ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
復旧作業もある程度の目処がついた頃、アズールは約束通りに再びニビシティのジムへと立ち入った。
昨日の試合を見ていた観客もいたのか、アズールの姿を見るなり観客同士でヒソヒソと話し出す様子もちらちらとアズールの視界に入り、あんまりいい気はしないなと苦笑しつつもジムのリングがよく見える場所を陣取る。
リング上では早速レッドと彼の操るポケモン……フシギダネがジムトレーナーのポケモンを速攻で撃破するという先手必勝の立ち回りを魅せていた。
その試合時間、なんと文字通りの一瞬で決着が付き、観客から「また一瞬で決めやがった!」という声が上がっている様子から本当に一切の隙を与えずに仕留めている事に彼はただ一言「凄いな」とレッドとフシギダネの実力に感心する。
その後も技を組み合わせた攻撃やリングを利用した戦法と……使えるものは何でも使う精神で次々と相手を撃破していったレッドはタケシへの挑戦権を得たのであった。
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一通りの試合をこなし、ジムリーダーとの対決の合間に一時休憩として一旦リングから降りたレッドのもとに飲み物を持ったアズールが「お疲れ様」と言いながらやって来る。
手渡された飲み物を受け取ると一気に飲み干したレッドは一言「生き返ったぁ!」と満足げに吐き出した。
「まさか本当に一瞬でケリを付けるとは恐れ入ったよ」
「へへ、凄いでしょ?……まあ、ホントにスゴいのはこいつらだけどね」
「確かにポケモン達もよく頑張った。でも地形やポケモンのポテンシャルを考えて次の一手を考えたのは紛れもないキミの実力だ。特に技と技を組み合わせて決着させたのは見事だよ」
忖度無しの賞賛に「や、やめてよ恥ずかしいなぁ!」と照れくさそうにするレッド。しかしその直後にその表情は曇り、挑戦権を得るために奮戦した2匹は既に限界を迎えている為タケシとの戦いでは出すことができず、ピカチュウで戦うしかない事に不安を吐露する。
「……何とかなるかな?」
「それはキミとピカチュウの機嫌次第だね。さっきも言ったけどピカチュウには戦闘の義務はない。やる気を出すか否かはキミがこの言葉の意味に気付くかどうかだ」
「戦闘の義務はない……さっきも俺なりに考えて、出さなかったんだけど間違って……ないよね?」
不安そうに尋ねるレッドに「間違いではない」と答え、表情に若干晴れ間が見えるも、アズールは「けど」と強調して言葉を続ける。
「それじゃあピカチュウとキミの関係は良くならない」
「……それは、そうだけど」
「……まぁ、キミならタケシとの戦いで気付くだろうさ。反撃の一手を許さずに相手を倒したのは、自分のために頑張るポケモン達に痛い思いをさせたくがない故の作戦だろう?」
ならば、もう答えはすぐ其処にあるよ。とレッドの勝利を確信しているアズールは彼の肩に手を置き、一言「キミなら勝てるさ」と告げた。
その一言を待っていたかのようにジムのスタッフが彼の名を呼び、レッドは再びリングへと舞い戻る。
反対側には仁王立ちで本日2人目の挑戦者を待ち構えるタケシと相棒のイワークが。
「待っていたぞ、挑戦者!」
(頼むぞ、ピカチュウ……!)
本当なら無理矢理にでもリングに上がらせるつもりだったレッド。しかしアズールに言われたことを深く考えた結果、無理矢理突き出すような事をするのはやめた。
ボールを放り投げ、現れるピカチュウ。心底やる気のない状態ではあるが、レッドはあえて何も言うことはしなかった。
当然何もしようとしないピカチュウにタケシは疑問を抱くも、容赦はしなかった。ジムトレーナーを何もさせずに退場させたお得意の先制攻撃をしてこないのを見るやいなや、イワークに指示を送る。
「岩落としだ!」
そう言い、イワークの十八番である無数の岩がピカチュウに襲いかかるも、危機を察知したピカチュウは小柄な体を活かして涼しい顔で避けていく。
しかしそれでも避け続けるのは至難の業で、回避位置を予測したイワークが"その場に置くように"岩落としを放つ。
するとそれにまんまと引っかかったピカチュウにヒットし、ピカチュウが怒りの形相を"レッドに"向けると、電撃を放ってレッドに反抗する。
レッドは苦悶の表情を浮かべながらも、その電撃から逃げることはせずにじっと耐え続けていた。
「……っ!!」
(なんだと……?なぜあのピカチュウは、彼の指示を聞かない?)
(……ピカチュウの怒りがレッド君に向いている。さあレッド君、ここを間違えては勝てないぞ……!)
「(……致し方あるまい)今までのはまぐれだったのか!ならばこの技で終わらせてやる!イワーク!」
その言葉を皮切りに身構えるイワーク。それが何を意味するのか、昨日経験したアズールにはすぐにわかった。
イワークの切り札ともいえる大技「ロケットずつき」。
体を縮め、バネの要領で風圧を伴いながら猛突進するその一撃は並のポケモンでは到底耐えるのは不可能で、相対したカグラのように打開策が無い限りは回避に専念するのが定石だろう。
しかしピカチュウはレッドに八つ当たりしている最中。傍から見れば隙だらけで「当ててくれ」と言っているようなもの。
「……!来るぞ、ピカチュウ!」
レッドの警告も聞かずに睨み続けるピカチュウ。
無論その隙を見逃す程甘くないイワークは容赦なくピカチュウへと猛突進を始め、試合の決着を図ろうとしていた。
「!っ、ピカチュウ!!」
「!?」
(……よし!)
咄嗟にピカチュウを抱え、横に飛び退くレッド。
その行動に会場が静寂に包まれる中で、レッドは口を開く。
「(……アズールさんの言う事、そういうことだったんだな)大丈夫……だな。よかった。……考えてみればそうだ。俺のためにお前が戦う義理は何一つないんだもんな、無理矢理巻き込んで悪かったよ」
「……今度は外さないぞ。イワーク」
レッドの言葉を聞いたピカチュウの中で何かが変わったのか、先程までレッドに向けていた敵意はイワークへと切り替わり、追撃のロケットずつきで今度こそピカチュウを戦闘不能に導こうとする。
それに対し、迎撃の意志を示したピカチュウの頬から電気が漏れ出したかと思うと次の瞬間、小さい体からは想像もつかない大放電を起こし、避けようにもその巨大な体躯のせいもあって直撃をもらったイワークはバラバラに分散してしまった。
「……これじゃオレとイワークがピエロみたいだ」
(ピカチュウ……だったっけ。あのちっちゃい身体でジンオウガみたいな事してるなあ……面白い)
清々しい程の逆転に渇いた笑いを浮かべるタケシと、してやったりのピカチュウ。大放電を見てメゼポルタの雷狼竜を思い出すアズールと三者三様のリアクションを見せる中、何が起きたか分からずに呆然とするレッド。
そんな彼の勝利を示すべく、審判が彼の腕を上げると観客席からは歓声が巻き起こった。
「負けたよ。おめでとう」
「……あ、えっと、ありがとうございます?」
「次は、こうはいかないからな?」
「……!……ああ!」
リング上で交わされた熱い握手に歓声に拍手が追加され、祝福ムードの中、レッドの挑戦は幕を閉じるのであった。
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「アズールさーん!!」
ジムが終わり、夕焼けを背に宿先をどうするか悩んでいるアズールをレッドが呼び止める。
誇らしげにグレーバッジを見せる彼に「おめでとう」と祝福の言葉を贈ると、照れくさそうに「ありがとう」とレッドは返した。
「どうやらピカチュウとも心を通わせられたみたいだね」
「ああ!アズールさんのおかげだよ!」
「どういたしまして。正直な話、キミなら僕のアドバイスなしでも突き止められたと思うよ」
優秀だからね、と褒め言葉を続けるとほんの少しだけ調子に乗るレッド。実際は本当に優秀ではあるのだが。
この日でバッジを得たのはレッドとグリーンの2名だけだと後でタケシに知らされ、観ることがなかったもののグリーンもタケシに挑戦していたのはアズールにとって寝耳に水だった。
グリーンの戦闘も見てみたかったと少し後悔するも、協力を取り付けている以上いつかは見れるだろうと楽観視する事でその後悔も無くす。
「……おっと、忘れるとこだった」
そう言い、レッドは自身の手持ちを全て呼び出す。
彼の幼馴染であるニョロゾとフシギダネはすっかり元気になったようで主人の勝利を喜ぶも、ピカチュウは相変わらずそっぽを向いていた。
「お前のおかげで勝てたよ。ありがとなピカチュウ」
礼にも応えずにそっぽを向いたままのピカチュウだが、試合開始前よりは態度が軟化している事に気付いたアズールは口元を緩める。
「こいつらはニョロゾとフシギダネ。俺の大切な仲間だ。そして、お前も今日から俺たちの仲間だぜ。そして……」
おもむろにアズールと肩を組みだすレッドに、突然の行動に目を見開くアズール。何事だと思っていると、レッドは予想の斜め上をいく回答をピカチュウに贈り出した。
「此方はアズール"兄さん"!俺の大切な兄貴分だ!」
「……何だって?」
唐突なレッドの兄貴分宣言を聞いたアズール。予想を裏切るどころか斜め上をいった行動に思わず出た間抜けな声は空しく夕焼けの空に消えていくのであった。