ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
火蓋を切るように先制攻撃を放ったのはドラギュロス。収束された黒雷ブレスを挨拶代わりの一撃として放出するも、Unknownは避けることすらせずに顔面で受け止める。
挙句の果てにはブレスに怯んだ様子すら見せず、まるで攻撃が効いていないのは誰の目から見ても明らかだった。
「ニョロ!冷凍ビームだ!」
「カメちゃん、ハイドロポンプ!」
ドラギュロスに続く形でレッド達のポケモンも技を放つも、Unknownは涼しげにそれを受け止め、気怠そうに火球を吐き出す事で形だけの反撃を行う。
「ドラギュロス!」
呼びかけに応えるように右翼を横に薙ぎ払い、その先から黒雷の壁を作り出すことで簡易的な防御を行い、Unknownの火球を無力化させる。
しかしUnknownもそれをわかっていたようで、火球を吐き出した直後に接近し、至近距離にまで近付くとぐるりと一回転し、血のように紅い棘が生えた尾をドラギュロスの頭に叩きつけるとその体躯からは想像もつかない軽やかなステップで距離を取る。
「効いていない……のか!?」
「いいや、効いている。単純に
「どういう事!?」
「メチャクチャ踏ん張りが効いてるって事!カラカラ、ホネブーメラン!ドラギュロス!カラカラの射程圏まで飛ぶんだ!」
ドラギュロスに乗ったカラカラが上空から自慢の骨を投擲する。しかしレッドのニョロの技ですら平気な顔をしていたUnknownにはその攻撃すら何とも思わないのだろう──
狙ったのか、それとも偶々当たっただけなのかは定かではないが、カラカラの手から放たれた骨はUnknownの目に叩きつけられ、流石のUnknownも威力こそ大した事ないとはいえ、当てられた箇所が箇所なので仰け反る。
それも嬉しい誤算ではあるが、一見意味のないアズールの指示には、彼の思惑があった。
(……やっぱり、カラカラには
今もなお、なんなら戦闘開始時からドラギュロスの周りで微かに弾けていた黒雷をものともしていないカラカラにまさかと思い、確認も兼ねた指示だったが……それが上手くいった事もあり、カラカラも戦力になりうると判断したアズールは不利な状況にもかかわらず僅かに口角を吊り上げる。
無論、仰け反ったUnknownの隙を逃さなかったレッドとブルーも追い打ちをかけるようにポケモン達に指示を送った。
「ニョロ!アイツの顎を狙ってメガトンパンチ!」
「カメちゃん!アイツの懐でハイドロポンプ!仰け反った状態を維持して!」
ニョロの接近までカメちゃんが甲羅に籠もって素早く懐に飛び込み、顎の真下からハイドロポンプを放つことで仰け反った状態を維持すると、すかさずニョロが入れ替わる形で顎にメガトンパンチを叩き込む。
流石のUnknownもこれには応えたようでそのまま倒れ込み、目を回しながらその場で藻掻いていた。
「いよっし!!」
「やった!」
「やるじゃないか。だが次はどうかな?」
「ドラギュロス!近づいて放電だ!」
赤衣の男を無視するようにアズールが指示を送ると、上空を飛んでいたドラギュロスはそのまま下降して藻掻くUnknownの真上で黒雷を解き放つ。
当然というべきか、倒れ込んでいる状態から避ける手段を持ち得ていなかったのもあり、ドラギュロスの黒雷を真正面から浴びてしまう。
「おいおい、私が話している最中じゃないか。ずいぶんとせっかちになったものだな」
「黙ってろ、お前と話すことは何もない!」
「傷付くじゃないか、なあ?」
赤衣の男がUnknownに呼びかけると、すぐさま起き上がって蒼いオーラを纏いながら咆哮を轟かせる。
それは一種の"合図"であり、それを知っているアズールにとってはこの先非常に苦しい戦いを強いられてしまう事に冷や汗が頬を伝った。
「様子が変わった…?」
「さあ、ウォーミングアップはここまで。次は実戦形式の試練を始めよう」
次の瞬間、Unknownは先程のやる気のない攻撃ではなく、明確にレッド達を狙った火球を飛ばす。
その時、二人の側で付かず離れずの体勢を取っていたカグラとノノは本能であの攻撃マズイと判断したのか、二人の前に出て空気弾で相殺を行った。
結果としてはその相殺は成功したものの、蒼い炎が混じった爆炎が衝突箇所を中心に広がり、如何にUnknownが危険であるかを嫌でも思い知ると同時に緊張感が漂うレッドとブルー。
「な、なんだよ、あの威力……!?」
「っ…カメちゃん、なるべく近付かない様に攻撃を続けて!」
「ニョロも気をつけろ!タイプ相性が良いとはいえ、あれを喰らったらひとたまりもないぞ!」
(…これで
先の攻撃でさえあの竜からすれば「しつこいから追い払おう」程度の認識で、Unknownは未だレッド達を"自分を排除しようとする外敵である"とは認めていない。
無論、その中にはアズールも入っており、場数を踏んできたアズールでさえもまだUnknownの敵として認識されていなかった。
そんな三人の思考を無視して喉を鳴らしながらUnknownは飛び上がると、ブルーに狙いを定めて器用にも飛んだ状態で片翼から爪を弾丸のように飛ばす。
「っ、危ないっ!」
「きゃ…っ!?」
咄嗟にブルーを押し倒す形で被弾を避けるアズール。視線をブルーのいた箇所に移すと、深々と地面に突き刺さった飛竜の翼爪が白い靄を噴出しながら存在感を放っていた。
「大丈夫かい、ブルー」
「……っ、アイツに、勝てるの…?」
「ここで見栄を張っても仕方ないから言うけど…正直、かなりキツい」
「私達がいるから?」
「…それも少しはあるけど、何よりもまだアイツは本気どころか、僕らを敵とすら認めていない」
会話の先では唯一敵として見られているドラギュロスがUnknownを抑え込んでおり、黒雷や鉤爪など使える武器を総動員してUnknownの敵視を維持していた。
鉤爪を頭上目掛けて叩きつけたり、黒雷を束ねたブレスを翼膜に狙いをつけて放つことで行動の制限を狙ったりと、リオレウスの時とは違って合理的な手段で戦闘を有利に傾けようと画策する。
それでもUnknownはお見通しだったのか、追撃で振り下ろされた鉤爪の攻撃をわざと受けることで至近距離での火炎をドラギュロスの翼に浴びせる。
もしもドラゴンタイプのポケモンだったのなら、この攻撃は有効打にはなり得ず、追撃の機会を与えるだけの無駄な行動だと鼻で笑えただろうが……モンスターであるドラギュロスの弱点がそれを許そうとはしなかった。
「ドラギュロスッ!!」
アズールの問いには応えず、若干焦げ臭い臭いを漂わせながらも自身の翼に着火した火を乱暴に鎮火させる。
それが頭にきたのか、ドラギュロスの纏う黒雷が激しくなり、高高度へと飛び上がってゆく。
あの技だ──怒りで見境のなくなった"必殺"の一撃の予備動作を取り出したドラギュロスにすぐさまアズールはレッド達に注意を促す。
「下がれ!!今すぐに!」
「わ、分かった!ニョロ!」
「カメちゃん!」
「カグラ、ノノ!頼んだぞ!」
切羽詰まった様子のアズールに従い、ポケモンを戻してカグラとノノにまたがる二人。
次の瞬間、ドラキックの体勢でUnknown目掛けて勢いついた状態降りてきたドラギュロスを覆うようにドーム状の黒雷が拡がった。
バリバリと激しく弾ける雷鳴がUnknownに襲い掛かり、効いている証として翼の一部が焼け爛れていた。
上手く仕返しができたのか、喜んでいるようにも思える咆哮がドラギュロスから放たれる。
「やっぱり同じ地方同士ならそれなりに戦いになるか……ふむ、やはり彼を試練に参加させたのは愚策だったな。次からは気をつけなくては」
赤衣の男が指を鳴らすと、Unknownは立ち上がって両翼を交互に振って翼爪を射出する。
ライフルの銃弾のように鋭く尖った翼爪はレッド達に襲いかかるが、メゼポルタのモンスター達はそれぞれに付いた人を守るために前に立つ。
ドラギュロスは自身の甲殻で弾き返せたものの、甲殻のないカグラとノノには翼爪が深々と突き刺さり、痛々しい姿になる。
(……このままだとジリ貧だ、何か手はないのか…?)
「…あれは…?」
苦虫を噛み潰したような表情で打開策を講じているアズールをよそに、赤衣の男の背後から黒い靄の奥から射し込む光に気付くブルー。
やがてその光は一直線に伸び、桃色の小柄な身体をもつ光の主がアズール達を守るように立ち塞がる。
「……ほう?」
「ポケモン…?」
「…あぁっ!?コイツは……!」
「ミュウ!!」
ミュウの姿を知らないアズールを除いて、ミュウが現れた事に驚愕する二人と、興味深そうにする赤衣の男。
ミュウは明確に赤衣の男とUnknownへの敵意を剥き出しにしており、目を覆う程の強い光を放った。
身構えていなかった三人は顔を覆い、光が収まる時を待つ。
やがて光が収まると、其処にUnknownと赤衣の男の影はなく、ミュウがどこかへと転送したのだと三人が思うのにはそう時間はかからなかった。
「…助けてくれたのか?」
アズールの問いにミュウは答えることなく颯爽と飛び去ってゆき、辺りに静寂が戻る。
過ぎ去った驚異に緊張の糸が切れた二人はその場にへたり込み、自身が生きていることに心の底から安堵していた。アズールもまた役目を終えたドラギュロス達を戻し、傷を負ったカグラとノノにも労いの言葉を投げ掛けると、申し訳なさそうにボールへと戻した。
「すまない二人とも。まさか赤衣の男がアレを連れているとは思わなかった…怖かっただろ?」
「……まぁ、ね。生きた心地がしなかったよホント」
「………っ」
力なく笑うレッドとその余裕すらないブルー。
これ以上ここにとどまるのは危険であると同時に調査対象がいなくなってしまった為、進展が見込めないと判断したアズールは二人を連れてエリカのもとへと戻るのであった。
──―一方で、赤衣の男。
ミュウにより見知らぬ場所へと飛ばされた赤衣の男とUnknown。試練を強制的に終わらされた事に憤慨しているかと思いきや、その表情に怒りの様相はなく、むしろ笑っていた。
「まさか、幻のポケモンが味方するとはね」
男は三人に手を貸したミュウの表情を思い出す。
明確な敵意を向けた瞳にそれもそうかと、自身の行いを想起しながら余計な敵が増えたことに喜ぶ。
Unknownもそれに呼応するように喉を鳴らすと、黒い靄の中に消えていった。
「……まあいいか。どのみち奴等の
赤衣の男は懐から一枚の鱗を取り出す。
深緑に染まった鱗。赤衣の男はとある場所にこの鱗の持ち主を送り込み、まもなくその成果を出す頃だった。
「…セキチクシティ、だったか?こちら側の人間も一部とはいえ大自然をそのまま残す考えがあったのが驚きだが…おかげでいい繁殖場を得ることができた。とはいえ
そういい、赤衣の男は帰路の道を進む。
アズール達に襲いかかる次の脅威──セキチクシティを指し示しながら。