」
「そうだね。キツいの一発かましてやりなよ」
「勿論よ!あ、部屋はそこの部屋使っていいからね」
先程の沈んだ表情から一転して意気揚々とした表情でカスミはお灸の仕込みをしにその場から去る。
言われた部屋に入ると早速アズールは通信機を取り出し、うるさい相棒に連絡を繋ぐ。
「アイシャ、聞こえ「お疲れ様でーっす!!」……毎度思うが、もう少しボリューム下げられないのか?」
「コレでも下げてますよ?」
ほぼ嘘の発言を流しつつ、アズールは近況を報告する。
リオレウスが組織によって使役されている事、その使役に必要な笛を誰かが組織に流した事。
──そして、妹が託した"3体目のモンスター"を使う事。
「……一応聞きますけど、マジですか?」
「マジだ。といっても、対リオレウスの時だけだ」
「だとしても……"ドラギュロス"はやりすぎじゃ……」
アイシャの口から出た"ドラギュロス"。
冥雷竜の名を持つこのモンスターは"赤黒い光"、"漆黒の雷"を操るというメゼポルタでも特異な存在として知られている。
この赤黒い光と漆黒の雷はリオレウスに対して絶大な効果を発揮し、明確な弱点としてリオレウスに深手を負わせることが出来るのだ。
「組織に使役されている以上、何をされるか分からない。幸い組織はリオレウスの情報を殆ど知らない"見たことないメチャクチャ強いポケモン"として認識しているみたいだし……その認識の内に仕留めておきたい」
「……はぁ、報酬、1つ追加しといてくださいね?」
「助かる。それと──」
今後の方針を伝えつつ、気になること等を纏めるアズール。
一方でレッドはカスミに灸を据えられながら、各々の夜は過ぎ去っていくのであった。
アズール 手持ち解説
・ドラギュロス
アズールの妹が「これを私だと思って連れて行って」と半ば強引に押し付けた。強さは折り紙付きなのだが、いかんせん技の範囲と火力が高水準で収まってるため、下手をすれば周囲の人間やポケモンが被害に遭うのでなるべく使わないように心がけていたが、ロケット団がリオレウスを使役していると判明した以上「なんかやられる前にやる」という判断をし、使用に至る。