ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
ジム戦を終えたその日の夜。
タケシから渡されたグレーバッジを月に照らしながらアズールはその時の事を思い出していた。
────タケシとの戦闘直後
戦闘後、事情を話してタケシに時間を作ってもらう事に成功し、例のリングが一望できる部屋に案内されたアズール。
そこで自分が別の地方……それも鎖国された地方から来たことを明かし、オーキド博士より預かっていたリオレウスの写真を提示して見覚えはあるかと尋ねる。
結果としては"タケシは"知らなかったが、リオレウスの目撃情報自体はタケシに届いていたらしく、東にある「お月見山」にて目撃されたという。
「なるほど……」
「そんなにマズいポケモン……いや、モンスターなのか?」
「ああ。メゼポルタでは然程脅威にはなり得ないのだけども、防衛手段が限られている外の地方なら相応の脅威ではある」
最悪の場合、死人が出るかもしれないと告げると、タケシにもリオレウスの危険性を理解してもらえた様で快く協力を引き受けてくれるという心強い味方を得たアズール。
すぐにでもお月見山に向かう事も考えたが、土地勘のない自分が夜間に移動したところで迷うだけだと判断したアズールは調査を翌日に回してタケシにお月見山の位置を教えてもらった。
「アズールのいる地方は大変なんだな」
「そうでもないさ。メゼポルタでは僕もモンスターと戦えるからね」
「キミが?戦えるのか?」
「勿論……といっても、愛用の武器があればだけどね」
そう言いながら、アズールは手許にない愛用の穿龍棍に思いを馳せる。
とある人物が愛用していた隠された武器だった穿龍棍。メゼポルタで流通している武器種でも唯一の格闘武器で、地上戦はもちろん、その気になれば空中戦も出来るという万能な一面を持つ。
何よりもスタイリッシュに立ち回る穿龍棍はアズールの心を掴むには十分過ぎたのもあってそれまで他の武器を握っていたアズールは穿龍棍にあっさりのめり込んだ。
もしも武器の持ち込みも許可されていたら、今頃は帰りの最中だろうと豪語できるとアズールは語りながら、席を立った。
「もう行くのか?」
「ああ。近くにいる内にリオレウスを排除できたら御の字だしね」
「そうか。気を付けてな」
「ありがとう。もしリオレウスを見かけたら戦闘はなるべく避けてくれ。キミならある程度は"もつ"だろうけど……下手に刺激して怒らせたら面倒な事になる」
「具体的には?」
「炎を撒き散らす、ポケモン食い荒らす、最悪人が死ぬ……個体によってはまだあるけど、聞く?」
「いや、十分理解した。なるべく交戦は避けよう……む?とすれば、キミはどうやって戦うつもりなんだ?」
その問いに「なるべく人がいない場所」と答えるアズール。理想はポケモンもいない場所なら最高なのだが、いたるところにいる以上、人間側の勝手な都合ではあるがコラテラルダメージとして受け入れてもらう他ない。
これは放置していればコラテラルダメージ以上の被害が広範囲に及ぶ恐れがあると判断したアズールの苦肉の策で、到底理解してもらえるものではないとアズール自身も分かっている事だった。
「分かってくれとは言わない。ポケモンに及ぶ被害は避けられないものだということもね」
「……その事に賛同は難しいが、後の事を考えた末ならば、仕方がないのだろう」
「大多数を救うために少数を犠牲にする……正義の味方気取りじゃないけど、それが僕の考えた最善だ」
「……ならば、コレを持っていけ」
そう言い、タケシはジムリーダーに勝利した証でもあるバッジをアズールに手渡す。
「グレーバッジ。それをつけていればポケモンの攻撃力が上がり、ある程度の力量(レベル)のポケモンであれば言うことを聞いていくれる。攻撃力上昇はキミのモンスターに効果があるかは不明だが、無いよりはずっとマシだろう」
「そういう事ならありがたく貰っておくよ。そのお礼……というわけじゃないけど、近い内に面白いトレーナー達が来るはずだ。たぶん、僕以上に強いんじゃないかな」
去り際に告げた面白いトレーナー達というのは勿論、レッドとグリーンの2人のことである。
何か特別なものを持っていると直感で感じ取った二人ならば、自分と同じようにタケシに辿り着くだろうと確信しているアズール。なんならわからん殺しをした自分よりも正々堂々と勝負をするだろうとタケシに告げると、「それは楽しみだな!」とまだ見ぬ二人に再び闘志を燃やしているのであった。
────
ということもあって、アズールはグレーバッジとリオレウスの目撃情報を得ることができたのである。
月明かりに照らされたグレーバッジは新品の様に傷一つ無く、ほんのりと灰色に輝いていた。
(こんなに小さいのにポケモンの力を高める効果があるんだもんな……外の地方って凄いなあ)
外の地方の技術に感心していると、視界の端で怪しい人影が複数動くのが見えた。
夜に溶け込む全身真っ黒な服装の連中はヒソヒソと何か話している様子で、一度意識してしまえば嫌でも目立つその連中は足早に裏路地へと駆ける。
見るからに面倒そうなことを抱えてそうな連中に首を突っ込むべきではない。そう思って見ぬふりをしようとしていたアズールだったが、次の瞬間にその考えを改める事になる。
夜の空、雲の合間を縫うように何かの影が飛んでいる。
やがてその影は地上へとどんどん近づいていき、アズールにとって聞き慣れた咆哮がニビシティに響き渡った。
夜空に似つかわしく無い赤い翼、口から漏れ出す火炎が奴の怒りを表しており、今にも炎をばら撒きそうな危険を孕んでいる状態だった。
「……まずい!!」
その"モンスター"を知っているアズールはそれを追う。
タケシに語った起こり得る最悪のケースが今まさに起きようとしている事態に切迫した様子でそのモンスター……リオレウスの後を追うのであった。
用語解説
・【ハンター】
他地方で言う【ポケモントレーナー】とほぼ同等の意味合いを持つ。違う点はハンターもモンスターと戦うということ、そしてハンターを名乗るにはハンターズギルドの許可を得なくてはならない承認制となっている。
ギルドの承認なくハンターに関連する仕事を行っていた場合、違法ハンターとしてギルドナイトのお世話になる。