ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
警報が鳴って数分後の事。
侵入者である二人は施設内を駆けずり回っていた。
「いたぞ!こっちだ!」
「ブルー、そっちの機材を!」
「カメちゃん!」
ブルーの指示で機材に水をぶつけ、連鎖的に物品を倒していくカメちゃんことカメール。
今更隠れる必要もないと判断した二人は包囲される前に脱出する手段を選び施設全体を混乱に陥れる事でその成功率を上げようと画策し、倒せそうなものや破壊できそうな機材を容赦なく妨害に使用する。
「くそっ、あの二人組!手当たり次第に機材をメチャクチャにしやがって……!!」
「こーなったらポケモンで……!!」
「やめろ!万が一機材に当たって壊れたらどうする!?」
背後から聞こえてくる怒号に余裕そうに笑うブルーと、今ばかりはロケット団の研究者に機材を雑に置いていた事、そして逃走の手立てとして有効活用させてもらっていることに内心で感謝するアズール。
メチャクチャにされている惨状を研究者達が見たら卒倒しそうではあるが、アズール達には知ったこっちゃない。
「天廊を思い出すな、全く!」
「天廊って何!」
「価値の分からない財宝とヤバいのがいる塔!」
忙しない中でも"財宝"のキーワードを聞き逃さなかったブルーは「後で教えて!」と息を切らしながら言うと、考える余裕を捨てていたアズールは「分かった分かった!」と二つ返事で了承。
その後も目に入った妨害に使えそうなものは手当たり次第に破壊して回った二人がようやく出口に辿り着こうとした時、そう上手くいくものかと運がそっぽを向いた。
「……大所帯でお出迎えってか」
「……やっぱり抑えられてるよねー」
厳重に厳重を重ねたような警戒態勢を敷いた団員達。鼠一匹逃さないという彼らの執念に渇いた笑いを浮かべつつも、どうするかを考える。
「強行突破する?」
「やれないことも無いけど……あの狭さにあの数だ、結構骨が折れそうだ」
「あ、やれるんだ……」
「そりゃ一応僕もハンターだしね。でもできればやりたくないかな」
じゃあどうする?と考えている内に背後からも追いかけて来ていた団員達の怒号が聞こえ、いよいよ本当に強行突破を実行しようかと考えていた最中、エリカより渡されていたカラカラが独りでにボールから飛び出した。
「カラカラ?」
飛び出すやいなや、震えだすカラカラ。
怯えているのかと思っていたが、幼さに見合わない怒りと憎悪の目つきで出口前のロケット団員達を睨みつけているあたり、母親の敵討ちを考えているのだろう。
「このコは?……ものすごく怒ってるけど」
「依頼人から預かったカラカラ。理由は後で話すとして……カラカラ、もしかしてあの中に?」
カラカラが力強く頷くと、我慢ならなかったのかアズールの指示なく手に持っていた骨をブーメランの要領で放り投げた。
当然距離もあったので、母親の仇には当たることはなく近場の液体の入った空のポッドにぶつかり、砕け散ったガラスから大量の液体が流れ落ちる。
「何だ!?」
「いたぞ、あのガキどもだ!!」
「……っ、そうなるよな!」
「こっち!」
突然の騒音で侵入者を見つけた団員達が二人目掛けて猛ダッシュで迫っていた。
慌ててカラカラをボールに戻し、ブルーの先導で別の移動ルートへと逃げる。
咄嗟に入った部屋の鍵を閉め、どうにか一息つける状況を作り出せた二人。
「……ゴメン、カラカラがまさか暴走するとは思ってなかった」
「なんで暴走したの?もしかして……さっき言ってた理由が関係してたり?」
「……手短に話すよ」
そう言い、エリカから聞いた通りの内容をいくらか端折って手短に話しだす。神妙な面持ちなブルーも内容を聞いていく内にそのあまりにも悲惨な内容にカラカラの暴走にも納得すると同時に、ロケット団に対する怒りを募らせた。
「──というわけなんだ」
「……酷い」
「……あの警備連中の中に実行者がいたらしい」
「なら「怒りに身を任せたらそこまでだよ」……だからって、カラカラは納得しないわよ?」
「今はその機会じゃない。第一、敵のアジトのど真ん中で真っ向勝負なんてやってられないだろう?」
「それは……そうだけど」
それでも納得いかない様子のブルーの気を引くように扉越しから団員達の二人を探す怒号が聞こえてくる。
何か部屋に有用な道具はないか探り出すと、ブルーがしめた顔で紐を棚から乱雑に引き摺り下ろすと、その一つを投げ渡した。
「アズール!これっ!!」
「コレをどうしろと!?」
「説明は後でするから、身体に巻きつけて!はやく!」
慌てながら適当に紐を巻き付けると、紐の端をブルーが持つ。
その後ろでは怪しいと感じた団員達がこじ開けようとしているのか、扉の向こう側からぶつかる様な音が響いており、捕まるのも時間の問題だった。
「イチニのサンで引っ張るから!」
「ひっぱるって「イチニの、サン!!」ちょっ……!?」
次の瞬間、アズール自身が視認できないほどに視界が回り出す。
三半規管をピンポイントで刺激する景色に吐き気を催すも、視界は回り続けるのをやめない。
やがて回転が弱まり、収まりきったアズールの視界に入ったのは、自身が侵入していたゲームコーナーの入り口。
突然の事態に膝をつきながら困惑していると、同じく視界と三半規管を殺しかねない回転をしながらブルーがその隣に現れた。
「……えっと、大丈夫?」
「なに、あの、ヒモ……うぇ」
「あなぬけのヒモ。どんな洞窟や建物からも一瞬で入り口に戻るトレーナーの必需品よ」
「……モドリ玉と、同じって、わけか……」
グロッキー状態に陥っているアズールをみて流石に申し訳なく感じたのか、何も言わずにブルーが肩を貸す。
傍からみれば歳下の少女に肩を貸してもらっている青年と非常に情けない図ではあるのだが、今のアズールにはそんな事を考える余裕も気力もない。
千鳥足になりながらも、エリカの待つであろう屋敷を目指してゲームコーナーを後にする二人なのであった。
────その一方で、ロケット団アジトでは。
二人がさっきまでいた部屋―もとい、物資倉庫では扉を蹴破ったロケット団員達が物資すべてをひっくり返す勢いで二人を捜索していた。
「奴等は!?」
「ダメだ、見当たらない!!」
「おい、コレを見ろ!」
そう言って団員の一人が既に効果の失ったあなぬけのヒモを手に掲げ、それがどういう意味かを尋ねるまでもなく団員達は二人に逃げられたことを悟る。
「おのれ……!」
「研究員より報告!例の計画及びコード"
「……不幸中の幸い、というやつか」
機材や備品のいくつかを破壊されたものの、最も進めている計画と"あるモノ"自体は無傷で済んだことにひとまずは安堵の息を漏らす団員。
万が一どちらかでも被害に遭っていた時のことを考えると、団員達の殆どは背筋が寒くなった。
それはほんの少し前に行われたイワヤマトンネルでの任務。
メンバーは精鋭どころか、下から数えたほうが早いのでは?と疑いたくなるような所謂"向いていない"連中しか集めておらず、その任務内容も「お月見山で見掛けた青年を捕まえろ」という、大人数でやるには些か大袈裟な内容だった。
──結果は、
当然というべきなのか、その任務に参加した団員達も初めからいなかった扱いとなっており、後日不審に思った団員の一人が警察の目を掻い潜ってイワヤマトンネルに潜った結果、青ざめた様子で「何も話したくない」と酷く憔悴した姿で戻ってきた。
その結果が何を意味していたのかは、想像に難くない。
(しかし、侵入された事は事実……なんとしても、あの二人を捕らえなくては……今度は、今度は)
──自分達の番だ。
「ッ、奴らはまだタマムシにいるはずだ!草の根分けてでも探し出すぞ!!」
「おやおや、お困りの様子で」
意気込む団員達の後ろから聞き慣れない声が鮮明に聞こえると、一斉に声の主のいる方向へと振り返る。
そこにはロケット団員の制服でも、研究者の白衣でもない──
「誰だ貴様は!」
「おや、私を知らないのか?キミ達のスポンサーなのだがね」
「ま、待て!コイツ……いや、この方、以前幹部殿達と会話をしているのを見たぞ!」
「ということは……」
「赤衣の男、といえば……わかるかな?」
以後お見知りおきを。と丁寧に一礼をする男に団員達は一斉にざわめく。
いつの間に。このお方が。得体のしれない方だ。と三者三様の反応を示す中、赤衣の男は気にせずに司令塔である団員の前へと歩み出る。
「キミにこれを貸そう」
「コレは……?」
「キミ達の言うSleep……私の地方では【眠鳥】と呼ぶモンスターを手懐ける笛だ」
千載一遇のチャンスだった。
幹部ですら2つの笛を交互に使い回す笛を個人で持つことが出来る上に、逃げ出した二人を捕まえるのには持ってこいのモンスターを使役できると知った司令塔枠の団員は周りに悟られることなく胸を躍らせた。
「ありがとうございます」
「いやいや。私も
役目は果たしたと言わんばかりにその場を去る赤衣の男。背後から歓声とやる気に満ちた号令を聴きながら、これから起きるであろう事態を想像して男は再び口角を上げる。
「……試練の時は、間もなくだ。
その男の呟きを聞いたものは、誰もいなかった。
人物紹介
・赤衣の男
カントーにモンスターを出現させた張本人。アズールが引っ張り出されたのもだいたいこいつのせい。