ポケットモンスターSpecial Frontier 作:400円
────とある平原にて。
少女は一人、目の前のポケモンに立ち向かっていた。
身体はボロボロで一瞬でも気を抜けば倒れる寸前な状態でもその目には未だ闘志が宿っており、彼女の中に諦めるという選択肢はなかった。
一方で相対するポケモンは"凶悪"というそのまんまな分類をもらっているポケモン、ギャラドス。
まだ倒れない獲物を見て僅かに首を引いたギャラドスを見た少女はその動きだけで次の技を予測する。
「(あの動きは……!)ハイドロポンプよ!避けてヒトちゃん!」
少女の予測通り、ヒトちゃんと呼ばれたポケモン……ヒトデマン目掛けて勢いよく水が放出される。
いくら同じタイプで効果がいまひとつといえど、単純な個体差の大きいギャラドスの一撃を耐えられるはずもなく力尽きるヒトちゃん。
後が無い事にどうするかと悩んでいる少女に、救いの手が差し伸べられる。
「随分でっけえの相手にしてるじゃねえか!俺達も助太刀するぜ姉ちゃん!」
「レッド君、待っ……またこのパターンか。仕方ない!」
颯爽と現れたレッドと追い付いて事態を把握したアズール。
坂道を滑り降りる2人を知らない少女は「あんた達危ないのよ!?」と手に負える相手ではないと警告するも、2人は助太刀の手を緩めようとはしなかった。
「大丈夫さ!な、兄さん!」
「……こう見えて僕らはそれなりに腕が立つ。キミが思っている以上にね……ノノ!」
「それから、俺達の名前は「あんた達」じゃないぜ!俺はレッド!よーし、頼むぜフシギダネ!」
「僕はアズール。レッド君。前衛はノノがやる。キミは……」
「わかってるって!時間稼ぎよろしく!」
「ポケモン!あんた達もポケモントレーナーなの?」
少女の問いに行動で答える2人。
新たな標的が現れ、まずは小さいほうからと言わんばかりにギャラドスはフシギダネにハイドロポンプをお見舞いする。
「ハイドロポンプよ!気を付けて!」
少女の警告に動じず、じっと見守るレッド。
それもそのはず。ポケモンのタイプ相性の関係上フシギダネにとってハイドロポンプは栄養でしかなく、気持ちよさそうにハイドロポンプを浴びていた。
「……あれ?」
「へへ、アイツにとっちゃ相性最悪ってね!今度はこっちの番だ!フシギダネ!」
水を満喫したフシギダネが背中の蕾から種を噴き出す。特に危機を感じなかったギャラドスはその種を避けようともしなかったが、種はギャラドスに刺さった途端尋常ではないスピードで成長し、瞬く間にギャラドスの身体にツタが絡まった。
「やどりぎのタネ……?」
「あったりー!」
「今なら……!ヒトちゃん、自己再生!」
少女がヒトちゃんに指示を送ると、さっきまでダウンしていたヒトちゃんの傷がみるみるうちに塞がり、元通りの元気な姿になった。
その様子を見て感心するレッドを他所に、やどりぎを力ずくで千切ったギャラドスが再びハイドロポンプを放とうとしていたが──ノノがギャラドスの真上から勢いよく落下することでその行動を阻害する。
「今だ、二人とも!」
「よっし!最後はダブル攻撃だ!」
「ええ!」
ノノの一撃で体勢を崩したギャラドスに追撃の一手を打ち込むレッドと少女。巻き添えを喰らわないようにノノは一歩後ろに構え、もしもの時の為にいつでも援護できるように備えていた。
「ヒトちゃん!バブルこうせん!」
「フシギダネ!つるのムチ!」
同時に放たれた草と水の猛攻がギャラドスに襲い掛かり、蓄積されていたダメージを相まって地に伏せた。
その隙を見逃さなかったレッドはすかさずモンスターボールを投げ、抵抗する力が残ってなかったギャラドスはそのままレッドの手許に収まるのであった。
「お疲れ様。上手く行ったみたいだね」
「ああ!アズール兄さんもナイス援護!」
レッドが嬉しそうにアズールに捕獲したギャラドスを見せる中、事態が漸く収まった事に安堵した少女は一気に緊張が抜けたのか、その場でへたり込む。
「ふう……助かったわ。ありがとね……ええと」
「レッドだよ。こっちはアズール兄さん」
「……さっきのポケモン、ギャラドス……だっけ。見た目からして水辺を住処にしていそうなポケモンに見えたけど、何故ここにいたのか分かるかい?」
「……それは」
土埃を払いながら立ち上がった少女の顔付きは安堵の表情ではなく、ギャラドスと対峙していた時のように険しかった。
元々ギャラドスは少女のポケモンだったが、今から1週間前に何者かに強奪され、帰ってきた頃にはこの有様だったという。
暴れ回るギャラドスを止めるべく追いかけて今に至るのだと語る少女に「カントーって意外と治安が悪いんだなと思いながら」も、アズールは少女の勇敢さを讃えると同時に無謀だとたしなめる。
「わかってる。でも元は私のポケモンだったのよ?ああやって暴れているのを黙って見過ごせるもんですか……でも、良かったわ。あんた達のおかげで暴走を食い止めることが出来たし」
「……いや、良くはないかな」
「ああ。いいもんか!自分のポケモンがおかしくなって平気なのかよ!」
「……十中八九その盗んだ奴が何かをしたんだろうね」
「よーし、オレがとっちめてやる!!」
感情的になったレッドはそのまま盗んだ輩のもとへ行こうとするも、当然それを知るはずもなく──待ったをかける少女。
「ちょ、ちょっと。何処に行くつもり?」
「何処って……えっと、兄さん。悪いやつってどこ?」
「……知ってたら多分この子も行ってるんじゃないかな?」
猪突猛進な一面に苦笑をこぼし、打開策としてオーキド博士に知恵を借りるのはどうだろうと提案するアズール。
成る程と納得したレッドはその案を採用し、一行は早速ポケモンセンターへと足を運ぶのであった。
────
「おお、レッドか!それにアズールも。二人とも久しいのう!」
「ご無沙汰してます……おっと、この方はオーキド博士。ポケモンに関しての世界的な権威を持つ方だ」
不思議そうに通信機器のモニターを眺める少女に簡潔にどういった人物かを紹介するアズール。説明に納得がいったのか、オーキド博士も画面越しに力強く頷いていた。
「ときにレッド、図鑑収集は捗っておるのか?」
「もっちろん!ほら、今日だって新しいデータを記録したんだぜ!」
これ見よがしに先程獲得したギャラドスのデータを博士に見せつけるレッド。それを見た博士はギャラドスに関する情報をあれやこれやと語るも少女がポケモン図鑑に興味を示したことでレッドは図鑑について説明しつつ、自分の旅の目的を語り始める。
このままでは博士のギャラドス解説で終わってしまうと感じたアズールはキリのいいところで博士に聞きたいことがあると博士に通信を行った目的を告げた。
「ポケモンが数日でトレーナーの言う事を全く聞かなくなる……か。とすれば、恐らくロケット団の仕業かもしれん」
「ロケット団……」
「うむ。ポケモンを使ってあくどい商売をしている秘密結社じゃ。最近ではポケモンの生体実験も行なっておるという噂もあるしのぉ……おお、そうじゃ。一つ情報があるぞ。キミ達がいるセンターの東に「お月見山」があるのは知っておるか?」
「ええ。タケシ……ジムリーダーから位置は伺っています」
「なら話は早い。そのお月見山に月の石があるんじゃよ」
「月の石……ですか」
お月見山にあるとされる月の石。博士曰くポケモンを強化するのに重要な役割があるとされているらしいが、もしかしたらロケット団もそれを狙っているかもしれないと博士は語る。
「であれば、調査に向かいます。他地方とはいえ、徒に生命を弄くるのは感心できませんから」
「そうか。キミなら大丈夫じゃろうが、用心するんじゃぞ」
「ありがとうございます……そろそろレッド君達の話も終わりそうなので、ここいらで切りますね」
「うむ。レッドにも図鑑をちゃんと進めるよう言っておいてくれ……勿論、キミもな」
「ポケモン、ゲットじゃぞー」決め台詞の様に言いながら手を振る博士を最後にモニターが黒い画面へ差し替わる。
図鑑を貸し出していることをしっかり覚えていた博士に釘を差されたことに苦笑し、今度レッドに捕まえ方のコツを教わろうと密かに思ったアズールなのであった。